なんとしても終わらせる!
会場最前列の虹夏さん(30)視点。
「ライブについては! 私、喜多か、ここにいる、後藤ひとりちゃんに聞いてください!」
ワァァァァァ! 響く歓声。結束バンド2曲目までが終わってからのMC。今度は喜多ちゃんがMC担当。曲は2曲ともオリジナル曲。まずはアップテンポな曲で客の心を掴んで、エモいバラードをじっくり聞かせてやるってわけか。ありがちなセトリだけど、思惑は見事的中したね。ラストの曲も楽しみだ。
「さっきのギターすげー! なにやったんだ?」
「ギターソロ上手かったよー!」
そしてなによりも、今日のヒーローはぼっちちゃんだ。演奏中に弦が切れるトラブルを、まさかボトルネック奏法で乗り切るとは。すごいアドリブ力。……酒カップを持ち込んだきくりにも少しは感謝してあげる。
「すごいね、ぼっちちゃん」
私の隣できくりが独りごちる。私は小さく頷く。正直こんな短期間で、彼女たちがここまで成長するとは思わなかった。この間のオーディションの時から、みんな確実に成長している。やっぱりティーンエイジャーは最高よね。……はぁ、過ぎ去った昔に想いを馳せる私。
「さ、ひとりちゃんも何か一言しゃべってよ!」
唐突に喜多ちゃんがぼっちちゃんにマイクを向ける。
「あ、な、なにか……」
まずい! 私の経験からすれば、ぼっちゃんみたいなタイプはとにかくアドリブが効かないんだよ! 案の定、ぼっちちゃんが小刻みに震えだした! 最前列だからよく分かる。と、とにかくなにか無難な一言を! 『今日はありがとう』とかでいいからさ! なんて考えているとぼっちちゃんが……。
「うおおおお!」
げ! 跳んだ! 体育館の舞台からまさかのダイブ! ちょ。ちょうど私の方に飛んできてる!
「おおー」
きくり、感心してる場合!? こうなったら!
「ぼっちちゃん!」
体で受け止めてやる! パワー系女子! 伊地知虹夏! 30歳! まだバージンよ!
「どっせーい!」
「え、店ちょ……さ、ん?」
ここぞとばかりに手を広げて飛んできたぼっちちゃんを捕まえる。よし! このまま支えて……。
「ギャ!」
――グキッ! 腰に激痛走る!
「ぐおおおお……こ、腰が……いだぃ!」
ああ、こんなときに! 最近腰やっちゃってたんだよね。仕事中にムリしちゃってさ。うう、流石にガチで腰痛めるには、まだ早い歳なんだけどな……。ぼっちちゃんを抱えたまま、背中から床に倒れこむ。
「――!!!」
あれは、星歌の声かな? 何か大声で叫んでるけど、何言ってるかまでは、よく聞こえない。
――強かに背中を打つ。
「っ痛! だ、大丈夫? ぼっちちゃん……」
「ああ、え? て、店長さん……わ、私はだいじょぶ……です」
「ふふ……よかった」
ぼっちちゃんは咄嗟のことにきょとんとしている。私がクッションになったお陰でケガはしてないようだ。本当によかった。私、今腰とか諸々痛いはずなんだけど、不思議と感じない。
「て、店長さん! ――!!!」
ぼっちちゃんが何か叫んでいる。初めて君の大きな声、聞いたよ。
「担架持ってこい! ――!!!」
「!!!」
また別の声。何を言ってるのかはいまいちよく分からないけど、私は酷く冷静だ。
――ああ、意識が、遠のく。でもこんなところで、私は……。
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