喜多ちゃんを引き留めて二人で話をする。世間話や文化祭の話をしていたが喜多ちゃんが、少ししんみりした表情になる。
「子供の頃『この指止まれ』ってあったじゃないですか? 私は指を出す役やったことないんですよね。指を出すのはその場の主役なんですよ。でも、やったことがないんです」
右手の人差し指を真上に立てる喜多ちゃん。
「なんだよ藪から棒に」
喜多ちゃんの自信無い様子に、あたしはすこし戸惑う。
「自分で言うのもなんですが、私って昔から勉強も運動もそこそこに出来て、友達も多いんですよね」
「は? 自慢かよ」
「でも、人生で主役にはなったこと無いって思うんです。部活や委員会もあくまで助っ人。友達の間でも空気を呼んでリーダーのようなポジションにはなれずに来ました。それがずっと引っ掛かって……。だから私、変わりたいんです。ひとりちゃんのギターを聞いたあの日からそう思います」
俯き加減の喜多ちゃんの表情には真実味がある。
「なんでだよ? ぼっちちゃんこそ、そういうタイプじゃないだろ?」
あたしは訝しむ。二人は良くも悪くも対照的だ。
「ひとりちゃんは主役になれる人だってギターの音色を聞いた時、なんとなく解った気がするんです。最初は軽い気持ちで話しかけましたけど、今では憧れさえあるんです。クラスに友達の一人も居ないあの娘に。私、ヘン……ですよね?」
「んなことねぇよ、ちょっと手貸してみろ」
「え?」
彼女の細い腕を掴んで、人差し指に触れる。固くなってるけど綺麗な指先。
「人差し指じゃなくて、中指を立てんだよ」
「いや、なんで……こんなポーズヤバイんじゃ?」
強引に中指を立てられて困惑する喜多ちゃん。確かにここがアメリカだったら死んでるな、あたし達。
「この指止まらせんなよ! 空気読まねぇでテメェを貫くのがロックってもんだ。たぶん!」
ゴチャゴチャ言う奴らに構ってる暇はねぇ。廣井さんみたいに『うっせぇなー!』って一喝するような演奏してやろう!
「あはは。ちょっと突然すぎてびっくりしましたけど、なんか吹っ切れちゃいました」
ファックサインのままニッコリスマイル。ある意味喜多ちゃんらしいな。
「ババアになっても、みんなでバンドやろうな!」
あたしも中指を立てて、喜多ちゃんに見せつける。
「はい! 約束ですよ!」
二人中指を立て合って、別れた。これでこそロックだろ?
喜多ちゃんも練習頑張ってるな。もちろんリョウやぼっちちゃんも。あたしだって負けられない。家に帰ってからも自主練習は怠れない。雑誌の山をドラムに見立てて叩く、叩く。
「すげぇ! あのドラマー神業だぞ!」
「文化祭のMVPは間違いなく彼女よ!」
「貴方は一体誰なんだー!」
どこかから生徒たちの声がする。空想のスポットライトが華麗なるドラマーを照らす!
「ふっ……人呼んで嵐を呼ぶドラマー、伊地知星歌だぜ!」
決まったな。ドヤ! ポーズを決めてイメトレばっちり!
「星歌ちゃん、さっさとお風呂入っちゃいなさーい」
「……姉貴、いつから見てた?」
「んー? 最初から。クスッ」
姉貴が意地悪く笑う。
「ぬぅぅぅぅん!」
あたし、多分顔真っ赤だ。
次回メイド喫茶編。
感想、高評価クレー!