【ヒコとひめなと壮月と塩屋】
水を張った畑の水面が茜色に燃えている。
夕暮れの田園地帯。
あぜ道に、四つの影が伸びていた。
平凡な細長い影が三つ、ハート型の羽衣が落とす特徴的な影が一つ。
「おかげでクエストを達成できたよ。獄門オークを五匹、ワイバーンを二匹も倒せるなんて」
「気にするな、モカウサギの件に付き合わせたからな」
「あれはあれで楽しかったよ」
歩きながら話す男達から少し距離を置いて、二人の女が歩いている。
「気が合うみたいですね」
楽しそうに話す二人の背中を見ながら塩屋が言った。
「ヒコ君、前世では同性の友達、居なかったから」
四人は討伐クエストを終えて、リマセラの宿屋へ向っていた。
「ねぇ、はるみん。ヒコくんと壮月、ぶっちゃけどう思う?」
はるみんとは、ひめなが塩屋晴海をもじってつけたあだ名である。
「え? いいお友達だと思いますけど」
「ヒコくんが壮月と浮気したら、私チャンははるみんと浮気するから」
ひめなは冗談っぽい困り顔を浮かべて、指をつんつんさせながら言った。
「それは無いと思います」
ノンケの塩屋は少し引いた。
****
灯花達がひめなとリマセラでエンカウントして逃走した後、壮月はヒコとひめなとパーティーを組んだ。
その後すぐに、壮月は自分達の事情を打ち明けた。
自分が魔族であること。魔族の自分が人族の塩屋と付き合っていること。
どんな生き物の外見も自由自在に変えられる『みたマシン』と呼ばれる装置を探していること。
『みたマシン』を使って自分の外見を人族に変えれば、魔族と人族の確執を気にすること無く塩屋と付き合えると考えていることを。
『みたマシン』を地下大迷宮で最初に発見したのは、魔族のコンビ、シグーとハグーだった。
転生した宮尾時雨と安積はぐむである。
二人は魔族の冒険者兼技術屋として有名で、頭が良くて理論や設計担当のシグーと手先が器用な組み立て担当のハグーに分かれて、色々な発明を魔族社会に提供していた。
シグーとハグーはみたマシンを発見した時、地下大迷宮の収納系不思議アイテム『使い捨てAキューブ』に入れて持ち帰ろうとした。
『みたマシン』は緑色の小さな結界を手にしてはしゃぐ二人を見下ろすように、胡座をかいて浮いていた。
マシンの外観は、一言で言うなら足を生やした卵だった。
卵型の装置の表面は青を基調にしたステンドグラスのような材質で覆われており、底面から白皙はくせきの女性的な足が伸びていた。二人に前世の記憶があれば、象徴の魔女の使い魔を思い出していたかもしれない。
シグーとハグーが『使い捨てAキューブ』を使用すると、マシンは二本の足で結界をぶち破って元いた場所に戻り、再び胡座をかいて宙に浮いたという。
それを目の当たりにしたシグーとハグーの顔からは笑顔が消え、マシンには意志のようなものがあるのかも知れないと怯えながら眉をひそめた。
『みたマシン』には伝承があり、この足の生えた卵こそが十種族を生み出した装置であるとも言われていたが、その内容は、あまり胡散臭く、ざっくりし過ぎていたので、真剣に信じている者はごくごく少数だった。
シグーとハグーから報告を受けた壮月も、実際に変貌するモカウサギを目の当たりにするまでは、そんな伝承、気にも止めなかった。
しかし、十種族云々はともかく、外見を自由に変えられるという点に関しては興味があったので、半信半疑ながら、壮月と塩屋は地下大迷宮を探索してみようと思い立った。
元々、王都リマセラで開かれる『台覧試合』を魔族の長である十七夜と共に見学する予定だった壮月は、その予定を少し早め、観光と称して塩屋と共にリマセラまでやってきた。
壮月がヒコとひめなを誘ったのは、地下大迷宮カミハマに潜るのが始めてだったからだ。
戦いには自信があったが、迷宮の中では何があるか分からない。万一、自分に何かあった時、レインボーオーブ持ちの星四冒険者とはいえ、塩屋一人では心もとない。
シグーとハグーには別の仕事がある。
仲間にするなら強いに超したことはないが、それよりも魔族に対して差別意識を持っていなさそうな者がいい。
そんなことを考えながらリマセラの町を歩いていると、広場でヒコとひめなの姿を見かけた。
壮月はヒコを一目見て、信頼できる奴だと感じた。ひめなに関しては実力も相当高そうだった。
ひめなとヒコは、自分達の冒険者ランクを上げるためのクエストに付き合うことを条件に、地下大迷宮への同行を引き受けてくれた。
ひめなとヒコの冒険者ランクは星一だったので一度は断ろうと思ったが、地下大迷宮に入れると聞くと、二人の方から同行を強く願うようになった。
『使い捨てAキューブ』を使えば問題無く衛兵を誤魔化してダンジョン内に二人を連れて行ける。
問題が起らない限りは、迷宮での戦闘は全て壮月自身が引き受けるつもりだった。
それから四人はすぐに打ち解けた。
陰キャのヒコと、陽キャの壮月。
カースト上位のギャルであるひめなと、素朴で清楚な男慣れしていない塩屋。
一見、対照的に見えるが、四人は両思いなのに周りがそれを認めないという、似たような恋の悩みを抱えていた。ヒコとひめなは前世で、壮月と塩屋は今世でも。
ある夜、宿で、恋愛相談イベントがはじまった。
「俺と一緒にいるせいで塩屋が悪意に晒されるなら、俺は塩屋と別れた方が……」
「それ、痛いほど分かるよ。僕は前世でその選択を取ったから。最悪の形で」
「前世?」
ヒコは自身の過去と転生について壮月に語った。壮月はその話を信じた。
ヒコが嘘をついているようには見えなかったし、壮月は転生について、どこか他人事のように思えなかった。
「そうか。魔族に生まれてりゃ良かったのにな。魔族は変わり者ばかりだから、脳内の彼氏と恋愛しようが、誰も気にしない」
ヒコの話を聞いた壮月は真顔でそう言った。
「周囲の人間の心を変える方法なんて思いつかなかった。・・・・・・別れると伝えても、ひめなは僕が生きている以上、どんな方法を使っても付き合うことを諦めないだろうし、僕がひめなを心の底から嫌いになんてなれないことも理解している。だから、僕は死ぬしかないと思った」
「藍家さんって、強すぎないか?」
「いや、そこが一番・・・・・・ね」
「まー、確かに周りのやつらをどうやったら変えられるのかなんて分からないな。変わろうと思っていないやつを変えることなんてできないのかもしれない」
「・・・・・・君達が間違ったことをしていないことだけは確かだよ」
隣の部屋では塩屋がひめなに自分の気持を打ち明けていた。
「この思いをどうしたらいいかわからないの。私はただ壮月君を好きなだけなのに。『この恋を邪魔しないで』って叫んでも届かない」
「……わかり味が深い」
「許されない恋なのかもしれない。でも、それを受入れて、どう進んだらいいかわからないの」
「マジあるあるだし」
「多分、壮月君も同じだと思う。この思いをどう処理していいのか分からないから、『みたマシン』なんて極端な手段を選ぼうとしてる・・・・・・」
「これもう私チャンとして応援するしかなくない」
そんなこんなで、地下迷宮に潜った壮月達は『みたマシン』を発見することができた。
****
壮月は考えながらあぜ道を歩いた。
次は『みたマシン』の操作方法を解明しないと。
みたマシンは勝手に起動して、モカウサギも勝手に装置の中に入って、猫の化け物に変化して出てきた。まだ魔族から人族への変化が可能だと証明されたわけじゃない。
できれば、台覧試合に合わせて姉さん達がリマセラに来るまでに終らせたい・・・・・・。
何となく、魔族の長である姉の十七夜に相談したら100%却下されると思ったので、壮月は自分以外に『みたマシン』の発見を黙っているようにとシグーとハグーを買収していた。
四人がリマセラの宿に着く頃には、夜の帳が下りていた。
「遅い」
宿の部屋に入るなり、桜子が言った。
「悪い。解読は進んだか?」
「順調。でも、これは『みたマシン』に関する説明書じゃない。何かの目録。カ・・・ミケ?」
「違ったか。『みたマシン』のあった部屋にあるそれっぽい書物を適当に持ってきたからな。その分厚い本、色んな似顔絵が描いてあったから、変身後の姿を描いた目録だと思って」
壮月はテーブルの上に詰まれた書物や書類の山を見た。
「解読自体が面白いから平気。これを持ってきてくれた壮月に感謝してる」
「桜子さんがそう思ってくれるなら良かったよ」
壮月は、ひめな達を誘う前に、古代人の遺物の扱いに詳しいというエルフの桜子に協力を依頼していた。
里の外に出たがっていた桜子は二つ返事で了承した。
「私は大切な何かを忘れている。地下大迷宮カミハマに行けば、それが何か思い出せる気がする」依頼を承諾した時、桜子はそう呟いた。
「一つ、『みたマシン』とは関係無いけど分かったことがある。古代人達がカミハマをはじめとする六つの地下大迷宮を何と呼んでいたのか」
「地下大迷宮の本当の名前?」
「そう」
「ちょっと気になるかも」
「『グレートヒェン・エミュレーター』」
「ほー」
「それが地下大迷宮の本当の名前。正確には、地下大迷宮だけじゃなくて、その上にそびえる黒い世界樹も含めてそう呼ばれていた」
【瀬奈と帆奈】
更紗帆奈は宿屋の机に座って小さなノートを開き、固まっていた。
ノートは瀬奈と出会う前、ペンとセットで、地下大迷宮のミンカの中で見つけたものだ。
特に不思議な効果のあるアイテムではないのに、なぜか売って手放す気にはなれなかった。その理由に気付いたのは帆奈が記憶を取り戻してからだ。
瀬奈との交換日記に使っていたノートとお揃いのペンにデザインが似ていたのだ。
このまま使わずにいるのも勿体ないので、瀬奈との旅の記録のようなものを付けようと思ってペンを取ったところ、牧道のクエストをどのような文で綴ろうか迷い、帆奈の思考は停止してしまった。
「何書いてるの」
背後から覗いた瀬奈が、クスクスと笑いながらそう言った。
「何も書いてない。どう書こうか迷ってるの」
「『固有魔法無しの無能かと思ったらコピースキル持ちでした。暗示スキル持ちのエルフの奴隷と一緒に異世界で無双します』なんてどう?」
「・・・・・・違う、小説書きたいわけじゃないって」
「思いつかないなら、私から書いてもいい?」
「いや、交換日記でもないから」
「あ、いいね。一緒に旅してるけど、面白いかも。じゃ、私から書くね」
瀬奈はその気になったようだ。
帆奈は腰を上げ、瀬奈が机に向った。
瀬奈は猛烈な勢いで筆を走らせる。背中越しに情念が伝わってきた。
「瀬奈、日記だからね?」
ペンと紙の擦れる音だけが部屋に響く。試験中の教室を思い出すが、嫌いな音ではなかった。
ふと、手を動かしながら、背中越しに瀬奈が呟いた。
「これからどうする帆奈ちゃん。この世界を滅ぼしちゃう?」
「いや、滅ぼさない。この世界はまだ、あたしから瀬奈を奪ってないから」
「・・・・・・帆奈ちゃんに出会うまで、私はこの世界にも審判を下そうと思ってた。世界を見て回って、存在させるに値するか、滅ぼすべきか、見定めてから」
「瀬奈。この世界はまだ、あたし達の敵じゃない」
「うん、帆奈ちゃんをこの世界で見かけた時に、そういうのは止めようと思った。私は、帆奈ちゃんと一緒ならそれでいい」
瀬奈のその言葉を聞いて、帆奈はふと考える。
この世界で瀬奈と幸せになったら、あたしは許されたことになる。
あたしは、死んでなきゃ駄目なのに。瀬奈と一緒に、あたしは生きている。
****
瀬奈と出会うまで、あたしに悪意だけをぶつけてくる世界が、嫌で憎くてたまらなかった。
もちろん、前世の話だ。
両親の虐待、施設での虐め、キュゥべえと契約して、あたしを虐めた連中を願いに捧げて魔法少女になって、瀬奈に出会った。
はじめは利用しようと思って近づいたけど、一緒に行動するうちに、瀬奈はあたしのなかで一番大きな存在になった。
瀬奈だけが、世界で唯一、あたしとまともに付き合ってくれた。
瀬奈はあたしの最高のツレ。
ただ、その頃のあたしの気持を知らない瀬奈は、足手まといになりたくないって頑張ってくれてたらしい。「帆奈ちゃんに嫌われるのが怖いから」って。
ツレなんだから、役に立たなくてもいいのに。
このまま瀬奈と二人で幽霊になりたい。
あたしはそう考えるようになった。
暗示の魔法で、理不尽な世界から二人で姿をくらませて自由に生きる。はじめて世界に光が見えた。
でも、頑張りすぎた瀬奈は、あたしの目の前であっけなく魔女化した。
嫌な世界からようやく逃げ切れると思ったのに。
瀬奈がいなくなって、あたしはおかしくなった。
いろんな人の人生をぐちゃぐちゃにしてやりたいと思った。
でもある日、頭の中に瀬奈を見つけた。魔女化したはずの瀬奈は意識だけの存在になってあたしに取り憑いてた。
あたしの中に瀬奈が居る。
あたしはその嬉しさでどうにかなりそうだったけど、瀬奈はどうにかなりそうなほどの憎しみを抱えて苦しんでいた。
鏡の魔女になった瀬奈は、鏡を通して魔法少女達の歴史に触れたからだと話してくれた。
「どれだけあがこうが、正しかろうが、行き着く先は絶望だ。そうだ。すべてを滅ぼさないと」
瀬奈もおかしくなっていた。
あたしも瀬奈も狂ってたけど、取り憑いた瀬奈と二人で過ごした短い時間は、不思議なくらいの万能感と幸福に満ちていた。
「帆奈ちゃんといれば何でもできる。私達は無敵なんだ」
輝く笑顔で瀬奈は言った。
「いいのかな、あたしがこんなに幸せで」
瀬奈の笑顔で胸が暖かくなる度に、あたしは何度もそう思った。
最高のコンビだった。嘘もついたし、すれ違いもあったけど。それがお互いのことを嫌いになる要素にはならなかった。
お互いの胸の内に秘めたどんな思いをさらけ出そうと、その全てを肯定できるとお互いに理解していた。
それは今でも変わらない。
二人で過ごしたこの短い思い出があるから、この先あたしにどんな悲惨な末路が待ち受けていようと怖くない。そう思えるようになった。
絶望だらけの世界にも一つだけ希望がある。
それは瀬奈だ。
このクソみたいな世界の寿命を伸ばすために、あたし達はクソみたいな目に会った。
でも、そのクソみたいな世界が瀬奈を作った。
虐待もいじめも肯定したくない。
世界が悪意で成り立ってるなんて認めたくない。
あたしも、あたしの犯した悪事も肯定したくない。
でも、瀬奈と過ごした時間だけは肯定したい。
いや、瀬奈だけは肯定したい。
魔女になった瀬奈も含めて。全部全部、肯定したい。
「クソみたいな世界で出会った最高のツレを肯定したい」
言葉は汚いけど、同じことを考えている魔法少女はあたし以外にもいるはずだ。
あたしみたいな悪は倒されなきゃいけない。
あたしみたいな人間は救われちゃけいない。許されちゃいけない。幸せになっちゃいけない。
でも、瀬奈に同じ道を歩ませたくない。あたしと同じものを背負わせたくない。
あたしと同じ考えになって欲しくない。絶望して欲しくない。
あたしの未来は決まってる。魔法少女だから、どうしようもないし、変えようもない。
だけど、ここが救いようのない世界だなんて思ったまま死にたくない。
あたしはあたしみたいな奴が嫌いだ。
だから、あたしみたいな悪が滅べば、この世界にもいいところがあるんだって思える。
瀬奈も、あたしの死を見れば悟るかもしれない。
あたし以外の誰かに証明してもらえばいい。あたしを倒して、あたしの命を使って、どんな困難があっても人は負けたりしないって。
世界に絶望してるあたしじゃもう、生き方でそれを証明できないから。
他人の人生をぐちゃぐちゃにした罪も、罰も、全部あたしが背負って消えるから。
だから瀬奈は、憎しみとさよならして。
・・・・・・。
「どうせなら巨悪に立ち向かう側が良かったなぁ」
あたしの中に、こんな言葉が浮かぶなんて。
でも、それはあたしの一番の願いじゃない。
もう一度願いが叶うなら、瀬奈との記憶を永遠にしたい。
瀬奈が、あたしと過ごした日々をかけがえのない思い出として忘れずにいてくれたら、この先誰かにソウルジェムを砕かれて死んでも、寂しくない。
****
「昔を思い出してた?」
気付くと、日記を書き終えた瀬奈が椅子に座ったまま体の向きを変えこちらを見ていた。
「あたしは楽になろうとしていた。生きることの外側へ逃げて。希望を信じ続けるってことは、困難に抗い続けるってことなのに」
「それ、あの子と同じ答えだね」
「あの子?」
「環うい」
「牧道であやめと戦ってた」
「そう、その子。過去の世界を見て回る中でたまたま見えたんだ。ドッペルと向き合う心の声も聞こえた。イブになって神浜を壊した、あの子の選択。確か、神浜の魔法になるための試験の途中だったかな」
「・・・・・・」
「消えるのは一番楽な方法だから、罰にならないんだって。受けるべき罰が分からないなら、一番苦しい道を選びましょうって。償う方法を考えること、新しい目的を考えること、それが一番難しくて一番重い、受けるべき本当の罰。果てしない努力が必要になるから、だったかな」
「瀬奈の中にはさ、まだ魔女だった頃の憎しみが残ってるの? 例の抑えきれない、世界を滅ぼしたいほどの憎しみがさ」
「ほとんど残ってないかな。残ってないから、わざわざ世界を見て回って、理不尽を探し出そうとしていたのかもしれない。私が魔女だった頃の身体は残ってるみたいだけどね」
「身体だけが?」
「んふふっ、バラバラにされて封印されちゃった。変な名前まで付けられて。取り戻して一つに集めれば、少しは操れるかもしれないけど、五百年前、この世界に来るときにだいぶ変質しちゃったから。言うこと聞かずに暴れちゃうかも。だから、正直なところ、世界を滅ぼそうと思っても、もう滅ぼせるかどうか分からないの」
「・・・・・・」
「何より、この世界に来る時に知っちゃったからね。鏡の魔女じゃ及ばない、遙か格上の存在を」
瀬奈は立ち上がって、窓に近づき外を見た。日は落ちていたが、遙か遠方にうっすらと天を突いて伸びる黒い世界樹の影が見える。
****
帆奈ちゃんに取り憑いている間も、ずっと世界を滅ぼしたいって思ってた。
でも、帆奈ちゃんが消えるのは怖かった。帆奈ちゃんにだけは死んで欲しくない。生きていて欲しい。
だけど、帆奈ちゃんはソウルジェムを砕いて消えた。
幻だったのかもしれない。
最後に私に会いに来た帆奈ちゃんに、私は願った。
「私も連れてってよ。ずっと一緒に居ようよ。お願いだから、置いていかないでよ」
帆奈ちゃんは私に生きてと言った。
帆奈ちゃんが消えてから、私を止めるものは何もなくなった。
帆奈ちゃんは、憎しみを忘れた私に何を望んでいたのか。
自分を犠牲にして、何を証明して、何を与えようとしていたのか。
皮肉なことに、それが分かったのは、帆奈ちゃんが消えて私が滅びへの決意を固めてからしばらく経った後だった。
それは、魔女になる前から、魔法少女になる前から、私がただの女の子だった時から、ずっと欲しかったものだった。
でもずっと手に入らないと諦めていたものだった。
世界からの祝福と、別の人生だ。
だけど、例えどれだけ世界から祝福されても、私は帆奈ちゃんを奪ったこの世界を許せない。
憎むべきだ。絶対に滅ぼしてやる。情け容赦なく叩き潰してやる。
もう一度だけ会いたい、会いたいよ、瀬奈ちゃん・・・・・・。
****
500年前、私に接触したアレは、彼女達は、私の願いを聞き届けてくれたのだろうか?
胸の中でそう呟いた後、瀬奈は窓から視線を戻して、帆奈に向き直った。
「あたしみたいな奴は死んでなきゃだめ。でもそれは一番楽な方法で。幸せになっちゃだめ、消えるのもだめ。・・・・・・あっは」
「帆奈ちゃんは、この世界でできた新しい夢とかないの?」
瞳を濁らせた帆奈に、瀬奈は明るく声を向けた。
おぁっ、と声をあげ、帆奈は正気を取り戻したように目をしばたいた。
「んー。とりあえず行きたい場所がある。特にそこでやりたいことがあるわけじゃないけどさ、瀬奈と二人で行ってみたかった。ま、あるかどうかわからないけどね」
「もしかして、地下大迷宮カミハマの展望台?」
「正解」
「いいよ、行こう!」
「すぐにじゃなくていいけどね。・・・・・・瀬奈は? 夢や生きる目的ができたの?」
「んー、夢というか、お悩みかな? 私ね、帆奈ちゃんと同じ種族になりたい。寿命を同じにしたいの。帆奈ちゃんがエルフになってもいいし、私が人族になってもいい。地下大迷宮にそんなアイテムがあればいいなぁ」
「どの道、迷宮探索か」
「牧道の方が良かった?」瀬奈はいたずらっぽい口調で言った。
「どっちでもいいよ、瀬奈となら」
帆奈は腕を組んで勝ち気な笑みを浮かべた。