ギルド内の空気が一変した。歓声が歓声を呼び、一瞬で人山ができる。男達は拳を突き上げ、ギルドの入り口に現れた人物を口々に褒め称えはじめた。まるで英雄の凱旋だった。
「すげぇ、一日でワイバーンを五匹も狩っちまうなんて!」
「もう剣聖よりもあんたらの方が強いんじゃねーのか」
灯花達も人垣に駆け寄る。しかし、みふゆはその場を動かない。
「一悶着ありそうですね」みふゆの勘がそう言った。飲んだくれの目が鋭く光る。
「後もう一本くらいなら・・・・・・」
みふゆは喧騒に背を向けると、酒場のカウンターに腰掛け、新しいボトルに手を伸ばした。
「お前らも冒険者になるなら目に焼き付けておきな」
「言われなくてもそうするよ」灯花が言った。
筋骨隆々の男が入り口に立つ二人組を指差して言った。
「あの二人がリマセラのギルドのエース――」
灯花達の瞳に、その冒険者の姿が映る。
「星五冒険者の天音姉妹だ!!!!」男が自信と誇りに満ちた声で言い放つ。
「皆さん、褒めすぎでございます」
「ウチら、また何かやっちゃったかな?」
「ねー」
灯花とねむは言葉を失った。
「みふゆさん、追い抜かれちゃったんだ」ういがポツリと呟いた。
天音月夜と天音月咲。
前世ではマギウスの白羽根として、灯花とねむの手足となって動いていた双子の魔法少女。
飲んだくれ冒険者となる前のみふゆの部下でもあった二人。
そして今は、転生後の異世界生活を最も楽しんでいる者達。
まさに人生の絶頂期。
超、ドヤ顔で町を闊歩し、クエストをこなせば歓声を浴び、口癖は『ウチらまた何かやっちゃいました?』
天音姉妹は知らない。
アプリでも、アニメでも、持てるカリスマ性と強キャラ感の全てを初登場時に全力で出し切る存在であったことを。
初期に最も強い輝き放つ運命を背負わされていることを。
天音姉妹はこの異世界の地に、三度目の輝きを纏い現れた。
今彼女達の魂は、魔女化ならぬ、ポンコツ化の宿命を打ち破ろうとしている。
天音姉妹は知る由もない。
目の前にラスボスがいることを。
灯花、うい、ねむの病院組が、自分たちの異世界生活におけるラスボスであることを。
この三人の少女を乗り越えることが、初期の輝きを永遠のものにする唯一の道であることを。
もちろん、うい達も、そんな宿命知ったこっちゃない。
「灯花、道は開かれた」
「うん、これなら文句なしで星二冒険者になれるね」
灯花とねむの瞳に、マギウスだった頃のようなほの暗い光が宿る。
冷徹な視線が天音姉妹を見据え、二人の背後から黒いオーラが立ち上る。
しかし・・・。
「凄い凄い!」
ういは他の冒険者と一緒に、笑顔と拍手で天音姉妹を讃えた。
「凄くない!」
「灯花、落ち着いて」
灯花とねむの瞳から陰りが消えた。
「ぴーひょろ姉妹が星五の冒険者になれるなら、わたくし達だってなれるもん!」
「おや、元気のいいお子様でございますね」
「星五の意味が分かってないみたいだよ」
天音姉妹が灯花達に気付いた。
「わかってるよ! わたくし達のお姉さまだって星五なんだから!」
「はて、どなたのことでしょう? リマセラの星五冒険者はわたくしと月咲ちゃんだけでございます」
「そもそも、ここは子供の来るところじゃないよ。冒険者は君達みたいなお子ちゃまに務まるほど甘い職業じゃないからね」
「そんなの、やってみなくちゃ分からないでしょー!」
「僕達の能力を否定するなら、働きぶりを見てからにして欲しい」
「プッ、ふふっ・・・・・・」
「何が可笑しいの」灯花が言った。
「冒険者とは、いついかなる時も冷静でなくてはなりません。星五冒険者になりたいのなら、まずは感情をコントロールできる大人の女性になるのでございます」
「ねー」
「・・・・・・もういい!」
灯花はムスッとした表情のまま、受付の方に身体を向けた。
「ヨヅルー!」
「はい、何か誤用ですか?」
「天音姉妹と勝負して勝てたら、わたくし達を星二に昇格させてよ」
「申し訳ありませんが、私の一存では何とも言えません。ですが、私個人の意見としては、星五冒険者に対する勝利は、昇格を考慮する材料に値すると思います」
「うん、それだけ聞ければ十分だよ」
灯花はくるりと天音姉妹の方に向き直った。
「お願い、わたくし達と勝負して。ワイバーン討伐で疲れてるなら今日じゃなくてもいいから」
「・・・・・・どこからそれだけの自信が湧いてくるのでございますか?」
「ヨヅルさん、この子達何なの? 鬼のようにウチらに絡んでくる」
「灯花様、ねむ様、うい様です。三人とも、先程冒険者ギルドに見習い冒険者として登録を済ませたところです」
「・・・・・・先程?」
「うっそ!」
「生意気を通り越して、頭のネジが外れてるでございますね」
「灯花ちゃん、ねむちゃん、よそうよ。二人は星五冒険者なんだよ」
「ふふふ、それが懸命な判断でございます」
「良かった、この子はまともみたいだよ」
「きっとこの世界で頑張って、たくさん努力したんだよ。だからギルドの人気者になれたんだよ」
「そう、星五になるまでは血の滲むような日々があったでございます」
「努力と元気と月夜ちゃんは絶対に裏切らない」
「努力と我慢と月咲ちゃんは絶対に裏切らない」
「それを胸に、今日まで頑張って来たのでございます」
「星一の癖にウチらに挑むなんて百年早いよ」
「ごめんなさい。灯花ちゃんもねむちゃんも、悪気があったわけじゃないんです」
ういは軽く頭を下げると、灯花とねむの袖を引っ張った。
「灯花ちゃん、ねむちゃん、ちょっとこっちに」
「うい・・・・・・」ねむが言った。
ういは二人を連れてギルドの隅に移動した。そして一呼吸置くと、囁くような声で言った。
「みんなの前であの二人を虐めちゃ可哀相だよ」
「プーーッ」灯花が吹いた。
「「・・・・・・・・・・・・はぁアアアアアっ!!!?」」
音を操る天音姉妹にはういの声がバッチリ聞こえていた。
「そこまで言われては子供といえど引けないでございます」
「ちょっとだけウチらが遊んであげるよ」
「おいおい、あのガキ共、殺されるぞ。何を喋った?」
「バカ、月夜さんと月咲さんが子供相手にマジになるはずないだろ」
「くふっ」
「むふっ」
灯花とねむが悪い笑みを浮かべた。
「戦うのですか?」ヨヅルが訊ねた。
「「「もちろん!」」」灯花とねむと月咲が同時に応じ、「で、ございます」と最後に月夜の語尾が響いた。
「もしかして、わたしのせいなのかな・・・・・・」ういは困惑の色を滲ませて言った。
「分かりました。それでは裏の修練場へ。私が立会人を務めさせていただきます」