それからしばらくすると、リヴィアがギルドに帰ってきた。
「くっそー、そんに凄ぇ戦いだったなら、オレも見とけば良かったぜ」
悔しそうな声を上げる冒険者の声がリヴィアの耳に入った。
ギルドの中は、天音姉妹と灯花達の戦いの話題で持ちきりだった。
「なんや、えらい盛りあがっとるな」
「ギルド長が先ほど出会った子供たちと天音姉妹が模擬戦を行いまして」ヨヅルが言った。
「それでかいな。天音姉妹も優しいなぁ。ま、ええこっちゃ。あの子らにとってもええ経験になったやろ」
「天音姉妹が敗北しました」
「勝ったんか!? なんやあの子ら、有りえへん。相手は星五の天音姉妹やで!!」
「リヴィアさん、丁度いいところに」
「お話があるでございます」
「ちょっとだけいいかな。大したことじゃないから」
みふゆと天音姉妹が満面の笑みを浮かべてリヴィアを囲む。
「な、なんや三人揃って。気味悪いで自分ら」
みふゆと天音姉妹によるリヴィアの説得がはじまった。会話の一部が、カウンターでサンドイッチを食べている灯花達の耳にも聞こえてくる。
「ウチらが認めるよ。どうかこの三人を星二冒険者に――」
「それはもう壮絶な戦いっぷりでした。まさに一騎当千。息の合った連携で嵐のような――」
みふゆは一秒も試合を見てないのに、酒場の誰よりも雄弁に両者の戦いについて語った。
「いくら強い言うてもまだ十一歳や。あの子らに何かあったら、誰が責任取るんや?」
「やっぱりすんなりとは認めてくれないみたいだねー」
灯花がカウンターに頬杖を付きながらつまらなそうに言った。
三人の議論は難航している。そこへ、一人の女性が近づいてきた。
「私も推薦します。彼女たちの実力は私が保証しましょう。どうかその子達に才能を伸ばす機会を」
振り返ったリヴィアは目を見張った。
「あんたは!」
リヴィアに続いてギルドの男達が一斉に叫ぶ。
「「「剣聖!!!!」」」
よく調教されてるなーと、灯花は思った。
剣聖と呼ばれた少女は、灯花達の座るカウンターの方へ近づいていった。
白いマントを纏った、素朴で、ものごしの柔らかそうな少女だった。身長もねむとさほど変わらない。
「あなたがこの国の剣聖なの?」灯花が訊ねた。
「はじめまして、タルトです」
タルトは小さく微笑んだ。
ういは頭の隅に何かが引っ掛かったような表情を浮かべて、首を傾けた。
灯花とねむは名を名乗り、慌ててういも挨拶する。
「先ほどは素晴らしい戦いぶりでした」
タルトは一呼吸置いて、カウンターの奥に向って叫んだ。
「マスター、子供達にオラン○ーナを」
(((異世界なのにオラン○ーナがあるの!!!?)))
胸の中で叫ぶ灯花達の前に、木のコップに注がれたシュワシュワのオレンジジュースが出てきた。
三人はタルトにお礼を言ってからジュースに口を付ける。
懐かしい味がした。確かに本物だ。頬が緩み、年頃の子供らしい笑みがこぼれた。
タルトはその姿を嬉しそうに眺めている。
「すげぇ、剣聖がオランジーナを奢ったってことは、あの子達は剣聖に認められたってことだぜ」
冒険者達が勝手に作ったデタラメである。
「いずれは『台覧試合』に出るほどの冒険者に成長するのかもしれねぇな」
タルトはリヴィアに口添えすると「御旗のもとに」と口ずさみながら酒場を後にした。リヴィア達の話し合いも、この場ではお開きとなった。
灯花達は約束通りみふゆの家に泊まった。頭からエールをかけたお詫びを兼ねて夕食はみふゆが作った。
鳥の丸焼きと、兎の丸焼きと、蛇の丸焼きと、野菜の丸焼きと、パンの丸焼きだった。
みふゆの凄まじい女子力の前では、異世界メシもクソもないなと、料理を前にした三人は思ったが、味はそこそこだった。
翌日、審議の結果をリヴィアが灯花達に伝えた。
条件付きでクエストをいくつかこなしてもらい、その結果次第で十一歳でも特例として星二に昇格させる、ということになった。
条件は、クエストに星四もしくは星五の冒険者が保護責任者として同行すること。同行した冒険者は危険だと判断した時以外、クエストに手出しはしない。もちろん、依頼を達成すれば灯花達は報酬がもらえる。
ギルドの出した結論を聞いた灯花とねむは腹の中で悪い笑みを浮かべた。杜撰ずさんだ。今回の件の一番の報酬は、冒険者ギルドの運営がいい加減だと分かったことかもしれない、と二人は思った。
「おめでとうございます! まだ仮ですが、あなた達は星二冒険者としてギルドに登録されました」
ギルドの受付の前でみふゆが言った。
「さらに朗報です。今回は天音姉妹とギルド長自らが協議して、皆さんのパーティー名と二つ名まで考えてくれました」
「パーティー名? 二つ名?」灯花が訝しげな顔で言った。
天音姉妹のネーミングセンスの無さは、ホテルフェントホープの名前を決める会議で露呈されている。
「パーティー名は『嵐を呼ぶ野生児』二つ名は『一号、二号、三号』です」
「待ってほしい」ねむが言った。
「ういさんが一号、灯花が二号、ねむが三号ですね」みふゆは構わず続ける。
「その会議に当人である僕達が呼ばれないのは理不尽だ。変更を要求するよ」ねむが言った。
「確定事項です。受入れられないなら星二の件を取り消すと、ギルド長が」
「わたしはもうちょっと可愛いい名前の方が良かったかな・・・・・・」
「わたくしも可愛くて短いのがいい」
「僕は知的な名前を所望するよ」
「前世でワルプルギスの夜を呼んだお二人には相応しい名前だと思いますよ」
「ただの嫌がらせじゃないか」ねむが言った。
さらに次の日の朝、みふゆは馬を飛ばしてマチビト村に向った。灯花達が冒険者になった報告を兼ねて、やちよに会うためだ。
リマセラを離れている間、みふゆは灯花達に家を貸した。
前世で、みふゆのために部屋を用意してくれた灯花に対するお礼も兼ねての提案だった。
灯花達はしばらくみふゆの家を活動拠点にしようと決めた。
その夜、マチビト村のやちよの家ではささやかな宴会が開かれた。
みふゆとやちよは、魔法少女になりたての頃からの付き合いだ、積もる話もあるだろうと、いろはは早めに酒席を抜けて床に就いた。
「夢みたいです。こうしてやっちゃんとお酒を飲める日がくるなんて思いませんでした」
みふゆからその言葉をかけられた時、やちよは嬉しさのあまり言葉に詰まった。
目頭が熱くなる。これまでの思い出が走馬灯のように蘇った。
やちよもみふゆも、お互いの前では大人っぽく振る舞おうと考えていたが、今にも溢れ出しそうになる感情を抑え、涙を湛えるその表情は、幼く情けない十二歳の頃の二人に戻っていた。
震える手に握ったジョッキを口に運ぶまで時間が掛かった。
やちよもみふゆも、このまま朝まで動けないのではないか、と思った。
ようやく、二人きりになってからの最初の一口を飲み干すと、交す言葉が増え、酒盛りは笑いと少しの涙を交えて盛り上がり、空が白みはじめても終らなかった。
むしろ二人のテンションは日の出と共に上がっていった。
数時間後、いろはが目を覚ましリビングに行くと、みふゆに続き、飲んだくれ冒険者やちよが誕生していた。
「いろは、ここからはあなたも宴に参加するのよ」
そこからはいろはも宴に加わった。
「いいですか、いろはさん。二十四時間以上アルコールを摂取するためには、まず十二時間以上休まずアルコールを摂取して肝臓を温めなくてはいけません」
朝からの飲むことに戸惑ういろはに、みふゆのありがたいアドバイスが響いた。
昼頃になると、出来上がった三人はお隣さんの家に押しかけた。
ちかと旭のジビエ料理を肴にして、五人の宴は貫徹して、翌朝の早朝まで飲んで飲んで飲み続けた。まるで子供から解放された親のようだった。
この間、やちよとみふゆは一睡もしていない。
「魔法少女でなければ死んでいたわ」
約三六時間、ぶっ通して飲みつつけたやちよは、後日その時のことをこう語った。