「今日はどんなクエストがあるのかな?」
今朝もういはご機嫌だ。
街行く人に子役のような笑顔を振り撒き、灯花達の前を歩いている。
牧道のクエストを追えた後、灯花達はあえて無難なクエストを選んで過ごしていた。
三人が牧道から得たものは大きい。クセの強そうな依頼の厄介を嫌というほど体験した。
薬草採取に、薬草採取に、怪我をした猟師に変わって山での狩りに、薬草採取。
星一冒険者でも受けられる依頼ばかりである。
やちよは少し退屈そうだったが、ういは楽しそうだった。
牧道以降、平穏なクエストをいくつか見届けると、やちよはみふゆと入れ替わりでマチビト村に帰った。
依頼内容に関して、灯花達はどんなに些細な内容でも、受付から聞けるだけの情報を引き出してから挑むようになった。
「ねぇ、少しだけクサい方のギルドに寄ってもいい?」
灯花は紫色の屋根の下で足を止めた。
「癖になったのかい?」ねむが心配そうに訊ねる。
「ちがうよ! みふゆと天音姉妹の魔力反応があったの!」
灯花達は星四冒険者の引率不要な簡単な依頼を受けるとみふゆに伝えていた。みふゆは灯花達よりも二時間ほど早く家を出たので、すでにギルドで依頼を受けて町を出ているものだと、三人は思っていたのだ。
ギルドに入ると、浮かない顔で掲示板の依頼書を見つめる、みふゆと天音姉妹の姿があった。依頼書には返り血のような書体で、
『出現! アリナ・モニュメント!! 至急、攻略者求む』の文字が躍っていた。
「関わりたくないなぁ」と月咲が声に出して呟く。
「ですが、星五のわたくし達の元にはいずれギルドから直接依頼が来るでございます」月夜は不安そうに言った。
「アリナって、あのアリナ?」灯花は背後から声を掛けた。
「そうです、あのアリナです」
みふゆが灯花に気付いて振り返る。
「エンビの森の入り口に、新たな『アリナ・モニュメント』が出現したのです。今回で四つ目ですね」
灯花達はテーブルに座って話し始めた。
「まず、こちらの世界のアリナについて説明しておきますね」
みふゆはアリナについて語り始めた。
アリナ・グレイ。
髪を緑色に染めたアルビノのダークエルフという、ぐちゃっとした外見的特徴を持つ、ダンジョンクリエイターを名乗る芸術家で、各地に自作のダンジョン『アリナ・モニュメント』を作ってエキサイトしている。
固有魔法は『結界』。結界を自由に生成し、その中でモンスターを飼育しているため、地下大迷宮の中にしか存在しないハズのモンスターが外の世界に出てくるのはこいつのせいだ、と考えている冒険者もいるらしい。
しかし、『アリナ・モニュメント』の内部に出現するそれは、地下迷宮に潜らなければ討伐できないモンスターであるがゆえに、倒して得られる素材は高額で取引される。
前回と前々回のアリナモニュメントには、それを狙い自ら足を踏み入れ、深い後悔と共に冒険者を引退する者も少なくなかった。
幸いまだ死人は出ておらず、ダンジョンの中にはご丁寧にお宝まで設置されていたりするので、依頼内容はダンジョンの調査と破壊で、未だにアリナ自身は討伐対象になっていない。討伐に反対したのもお宝目当ての冒険者達であり、ある種、冒険者達の腕試しのような場にもなっている。
天音姉妹は一度目のアリナモニュメントを攻略したことがあるが、その時はまだこの世界のアリナ本人には会ったことがなかった。みふゆも同じで、まだ本人を目にしたことはない。アリナに関する情報はあくまで冒険者達の間で共有されているものである。
ダンジョンクリエイターを名乗る変態はアリナ以外にも各地におり、ダンジョンこそが、信頼と裏切り、生と死、希望と絶望、物欲とエロス、あらゆる感情が渦巻く究極の芸術だと信じて疑わない危ない連中が多いのだが、アリナ自身がその思想に基づいて行動しているのかどうかは分かっていない。
「記憶を取り戻す前は何とも思わなかったのでございますが・・・・・・」
「アリナさんのことを思い出した後だと、妙な苦手意識が・・・・・・」
「それはワタシも同じですが・・・・・・地下大迷宮のモンスターを確実に討伐できる冒険者は限られてますから、ワタシたちが行かなくては・・・・・・よろしければ灯花たちも来ませんか? 地下迷宮のモンスターと戦う予行演習になりますよ」
「うーん、アリナ絡みかぁー」
「確実に癖が強い方の依頼だよ、灯花」
ねむは人差し指で眼鏡を上げた。
元マギウスの灯花達にとって、アリナは紅晴結菜に続き記憶を取り戻して欲しくない人物であり、灯花とねむは今回の依頼に関わらず、今後いつ何処でアリナに出会っても他人のフリを貫こうと決めた。
「さっきから話を聞いていれば、情けないわね」
勇ましい声が聞こえた。
「静香さん?」ういが言った。
「尻込みしてるあなた達に代って私たちが悪人を懲らしめてきてあげるわ」
みふゆの背後に、ちはる、静香、すなおの三人が立っていた。
自信の現れだろうか、人族ばかりの冒険者ギルドのなかでも、獣人族の静香は虎耳を隠していないし、水龍族のすなおも堂々と角を見せている。
「エクスカリバーは買えた?」灯花は頬杖を突きながらジト目で静香を見た。
「あなた、どうしてそれを知ってるの?」静香が言った。
「・・・・・・あれはその、騙されてたみたいだよう」
「あー、不安だにゃー」
「あなた、ちはる様に対する無礼な態度、子供といえど許しませんよ」すなおが言った。
「大丈夫、気にしてないから」
「流石ちはる様、心が広いわ」静香が言った。
「・・・・・・面倒臭いタイプのパーティーだね」
月咲はヒソヒソと月夜に耳打ちした。
「失礼ですが、冒険者ランクは?」みふゆが訊ねた。
「全員星四つだよ」ちはるが答えた。
「なるほど、戦力としては申し分無いようですね」
そう言ってみふゆは天音姉妹の方を見た。
「では、今回月夜さんと月咲さんは・・・・・・そうですね、病欠ということにしておきましょうか」
「うぅ、すみません・・・・・・みふゆさん」
「ちはるさん、よろしければワタシ達と協力してアリナモ・ニュメントを攻略しませんか?」
「もちろん、一緒に頑張ろう」
「わたくし達は強制参加?」
「はい、元マギウスとして是非」
みふゆはニコリと微笑んだ。
それから会話もそこそこに、みふゆはちはる達と共にギルドを後にした。
みふゆ、灯花、ねむ、うい、静香、ちゃる、すなおの七人でアリナモニュメント攻略に向う。
一同は準備を整え、アリナモニュメントが見つかったというエンビの森の入り口に向った。
森に向う途中、ちはるは自分達がリマセラに来るまでの旅の話を灯花達に聞かせた。
ちはるは宿無し冒険者等々力耕一という英雄譚の大ファンで、それに影響されて一人、世直し冒険者として世界中を旅していた。
獣人族の里の一つ、霧峰村で
ある日、砂浜で緑の巨大亀が密猟者達に捕らえられようとしていた。
亀の甲羅には、黒い水龍文字で『すなおタートル』と刻印されており、水龍文字の刻印は、その巨大亀が水龍族の家族である証だった。水龍族の国と他国との条約により刻印のある巨大亀の捕獲は禁止されいる。
偶然浜辺に居合わせたちはると静香は協力して密猟者を撃退、お縄を頂戴する。
二人はお礼として、すなおタートルに水龍族の里『大竜宮帝国戦艦ヒミコ』へと案内された。
ちはると静香はそこですなおタートルの持ち主、水龍族の土岐すなおと出会った。
すなおの家でお礼の宴を楽しんだ翌朝、水龍族の天敵である紫ザメの群れに、竜宮帝国が襲われる。
ちはる、静香、すなおの三人は力を合わせて、紫ザメを操ってる海の怪人オクトパスおばばに立ち向かった。
灯花には及ばないが、自称この世界のウィザード級ハッカーを名乗るオクトパスおばばは、地下迷宮の不思議アイテム『30年前のパソコン』を用いて古代人の残した超弩級遺産の一つでもある『大竜宮帝国戦艦ヒミコ』にハッキングをしかけ、戦艦の防衛機能を一時的に無効化してしまう。水龍族が混乱する中、ちはるの機転により、見事オクトパスおばばを海の藻屑にすることに成功。
その苛烈な攻防の中で、静香とすなおは人族の身でありながら勇敢におばばに立ち向かい、八本の触手相手に十手で戦う、ちはるの姿に惚れてしまった。
それから、三人のわちゃわちゃライフがはじまり、わちゃわちゃしているうちに、冒険者としてパーティーを組み、エクスカリバーのガセネタを吟遊詩人の毬子あやかから聞いてリマセラに赴き、みふゆ達と出会うことになった。