まだまだガンバルゾー!
「きゃー! ひとりちゃんがまたゴミ箱にー!」
大袈裟にリアクションしながら自撮りする喜多ちゃん。ぼっちちゃんは遠くに見切れている。
「アイデンティティの喪失中……」
ある日のバイト、またゴミ箱に引き籠るぼっちちゃん。私が用意した専用のゴミ箱を使っててえらい。
「こらー! ぼっちちゃん! さっさと出てこーい!」
「つんつん。ぼっちつんつん」
姉貴が怒っている。草でぼっちちゃんのかわいいほっぺをつつくな山田。
「落ち着け姉貴。ぼっちちゃんは、かわいいからいいんだよ」
「良くないよ! 星歌も手伝えー! 出てこないと減給だよー!」
ゴミ箱をバンバン叩く姉貴。車の下に隠れた猫をボンネット叩いて追い出すみたいになってる。
「ひとりちゃん、ゴミ箱入ってるの、なんか猫みたいでか・わ・い・いー!」
「あ、顔は、ダメ……です」
パシャパシャとスマホでぼっちちゃんを撮る喜多ちゃん。必死に手で顔を隠すぼっちちゃん。なんかエロイな。なんて同性の友達に思うことかよ……。でもちょっと、いい。
「草食え、草。あとお金貸して」
山田変な草食わすな! 金の無心するな!
「フフ……」
思わず笑みがこぼれるあたし。みんなも思い思いに笑ってる。その輪の中心はいつもぼっちちゃん。愛されてるよな。これがスターリーの何気ない日常。こんな日々がずっと続けばいいな。ぼっちちゃんがいて、リョウがいて、喜多ちゃんがいる。スターリーのみんながいて、姉貴がいる。
母さんが死んだとき、どん底だったあの時のあたしはもういない。
――大それたことは言えないけど、母さんあたし今幸せだよ。
「おーい! ぼっちちゃーん!」
バイトが終わって、いつも通りに駅へ向かうぼっちちゃんを自販機の前で引き留める。
「あ、星歌ちゃん。どうしたんですか?」
「まだ帰り余裕あるだろ? よかったら少しだけ話さないか?」
「あ、はい、いいですよ」
それを聞くとあたしは自販機からコーラを買ってぼっちちゃんに渡す。
「今日もお疲れ。おごりなんだから感謝して飲めよ?」
「あ、ありがとうございます! 有難がります!」
「いや、そんな気合い入れんでもいいけどさ……」
あたしのレモネードも買って、ふたりで自販機横の壁にもたれ掛かる。
「ええと、今日のライブ、たしかトゲトゲなんとかだっけ? あのバンドよかったじゃんね?」
今日初めてスターリーでライブしてくれた5人組のガールズバンド。バンド名ちょっとヘンだったけど、すげーよかった。今日はドリンクカウンターから見てたけど、いつかは一緒にライブしてみたいな。
「あ、はい。とげなしとげとげ? いいですよね。と、特に歌詞、とっても、よかったです。ちょっとだけ……共感できるようなところもあったりして」
「そうだな。演奏もすごかった。あたしたちと同世代なのにさ。あたしたちも頑張らないとだな」
「はい!」
今『あ』って言わなかったな。えらいぞ。
「よし! これからもよろしくな、ぼっちちゃん」
軽く抱き寄せて頭を撫でてやる。ふたりきりのとき、たまにこうしてる。
「へへ……」
なぜかぼっちちゃんはこれが好きらしい。本人曰く落ち着くそうだ。まあ、女のあたしによりも、素敵な男の人にやってもらったほうがいいよな。きっとそのうち付き合えるさ。だってぼっちちゃんはとってもかわいい女の子なんだから。もしあたしが男だったら絶対告白してるだろうな。……当たって砕けるだろうけど。はあ、いいよなぁ。ぼっちちゃんはかわいいもんな。あたしなんかと違ってさ。
――もしその時が来たとして、あたしは潔く身を引けるだろうか?
「くんくん。ふあぁ……」
なんとなく、ぼっちちゃんのつむじあたりを少し嗅いでみる。飾り気のない、ありのままのぼっちちゃんの匂い。いい匂いだなぁ……。
「くくくく、臭くてすみません!! ここは腹を切ってお詫びを!!!」
げ! ぼっちちゃんの地雷踏んだか!?
「臭くねぇよ! って、ごめん! つい匂い嗅いじゃって。いや、ぼっちちゃんは臭くないよ、ほんとに!」
――バイト終わりでちょっぴり汗臭いけど、あたしにとってはいい匂い。
『ぬぅぅぅぅぅん! ぐやじいー!』
あ、何か聞こえたような……。聞き覚えのある声だけど、こいつにだけは絶対会ってはいけないような気がする。スターリーの前に清めの塩でも撒いておくか。アジシオでも効くかな?
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