魔法少女リリカルなのはViVid キャリバーオブデザイア 作:エステバリス
「っ……ここは、」
エイジが目覚めると、そこは部屋だった。ただし、エイジの部屋というわけではなく、掃除の行き通った空き部屋、という感じのする部屋だったが。
「……はぁ。一番負担の少ないタトバでさえこの有様か。まだ遠いな……」
エイジが部屋のドアに手を付けようとした時。
「無駄だエージ。完全に閉じ込められてやがる。ベルトも没収、打つて無しだ」
エイジの後ろからそんな声が聞こえ、振り向くとそこにはアンクが鳥小屋のようなものの中で鎮座していた。
「アンク……お前、今ほどカッコのつかないカッコはないと思うぞ……」
エイジが冷静にツッコむ。それと同時に部屋の鍵もなぜか空いた。
まあ、鍵が一人でに開くはずもないので人が開けたのは明白だ。
「あっ、起きたんだね」
部屋に入ってきたのは一人の女性。青い髪をショートカットにしていて活発的に見える。
そして心なしか、気絶する前に言い合った女性と似ている。
「えーっと……エイジ・コウガミくんだね?」
「人に名前を尋ねる時は自分からが常識でしょう?」
「ん。わかったよ。私はスバル・ナカジマ。管理局の湾岸部隊の防災士長」
「(局員かよ……めんどくせえ)ご存知のとおりエイジ・コウガミです。俺のことはどこまで調べたんですか?」
「やっぱりわかっちゃうか……キミ、歳の割に色々達観してるよ……」
そこは、クソジジイの記憶が忌々しくも残っているからですとは言わない。今の時代にオーズを知る人なんてほとんどいないのだ。
スバルがエイジについて語ろうとした時、丁度別の人物が入ってきた。
「エイジ・コウガミ。St.ヒルデ魔法学院初等科四年生所属。家族構成は二年前に両親が死去し、半年前に祖父も死去してからは生涯孤独の身。
三年生の終わり頃に暴力沙汰を起こして一昨日の始業式まで停学処分を受けていた……祖父は芸術品などに対して多大な投資をしている企業、コウガミファウンデーション会長の管理外世界出身の鴻上コウセイ。祖父の死去により解散すると思われたコウガミファウンデーションは会長の孫が成人してから継ぐと決まり、以降は前会長の秘書が会長代理を勤める」
オレンジの髪を腰元まで伸ばした女性がそう言いながら部屋に入ってきた。
「私はティアナ・ランスター。そこのスバルとは……まあ腐れ縁みたいなものよ」
「……エイジ・コウガミです。ご存知の通り、コウガミファウンデーションの跡取りです」
エイジはベッドから降り、窓際に座る。
「じゃ……質問してもいいかな?」
「俺が答えれる範囲でしたら、どうぞ」
二人もエイジの挙動に警戒しながらその場に座る。
子供といっても侮っているわけではない。子供に対して頼れる管理局員ではなく、管理局についてある程度知っている人に対しての管理局員の姿で二人はエイジに対応しているのだ。
「一つ目。私達が保護したもう一人……妹、あ、妹っていうのはあの赤い髪の子なんだけど……妹のデバイスに映ってた、あの子の姿が突然内側から食べられるように変わっていました。あれはなんですか?」
「黙秘します」
開幕早々黙秘権を使われてしまった。
「二つ目。これも妹のデバイスに記録してあった映像だけど、ここに映っている全身鎧は貴方ですね?」
「否定はしません」
「じゃあ、その鎧はなんですか?あのベルトを少調べたけど、デバイスに近いものだったけどデバイスではなかったから」
「黙秘します」
また黙秘権。これではマトモな情報を集めるのには時間がかかるだろう。
「そこの右腕はなんですか?」
「右腕って……俺か」
アンクが自分を確認してからそう言う。まあ右腕なのは確かだ。
「アンクです」
「アンク、ね……じゃあなんでそのアンクは右腕だけで生きてるし喋れるの?」
「知りません。アンクは俺が物心ついた時からいました。理由を聞いても喋りません」
「はぁっ……全然わかんない……これでわかったことなんてそこの右腕の名前だけじゃない……」
ティアナがお手上げとばかりに右手で顔を抑える。
「……管理局は信頼してないからっすよ。4年前のJ.S.事件しかり……つい最近のマリアージュの一件しかり。言ってしまえば全部管理局がやらかした問題だ」
だから管理局は信頼しない、とエイジは言う。
「そもそも正義の組織の最高評議会がJ.S.事件の根本的原因……黒幕でどーすんすか。
そりゃあ、アンタらはこうして目が覚めたら檻の中ーってことじゃなかった以上、そいつらよりは信頼できる。けどアンタらが管理局の人間である以上は話が別っすよ」
まあ確かに、J.S.事件は管理局が根本的な原因だ。このことが公になれば管理局の信頼はガタ落ち。だからこそスバル達も歯ぎしりしてでも隠してること───
「───あれ?ねえエイジ。なんで『J.S.事件の黒幕が管理局の最高評議会』って知ってるの?」
「んなの、ジジイも親父もお袋も生きてる時に訪ねられたからだよ。ジェイル・スカリエッティに……っと、思わず喋っちまった」
スバルとティアナは衝撃を受ける。まさか、そんなS級犯罪者がただの大企業に訪ねてくる?スカリエッティは資金の投資を最高評議会から補助されていた。それも充分すぎるほどに。
ならばなぜ、スカリエッティはそんな大企業に現れたのか?
「これ以上は秘密。スカリエッティが現れたのは本社だし、本社は位置情報含めて機密になっている。電話で取り合うのも無駄だし、ファウンデーションの跡取りといっても、当時物心すらついてなかった少年の証言と証明しようもないこの状況では証拠不十分でとりあってくれないと思うよ?」
ただまぁ、と続けるエイジ。その瞳はとても10歳の少年には見えないくらいに怪しかった。
「ある条件を守ってくれれば、ファウンデーションについて、あの怪物について……そして俺について教えてもいいっすよ。
流石に自分と深い関係がある企業が証拠不十分とはいえ、正義の組織に怪しまれるのは正直たまったもんじゃないし」
エイジの交渉、スタート。
「……条件っていうのは?」
食いついたのはティアナだ。執務官として、知りたいことは早く知りたいのだろう。
エイジは食いついたことに内心ホッとしながら続ける。
「コウガミファウンデーションの実態、怪物のこと、俺のことは部外秘にしてほしい。あと、アンタらがミッド以外の世界でヤツらが発見されたら真っ先に俺に連絡すること。俺達のやり方に口出ししないこと。
あれは人間じゃ魔導師でも手に負えないヤツらだから、アンタらが黙っていてくれるだけでいい。いいこと尽くしの交渉だと思うけど?」
「……随分徹底した秘密主義ね」
「そりゃそうっすよ。これからアンタらが知るのは言わば世界の真実。そしてウチの企業の安否がかかってるんすから」
「わかった。それで構わないから話して」
スバルがそう言うと、ティアナも暫く考えてから頷く。
エイジが契約成立っすね、と言うと息を整える。
「じゃ、コウガミファウンデーションから。うちのジジイ……祖父が建てたのは知ってるっすか?」
「有名よ、コウガミファウンデーションの初代会長、鴻上コウセイさんは。なにせ芸術品を多く集めて、本人が一級品のケーキ職人として有名だったもの」
「うちのそのジジイがファウンデーションを立ち上げたのには理由がある……それが、オーズによる人類の進化」
「……オーズ?」
「うちのジジイは物事の誕生に独自の美学を持っててな。人類の進化も新たな人類の誕生と捉えていたんす。そこでジジイが目を付けたのが古代ベルカの遺産、俺やジジイの先祖が持っていた現代のデバイスを超える道具……オーズの力、あのベルトっす」
エイジが淡々と告げる。そこまで大きな魔力を持たないこの少年がノーヴェの言っていた怪物と渡り合えたタネはこれか。と二人は思う。
「オーズっていうのは……まあ、言っちまえば没落貴族ってとこっすね。古代ベルカには周囲に恐怖されるほど強力だったのに、聖王のゆりかごにそこのアンクと二人で挑んで死んで、以降はなぜか歴史からも消えた」
「あ、アンタそんな昔からいるの!?」
「ああ。俺はその戦いで九死に一生を得たが……どういうわけか、右腕と意識だけが残った。そっからは聖王家に封印されて、あのジジイに復活させられたんだよ」
アンクがめんどくせえことしてくれた……と死人に悪態をつき、腕だけで器用に感情を表現する。
「んで、お袋が子を産んだと伝えられたジジイは俺を見てこう言ったらしい」
「どう?」
「『素晴らしいッ!この子はまさにオーズになるために生まれてきた、無欲の欲を持っている!ハッピバァスデェイ!!』……そう言いながら産んだばかりでロクに食べ物食えねえお袋と俺の目の前でバースデーケーキを贈呈、親父と二人で目の前でバックバク……だそうっすよ。因みにジジイは人類に欲望による進化を求めていた」
どんだけテンションの高いおじいちゃんだったのだろうか……それは当事者達にしかわからない。
「で、次っすね。あの怪物……あれはヤミー。欲望を悪用された、と言えば簡単っすね」
「……欲望の悪用」
ティアナが復唱するように呟く。
「ウチのジジイはアタマいいのかアタマおかしいのかわかんねえヤツで、俺をオーズにするために去年オーズの変身ツールの封印を解放したんだ。
そしたらなんのミスか、グリードって呼ばれる化け物どもも一緒に解放しちまったんだよ」
「グリード?それがエイジが昨日倒した怪物の名前?」
「ノー。あれはヤミー。グリードが人間の欲望を基にして生み出すメダルの怪物。ヤツらは基となった人間の欲望を叶える行為などをすることでセルメダルと呼ばれるものを体内に溜め込んでいく。
セルメダルはオーズやグリードを強くする。俺はジジイの尻拭いと自分が強くなるための行為をやってるってわけっすね」
エイジが面倒面倒、とかったるそうに両手を上げる。
「このことを管理局の上層部は?」
「知ってたとしても魔導師で歯が立たない以上は市民を不安がらせないために秘匿にするでしょうね。どっちにしろ上層部に期待するのはするだけヤボっすよ」
最後までなにも知らない市民達は気づくこともなく死んでいくんじゃないっすか?と続ける。
「グリードは欲望のために動くけど、ものごとを感じるという感覚が著しく低下している。自分がどれだけ強くなっても満たされることのない欲に呑み込まれて世界を滅ぼす。
んっとにクソジジイは迷惑なもん作り上げてくれた……!」
「……ええっと、じゃあアンクも?」
「認めたくねえがグリードだ。まあ、あんなもん見せられたら欲望なんてなくなる」
あんなもんがなにを意味するのかはわからないが、グリードの目から見ても……目はないけど、それは相当恐ろしいのだとわかる。
そして理由はわからないが、強くなろうとするエイジは一通り話すと無愛想な顔になる。
「ジジイが生きてた時にオーズを補助する様々なアイテムを生体工学を研究してた博士が作ったからそれも最大限利用してる。ほれ、これが俺が知ることで伝えるべきと思ったことっす」
話し終えると、エイジはティアナに向かって右手を出す。
「なに」
「というわけでベルト返してほしいっす」
「事情はわかったからって返すわけないでしょ。こんな危険なことアンタみたいな子供じゃなくて大人にやらせるべきよ」
「オーズは封印を解いてから最初に変身した人間しか使えない。嘘だと思うなら試してみるっす」
エイジがそう言うのでティアナはバックルを持つ。
「これ、どうすればいいの?」
「腰に近づければベルトが出てきて腰につく。オーズになれる者なら、ね」
エイジがからかうように言うのでティアナは少しムッとした。そこまで言うのならしっかりとオーズになってやろうじゃないか、とバックルを腰元につける。
が、なにも起こらない。
なのでエイジがバックルをかっさらって腰元に近づけると、出てきたベルトかエイジにフィットするサイズで巻きついた。
「ね?」
今の行動の間、なんの魔力も一切感じられなかった。エイジの言っていた最初に変身した人間しか使えないというのは本当なのだろう。
「まー正確にはオーズは俺じゃなくてツールそのものに魔力が詰まってるらしいんすけど、取り敢えずこれで終わり……っすね」
「え、ええ……」
「んじゃ帰るっす」
「ちょ、ちょっと、学校は!?」
「サボる。どーせ行く気なかったし」
世界が欲望怪人グリードに支配されるかどうかは、このサボリ魔不良小学生に託さざるを得ないという事態になってしまったのだった。
カウント ザ メダルズ
現在オーズが使えるメダルは?
赤 タカ×1
緑 カマキリ×1、バッタ×1
黄色 ライオン×1、トラ×1、チーター×1
灰色 サイ×1
青 ウナギ×1
紫 なし
橙 なし
特殊系 なし
というわけで眠くなる説明回でした!
不良だからチグハグした敬語をしてらっしゃる……不良御曹司て……
ジジイはやっぱり会長でしたね。異世界でもブレない。