魔法少女リリカルなのはViVid キャリバーオブデザイア 作:エステバリス
よし、がんばるぞ!
プロローグ 過去と現在と交錯する刻
飛び散る炎。
散乱する血痕。
痕跡すら消えた村。
それは、たった一人の男によってもたらされたものだった。
己の顔を血で汚したくないとばかりに緑の複眼を持つ仮面を被り、素肌を一切見せない黒いアンダースーツと鎧を携え、腰には特徴的なベルトと、赤、黄色、緑の三色のメダルが収まり斜めになっているバックルを持つ男は悠然と歩を進める。
ふと、男の周囲を影が覆った。
上を見上げると巨大な戦艦があった。
「……聖王のゆりかご、ですか……面白い。それならば私も、本気の出し甲斐もあるというもの……アンクくん」
「……ちっ」
男のすぐそばにいた男が舌打ちをしながら、赤いニ枚のメダルを手渡す。
「この戦いが終わったら祝杯でも上げましょうか。また、一つの国が私の手に落ちたことを祝って……」
男はそんなことを言いながら黄色と緑のメダルをスロットから外し、代わりに受け取った二枚のメダルをセットする。
そして、男は右腰にある円盤状のスキャナーを右手に取り、スロットに収められた三枚のメダルをスキャンする。
『タカ!クジャク!コンドル!
タージャードルー!』
男の鎧が劇的に変わる。頭部はさほど変わらなかったが、先ほどよりも側頭部の装飾が煌びやかとなり、複眼は緑から真紅へと変化する。黄色と黒がメインだった腕部も赤いものとなり、左腕に不死鳥のような紋章が刻まれた盾が現れる。そして緑のと黒が中心となっていた脚部も赤い装飾のついたものとなる。
「さあて……それでは、参りましょうか」
男は背中から真紅の翼を展開し、聖王のゆりかごと呼ばれた戦艦の中へと飛んで行き、もう一人の男も後を追うように虹色の翼を展開して飛んで行く。
古代ベルカ時代、力がモノを言う時代。その日以降、その鎧の男……後に、三枚のメダルが三つのゼロをかたどっているように見えたことから、OOO……オーズと呼ばれる彼の姿を見た者はおらず、どういうことか、歴史に刻まれることもなかった……
◆◇◆
新暦79年、某所にて。
そんな大昔とは似ても似つかぬこの時代、魔法というものが存在する。
魔法と言ってもファンタジーなものではなく、科学が著しい発展を遂げた末に魔法と呼ばれるようになっただけなのだが。
そんな時代の、魔法が発達した世界、ミッドチルダの首都クラナガン。
そのとある家に、人が働き、出歩く平日の午前八時に自堕落に眠る少年がいた。どうみても10代に迫っているかどうかの年頃である。
「んぁ……んだよ、まだ八時か。寝よ……」
少年は再び夢の世界に旅立とうと瞳を閉じる。丁度その時。
ピンポーン、チャイムの音が。
「……誰だよ人が寝ようとした時に……」
少年が自分の家のドアをチェーン越しに開ける。
「誰ですか。塾とかの勧誘ならお断りします」
明らかに不機嫌な声音でそう告げる。だが、そこにいたのは少年より少々背が大きい金髪の少女だった。
「あ、コウガミくん!今日から私達四年生だね!一緒に学校行こ!」
「……帰れ」
少女の顔を見た瞬間、コウガミと呼ばれた少年の表情は苛立ったものになった。
「俺は学校なんて行かない」
「なんで?コウガミくんもう停学処分期間終わったでしょ?じゃあ行こうよ!」
「行く義理なんてない。親父もお袋もジジイも死んだんだから行く義理なんてなくなった」
「でも、停学処分になるまではコウガミくんのパパもママもおじいちゃんも、三人とも死んじゃっても学校行ってたじゃん!」
家から出る……正確には学校に行くことを拒否するコウガミと彼を説得する少女。終わりが見当たらない。
「うるせえ!聖王のクローンが……!俺に馴れ馴れしくするな……!そもそも俺は学校なんて行く気はじめっからなかったんだよ。いいからさっさと行け!」
コウガミがドアを締めると、暫くして「また来るよ」と小さな声が聞こえてきて、それからはなにも聞こえなかった。
「……迷惑だ。ヴィヴィオ……俺がなんのためにこんなことやってるのかも知らずに……!お前があんなことしたから俺はこんなところでウジウジしてるんだよ……!ヴィヴィオの……俺の、バカ野郎……!」
少年……エイジ・コウガミは玄関を殴りつけながら呟く。
彼の心は葛藤と謝罪、怒りの三つの感情でゴチャ混ぜになっていた。
◆◇◆
翌日、夜。
街灯の光で照らされ、夜道を歩く赤い髪を持つ一人の女性。ノーヴェ・ナカジマ。
今日も知り合いの子供達に格闘技の指南をし、救助隊の装備調整で少し遅い時間の中を少し急ぎ目に歩いていた時、頭上から声をかけられた。
「ストライクアーツ有段者。ノーヴェ・ナカジマさんとお見受けします」
ノーヴェは声がした方を見上げると、そこには碧銀の長髪を携え、バイザーで顔を隠した女性が街灯の上に立っていた。
「貴方にいくつか伺いたい事と、確かめさせて頂きたい事が」
「質問するならバイザー外して名を名乗れ」
「失礼しました」
女性はあっさりとバイザーを外す。ノーヴェは素直に外したことに少し驚いた。
「カイザーアーツ正統。ハイディ・E・Sイングヴァルト。『覇王』を名乗らせて頂いてます」
素顔を晒した女性は大人に近い風貌をしていたが、表情はまだどこか幼さを残すものだ。そして、なによりも紫の右目と青い左目というオッドアイに目が行く。
「噂の通り魔か」
噂の通り魔、管理局関連で最近少しだけ噂になっている話題だ。
内容は名だたる格闘技者に街頭試合を申し込み、被害に合わす。まだ被害届は出ていないため、事件ではないのだが……その犯人と思われる女性が名乗っているのが『覇王イングヴァルト』。古代ベルカ時代で名を連ねた王の一人である。
覇王を名乗った女性は否定はしません、と一言そう言って次の言葉を紡ぐ。
「伺いたいのは、貴方の知己である王達についてです」
女性は街灯から降り、ノーヴェと向かい合う。
「聖王オリヴィエの複製体と、冥府の炎王イクスヴェリア。貴女はその両方の所在を知っていると……」
「知らねえな」
ノーヴェは女性の言葉を遮り、不機嫌な表情になる。
「聖王のクローンだの冥王陛下だの何て連中と、知り合いになった覚えはねぇ。あたしが知ってんのは、一生懸命生きてるだけの、普通の子供達だ」
「……理解しました。その件に関しては他を当たることにします」
女性はそう言うと、自分の鎖骨当たりに握り拳を置く。
「……では、もう一つ確かめたいことが」
そう、彼女は『その件』と言った。であればまだなにか用件があるということだろう。まあ、内容は聞かなくてもわかることなのだが。
「貴女の拳と私の拳。いったいどちらが強いのか……です」
彼女にとっては、聖王や冥府の王よりもこちらの方が重要なのだ。己の強さを知りたい……それが、最重要項目。
「防護服と武装をお願いします」
「いらねえよ」
「そうですか」
これまたあっさりと諦めた。ノーヴェはこれにも少しだけ驚く。
「よく見りゃまだガキじゃねーか。なんでこんな事してる?」
「……強さを知りたいから、です」
「ハッ!バカバカしい」
ノーヴェは、言葉と同時に生身で先制を仕掛ける。だが、女性にとって、それは予想内の攻撃。軽く受け流して、距離をとった。
「(ち……流石に言うだけのことはある。ってか)ジェットエッジ」
相手が只者でないと改めて悟り、ノーヴェもバリアジャケットを装備し、ガントレット型の固有武装・ガンナックルを構える。
「ありがとうございます」
女性はバリアジャケットを装備したことに素直に礼を述べる。こうも素直だと、なぜ街頭試合をしているのか……それが気になって来る。
「強さを知りたいって、正気かよ?」
「正気です、そして今よりももっと強くなりたい……そう、私は強くなってあの男を……!」
女性は呻くように呟く。その表情は先ほどまでの淡々としたものではなく、なにかに対して恨めしいと思っているかのようなものだった。
「あの悪辣な王を倒すために……!そのための力を、そのために列強の王全てを薙ぎ倒しベルカの天地に覇を成す!全てはあの王を屠るため……!」
「寝ぼけたこと……ぬかしてんじゃねえぞぉッ!」
ノーヴェは叫びながら女性に向けてラッシュを繰り出す。ジェットエッジによる加速と、それについていく女性の殴り合いは最早女性同士の戦いになどは到底思えない。
「昔の王様なんざ皆死んでる!生き残りや末裔達だって普通に生きてんだ!オマエの、身勝手な目的に善良かもしれないその悪辣な王とかいうヤツの子孫や、他の王の末裔を巻き込むんじゃねえ!」
「弱い王ならば、この手で屠るまで……オーズも例外ではありません」
その言葉でノーヴェのなにかがキレた。頭の中に浮かぶのは、二人の少女。その二人をこの女の身勝手で危ない目に合わせるわけにはいかない。
「……このっ、バカったれがぁ!!」
ノーヴェは叫ぶと同時に、自分のISと呼ばれる特殊能力、エアライナーで空中に道を作りだし、ジェットエッジで走り抜け、女性に迫った。
その時だった。
「もっと……もっと、強く……!」
女性の様子が、なにかおかしい。
「もっともっと……もっと!強く!」
ノーヴェは思わず急停止した。なにか、女性に異様な気配を感じる。生物的に恐怖する、なにかを。
「ぅ…………………ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
直後、女性の身体が変貌した。いや、この場合は……なにか奇妙なものに取り込まれた。そう形容すべきか。
その取り込んだなにかはまるで獅子のような姿をしていた。
◆◇◆
同時刻、エイジ宅。
やはりというか、自堕落に眠りこけていた……いや、眠れてないのだが、ベッドの上で動かないエイジは別の場所で起こっていることなんて露ほども知らず、不機嫌と自分に向けたやり場のない怒りを表情に出していた。
まあ、理由はわかりきっていることだ。聖王のクローンと呼んだ少女……無論、本心でそんなこと言ったわけではないのだが、その少女、ヴィヴィオが今日も訪ねてきたのである。
「どうせアイツは明日も来るんだろ……鬱陶しいったらない……!」
エイジは枕を殴り怒りを発散させようとするが、全くの無意味……いや、それどころか悪化している。
なにか、ストレスを発散できるなにかはないかと思っていた丁度その時───
「エージ!ヤミーだ!」
なにかよくわからない右手がエイジの服の襟を掴んだ。
「……ヤミーか。丁度いい。イライラしてたんだよ……メダル回収ついでにストレスでも発散するか……おいアンク。ヤミーの様子はどうだ」
アンクと呼ばれた右腕は腕だけでサムズアップする。
「ブックブクに成長してやがる。取れる分最大限まで取れるぜ」
「オッケイ……!久々に完全体ヤミーとやれんだ。テンション上がる……!」
エイジは変身魔法で自らの身体を170cm前後の大人の姿に変える。
「エージ、受け取れ!」
アンクが赤、黄色、緑のメダルを渡すと、エイジは三つのメダルスロットのあるバックルを自分のベルトの正面に、メダルが数枚入りそうなホルダーを左腰に、円盤状のスキャナーを右腰にセットする。
エイジは続いて左のスロットに緑、右のスロットに赤のメダルを同時にセットし、最後に黄色のメダルを真ん中のスロットにセットし、右手でスキャナーを取ると同時に、左手でバックルを右斜め上に傾ける。
「変身!」
エイジはスキャナーをバックルに向けて動かし、赤、黄色、緑の順でメダルをスキャンする。
『タカ!トラ!バッタ!』
エイジの周囲をメダル状のなにかが大量に多い、そのなにかが次々とエイジの中へと消えていく。最後に上から赤、黄色、緑の色をしたメダル状のなにかがエイジの前で合わさり、一つのメダルのカタチをとり、エイジの胸部へと消える。
『タ・ト・バ!タトバ・タ・ト・バ!』
そんな歌のようななにかとともに、エイジの身体が変化する。
赤いタカの翼のような装飾が側頭部についた仮面、黄色のトラのように鋭いツメが腕部に収容された腕。そして緑色の昆虫の足のようなラインがある脚部。
それは、あの時の王と同じ姿だった。
「さぁて……ボチボチメダル稼ぎでもするか」
プロローグの割りには少し内容詰めすぎちゃったかな?
とりあえず、エイジくんのプロフィールをちょっと表記します!
名前 エイジ・コウガミ
10歳
容姿 若草色の髪と色白の肌。地球でいうところのアジアンな服を私服にしている。
ちょっと概要
古代ベルカ時代の王、オーズの末裔であり現代のオーズ。アンクは古代ベルカの戦争を生き延びたが、なぜか右腕だけになったとのこと。
性格は荒っぽく短気だが、友達のためなら自分がどうなろうと知ったことないという、友達想いな不良といった感じ。
本編開始のちょっと前にとある理由から暴力沙汰を起こし停学処分を受けた。以降完全に自堕落な生活を送っている。
まあ見ての通り本当のオーズの映司くんとは似ても似つかない主人公です。