マギア転生    作:川崎三文

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次の章でボス戦です。


酒とギルドとエルフと太助④

 長テーブルに腰掛けたみふゆは両手を伸ばして「ふぃー」と息を吐いた。

 

「だいぶ酔いが覚めてきました」

「ホントかにゃー」

「次は彼女たちを紹介しましょう」

 

 みふゆは隣に座っている三人組みの冒険者に手の平を向けた。

 三人ともミィと同じくフードで顔を隠しており、ドリンクを飲んでくつろいでる。

 灯花は「たまたま隣に座っていただけだろう」と思った。その証拠に、テンションの高いみふゆに対して、三人はノーリアクションだ。面倒な酔っ払いに絡まれたと思っているのかもしれない。

 灯花は「せめて顔を晒している相手に絡んでほしいなー」とため息を付いた。

 まだ一言も会話していないのに、灯花の胸に申し訳なさが広がった。

 

「今度はちゃんと知り合いの冒険者なのー?」

「あの、よろしければお顔を拝見させてもらってもよろしいでしょうか。ひっく」

 みふゆはフードの三人組みに向って言った。

「知り合いじゃないみたいだね」ねむが言った。

「すみません、酔ってるだけなんで、気にしないでください」

 ういはぺこりと頭を下げた。

「ういが誤ることないよ」

「その通り、部下の失態は上司の責任だ。みふゆに変わって誤るよ。不愉快な思いをさせて申し訳ない」

「・・・・・・注目されるのが好きじゃないだけだ。ここは人族ばかりだからな」

 

 そう言って、一番背丈の小さい子がフードを取った。鮮やかな緑色のボブがさらりとなびいた。すらりと長い耳とは対照的に、顔の輪郭は丸く、ほっぺたがぷるんと震えた。

 

「ドワーフだー!」灯花が驚きの声を上げた。

「実在したんだね」ねむが言った。

「エルフだよ」

 子供相手だから感情を抑えたのか、丸顔のエルフは唇を噛み締めながら言った。

「アタシはエルフ族の化学部部長、都ひなのだ」

「化学部があるの!? エルフの里に!?」ういは目を丸くした。

「なんだかイメージしてたエルフと違うねー」

「エルフ族も一枚岩じゃないからな。皆が皆、自然だけを愛して生きているわけじゃないさ。人族だって同じだろ?」

「灯花は外見的な意味でイメージと違うと発言したんじゃないかな?」

「うん」

「おおん?」ひなのが灯花を睨んだ。

「あなたも冒険者なの?」灯花が訊ねた。

「そうだが?」

「ランクは?」

「星三だ」

「ふーん・・・・・・こんなに小さな子でも星三になれるんだ。安心したよ。これならわたくし達だって星二に昇格できるはずだよね」

「おい! 誰がチビだ! アタシはこう見えても大人のレディだぞ! お前達だってチビじゃないか」

「148cm」

「・・・・・・突然何だ?」

「わたくしの身長だよ。148cm」

「僕は149cm」

「あなたは?」

「・・・・・・クッ、145cmだ」

「はい、わたくし達の勝ち」

「くうぅぅっ!」

「わたしは・・・・・・143cmかな」

 ういが悲しそうに言った。ひなのは目を爛々と輝かせた。

「よし! 首の皮一枚繫がった! 残念だがこのテーブルで一番身長が低いのはお前だ! アタシじゃないぞ!」

「負けちゃった・・・・・・」

「大人のレディが子供を虐めて、大人げないと思わないのかい?」

「お前達が売ってきた喧嘩だろ、冒険者の世界は非情なんだよ」

「ひなのさん、冗談はそれくらいにして」

「この子達にも訊ねてみようよ」

「ん、そうだな」

 

 ひなのと一緒に座っている二人のエルフが口を開いた。フードを取ったのはひなのだけで、二人はフードを外そうとはしなかった。しかし、灯花はその姿に見覚えがあった。一人はフードから細く束ねられた長い金髪を垂らしていた。もう一人は特徴的なピンク色の髪をしている。

 元白羽根の観鳥令と、黒羽根の牧野郁美だ。

 二人は前世で、プロミストブラッドとの戦いの中で命を落とした。

 

 灯花は疑問を感じた。ヒコと太助はともかく、これまで出会った魔法少女は、みんな鏡の魔女に殺された魔法少女ばかりだった。なので、路地裏ではじめて見た瀬奈と帆奈も、自分たちが知らないだけで、時女一族かプロミストブラットの構成メンバーの誰かだろうと考えていた。

 しかし、この二人は違う。

 牧野郁美は株分けの鏡の魔女と戦って命を落としたので、鏡の魔女に殺されたと言えなくもないが、観鳥令はプロミストブラッドの笠音アオにソウルジェムを砕かれて死んだのだ。

 死の原因、死んだ日時に関係無く、命を落とした魔法少女は全員、問答無用でこの世界に転生しているのだろうか。

 太助やヒコの件も含めると、魔法少女と深く関わった人間も転生しているのかもしれない。

 

「アタシ達の里は変わり者のエルフが多くてな。って、聞いてるか?」

「え、うん。もちろん聞いてるよ」

 灯花は現実に引き戻された。

「上の空になっているように見えたかな。内容は頭に入っているから、気にせず話を続けて欲しい」

 ねむも同じことを考えていたようだ。

 

「そうか・・・・・・じゃあ続けるぞ。里の仲間が姿をくらましたんだ。そいつも変わり者のエルフだったが、悪い奴じゃなかった。古代人の遺物を触れるほど機械に強いエルフでな」

「わたし達、ここに来る途中、路地裏で青髪のエルフを見たよ」

「青髪? そりゃ多分ミラだな。アイツは違う。愛想はいいんだが、どこか腹の内が読めない奴だったな」

「失踪したエルフの名前は?」

「桜子だ」

「「「!?」」」

「桜色がかった白い髪で、ハキハキと喋る割に表情に乏しい。浮世離れした雰囲気だから、話せばすぐに分かると思う。アタシ達は桜子を探してこの町まで来たんだ。それらしい情報をつかんだら教えて欲しい」

「うん、絶対に報告する」灯花は言った。

「約束するよ」ねむは言った。

「わたし達にも協力できることがあったら言ってね!」

「おお、感謝するぞ」

 ひなのは一呼吸置いて話を続けた。

「失踪した日、桜子の部屋には『探さなくても大丈夫』という置き手紙だけがあった。もう少し詳しく理由を書いてくれれば、アタシ達も心配しなくて済むんだが」

「・・・・・・何とも、桜子らしいね」

「あいつのことだ。古代人の遺跡が目的だろう。リマセラは『地下大迷宮カミハマ』に近いからな。桜子なら盗賊やモンスターに殺されたりするようなことも無いだろうし」

「どうしてそう思うの?」

「桜子は戦闘能力が高いんだよ。尋常じゃないくらいな」

 そう言って、ひなのは立ち上がった。令と郁美も腰を上げる。

 

「とにかく、何かあったら教えくれ。アタシ達はもう行くよ。町で聞き込みの続きだ。お前達もそいつを部屋まで運んでやれ。じゃあな」

「そいつ?」

「すぅー・・・すぅー・・・」

 ひなのが示した先を見ると、みふゆが穏やかな寝息を立てていた。

 三人のエルフはギルドの入り口に向った。

「みふゆさん・・・・・・」

「寝てる・・・・・・」

「道理で、さっきから静かだと思ったよ」

「みふゆー! 起きろー!」

「んんんっ!? ちょっ、灯花、耳元で叫ばないで下さい。あれ、フードの方々は?」

「もう行っちゃったよ」

「そうですか・・・・・・では、次の」

「それはもういいよ」ねむが言った。

「もうっ、みふゆに知り合いの冒険者なんているのー?」

「失礼な。知り合いくらいいますよ。だた・・・・・・」

「ただ?」

「ワタシは基本、ソロで活動してるんです。パーティーを組んでいた時期もあったのですが、二日酔いのせいで待ち合わせに遅刻ばかりして、気付いたら誰からもパーティーを組んでもらえなくなっていました」

「お酒、やめたら?」

「でも寂しくはないですよ。幻覚の魔法で人数を増やして戦ってますから」

「お気の毒に」ねむが言った。

「でも、みふゆさんの知り合いには会えなかったけど、顔なじみのある魔法少女にたくさん会えたね!」

 暗い雰囲気を払うようにういが言った。

「そうだね。変な回り道をせずに、最初からギルドに来ればよかったにゃー」

「ユニオンに居た頃を思い出すよ。少しだけだけ落ち着くかも」ねむが言った。

「くさいけどね」

「聞こえてんぞ!」

 灯花の後ろにいた男が怒鳴った。

「匂うんだからしょうがないでしょー」

「灯花、その思いを口に出す時は語尾にハートと付けるといいよ」

「くっさ♡」 

 灯花は男に不敵な笑みを見せつけた。

「・・・・・・・・・・・・でかい声だして悪かったな・・・」

 男は弱々しく肩をすぼめて前屈みになった。

「うそ、大人しくなっちゃった」灯花は驚いた。

「ねむちゃん凄い!」

「むふっ」

 よしっ、と言って灯花は立ち上がった。

「それじゃー、わたくし達も今日は帰ろうか」

「そんな、ワタシを置いて帰るんですか⁉」

「だって、いろんな人に会って疲れちゃったんだもん」

「帰るって、村まで戻るつもりかい?」

「そっか、お金が無いから宿には泊まれないんだったねー」

「一度町を出て、野宿できる場所を探さなきゃ」

「でしたら、ワタシの家に泊まりませんか?」

「いいの⁉」

「もちろんです。その代わり、なにか夕飯を作って下さい。材料費はワタシが出しますから。お鍋なんていいですね」

「・・・・・・・・・・・・まぁ、それくらいなら」灯花が言った。

「みふゆは人として、それでいいのかい?」

「なにか問題でも?」

「愚問だったようだね」

「じゃあ、早速材料を買いに行こう!」ういが言った。

 

 灯花たちが席を立った瞬間、ギルドの入り口で盛大な歓声が上がった。

 

「みんな急に興奮しちゃってどうしたのー? お猿さんみたい」

「リマセラのナンバーワン冒険者がクエストを終えて帰ってきたみたいですね」

「みふゆでさえ星四なのに、一体誰が・・・・・・?」ねむが言った。

「ワタシだって、アルコールが無ければとっくに星五になってます」

「なんでもかんでもお酒のせいにすると成長できないよー、みふゆ」

「星五冒険者かぁ、ご挨拶しといた方がいいのかな?」

 ういは入り口にできた人垣を眺めた。

 人垣の中から身に覚えのある魔力反応を感じた。

 

 

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