炎に包まれた教会のなかで、三人の孤児が震えていた。祭壇を背に、肩を寄せ合い目に涙を浮かべている。
「どうしてオークがダンジョンの外に」
「大丈夫だよ、灯花ちゃん、ねむちゃん。村長さんや村の皆が助けに来てくれるよ」
「来ないよ! 獄門オークを倒せる人なんてこの村にいないもん!」
少女達の瞳には、貴族のような巻髪が特徴的な灰色の巨大なオークの顔が映っていた。獄門オークと呼ばれるそれは、首だけのグロテスクなモンスターで、ふよふよと移動しながら熱線を吐き、一面を火の海にする。
オークは小鳥を丸呑みにしようとする蛇のように、少女達にむかってガパァっと口を開いた。喉の奥が灼熱色に輝く。
孤児達の悲痛な叫びが、火の粉の舞う空気を切り裂いて、礼拝堂の外まで響いた。
オークが炎を吐き出そうとした瞬間、幾本もの蒼い槍が壁を砕いて、オークを横から串刺しにした。
それに続いて、一筋の鮮やかなピンクの閃光が矢のように飛んできて枝分かれすると、さらにオークを容赦なく貫いた。
衝撃で反対側の壁に叩きつけられたオークは動かなくなり、教会内部で燃えさかる炎に自らも焼かれ息絶えた。
「危ないところだったわね」
「三人とも、無事で良かった」
これが五人の今世での出会いだった。
その後、星二の駆け出し冒険者のいろはと星五のベテラン冒険者のやちよによって残りの獄門オークも討伐された。二人は、たまたま村の近くでクエストをこなしていた。
オークの襲撃によって孤児のうい達が住んでいた教会と、村の家屋も半数以上焼け落ちてしまった。
本来なら生残った村の大人達がうい達の面倒を見るところだが、三人はなぜかいろはとやちよに懐いてしまい、いろは達も三人を他人だと思えず、二人で引き取ることにした。
うい、灯花、ねむは八歳、いろは十四歳、やちよ十八歳の時のことである。いろはとやちよはすでに故郷の村を出て冒険者として生計を立てていた。
五人は王都から歩いて四日ほどの距離にあるマチビト村で生活することにした。
それから三年。
病室から出られなかった前世とは違い、灯花、うい、ねむの三人は、健康な身体で野山を駆け回りながら育った。
いろは達と一緒に住むようになってからすぐ、隣の空き家に旭とちかと呼ばれる冒険者が引っ越してきた。いろは達も、灯花達も、すぐにちか達と打ち解けた。
それからというもの、うい達には四人の師匠ができた。
いろはとやちよからだけでなく、ちかと旭からも、武器の使い方や、野党や兵との戦い方や、動物やモンスターの狩り方、狩った獲物の解体など、色々なことを教わった。
楽しみながらも、強く生きていけるようにと、みっちり仕込まれた。
ういも、灯花も、ねむも、神浜で魔法少女をしていた頃よりも、野性味のある少女に成長していった。
灯花とねむは、二人がかりとはいえ、一回り年上の村の男の子と喧嘩して勝ってしまうほどだった。
特にねむは、見た目こそ文系眼鏡少女のままだし、喧嘩の時に声を荒げたりもしないのだが、入院時代は病のせいで、魔法少女になってからはウワサを生み出すために魂を削ったせいで発揮することができなかった体育会系の血を開花させるように、駆けて、跳ねて、殴るときは殴った。
ある日、初級魔法のファイヤーボールを覚えた村の男の子が、喧嘩に負けた腹いせにねむに向けてファイヤーボールを放った。ねむは野球ボールくらいの小さな炎の玉をひらりとかわし、男の子の懐に素早く潜り込むと、眠たげな声で「ファイティング・ボール」といいながら渾身のボディーブローを何発も叩き込んだ。
その大人しそうな外見と暴れっぷりのギャップが激しさから、村の子供達から裏でガリ勉バーサーカーと呼ばれていたが、十一歳の誕生日を迎える頃にはその性格も落ち着いていた。
自然のなかで身体を動かすだけではなくて、灯花とねむは好奇心も強かった。
前世で天文学と小説に向けられていた灯花とねむの知識欲は、村の同年代の子供達と同じように、魔法や、モンスターや、冒険者などといった事柄に注がれた。
灯花はその中でも特にダンジョンに強い興味を持つようになっていた。
世界最大のダンジョン『地下大迷宮カミハマ』。
この世界には、六大地下大迷宮と呼ばれるダンジョンがあり、カミハマもその一つだった。残りの五つの大迷宮は『タカラザキ』『ユコク』『フタツギ』『カザミノ』『ミタキハラ』と呼ばれている。
迷宮からは生活用品として使えるものから、原理不明の不思議アイテムまで、いろいろなお宝を得ることができた。
ねむの掛けている眼鏡もその一つである。
地下大迷宮はすべて、黒き世界樹と呼ばれる窓も入り口もない塔の下に広がっていた。
六大地下大迷宮に入るためには冒険者となって星三以上のランクに昇格しなくてはならない。
ういと灯花とねむは、冒険者として活躍するやちよ達の背中を見ながら、いつか自分達も冒険者になって一緒に地下迷宮に行きたいと、土の上に架空のダンジョンを描きながら語り合った。