※前回、五話まで読んで下さった方、部分的にでも目を通して下さった方、本当にありがとうございます。
これ以上無いほど貧しい内容ですが、物語的な発展は前回の『病院組が冒険者になった』で終了です。
シリーズは閉じずに、このままにしておいてクエストなり日常なりを、思いついた時にポツポツ載せようかと考えています。世界を救うために魔王と戦ったりなど、大きな目的のある物語には発展しませんので、前回で『お終い』と捕らえていただいて問題ありません。
ダンジョン攻略(?)的なクエストは次回になります(地下大迷宮ではありません)。
とりあえずそこまでは完成させて載せようかと思いますが、それ以降は未定です。
「ワ、ワ、ワ、ワ、ワ」
ワカメ怪人は一人で墓地を彷徨っていた。
ボサボサのまま伸ばし放題の緑の髪、死装束を思わせる白い衣装と漂白されたかのような白い肌が、夜闇の中でぼんやりと発光している。
「ワタシはワカメ、ワカメじゃ・・・・・・ナイ」
何のために生み出されたのか分からない。誰に生み出されたのかも分からない。
自分の名前も思い出せない。分かっているのは、一部の冒険者達から伝説のアンデットモンスター、リッチだと勘違いされギルドから討伐依頼が出されていること。
「リッチだのワカメカイジンだの、スキカッテなナマエヲツケテ、ワタシガいったイ、ナニヲしタ」
夜の墓地で「SANA~!SA~NA~!」と叫びながら顔から怪光線を出していたのがいけなかったのだろうか。
『墓地の最果て』と呼ばれる異空間に冒険者を引きずりこんでドヤ顔でチェスの勝負を挑んだのがいけなかったのだろうか。
ある日、三人の冒険者がパーティーを組んで、ワカメ怪人の討伐にやってきた。
その中には大盾を持った少女がいた。
「・・・・・・さな?」
「アイちゃん!!!!」
お互いを一目見た瞬間、二人は全てを思い出した。
さなは盾を捨て、両手を広げて駆けだした。
森を背景に抱き合うリッチと大盾少女。
冒険者達の前で、奇蹟が起きた。
さなに抱きしめられたワカメ怪人が、さなそっくりの美少女に姿を変えたのだ。
汚れた緑の髪はエメラルド色に艶めき、ゆるやかなウェーブの長髪に整えられた。リアルで夢の無い造形のだった目と鼻と唇は、さなのようなファンタジー世界のそれに変化した。
さなと一緒にパーティーを組んでいた冒険者達はわかりやすい馬鹿共だったので、モンスターが美少女になった瞬間「こいつは俺達の敵じゃねぇ」と言って剣を降ろした。
チャンスだと思ったアイは、冒険者達に嘘をついた。
「私はアリナと呼ばれる呪術師によって、ワカメ怪人の姿にされていたのです」
「アリナって、『アリナ・モニュメント』を作ってるダークエルフのアリナの事か!?」
咄嗟の嘘だが、リッチではないと納得してもらえたらしい。アリナに関しては、なにやら異世界でも人様の迷惑になるような行為をしているらしいが、深くは追求しなかった。
さなハグの奇蹟。
後にこの事件はそう名付けられ、しばらくの間、町ではさなに抱きしめられると美人になる、という噂まで流れた。
****
天音姉妹との決闘から四日後。
太陽の光で暖かくなった寝室で、三人の少女が川の字になって静かに寝息を立てていた。
みふゆのキングサイズのベッドの上で。
なぜ一人暮らしなのにこのサイズなのか、理由は誰も聞かなかった。
誰かがドアを叩く音がする。
ういは眠そうな目を擦りながら上半身を起こした。
灯花も目を覚ましたが、むにゃむにゃと口を動かすだけですぐに目を閉じ、布団から出ようとはしない。
ねむは音に反応せず、スースーと規則的な寝息を立てている。
「誰だろう、みふゆさんの知り合いかな」
ういはとぼとぼとした足取りで玄関に向った。
「私よ! みふゆから話は聞いたわ。居るなら開けてちょうだい」
「やちよさん?」
朝食はやちよが用意した。卵焼きに、ベーコンに、パンとサラダ。みかづき荘のいつもの朝食だ。
「来たのはやちよお姉さまだけ? みふゆは?」
「私の代わりに村での仕事をこなしてもらっているわ。高ランク冒険者の引率が必要なんでしょう? 今回の引率は私が担当するわね」
「心配性だなー、やちよお姉さまは」
「僕達はどんなクエストも成功させてみせるよ」
「そこは心配していないわ。問題は過程よ」
「大丈夫だよやちよさん。魔物を倒したり、誰かを護衛したりするだけだもん。灯花ちゃんもねむちゃんも、悪い事なんてしないよ」
「そうね、ういちゃんも一緒だものね」
やちよは微笑んで紅茶を一口飲んだ。
「少しキツい言い方になっちゃったけど、私の役目は万一のストッパーよ。やり過ぎになる前に私が止めてあげるから、あなた達はのびのびとクエストを楽しんでちょうだい」
「はーい」灯花が言った。
「やり過ぎってどんな時なんだろう」ういが言った。
「そうね、例えば『トリプルやちよ攻め』を一般の人に使っちゃうとか」
「自分で言って恥ずかしくないの?」灯花が言った。
「あなた達が付けた技名でしょ!」
灯花は小鳥のように笑った。
四人はのんびりと朝食を楽しんだ。
大通りはすでに行き交う人々の活気で満ちていた。
四人はやちよを先頭に、冒険者ギルドに足を向ける。
本人に自覚はないが、頼まれた訳でもないのに、やちよは自然と先頭に立ち歩き始めていた。
周りを警戒しながら、灯花達を守るような形で歩みを進めている。頼もしい。やちよの背を見て灯花は思った。
そんなやちよが、ギルドの前でふと足を止めた。紫色の屋根を見つめて眉根を寄せる。
「星二になったと言うことは、あなた達も洗礼を受けたのね」
「うん、やちよお姉さまが最低限の用事だけ済ませて長居しなかった理由が分かったよ。このギルドってば、ほんとクサすぎ」
「なら、いいことを教えてあげるわ」
やちよは赤い屋根の建物からギルドに入った。
受付には佐和月出里がいる。
和やかな雰囲気のギルドの中は、隣の酒場とは違い、子供からお年寄りまで幅広い年代の人々がいた。
まさに交流場、喫茶店を兼ねた屋内にある公園といった感じである。
やちよは真っ直ぐ受付に向い、月出里に何かを掛け合った。頷いた月出里は隣の酒場に向い、十枚ほどの依頼書の束を持って帰ってきた。
「月出里にあなた達は私の知り合いだと話しておいたから、頼めば星二以上の依頼書を隣から持ってきてくれるわ。受付が暇で、依頼書が少ない時だけだけどね」
やちよにお礼を言い、灯花達は丸テーブルを囲みワクワクしながら依頼書を広げた。
大半が採取の依頼か、モンスター討伐の依頼ばっかりだったが、数枚ほど違う依頼もあった。
ういが一枚の依頼書を覗き込んで目をパチパチさせた。
「見て、牧場のお手伝いだって!」
「違うようい、よく見て」
「牧道場のお手伝いになっているね」
ねむが依頼内容を読み上げる。
「月に一度の搾り時。町外れの牧道場にて、聖獣搾りの戦乙女ヴァルキリーになってみませんか。期間は三日間。報酬は7万チップ。クエスト日数は最大七日間まで延長可能。応募条件、星二以上の女性冒険者。だそうだよ」
「どうして牧場のおてつだいが星二以上の女性冒険者限定なんだろう」
「牧『道』場だよ、うい。恐らく、ういが想像しているような仕事内容じゃないだろうね」
「この依頼は・・・・・・」
「やちよさん、知ってるの」
「ええ、別の町の牧道場だけど、昔受けたことがあるの。そうね、そこそこ体力を使う仕事内容だってことは教えておいてあげるわ。後のことは自分達で判断しなさい」
「牧場みたいな場所ならフェリシアさんがいるんじゃないかな」ういが言った。
「ーーっ!? ・・・・・・その可能性は捨てきれないわね。受けてみたらどうかしら?」
「やちよさん・・・・・・」
「力や頭じゃどうにもならないクエストもある。それを知る良い機会だと思うわ」
「ふーん、面白そうだね」灯花が言った。
「そう言われると、挑戦してみたくなるよ」ねむが言った。
「じゃあ決まりだね」
「「「町外れの牧道場へ!!」」」
三人は明るく声を重ねた。
灯花達はこの決断から、多くの学びを得ることになる。
少女達が清潔なギルドで初めてのクエストに胸を膨らませている頃、お隣のクサいギルドにも、同じ依頼書を眺める二人組の冒険者がいた。
「帆奈ちゃん、動物が好きだったよね」
「ん、まーねー」
「牧道場、行ってみたくない?」
「あたしはもっと分かりやすい依頼の方がいいかな。何て言うかさー、この依頼面倒くさそう」
「えー、デートみたいで楽しそうじゃない?」
「瀬奈・・・・・・星二以上の冒険者限定って書いてあるし、それなりの危険が・・・・・・あれ、瀬奈?」
帆奈は瀬奈を探してあちこちに視線を向ける。
「すいませーん、この依頼受けます!」
お祭りの屋台で何かを注文ような瀬奈の声が聞こえた。帆奈が顔を向けると、受付でエルフの長耳をピコピコと動す瀬奈の姿が見えた。
(・・・・・・一度魔女化すると強引さが増すのかな)
帆奈は肩でため息をついて、口元に笑みを浮かべた。