マギア転生    作:川崎三文

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寝技とリッチと牧道の女達③

 

 外見の違いから差別や嫌悪の感情が生まれる。

 一方で、尊敬や憧れの感情もまた生まれる。

 ある種族が、別の種族の身体的特徴に憧れる。

 異種族同士が暮らす世界では珍しくもないことだ。

 エルフ族の長い耳に人族が憧れる。

 火竜族の力強い翼と尾に、妖精族が憧れる。

 魔族の角と、イカした牙に、ダークエルフが憧れる。

 妖精族の小さい身体と、燦めくガラス細工のような羽に、プライドの高い吸血鬼族が密かに憧れ、夜な夜な思いをポエムに綴る。

 努力では得られない、他種族の持つ美しさ。

 だからこそ焦がれ、時に心を狂わせる。

 

 つつじシスターズの牧道場にも、他種族の身体に憧れる者がいた。

 そのモカウサギは憧れていた。

 自分と違う小さな顔、エルフですら羨むすらりと伸びる白い手足、麗しい金色の長髪、身長百175㎝の遊佐葉月のスタイルに。

 

「遊佐葉月になるんだモカ」

 

 ある夜、そのモカウサギは遊佐葉月になるために牧道場の柵を叩き壊して、外の世界に旅立とうとした。    

 仲間のモカウサギ達は止めた。

「やめておきなさい、無茶よ」

「生物としてのベースが違うわ」

「『十種族』の名で括られている連中は、ベースが同じでその上のパーツがちょっと違うだけなのよ」

「相違点より共通点が多いから、差別や羨望が生まれるの!」

「ウサギがサルに憧れてどうするのよ」

 しかし、葉月に憧れるモカウサギも譲らなかった。

「モカウサギと遊佐葉月は別の生き物なんかじゃないモカ! 二つの目で世界をとらえ、二つの耳で言葉を聞いて、二本の足で歩くんだモカ! ただちょっと全身のあらゆる骨格の比率が違うだけモカ! 葉月には内臓があって、モカには無い、それだけの違いモカ! 家畜か牧道主かの違いだけモカ! モカと葉月は同じ牧道場に住む同じ生き物なんだモカ!」

「おこがましいわ」

「皆だって知ってるはずモカ! 外宇宙の魔法少女の真実を! 魔法少女が異形の魔女になれるなら、モカウサギだって遊佐葉月になれるはずモカ!」

 その言葉がどこからでたのか、モカウサギ本人にも分からなかった。

 しかし、妙な説得力があった。

「行かせてやりな。マルチバースの可能性は無限だ。モカウサギが魔女と戦い、ソウルジェムを濁らせ魔法少女になり希望を振りまく。そんな世界線だってあるかもしれない」したり顔のモカウサギが言った。

「・・・・・・お前、ナニ言ってるモカ? こいつ頭おかしいモカ」

 そう言い残して、モカウサギは旅立った。

 

 モカウサギは繁殖しない。モカウサギが命を落とすと、新しいモカウサギがひょっこりと地下大迷宮から現れる。故に生物学的なオスメスは無いが、精神的な性別は女性に近いと言われていた。

 

 モカウサギは牧場を出て街道にでると、あらかじめ用意していた『プリーズ・チェンジ・ミー』と書かれた紙を首から下げた。メッセージの横には、自作の遊佐葉月のイラストが添えられている。なかなかの画伯っぷりだ。化け物にしか見えない。

 

 準備は万端。

 後は『なんか凄そうな人』が見つけてくれるのを待つだけだった。

 同じ場所に立っていても疲れるので、モカウサギはリマセラへ向う街道をぷらぷらと歩き始めた。

 すると、フードを被った男に出会った。男が率いるパーティーの中には「キャハッ☆」と笑う女もいた。

 

「お前の願いを叶えてやる」

 

 フードの男は誠実そうな声でそう言った。モカウサギはその言葉を信じた。

 

 モカウサギはフードの男に連れられて地下迷宮に潜った。

 そして、卵のような形をした妙な装置のある場所へ連れて行かれた。

 その装置は、モカウサギを待っていたように、ステンドグラスのような表面を輝かせた。

 モカウサギも、その装置にどこか懐かしさを感じていた。

 モカウサギは自らその装置に入った。

 装置から出ると、モカウサギは子猫のゴロゴロになっていた。

 自作の遊佐葉月のイラストに、アクセントとして猫耳を生やしていたのがマズかったのかもしれない。

 手足は長くなり、顔も小さくなった。しかし、その全貌は、かろうじて猫がモチーフだと分かる不気味なぬいぐるみのクリーチャーである。

 だが、モカウサギはその姿に満足した。

 生まれ変わったモカウサギを見て、フードの男は歓喜した。

「古代人の残した遺産、『みたマシン』は稼働した。オーブの調整は成功だ」

 フードを被った男とその仲間達も、モカウサギの変化に満足しているようだった。

 フードの男は仲間達から「壮月」と呼ばれていた。

 

 「生まれ変わった姿を早くみんなに見てもらいたいモカ!」

 

 モカウサギは意気揚々と牧道場に向った。

 しかし、帰る途中、新種のモンスターだと勘違いされ、冒険者に追い回された。

 その途中で、自分のことを「ゴロゴロ」と呼ぶ大盾系美少女冒険者のさなと出会い、透明化の魔法で庇ってもらった。

 

 モカウサギはさなに「モカモカモカモカ」と必死に事情を伝えようとしたが、モカウサギのモカァ語は人族のさなには届かなかった。

 

 さなは冒険者の中に動物の言葉が分かる人物がいるという噂を思い出し、ギルドに相談すると、マチビト村のちかを紹介された。   

 さなはすぐに冒険者ギルドを通して、ちかにゴロゴロとの対話を依頼した。

 ゴロゴロはちかに自分が牧道場のモカウサギであることを打ち明け、さなの透明化の魔法で姿を隠して、無事、牧道場まで戻ってくることができたのだった。

 

 

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