マギア転生    作:川崎三文

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寝技とリッチと牧道の女達⑥

 

 「牧道のルールを説明する前に、道場のモードに切り替えるね」

 葉月は足の裏で道場のタタミをトン・トントン・トンと四回叩いた。

 道場のタタミに四つの正方形が現れた。

 リングがせり上がったわけではなく、タタミの上に魔方陣のような紋様の入った白い正方形が四つ描かれている状態だ。

 この中で対人演習を行うのだろう。

 現在、道場に残っている未経験者は、灯花、ねむ、うい、瀬奈、帆奈、さな、アイの七人である。

 リングは四つ。二人ずつ四組のペアを作るなら、一人足りない。

 

「あやめはこのはと一緒に搾りに行かなくていいの?」葉月があやめに訊ねる。

「あちし、どうしても戦いたい奴がいるんだよ」

 あやめは凜とした表情で答えた。

 最後の一人はあやめに決まる。

 

「おっしゃー、ルールの説明はじめんぞ!」

「まず、『牧道』では黒汁の代わりに白汁がでるからね」

 葉月があやめの手首を掴んで搾ると、牛乳とも豆乳ともつかない色の液体が滲み出て床に垂れた。粘度は低く、水のようにサラサラしている。

「この白汁はタタミの魔力で生成された液体だからさ、どれだけ出しても本人の身体に影響はないからねえ」

 

 葉月の説明は続いた。

 ルールはシンプルだった。

 相手を押さえ込み、動きを封じて搾る。身体を押しつけて相手を圧迫する。締め付けて搾る。

 とにかく、相手の身体から、20リットルの白汁を吐き出させること、それが牧道の全てらしい。

 首を締めても、関節技を思い切り決めても、タタミの不思議な効果によって白汁が出るだけで、苦痛や痛みは無いし、体力が削られるだけで、傷や後遺症も残らない。

 白汁は攻撃を仕掛けられている方から溢れ、どちらが攻撃を仕掛けているかの判定はタタミが行う。

 相手を押さえ込む際は、自身の身体も強く圧迫されるが、白汁をこぼすのは相手だけなので、安心してどんどん攻めて問題ない。

 相手の帯を解くような行為は反則。

 お互いに強く抱きしめ合うなど、膠着状態になった際は「まて」が入り仕切り直しとなる。

 

 体勢を崩すために投げ技などを使用すると、タタミが反応して投げられた少女の身体を操作して、最適な受け身を取ってくれる。

 試しに、葉月は牧道経験のないういを投げ飛ばした。バァンと乾いた音を響かせて、ういはみんなが感心するほどの見事な受け身を取った。

 

「格闘技経験の無い人は、『ステーテスオープン』と同じノリで『プランチャー』って唱えてみてね。色々な搾り技を学べるよ。『プランチャー』は牧道場のタタミの上ならどこでも使えるからねえ」

「・・・・・・搾り技の部分を流さずしっかりと教えて欲しい」とねむは呟いた。

 

 最後に、葉月は三日間のクエストの予定を発表した。

 一日目の前半は『牧道』を通してタタミの上で『搾る』ことに慣れ、後半からはやちよ達のように外のタタミでモカウサギ搾りに励む。

 二日目と三日目は、未経験者達も朝から晩までモカウサギ搾りに励んでもらう。そういう予定だそうだ。

 

 一通り説明が終った後、葉月は、牧道はルールがふわふわし過ぎていてやりたがる人が少ないマイナー競技なので、牧道連盟からモカウサギ搾りの際、ついでに布教してくれと頼まれているのだと正直に答えた。

「ルールがふわふわしていたら競技にならないのではないか?」という声も上がったが、それに関しては葉月もあやめも笑顔で沈黙を貫いた。

「報酬は牧道の講習も考慮して設定してるからねえ。ウサギ搾りさえ頑張ってくれるなら、牧道は細かいこと考えずにテキトーにやってくれればいいからさ」

 それ以上は、誰も何も言わなかった。

 

 全ての説明が終り、ペア決めが始まる。

 あやめが自分の相手にういを指名すると、後は自然とペアが決まった。

 

 ういvsあやめ。

 灯花vsねむ。

 さなvsアイ。

 帆奈vs瀬奈。

 

 一度試合をした後は、自由にペアを変更して良いと葉月は言った。

 それぞれのペアが四角い枠のリングに入ろうとしたその時、「待った!」と葉月が叫んだ。

 

「ごめん、伝え忘れてた。そのリングには『勝手にヘアアレンジ』機能が付いてるからね。リングに入ると、競技に適した髪の長さに変化するから、驚かないでねえ」

「確かに、髪が長いと寝技の邪魔になるね」瀬奈は長いお下げをふわふわと持ち上げながら言った。

「わたくし、髪を切るなんて聞いてないよ」灯花が言った。

「心配しないで。短くなるのはリングに入っている間だけだから。リングから出れば髪は元通りになるよ」

「うーん、それなら問題ないかな」灯花が言った。

 

 それぞれ四つのリングに分かれて、誰も正確なルールを把握しないまま、手探りの『牧道』の演習がはじまった。

 

 【灯花VSねむ】

 

 ねむは四角いリングの前で『プランチャー』と唱えた。

 ねむの胸の前に半透明の画面が現れる。

 灯花はねむの肩に顎をのせて、顔を近づけながらその画面を覗き込んだ。

 

 画面の上部に本人の名前、その下には八つの項目があった。

『絞技』『関節技』『抑込技』『にぎり技』

『巻物・軍艦スキル』『デザート』『飲み物』『お持ち帰り』

 最初の三つの項目以外は押しても反応がない。葉月に訊ねると、残りの項目は牧道有段者のみが扱える高度な技になるので、初心者向けのこの講座では観覧できないように、このはが設定したのだと教えてくれた。

 『関節技』の項目をタッチすると、プロレス、柔道、総合格闘技などで使われる技がごっちゃになって表示された。

 『オルレアン・チョークスリーパー搾り』の項目をタッチすると、青い髪の女性が現れ動画付きの解説が始まった。技の名前の下には『熟練度』という項目もある。

 

 後のリングから『プランチャー』と唱えるさなと帆奈の声が聞こえてくる。

 振り向くと、さなとアイ、帆奈と瀬奈のペアは、試合を始めずに熱心に動画で技を確認していた。

 ねむは『閉じる』の項目をタッチして画面を消した。

 

「やれやれ、こんなクエストがあるなら旭お姉さんにサブミッションについてもっと詳しく聞いておけばよかったよ」

「寝技や関節技で勝負するのは初めてだね。わたくし負けないから」

「体育会系の僕に寝技で勝負を挑もうなんて、無謀と表現せざるえないね」

 ねむはスッと眼鏡を外しながら、流し目で灯花を見た。

 そこはかとなく強キャラ感が漂う。

「やってみなくちゃわからないでしょー」

 灯花も負けじと冷たい視線でねむを射貫く。

 

 灯花とねむがリングに入る。二人の髪が光に包まれ、短くなる。

 ねむは太股をパンパンと二回叩いて気合いを入れた。

 中央に立ち、相対する灯花をキッ見据える。

 灯花の姿が見当たらない。

(あれ、おかしいな。灯花はどこに・・・・・・)

 灯花の代わりに、道着姿の小さな三浦旭が居た。

 

「っっっっwwww」

 ねむは口とお腹を押えて、必死に声を押し殺そうとする。

 だめだ、笑ってはいけない。

 迂闊だった。こうなることは想定しておくべきだった。

 里見灯花をショートカットにすると、ほぼ三浦旭になってしまうと。

 しかも、今の灯花は道着姿だ。田舎のクソガキにしか見えない。

 小さな三つ編みも消えている。

 笑うねむの様子をみて灯花は不思議そうな声をあげる。

「どうしたのねむ~?」

 小さな三浦旭が首を傾げた。

 ねむは横になって声をあげて笑い始めた。

 灯花も段々と焦り始める。

「ねえ、どうして笑ってるの?」

 ねむはさらに笑い転げる。

「わたくしの顔になにか付いてるの?」

「笑ってないで、答えてよ?」

「もう! 試合はじめちゃうからね!?」

「いい加減にしてよ! どうしてわたくしの顔を見ないの!?」

「誰か! 鏡を貸して!!」

 

 瀬奈から手鏡を借りて、自分の顔を確認した灯花は全てを悟った。鏡に映る唇が震える。

 瀬奈に鏡を返した灯花は、頬と耳を真っ赤に染めてリング中央のねむを見下した。

「行くでありますよ! ねむ!」

 目尻に溜まった涙が弾ける。ねむの笑い声が響く。

「あははははははは」

「オルレアン・チョークスリーパー!!」

 里見灯花は生まれて初めてヤケクソになった。

 

【ういVSあやめ】 

 

「凄い、ほんとうに髪が短くなっちゃった!?」

 リングに入ったういが言った。あやめの頭からはツインテールが消えている。

 髪型の変化に驚いているういに向って、あやめが大声で宣言する。

「あちしの力見せてやんよ!!!!」

「・・・・・・・・・」

「どうした、びびってんのか」

「戦う前に教えてあやめさん。どうしてわたしを選んだの?」

「知ってるんだからな。星五の天音姉妹に勝ったんだろ? だったら、ういを倒せばアチシは星五冒険者以上ってことじゃん! 一号って言うくらいだから、嵐を呼ぶ野生児の中で、ういが一番つえーんだろ」

「わたしよりもねむちゃんの方が強いと思うけどな」ういは困り顔で言った。

「嘘つくな! アイツ超よえーじゃん!」

 あやめはねむを指差した。

 爆笑するねむが、灯花に好き放題技を掛けられている。

 灯花の膝でエビ反りにさせられたねむが、交差した自らの腕で首を締め付けられている。

 

「クロスアーム・カベルナリア!!」灯花が叫ぶ。

「あははははははは」ねむが笑う。

 

「大丈夫か、あいつら・・・・・・?」

「何があったんだろう・・・・・・」

「とにかく、あちし達もはじめるぞ」

「うん! ・・・・・・あやめさん、わたしは真剣に戦うからね!」

 

「わたくしだって真剣だよ!!!!」隣のリングで灯花が叫んだ。

「(田舎のクソガキが)わたくしwwwww」 

 

 ういとあやめは、可哀想な人を見る目で、涙目の灯花と壊れたねむを見た。

「「・・・・・・・・・」」

「行くよ、あやめちゃん!」

「来い!」

 ねむの笑い声を振り払うように二人が声をあげる。

 あやめはういに立ち技を仕掛けようと勢い良く飛び出し、躊躇して踏みとどまった。

 亀の姿勢。

 ういはうつ伏せになって、両手両足を中心にぎゅっと引き寄せ、身体を丸めていた。

 下手に手を出せば、腕を取られて身体の回転と共に『腕挫十字(うでひしぎじゅうじ)搾り』に持ち込まれるかもしれない。

「オマエ、あちしを試そうとしてんのか?」

 あやめはニヤリと笑った。これは格闘技の寝技の試合じゃない。相手を搾る牧道だ。このまま上から覆い被さって、全身の力で搾ってやる。

 あやめは膝立ちになり両手を広げ、そろりそろりと横からういに近づいた。

 その瞬間、

「『環ローリング!!!!』」

 ういは亀の姿勢のまま勢い良く飛び跳ねると、身体を横向きに回転させてあやめに突撃した。

「うおっ、なんだオマエ!」

 ういはあやめにぶつかった後も、回転しながら丸めていた手足を伸ばし、衝撃でバランスを崩したあやめに絡みついた。

「足四の字固め搾り」

「クソォオオオッ」

 あやめの道着から白汁が滲む。

「油断したでしょ、あやめさん。『牧道』を知らないわたしはプランチャー画面で紹介されてる技で攻めてくるだろうって。灯花ちゃんとねむちゃんから教えてもらったんだよ。勝ちたければ相手の意表を突けって」

「負けるもんか! アチシは強くなるんだ。強くなってこのはと葉月を守るんだ!」

「『環ストローク!!!!』」

 ういは関節技で取ったあやめの足に、火起こしでもするかのような勢いで身体を擦りつけた。

 あやめの足から白汁が迸る。

「がああああ、やめろぉおおおお! あちしの足が大根おろしになっちまうだろ!!」

「環ストローク!!!! 環ストローク!!!! 環ストローク!!!!」

「負けるもんか、負けるもんかああああ」

 ういとあやめの、とにかく負けられない牧道の火蓋が切って落とされた。

 

 

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