マギア転生    作:川崎三文

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酒とギルドとエルフと太助③

 灯花は受付の前からギルドを一望した。

 ガラの悪そうな男達にまじって、見たことのある顔がある。いや、見たことがあるどころではない。灯花の視線は、とある冒険者パーティーに釘付けになった。

 窓際のテーブルを囲んで四人組のパーティーが食事を取っている。

 眼鏡の男が一人と、女が二人。灯花と同じくらいの年齢の子供が一人。その子はギルドの中なのにフードを被って顔を隠していた。

 灯花は小さく呻き声を漏らした。

 血縁者がいるにゃー・・・・・・。

 

「あのパーティーが気になるのですか?」

 不安げな灯花の顔を覗き込んだみふゆは、任せて下さいと自信ありげに胸を叩いた。

 

 ****

 

「・・・・・・・・・・・・」

「どうしたのですか那由他様」赤髪を三つ編みで束ねた少女が言った。

 那由他と呼ばれた灰色の髪の少女はスプーンの手を止めて、不機嫌そうな顔で受付にいる灯花を凝視している。

「あの子達を知っているのかい?」眼鏡を掛けた男が言った。

「いえ、初めて見るはずですの。でも、あの『男くさい』と叫んだ子の生意気そうな顔を見ると無性にイライラしてきますの」

「同感です、那由他様。どうしてでしょうか」

「パパは男くさくないですの」

「別に教授に向っていったわけではないのでしょうが・・・・・・教授に向って言われた気がしますね」

「え?」教授と呼ばれた傷ついたように眉をひそめた。

 

 灯花と那由他は前世で従兄同士だった。那由他は灯花から父親のことを清潔感が無いだの、近づくときは息をとめていただのと侮辱されたことがある。灯花としては悪気はなく、学者として本を出版するなら、身なりを整えて人前に出た方が印象が良くなり売り上げも伸びる、というアドバイスをしたつもりだったのだが、ファザコン気味の那由他には我慢できるものではなかった。

 転生して記憶を失った今でも、その時の強い不快感と怒りは魂に刻み込まれたままだった。

 

「あ、ミィ達の方に来るよ」フードを被った女の子が言った。

「ラビさん、みかげさん、もしあの子に私がビンタしそうになったら止めて欲しいんですの」

「申し訳ありません那由他様、状況によっては止められないかもしれません」

「二人とも、暴力はだめだよ」男は困り笑顔を浮かべた。

 

 ****

 

「皆さ~ん、飲んでますか~? ひっく」

 那由他達のテーブルの前で、みふゆがバッと腕を広げた。那由他とラビは露骨に嫌な顔を見せた。

「私達は食事を取っているだけですの」

「昼間っからベロベロになるまで飲むのは控えた方がよろしいかと」ラビが言った。

「あら、ワタシは酔ってませんよ? まだほろ酔いです」

「酔ってるじゃありませんか」

「おっと」

「わっ、危ない!」ミィが言った。

 広げた腕を下げただけなのに、みふゆはフラリとバランスを崩した。目の前に座っていた那由他が倒れかけたみふゆを慌てて支える。

「もうっ、完全にできあがってますの。それで、私達に何か御用ですの?」

 みふゆはそのままドスンと那由他の膝の上に座った。

「ちょ、重いですの!」

「みなさんに新人冒険者を紹介しに来ました」

「ういです」

「ミィだよ!」

「よろしくね、ミィちゃん!」

 ういとミィはきゃっきゃと手を取り合った。

「ねむです」

「ラビと申します」

「ちょっと! このまま続けないで欲しいですの!」

「すみません、立っているのが辛くて・・・・・・」

「飲み過ぎですの!」

「わたくしは灯花だよ。叔父さまは、もしかして民俗学者か考古学者?」

 灯花は眼鏡の男を見て言った。

「良く分かったね」

「フィールドワークの作業着にー、伸ばし放題の髪。清潔感は皆無なのにテーブルマナーは完璧だし、表情や佇まいは知的だったから、なんとなくねー」

「ラビさん! ビンタ! ビンタですの! 前半さらっとディスりましたの!」

 那由他はみふゆのお腹をベチベチと叩きながら言った。

「ワタシのボディを叩くはやめてください!」

「あなたがどかないのがいけないんですの!」

「・・・・・・鉄拳制裁・・・」ラビが拳に息を吹きかける。

「ラビ、殴るのはやり過ぎだよ。私は気にしてないから大丈夫」

 ラビはスッと拳を下げた。無表情に見えるが、握った拳はほどかれておらず、太股の横でプルプルと震えている。

「私は太助。遺跡を中心にこの世界の歴史や古代人について研究しているんだ」

「わぁ、そうだったんですね。初めまして、ワタシは梓みふゆと申します」

「よろしく、みふゆさん」

「みふゆさん、太助さん達と知り合いじゃなかったの⁉」ういは驚いた。

 

 古代人というのは六つの地下大迷宮をはじめ、この世界に数々の謎めいた遺産を残した種族のことである。歴史書には、魔獣王ティロフィナーレによって滅ぼされてしまったと記述されており、十種族が生まれる遥か以前よりこの世界で生活していたとする説もあった。

 

 太助は自分たちとその活動ついて語った。

 太助と那由他は古代人の残した遺跡を研究するために、二人であちこち旅をして回っていた。

 とある人物からの依頼で、地下大迷宮カミハマについて調査するために、昨日、出身地のリマセラまで帰ってきたばかりだった。

 

 ラビは『湯ノ国』と呼ばれる国の出身で、両親と共に『大地のゆりかご』と呼ばれる宿を経営していた。  

 地元で、やたらと強い宿屋の娘として有名だったラビは、ある日、宿に理不尽な注文ばかりをつけてくる貴族が宿泊したとき、我慢できなくなりその貴族に軽くブーメランをお見舞いした。

 騒ぎの収拾がつかなくなったところに、たまたま宿泊していた太助があらわれ、トラブルを解決してもらい、そのお礼に護衛として太助の旅に付き合っていた。

 

 ミィの正体は魔族で、色々な町で人間の友達を作るという目的の元、太助の旅に同行している。

 しかし、その目的に反して、堂々と魔族であることを明かして旅をするわけにはいかなかった。

 魔族に対して良くない感情を抱いている者は多い。そういう人達の多そうな場所では、正体を隠すためにフードを目深に被って、小さな角と、エルフほどでないが尖った耳が人目に付かないようにして過ごしていた。ういとは友達になれると判断して正体を明かしたらしい。

 

 フードで顔を隠すこと自体は珍しいことではない。魔族でなくとも、エルフや獣人の中には他種族の国で、自種族の身体的特徴を晒して目立ちたくないと考える者は多いし、戦いで顔に大きな傷を負っている者もいる。

 

 話を一通り聞いた後、灯花は太助に「兄はいるか」と聞いた。太助はいないと答えた。その答えを聞いた瞬間の灯花の横顔は、いつもの、感情を元気に爆発させて涙を流す灯花とは違い、生命力そのものが蝋燭の火のようにフッと消えてしまったかのような儚さをたたえていた。

 

 灯花は自分が地下大迷宮カミハマに興味を持っていることを太助に話し、有益な情報を得たら共有しようと約束して、ういとねむと共に、千鳥足のみふゆを支えながらその場を去った。

 

 灯花達が掲示板の前の十人掛けの長テーブルに腰掛けたのを確認すると、那由他は小声で話し始めた。

 

「どうして兄が居ると答えませんでしたの?」

「私達は身分を隠して旅をしているからね。兄は居るが名前や職業は教えられないなんて答えたら、あの子は間違いなく怪しんで詮索してくるだろう」

「那由他様だけではありません。探りを入れられて、みかげさんの身分までバレて、万一危険な目に合せてしまっては、人間と魔族、国同士の争いにまで発展しかねません」

「隠し事しないで、みんなが仲良くできる日がくるといいな」

「そうですね」ラビは頷いて、ミィの頭をよしよしとなでた。

 

 

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