「はむ! はふ! うま! うま!」
「慌てるなって。メシは逃げねぇよ」
用意した昼食をリビングで食べる。あたし独りならカップ麺とかでもいいんだけど、料理できないなりに一応用意してやるんだから、ありがたがれよな。ご飯とインスタント味噌汁にメインは鯖の味噌煮缶。一応別皿に移して温めてある。味濃いめでご飯によく合う。姉貴曰く廣井さんが好きな味らしい。ストック沢山。
姉貴は廣井さんにはやたら甘いんだよな。家に転がり込んでくるたびに、なんか口では『帰れ』とか『野垂れ死ね』みたいに言うくせに、結局甘々に甘やかすんだよね。志麻さんも呆れてたな。
さすがに酔っぱらってて危険だからって風呂に一緒に入ってたのはちょっと引いた。で、風呂の後もイチャついて、酔いが醒めた廣井さんにビビられたりするんだからあたしも呆れる。
ま、あの人を放って置けないって気持ちは、少し分かるけど。やっぱそういう関係なのかって姉貴に聞いみたら『違うよ!』って全力否定してたな。ますます怪しい。
「ご馳走様。星歌だいすき」
「お粗末様。こういう時だけ調子いいよな」
で、あたしはリョウの面倒見てるわけだ。何で姉妹揃ってクズベーシストに甘いんだろ。
「ほら、頬に付いてるぞ。取ってやるから顔向けろ」
「ん。ありがと」
相変わらずリョウはだらしないな。……こういうの、案外悪くないな。
「……ギターヒーロー、全然更新しないね」
「なんだよ急に。お前ギターヒーロー好きじゃなかっただろ?」
食後のお茶を飲みながらリョウがポツリ。あいつがギターヒーローを話題にするなんて珍しい。
「そういやさ、あいつが更新しなくなったあたりで、私たちぼっちと初ライブしたんだっけ?」
「え? そうだったかな。よく覚えてるな」
……まさかリョウの奴、気づいてるのか? ぼっちちゃんのこと。
「あれから一度も更新していない」
「なんだよ、リョウ。実はギターヒーロー好きになったのか?」
「いや、全然。でも上手いことは認める」
「そうかよ」
リョウが音楽で他人を褒めることは少ない。
「あのキレのあるストローク、練習量に裏打ちされたテクニック、手先の細かいクセ……。そういやギターもぼっちと同じじゃん。前から気になってたけどあれかなりのレアモノだよ」
「ああ、ぼっちちゃんのあれはお父さんからの借り物らしい。昔バンドマンだったんだって」
「ふーん」
「……」
「……」
少しだけ、沈黙。なんか気まずい。
「……やっぱりギターヒーローってぼっち、だよね?」
「ななななな! なんのことかな!?」
ズバリと見抜かれて動揺する。背中にじっとりと嫌な感覚。冷や汗が出る。ぼっちちゃんみたいに目を逸らしてしまう。
「やっぱり何か知ってるの? 少し前から、星歌は何か知ってそうな感じはしてたけど」
「し、知らない! あははは、さ、流石にぃ、ギターヒーローさんの正体までは知らないなー」
今言うわけにはいかない。ぼっちちゃんと約束したんだ。あの娘が自分から話したいって。二人だけの秘密なんだ。
「ちゃんと目を見て話して。前からぼっちはタダ者じゃないとは思ってたけど」
「当然だ。自慢のぼっちちゃんなんだからな」
ふふん! 心の中でドヤる。
「何でドヤ顔……。まあ、いいけど。私はギターヒーローなんかどうでもいいし。ぼっちが何者だとしても、大切なバンドメンバーであることには変わらないから」
「……ごめん」
「何で謝るの?」
「あ、いや……」
こちらの顔を覗き込むリョウ。あたしはもう目が泳ぎ回ってる。
「今日の星歌、さっきからぼっちみたいだね。万華鏡みたいに表情がコロコロ変わって、可愛いかった。今日はもうこの話はおしまい。……今はこれ以上聞かないでおくよ」
「うぅ、あーもー! なんだよそれ」
可愛いとか……リョウに初めて言われた。あたし今、顔真っ赤だ。
「練習までまだ時間あるね」
皿洗いをするあたしの背中にリョウが声を掛ける。
「折角だから、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」
ふふふ、いいこと思いついた。
「えぇー。やだ」
身も蓋もねぇな。あたし以外にそういう態度じゃ嫌われるから止めろとは思うけど。
「まだ何も言ってないだろ。まあ、簡単な用事だよ。飯代代わりに働け。それに、あたしからの借金だってまだまだ残ってるんだからな」
伊地知家秘伝の猫の目で睨んでやる。
「……喜んで働かせていただきます」
「よろしい」
「星歌、なんか偉そう」
「ほっとけ。じゃ、あたしの部屋に来いよ」
少しだけ、足取り軽やかになる。
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