「ドリンクご注文の方はこちらへどうぞ」
「あ、いらっさい……ませ……」
ライブ前のドリンクコーナーは忙しくなる。受付を終えた客がドリンクチケットを持って次々やって来る。あたしは接客についてはそれなりに慣れてきたけど、姉貴からはまだまだ表情が固いって叱られる。つーかぼっちちゃん少しは笑顔作れ! 顔こえーよ!!
「コーラください」
「はい、コーラですね。ぼっちちゃん、コーラ入れて」
「あ、はい!」
え? 真下からドリンクが生えてきた!
「私、ジンジャーエール」
「ど、どうぞ!」
また生えてきた! 怖えーよ!
「つーか! お客さんに失礼すぎるだろ!」
「こ、怖くてー! す、すみませんー!」
「お前は! いい加減に! しとけ!」
客が捌けたあたりで、ぼっちちゃんを無理やり立たせる。
「ライブ始まったから、ドリンクは暇になるよ」
「……びっぐばーん」
「……なあ、目を合わせられないのはわかるけど、接客の時はさすがに立てよ」
「は、はい……ミジンコ以下ですみません……三葉虫後藤です……」
ぼっちちゃんちょっと目が虚ろだ。だ、大丈夫か? 宇宙見えてないか?
「ライブハウスのスタッフがお客さんと関わるのってここと受付ぐらいだし。あたしスターリーが好きだから。ここを少しでもいいハコだって思ってもらえるようにしたいんだ」
「そ、そんな場所でド下手な接客を……すみません」
「あぁもう! そうじゃねぇよ。ぼっちちゃんにもいいハコだったって思ってほしいんだ。楽しくバイトして、楽しくバンドしたいんだ、みんなで一緒に」
「……な、なんで私なんかにやさしくしてくれるんですか?」
「やさしくとか……そういうんじゃねぇよ。ぼっちちゃんも、仲間だから。いいハコだって思われるように手伝ってもらわないと困る。まずはお客さんの目を見て笑顔で接客できるようにがんばろうか。ゆっくり、少しずつでもいいからさ」
「す、少しずつ、でも、か、変われるよう、努力……します」
「いや、そんなに気負わなくていいから。ほら、1曲目始まるぞ? いろんなバンドを見たり聴いたりするのも、あたしたちには勉強だ」
今日の一番手はカラフルラジカルさん。うちのオープンから来てくれてるバンドで女子大生の4人組。あたしたちバイトにもやさしい。青春全開って感じの演奏や歌詞のストレートなメッセージはあたしの好みだ。リョウはあまり好きそうじゃないけど。……あ、ぼっちちゃんもダメか。なんちゃらコンプレックスが発動しそうだし。
「すみません、オレンジジュースください」
2曲目に差し掛かるころ、ドリンクコーナーに客が1人やってきた。オーバーオールが似合っててちょっとかわいい。入場遅れてきた人だろうか?
「わかりました!」
あ、ぼっちちゃん自分から返事してドリンク入れに行った。偉いぞ。
「どっどうぞ……」
ぼっちちゃんがオレンジジュースを差し出す。視線はしっかり相手を見据える。でもぼっちちゃん! 接客業でしていい顔じゃない!
「ふふ、ありがとう」
お客さんは少し楽しそうに、クスクス笑いながら去っていく。いい人で助かった。
「ぼっちちゃん、目! 目! ヤバイって! でもやったじゃん! ちゃんとお客さんの目を見れてた」
「はい、がんばりました……」
って、すぐ目を反らすのやめろ。あと、笑顔は特訓が必要だな。
「今のお客さんぼっちちゃんのおかげで今日のライブがもっと楽しい思い出になったと思うよ?」
「あ、ありがとうございます……へへっ」
ぼっちちゃんうれしそうだ。やっぱり、この娘に必要なのは自信だ。これからステージに立つことを考えると少しずつでも自信をつけてもらわないと困る。もちろん練習やバイトを頑張ってもらうのも大事だ。
ぼっちちゃんには、まずあたしがしっかりと支えてあげるっていう安心感を持たせてあげることが必要だと思う。あたしがガキの頃姉貴がそうしてくれたように。だから、がんばれ伊地知星歌!
「ぼっちちゃん……お、お、お前のこと……」
「は、はい?」
ぼっちちゃんの肩にポンと触れる。
「お前の事ちゃんと見てるからな」
「ひ、ひゅいいい! か、顔こわ! じゃなくて!イ、イキってすびばせん!!」
ぬうううううん! なぜだ! なぜこうも姉貴の時と違うんだよぉ!
カラフルラジカルは原作版登場のガールズバンド。
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