「私」の青春   作:せんせい

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脚舐めは真理

 ゲヘナでは争いが尽きない。

それら一件一件に首を突っ込んでいては時間がいくらあっても足りない。

いくらかは『いつものこと』、過激なコミュニケーションとして放置しておくこともしばしば。

 

「ゲヘナ風紀委員だ!……ってアンタか」

「ん?あ、こんにちはイオリ」

 

 つまり必然と彼女が関わろうとするような『喧嘩』は、必然とその地区の委員会も集まってくる。

 

「派手な爆破が起こってるっていうから来たのに……ハァ、まーた無駄骨になった」

「あ、あはは……ごめんね?」

 

 ゲヘナ風紀委員会には空崎ヒナという強力無比な存在がいる。

その戦力は他の風紀委員の追随を許さず、余りの差に他の委員を軽視する声も上がる程。

決してヒナ以外が弱いということはなく、彼女たちもそんな声に負けない様にと日々頑張ってはいるのだが……。

 

「最近はアンタっていう地区を無視した戦力が容認されちゃったから、ますます肩身が狭いよ…ハァ」

 

 派手な事件に関わるということは、それだけ注目度を正規の委員会から奪ってしまうということでもあった。

一応、一か所に集中しないように、なるべく色んな地区を回るようにしているのだが、民衆がつけた評価やレッテルは簡単に剥がれることがない。

 

(んー、なんだか申し訳ない)

 

 せめて話題を違う方向にもっていこうと思って、そういえばと最近の噂の的である先生を出すことにした。

 

「そういえば、先生に足を舐めさせたって本当?」

「ハァッ!?ど、どどど、どこの誰から聴いた!?!?!」

「どこからともなくかなぁ。もっぱらの噂だよ~」

 

 うぁあああ~~!と頭を抱えて悶えるイオリ。

うん、元気になったみたいでよきよき、と頷きつつイオリの頭を撫でていると、急にガシっと肩を掴まれた。

 

「ななななにを納得してるのか分かんないけど、違うから!アレは、違うから!!」

「違うって舐められてないってこと?」

「それは、そうじゃなくて、その……ともかく、違うんだぁぁああああ!!!」

「アバババ、イ、イオリ、落ち、おちつつつ」

 

 軽く酔う程に肩を揺さぶられた結果、風紀委員が一般生徒に迫っているという噂が立って脚舐め事件が少し薄れたとか薄れなかったとか……。

 

 

 呼びだしを受けたイオリが次の現場に走っていくのを見送っていると、肩を叩かれ振り向いた。

そこには黒いリボンカチューシャと眼鏡、それと赤タイツが印象的な風紀委員がいた。

彼女、火宮(ひのみや)チナツは錠剤と水が注がれたコップを差し出してくれた。

 

「はい、酔い止めです」

「うぅ、ありがとチナツ……」

「まったく、あなたといい先生といい、どうしてイオリをからかう様な事をするんですか?」

「いや、真面目に元気づけようと思って」

 

 至極正直に告げると、信じられないというジト目で見つめられ、思わず顔をそむけた。

イオリは真面目だ。真面目だから普段からしっかり風紀委員をしているし、真面目だから職務を全うするし、真面目だから批判や同情も気にする。

 

 だから普通に言葉で褒めるより、こうやって貴女を信頼しているよ、好きだよってスキンシップを行った方が素直な反応をしてくれる、そう思っている。

特に、今の「私」は生徒だ。先生(以前)よりもイオリと近い立場にいる反面、出来ることは少ない。

だからこそ、ひっっじょうに!真面目に!!正直に!!!元気付けていただけなのである!

 

「私としては、イオリはこういう接し方の方が楽かなって思ってるんだけど」

「私にはよく分かりません」

「え~~」

 

 不理解にそんなぁとしょんぼりすると、チナツははいはいと慣れた様子で「私」の上着を取り上げた。

……取り上げられた?!

 

「ち、チナツ、何で脱がすの!?」

「私は風紀委員の救護担当ですから。怪我人を放置はできません」

「ケガって、大したことないんだけど……」

「ハァ……ほら、後ろ向いて」

「あ~れ~~」

「ふざけないで下さい……全くもぅ」

 

 治療を施すと、チナツは急ぎ足で去っていった。

恐らくイオリの元に行ったのだろう。イオリだけじゃなく、毎日怪我人続出だろうから看護者は大変だ。

 

「さ、次は何処に行こうかな」

 

 チナツの手厚い治療のおかげで幾分楽になった身体を動かし、今日も「私」はキヴォトスを彷徨う。

 

 

 チナツは早足で通報のあった場所に現着した。

今回は大した相手ではなかったのだろう、既に問題児を捕らえている最中だった。

 

「すいません、遅くなりました」

「ん?あぁ、いいよ。どうせアイツの治療してたんでしょ?」

「えぇ。本当、困った子です」

 

 銃弾が飛び交い、爆撃が起こる戦場に単身突撃し、問題児たちを最小限の傷で気絶させる手腕は見事としか言いようがない。

戦場や捕縛した生徒を放置することもなく、それぞれの治安委員に渡すまで待機し、丁寧に現場を明け渡す。

見返りはなく、己の実績を誇りもしない。何故ボロボロになるような戦闘を繰り返すのか、どうしてあんな慈愛の精神を備えているのか、誰にも分からない。

 ただ、共通して言えるのは……放っておけない、ということ。

 

「今頃またどっかの騒ぎに首突っ込んでるんだろね」

「えぇ、今度会った時は……―」

 

 さっき傷を治療した『あの子』の背中を思い出し、同時に一瞬違う何かを思い出した(ノイズが奔って)気がして、気がしただけで結局心配する気持ちは変わらなくて。

だから、今度ゲヘナで出くわしたその時に、少し小言でも、そう考えた時にふと浮かんだ疑問。

 

――あの子、学校(所属)は、どこだっただろうか。

 

 キヴォトスの制服は改造して着こなしている生徒も多い。

その上、戦闘も多いからあの子は防弾装備を着込んでいて、制服が分かりづらくて。

 

「あの子、所属はどちらでしたっけ」

 

 僅かに混乱する頭に浮かんだ疑問は、そのまま口から出力された。

しかし、聴いたイオリはキョトンとした顔で、当たり前のように答える。

 

「え?シャーレじゃないの?」

「シャーレ……そう、ですよね」

 

 そう、信頼できる先生が認めている生徒だ。

優しくて、頼もしくて、気になってしまう、自分たちと同じ普通の生徒。

浮かんだ違和感が思考のノイズと共にスッと沈んでいく。

 

 

 一歩踏み出した時には、もうそんな話題を出したことすら忘れてしまった。

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