マギア転生    作:川崎三文

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時女と傭兵と攻略アリナ・モニュメント 教会

 エンビの森の入り口には教会のような建物が建っていた。白地の壁のあちこちに、原色の絵の具をぶちまけたようなサイケデリックなペイントが施されている。派手な模様が何を描いたものなのか正確に読み取ることはできなかったが、どこか人や動物の死体を描いているようにも見えた。

 三角屋根の鐘塔(しょうとう)の上には 教義を示すシンボルの代わりに、白骨化した動物の頭蓋骨が飾られている。

 

「この頭蓋骨と派手な色彩がアリナモニュメントの入り口の証なのです」

 みふゆはそのまま言葉を続けて、灯花達にダンジョンとその攻略法について語った。

 

 ダンジョンとは、地下迷宮『タカラザキ』で入手することができるご当地アイテム『ダンジョンコア』を用れば誰でも精製することができる異空間のことで、空間の性質はその作成者の人格によって大きく異なる。

 悪意を込めて作られた迷宮から、犯罪組織の隠れ家、宝の隠し場所など、目的も用途も様々である。

 みふゆ達の目の前にある教会はダンジョンへの入り口に過ぎず、ダンジョン自体は異空間に展開されている。

 ダンジョンの規模、作成する際の自由度はダンジョンコア自体の性能と、ダンジョンを作成する者の技量、熱量によって左右される。

 ダンジョンには攻略条件と消滅条件が存在する。攻略条件は自由に設定でき、最も多いのはダンジョンマスターの討伐である。討伐後、攻略者はダンジョンの外に戻され、ダンジョン自体は消滅しない。

 しかし、ダンジョンの消滅条件はただ一つ、ダンジョンコアを探し出して破壊することである。

 暗黙の了解としてギルドの依頼書に『ダンジョン攻略』の文字が打たれていた場合、依頼の達成条件はコアの破壊によるダンジョン消滅を意味する。

 

 なお、地下大迷宮のご当地アイテムとは、その地下大迷宮からしか入手できないアイテムのことで、灯花達が酒場で飲んだ『オラ○ジーナ』もその一つである。

 カミハマ地下迷宮のポイント『バンバンザイ』にて、フランス人転生者がレイゾウコの開け閉めを繰り返し行うと、高確率で得ることが出来るそうだ。

 

 みふゆの説明を聞いていると、ちはるが突然身を屈めて嘔吐(えず)き始めた。

「ごめん、もう限界・・・・・・うぅ・・・・・・すごい悪意だよぅ・・・・・・」

「「ちはる様!!」」静香とすなおが叫んだ。

「体長が優れないのですか?」

「ちはる様の固有魔法は『悪意の探知』、強すぎる悪意にあてられるとこうなるの」

「アリナが作ったダンジョンだもん、しかたないよー」

 灯花は、やれやれといった表情で肩をすくめた。

 

 ****

 

 円卓には薄緑色のテーブルクロスが敷かれており、中央に水晶が置かれていた。

 水晶には教会の前にうずくまっているちはると、ちはるを取り巻くみふゆ達の様子が映っていた。

 ダンジョンの中でのみ使用できるアイテム『実況水晶』である。

 アリナは水晶に映し出された映像を覗き込み、黒い笑みを湛えた。

 

「アリナの新しい作品がやってきたワケ。この反応、全員固有魔法持ちなんですケド。豊作だヨネ」

 

 水晶の周りには、紅茶やケーキやクッキーが並べられおり、アリナの両サイドから伸びる少女の手がそれを掴んで、バクバクと頬張っている。

「あまり汚さないで欲しいんですケド」

 アリナは舌打ちしながら、水晶から目を逸らした。

 

 ****

 

「落ち着いたよう。ありがとう、静香ちゃん」

「どういたしまして」

「もう平気なの?」ういが訊ねた。

「ええ、私の固有魔法は『阻止』なの。魔力に対しても使えるから、ちはるの魔力が悪意を探知するのを阻止したのよ」静香が言った。

 ちはるは立ち上がって表情を引き締めた。

「心配掛けてごめんなさい、ダンジョンに入ろう」

 七人は魔法少女に変身した。

 

 教会の中には年代別にアリナの作品が飾られていた。

 参拝者用の長椅子はなく、教壇の奥には浅黒い両開きの門が厳かに座していた。

 恐らくあそこがダンジョンの入り口だろう。

 しかし、みふゆ達はすぐには奥の門に向わず、しばし無言で辺りの作品に見入ってしまった。

『生きるモノクロ』『無血族の顔』『虚無は全てを得ているのか』『争いのない完成品』『怪盗少女マジカルきりん』

 作品のタイトルが刻まれた台座の上には、動物の骨を使った醜怪な象があり、壁には、見る者の感情を掻き立てる抽象的な絵画が掛けられている。

 どれも不気味で退廃的なはずなのに、じっと眺めていると心を揺さぶられ、強い生命力を感じさせた。

 一方で、グロテスクな作品を美しいと思う、どこかほの暗い自分の一面を嫌でも突きつけられてしまう。

 だからこそ、最後の作品『マギカルきりん』に、一番強い衝撃を受けた。

 え、どゆこと。

 アリナさん?

 

「ダンジョンに入る前に、冒険者を動揺させる罠でしょうか」

 みふゆは神妙な面持ちで言った。

「計算ずくってことね。まんまとハメられたわ」

 マジきりの前でみふゆと静香が納得する。

「みんな、こっちに来て。見たことも無いアイテムがあるよ」

 教壇の前でちはるが手招きしている。

「これは、古代人の遺産でしょうか・・・」すなおが言った。

「不用意に触らない方がいいわ、爆発するかも」静香が言った。

「あ、これテープレコーダーですね」

 みふゆはレコーダーを手に取ってカチャカチャといじり始めた。

「使い方が分かるんですか」すなおが言った。

「ええ、まぁ」

「さっすが星四冒険者」灯花が言った。

「からかわないでください」

 

 カチッという音が響いた。

 ノイズと共にレコーダーに録音された幸薄そうな女の声が再生される。

 

『私達はダンジョンに全てを奪われたわ・・・・・・』

 

(((やちよさんの声だ・・・・・・!!!!)))

 

「大丈夫かな。やちよさんに許可取ってるよね」ういが言った。

「しっ、気持ちは分かるけど、今は黙って続きを聞こう」ねむが言った。

 

『私は愛する男を目の前でモンスターに変えられた、女冒険者のやちよ』

 

(((やっぱりやちよさんなんだ・・・・・・)))

 

『私だけじゃないわ』

『ゾンビから逃れるために、パーティーの盾にされて命を落とした女戦士のサーガレット』

『魔女達に首を切り落とされ、ウシの頭を持つ化け物に変えられた勇者ミノタウロスと、その弟のアステリオス』

『数多の夢破れた冒険者たち。その情念、怨嗟、憎悪、絶望。ダンジョンは冒険者の呪いで満ちている・・・・・・』

『恨み言は一人で唱えるより、みんなで唱えた方が楽しい』

『だから、私は家族を作ろうと思った』

『ダンジョンに魂を殺された者はみんな私の家族になるのよ・・・・・・』

『あなた達が来るのを、この新しいみかづき荘で首を長くして待ってるわ』

『さながら私は邪悪なみかづき荘のネッシー・・・・・・』

 

 音声はそこで途切れた。

 

「え? え? どういうこと? ダンジョンで命を落とした者はみんな仲間ってこと?」ういが言った。

「『七海やちよはネッシー』以外の情報が頭に残らなかったにゃー」

「そもそもネッシーとは何なのでしょうか?」

「あなた達はネッシーを知ってるの?」

「なんだか色々とおかしいよぅ」

 

『そんなことないの! わたしのシナリオはおかしくないの!』

 

 どこかから声が響いてきた。

 

『かりんさん?』みふゆが言った。

 

「ようこそ、アリナのクリエイトした四つ目のダンジョン『マジカル大魔境北養』へ」

「あなたがダンジョンクリエイターのアリナ・グレイ?」静香が言った。

「ザッツライト」

「どこから見てるの? 隠れてないで出てきなさい」静香が言った。

「言われて出て行くほどアリナはフールじゃないワケ」

「相変わらず困った方ですね。どこの世界でも妙なことばかりして」みふゆが言った。

「あなたアリナのこと知ってるワケ?」

「いえ、独り言です。気にしないで下さい」

「どうしてダンジョンなんて下らないモノを作るの? 誰かに迷惑をかけるのがそんなに楽しい?」静香が叫んだ。

「アリナの中にある未知のメモリーがインスピレーションを与えてくれるんだヨネ。それに、アリナは迷惑をかけてるつもりは無いんですケド」

「自分は作品をクリエイトしているだけ。クリエイトした作品に冒険者が勝手に踏み込んでいるだけ、ですか?」みふゆが言った。

「ノー。ダンジョンはアリナの作品じゃないワケ。アリナにとってダンジョンは作品を作るための道具。アリナが求めるのは『苦しみに抗う命の輝き』。美しく抗うためには強くならなくちゃいけない。雑魚は困難に立ち向かえずにすぐ折れちゃうカラ。つまり、アリナのとっての作品は困難に立ち向かい、抗い、成長したあなた達なワケ。強くなったら感謝してヨネ」

「押しつけがましい人ですね」すなおが言った。

「まーとにかくよ。来たからには楽しんでいってくれよな、ウッシッシ」

「フェリシアさん!? フェリシアさんも居るの? どうしてそこに」ういが叫んだ。

「あ? オメーなんでオレの名前知ってるんだよ?」

「みんなの迷惑になるようなことしちゃだめだよ」

「うるせぇ。仕事なんだから仕方ねーだろ。オレは傭兵なんだよ」

「金さえ払えば何でもするってわけね。あなたに傭兵としての矜持は無いの?」

 静香が言った。

「何だよキョウジって。難しい言葉使うなよな。そりゃなんでするってワケじゃねーけど・・・・・・オレさ、エルフのアトリエって場所でハンマー振り回してただけなんだけよ、なんか知らないうちにコイツの芸術壊しちまったみてーでさ。身体でベンショーしてんだよ」

「でも」

「じゃあオメーが代わりに払ってくれよ。あと500万チップだぞ。払えんのか?」 

 ういは黙り込んだ。

「ねぇ、そこの、さっきからずーーっと俯いているリトルガール達。眼鏡と栗色の髪の」

「・・・・・・わたくしのこと?」

「・・・・・・僕のことかな?」

「あなた達、どこかで会った?」

「「さぁ」」

「た、他人のそら似じゃないかなー。茶色い髪の女の子なんてどこにでもいるでしょー?」

 灯花は下を向いたまま言った。

「ふーん・・・・・・アリナの作ったデスモンスターに似てると思ったケド、気のせいだヨネ」

「「はぁ?」」

「今回のダンジョンはホラーテイストだから。お子ちゃまにはチョット刺激が強いかも。攻略したいなら覚悟してヨネ。シーユー」

 

 声は聞こえなくなった。

 

 教壇の奥の扉が七人を迎え入れるように軋んだ音を響かせて開いた。

 少女達が顔を引き締めて、ダンジョンの入り口に向って一歩を踏み出そうとした瞬間、足元の床が消えた。

 

 七人は叫び声を上げながらダンジョンの中へ落ちていった。

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