マギア転生    作:川崎三文

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※謎解き要素があるような素振りを見せていますが、一切無いので、間違っても推理しようとしないで下さい。

※作中に不自然な英文が登場しますが、文法や訳の正しさなど、気にせずに流していただければ幸いです。

※某作のパロディ多めです。


時女と傭兵と攻略アリナ・モニュメント ねむ・すなお編

「どうやら、この森に落ちたのは僕達だけのようだね」

 鬱蒼と生い茂る木々を仰ぎながらねむは言った。枝葉の間から覗く空は暗い。

 夜闇の暗さではない、黒雲に太陽が遮られているわけでもない。

 松明の光では照らせない、狭い通路の先の闇、ダンジョンの閉鎖的な闇が空一面に覆い被さって、蓋をしているような感じだ。

 月も星も浮かんでいないのに、周囲は歩く分には困らない程度の明るさが保たれていた。

「広い森を自由に探索しろ、という訳ではないようですね」

 すなおが見えない壁を叩きながら言った。

 二人の前には、茶色い土の獣道が伸びていた。

「迷う心配がないと喜ぶべきでしょうか」

「罠にかけられたら逃げ場が無いと嘆くべきだろうね」

 

 枯れ葉と土を踏む音だけが森に響く。

 

 ねむは思案しながら歩みを進めた。

(アリナはこのダンジョンのことを『マジカル大魔境北養』と言っていた。だとすればここは北養区の森の中だ。だけど、フェントホープや桜子のウワサが存在した辺りとは離れた場所のようだね・・・・・・)

 沈黙に耐えかねたのか、すなおが口を開いた。

「コアによって作られたダンジョンに入るのは初めてなのですが・・・・・・なんだか、ダンジョンというよりもゲーム・・・・・・? のような感じがします」

「・・・・・・すなおお姉さんはゲームを知っているのかい?」

「はい。ちはる様と出会う前、冒険者になった同族の子が地下迷宮のミンカのリビングから持ち帰ったんです。こう、手の平でピコピコって。アンデットに支配された町から脱出するゲームなんです。怖いけど皆でわーきゃー言いながらプレイすると楽しくて。ですが、一人ではプレイできませんね」

「そのゲームでも暗澹とした森の探索を行うのかい?」

「はい、例えば――」 

 

 コツン、と足音の質が変わった。足の裏に硬い感触。

 ねむとすなおの前方に、石畳で舗装されたエリアと水の止った噴水が現れた。

 そのエリアにだけ色とりどりの薔薇が生えている。庭園をの一部を切り取って、森の中に埋め込んだようだった。

「・・・・・・例えばあんな感じで、唐突に噴水が現れたりします」

「妖精でもいるのかな? ネイチャーリゾートの入り口というわけではなさそうだね」

 ねむは噴水に近づいて水面を覗き込んだ。

 腐った水が淀んでいる。ピクッとねむの眉が動く。

「なんの意味も無く設置されているわけではなさそうだね。参考までに、すなおお姉さんが見たゲームのその後の展開を教えて貰ってもいいかな」

「はい、わかりました。少しお待ちを」

 そう言って、すなおは噴水の周囲に沿って歩き、何かを見つけたのか「あっ」と声をあげて立ち止まった。ねむが近づく。

 

「このいかにもなくぼみにどこかに隠されているレリーフをはめると、噴水の水が抜けて、攻略のために必要なアイテムが出てきたりします」

「レリーフはこの辺りを探せば出てくるのかな?」

「いえ、先に進むと廃村や古城があって、そこで隠されたレリーフを見つけて引き返してくるんですよ」

「二度手間は避けたいね」

「しかも! レリーフは全く関連性の無い場所に隠されてるんですよ! 倒したクリーチャーが吐き出したり、ロッカーの中だったり、死体の中だったり死体の中だったり死体の中だったり。理論的に推理しても無意味なんです!」

「アリナが似たようなゲームを迷宮で見つけて参考にしているとしたら面倒だ。時間の無駄は避けたい。くぼみの形だけ合っていれば良いのかな?」

「どうでしょうか? 材質や重さも関係あるのかも・・・・・・」

「十五分ほど待てるかい?」

「ええ、何をするおつもりですか?」

 ねむは本を具現化してスラスラと物語を綴り始めた。

 何かを書き終えたねむが本に手をかざすと、右手にレリーフが具現化した。

「僕は物語を具現化することができるんだ。妖精とレリーフと森の噴水にまつわる掌編を書いた。後はレリーフだけ部分的に具現化すればいい。こんな風にね」

 ねむはレリーフをひらひらとすなおに見せた。

 

 レリーフをはめ込むと、ガチャンといういう音がして仕掛けが作動した。

 暗緑色の水がどんどん抜けていく。

「この後はどんな展開になるんだい?」

「おそらく、死体が出てきます」

「え?」

「死体が出てきます」

「・・・・・・」

 水位が低くなり、ジュゴゴゴゴーーと水の抜ける音が響き始める。

 噴水の底には、フルプレートアーマーを身につけた冒険者が横たわっていた。

 ご丁寧に、兜だけ着けず顔を晒している。顔は黒焦げになっており、一目見ただけでは男か女か判別がつかなかったが、体格からすると男だろう。

 ねむとすなおの表情が険しくなる。

「やっぱり死体じゃないですか!!」

「・・・・・・僕に問われても返答しかねるよ。本物かな?」

「作り物であると願いたいですが・・・・・・顔の炎を消すために噴水に飛び込んだのでしょうか」

「炎を扱うモンスターがいるのかもしれないね。さて、僕達はこの死体をどうすればいいのかな?」

「漁ります」

「え・・・・・・? 触るのかい? 素手で?」

「ネックレスとか、鍵とか、とにかくキーアイテムとなるものを探すんです。私の見たゲーム主人公ならそうします」

「狂ってるのかな?」

「知りませんよ! 制作者に聞いて下さい」

「「・・・・・・・・・・・・」」

「よければ、すなおお姉さんから」

「いえいえいえいえ、第一発見者はねむさんですから、ねむさんからどうぞ」

「星四冒険者の死体さばきを見て学ぶ良い機会にさせてもらえると助かるよ」

「いえいえ、ここは見習い冒険者の調理実習の場として。さ、まだ死体がお熱いうちに」

「びちゃびちゃだよ」

「ちょっと焦げたパイだと思えば良いんですよ」

「・・・・・・その言葉、魂に刻みつけておいて欲しい。今回は僕が漁るから、次はすなおさんにお願いするよ。僕の予想だと、この類いのイベントは先に進むほど過激に・・・・・・」

 そこまで言うと、ねむは俯いて、人差し指でクイッと眼鏡を触った。

「僕としたことが、大切なことを失念していたよ」

 ねむは再び本を具現化して、物語を綴り、

「オヒサシブリ―!!」

 ウワサさんを出した。

「こ、このお方は?」静香が驚いた顔でウワサさんを見る。

「今後、死体漁りの類いは全部ウワサさんにやってもらおう」

「アリエナーーーイ!!」

「凄いです、ねむさん!」

 すなおは小さく手を叩いて喜んだ。

「でも、このウワサって人、手が無いのにどうやって死体を漁るのでしょうか」

「・・・・・・・・・・・・口かな?」

「え?」

「見ないでおいてあげよう」

 二人は噴水に背を向けた。

 耳を塞ぎたくなるような咀嚼音が響いた。

 

 ウワサさんはねむに『アンディ』と書かれたドックタグを渡した。

「鎧を身につけた冒険者がドックタグだなんて、時代考証のこの字もないね」

 ウワサさんは「噴水の底に謎のメッセージアリ!」と言い残して消えた。

「メッセージ・・・・・・?」

 ねむとすなおが噴水を覗き込むと、死体とは反対側の底に赤いスプレーのようなもので大きくメッセージが記されていた。

 

『Go and tell aunt Yatchan All intruders are girl・・・・・・』

 

 ねむは眉をひそめた。

 怪しい英文だ。内容も文法も。

 文末は擦り切れているようにも見えた。

 ねむはすなおに意訳を伝えた。

 

『やちおばに報告しなさい。侵入者はみんな、女の子だと』

 

「やちおば? 誰のことでしょうか?」

「先に進めば分かることだよ。長居は無用だ」

 

 突如、ガサガサッと草木の擦れる音がした。

 二人は会話を止め、音のする方に目を光らせる。

 ねむ達が歩いてきた方向にある、見えない壁の向こうから、ザッ、ザッと行進するように規則正しい足音が聞こえてくる。

「謎を解いたらモンスターが出現する。ゲーム通りですね!」

「先に伝えて欲しい・・・・・・」

 見えない壁をすり抜けて、それが獣道へと姿を現す。

 赤いベレー帽。聖リリアンナ学園の緑の制服。

 さっきまで一緒に居たはずの仲間にそっくりのそれは。

「・・・・・・子供?」すなおが言った。

「まさか・・・そんな・・・・・・」

 

「「「灯花ちゃんダヨー!!!!」」」

 ばんざーいと両手を挙げて、得物に吠えるゾンビ達。

 

「逃げましょう!」

「うん・・・・・・」

 すなおが駆け出し、ねむは釈然としない表情で後に続いた。

 二人は森を走り抜けながら会話する。

「灯花さんがモンスターに変えられてしまったのでしょうか?」

「いや、灯花に限ってそれは無い。恐らくあれがアリナの言ったデスモンスターだと思う」

「どうしてアリナ・グレイがあなたのお仲間そっくりのモンスターを作成するんですか!? もしかして灯花さんはアリナの関係者・・・・・・?」

「それだけは強く否定させてもらうよ。少なくとも、今世ではね」

 

 ゾンビの群れは二人の正面からもやってきた。

 進行方向を塞がれたねむは立ち止まって武器に手をかけようとした。

 しかし、すなおがそれを止めた。

「ねむさん、私の後に隠れながら止らずに走り続けてください」

 すなおは手に魔力を集中させて水晶を具現化させた。魔法少女としての彼女の武器だ。

 すなおが水晶を前方に掲げると、ライトブルーの水晶から銀色がかった光が迸った。

 光に触れたゾンビ達は黒い灰となって消滅していく。

「ナニコレー」

「アツーイ」

「焦げチャウヨー」

「焦げたらオヨメ二イケナイヨー」

 

 光を放つ水晶を掲げながら、すなおが矢のようにゾンビの群れを切り開いていく。

「凄いよ、すなおお姉さん」

「私の固有魔法は『浄化の光』なんです。あの子達がアンデットなら効果があると思って」

「このダンジョンとの相性はバッチリだね」

「死体漁りの件はこれでチャラですよ」

 

 次々と仲間を葬る二人を前に、ゾンビの群れがざわつき始める。

 

「ヒドーイ。マブシー」

「デモ大丈夫。シガイセンカット、UVカット」

「灯花チャンには傘がアル!」

 

 ゾンビ達の右手に紫色の光が集まり、次々と本物の灯花とお揃いの傘を具現化した。

 そして一斉に傘を広げると、クルクル回しながらモデル歩きで、すなお達との距離を詰める。

 

「灯花の傘まで具現化できるとは、驚きだね・・・・・・」

「嫌っ! 怖いです。私達は走ってるのに付いてきてます。どうしてモデル歩きであそこまでのスピードが出せるのですか」

「「「灯花ちゃんダヨー!!!!」」」

 チラッと背後を一瞥した隙を付いて、すなおの眼前に、左右から二体の灯花ゾンビが現れた。

 すぐさま水晶の光を浴びせるすなお。

 灯花ゾンビは広げた傘で光を防ぐ。浄化の光で灯花ゾンビの動きを封じることはできたが、傘越しに魔力を弱められたせいで、消滅とまではいかなかった。

「光が通じない!?」

「「お日様はキライダヨー」」

 

「気は進まないけど、物理攻撃で捌くしかないようだね。次は僕が援護するよ」

 ねむはクロスボウを取り出した。矢に魔力を込めて進行方向に現れる灯花ゾンビ達を射貫いていく。

 ゾンビ達は傘を広げてガードするが、魔力を込めた矢は傘を容易く貫いた。

 矢を受けたゾンビ達は黒い灰になり霧散していく。

「良い腕ですね」

「いろはお姉さんほどの腕じゃないけどね」

「本は使わないのですか?」

「魔力は温存しておいた方が良いと思ってね。矢の方が消費が少ない。ういと灯花が一緒じゃないと、魔力の補給はできないからね」

 

 すなおとねむはゾンビを撃退しながら走り続けた。

 やがて開けた場所に出る。

 目の前には、木の板とロープで編まれた異様に細く長い吊り橋があった。

 本物の北養区なら、線路を敷いた鉄橋が架かっているはずの場所だ。

 橋の下には川と、川辺のキャンプ場があり、闇の中にぽつぽつと浮かぶ焚き火の中では、得体の知れない肉の塊が焼かれていた。

 いくつかテントも張ってあったが、とても下に降りて中を覗く気にはなれなかった。

 

「吊り橋とは、またベタな罠を仕掛けてくれるものだね」

「橋の真ん中辺りで足場が崩れて落下するパターンでしょうか」

「ぐずぐずしてると、灯花ゾンビが押し寄せてきて、重さに耐えきれず橋が落下するパターンだろうね」

「なら、一気に駆け抜けましょう!」

 

 すなおとねむは再び走る。そのまま勢いを落とさず、吊り橋に直進した。二人が、一歩、二歩、三歩と橋に踏み出した刹那、バキバキベキィィィィッという音を立てて吊り橋が崩れ落ちた。

 

「早っ」落下しながら、ねむが言った。

「すみません、私のせいです。私、龍族なので見た目以上に体重が・・・・・・」

 すなおは少し赤くなった。

「ねむさん、私に捕まって下さい」

「これでいいかな?」

 ねむはすなおの腰にしがみついた。

 すなおの両足が輝き、彼女の下半身が鋼のような青い鱗を持つ長い龍の尾に変化する。すなおは地面に叩きつけられる直前、尾で目一杯大地を殴打して、反対側の崖に向って跳躍した。

 

 すなおとねむは無事、落下地点とは逆の崖に着地した。

「どうやら、厄介なゾンビ達を撒くことに成功したみたいだね」

「結果オーライってやつですね」すなおが柔らかい笑みを浮かべた。

「ふぅ・・・・・・、まさかゾンビになった灯花に追い回されることになるとはね。事実は小説よりも奇なりとはこのことだよ」

 ねむは肩の力を抜いて、ほっと溜息をついた。

 すなおは対岸の崖を見た。

 Tゾンビ達は壊れた吊り橋の前に集まって、わらわらと蠢いている。

 これ以上、追ってくるような気配はない。

 

 橋を渡った後、あれこれとダンションに関係のない世間話をしながら十分ほど歩くと、木々の開けた円形の広場に出た。天然の闘技場のようだった。

 広場の中央には、巨大な黄金の盾を構えた金髪の少女がいた。

 恐る恐るねむが近づき、一歩離れてすなおが続く。

「さな・・・・・・?」ねむが小さく問いかけた。

「またねむさんのお知り合いですか? ・・・・・・ねむさんのお知り合いはクリーチャーのモデルにされる方が多いのですね」

「・・・・・・僕自信がモデルにされてないことを祈るばかりだよ」

 

「どうして私が盾に・・・・・・許せない・・・・・・みんな許せない」

 大盾を構えたさなそっくりの少女は肩を震わせながら、虚空に怒りを訴えていた。

 外見は魔法少女に変身したさなそのものだったが、鎧も髪も、目の眩むほどの黄金色に輝いている。

 さあ、私だけを狙って、と言わんばかりの見た目である。

 森の中なので、虫が集まってきそうだ。

「もしかして、君が『ゾンビから逃れるために、パーティーの盾にされて命を落とした女戦士のサーガレット』かい?」

「凄い、よく一字一句間違えずに覚えられますね」すなおが言った。

「これでも元作家だからね」

「でも、この人生きてますよ」

「こんな見た目でもアンデットなんじゃないかな?」

「随分とお金になりそうな見た目のアンデットですね」

 ゴールデンさなの視界には、目の前に居るねむとすなおは映っていないようだった。相変わらず、誰もいない空間に向って喚いている。

「アンディの裏切り者・・・・・・! 許せない許せない許せない。刑務所から脱獄したあなたを養ったのはわたしなのに!!」

「アンD?」ねむが言った。

「ほら、噴水の中で死んでた人ですよ」

「なるほど、アンディの事だね。なら、ここであのアイテムを・・・・・・」

 ねむはアンディのドックタグを取り出して、ゴールデンさなの目先にじゃらりと垂らした。

 さなの焦点が合っていないせいで、ねむが催眠術を掛けているように見える。

「さぁ、正気に戻るんだサーガレット。彼ならすでに死んでいるよ」

 ねむは、ドックタグを振り子のように揺らし始めた。

「君も怨みを忘れて、成仏するといい」

「ちょっとねむさん、敵で遊ばないで下さい」

「・・・・・・あなた、アンディの新しいパーティーメンバーね。私の代わりにアンディに誘われたんだ!!」

 ゴールデンさなは初めてねむとすなおの存在を認識した。

「あの、なんだかこの人、怒ってませんか?」

「えぇ・・・・・・まさかの戦闘開始フラグかな」

「ねむさんがからかうからですよ」

「あなた達も私を盾にして逃げるつもりね!! どうして皆私を盾にするの!!」

「外見のせいだと思います」

「見た目が九割じゃないかな」

「盾を捨てて、髪を黒く染めるところから初めてみてはいかかでしょうか?」

「うるさい!!!!」

「・・・・・・駄目だ。すなおお姉さん。話が通じる相手じゃないよ」

「ボス戦ですね」

「許せない。許せない。許せない。今度はわたしが皆を盾にして逃げるのぉおおおお!」

「「「灯花ちゃんダヨー!!!!」」」

 ゴールデンさなが叫んだ瞬間、すなお達の背後の茂みからTゾンビ軍団が広場に飛び込んできた。

 

「そんな、橋を落としたのにどうやって!?」すなおが言った。

「あまり深く考えないことをオススメするよ。ここはアリナの作ったダンジョンだからね」

 

「こっちに来るな、ゾンビ共ぉおおおおおお!!」

 ゴールデンさなの雄叫びが轟く。

 Tゾンビとは仲間ではなく、敵同士のようだ。

「派手なさなはテンションも高いね」

 ねむは落ち着いた様子で本を開いた。両開きの本のページが輝き、破れ、鳥の群れのように何枚も飛び立ち、守護するようにねむの周囲を旋回する。

 

「まとめて終らせてやる・・・・・・」

 ダミ声で搾り出すように言うと、ゴールデンさなは大盾を持ち上げて勢い良く地面に突き刺した。

 

『フォルター・ゲフェング二ス』

 

 呪詛を唱えるような声色だった。

 ねむとすなおは、悪寒に顔を引きつらせる。

 地獄の門が開くように、ゴールデンさなの大盾が口を開けた。

 

 盾の中から、虫や爬虫類のようにぐねぐねと動く、無数の拷問器具が飛び出してきた。

 人間サイズの舌を引き抜くためのペンチが、二本の持ち手を足のように動かして行進しながら盾の奥から溢れ出してくる。

 先端に刺々しいアームの付いた鎖が、何十本も盾から伸びる。

 最後に盾から現れたのは、黒いトゲ付きの棍棒と、螺旋状の溝が掘られた棒状のドリルだった。

 棍棒とドリルは蛇のようにうねりながら盾から這い出してきて、地面に潜った。

 

 数々の拷問器具は意志を持っているように振る舞い、ねむ、すなお、ゾンビ灯花達、その場にいる全ての者に、無差別攻撃を開始した。

 

 アームの付いた鎖がTゾンビの頭を掴み、次々と盾の中に引きずり込んでいく。

 歩くペンチはターゲットに近づくと、素早く頭に掴み掛かろうとする。

 ペンチを回避するねむとすなおの周りでは、頭を掴まれた灯花ゾンビ達が果実のように弾けていった。

 地に潜った棍棒とドリルは、凄まじい速度で回転しながら勢い良く隆起して、ゾンビ達を串刺しにする。

 

 ねむは大地から穿つドリルを最小限の動きでかわしながら、本のページで作った盾で、鎖とペンチをガードして無差別攻撃をやり過ごす。

 

 静香は両腕を、鋭い爪と鋼の鱗を持つ水龍族の腕に変化させて、地面から突き出るドリルを避けながら、四方から襲いかかるペンチとアームを豪快に叩き伏せていく。

 

「この程度では水龍族の腕に傷一つ付けられませんよ」すなおが言った。

「ならこれはどう?」

 ゴールデンさなの盾から、蜂ともアブともゴキブリともつかないグロテスクな羽虫が、台風の日に窓を開けると吹き付けてくる暴雨のような勢いで飛び出してきた。

 それを最後に、さなの盾はようやく閉じた。

 一連の攻撃が終ったらしい。

 すなおにとっては始まりだった。 

 羽虫は散らず、群れをなしてすなおめがけて飛翔する。

「~~~~~~っ!!」

 すなおは大気を(つんざく)高い雄叫びを上げて、固まった。

 羽虫の群れは一切臆さず、尚もすなおを目指している。

 もう駄目だと、すなおがぎゅっと目を伏せた刹那、ねむが対抗するように輝くページの群れを飛ばして、羽虫達を一匹残らず駆逐した。

「ありがとうございます、ねむさん!!」

 半ば涙目でそう言った後、すなおの表情はみるみる怒りに覆われていった。

 吊り橋で見せたように、下半身を水龍に変化させる。

 すなおは、崖で見せた跳躍の何倍もの力を込めて、再び盾を開こうとしたさなを巨大な尾でひとはたき。

 大盾は玩具のように弾かれ、ゾンビ灯花達に命中。

 さなの本体は全身の関節を有り得ない方向に曲げて、小さく森の彼方に消えた。

 ゴールデンさなが倒されたのに合わせて、ねむとすなおを取り囲んでいたTゾンビも消滅する。

 一撃で吹き飛んださなを見届け、ねむは唖然とした表情を見せた。

「すごい威力だね。どうしてゾンビの群れにはその技を使わなかったんだい?」

「身体の一部ですから、腐ったものには触れたくなくて・・・・・・虫も同じ理由です」

「なるほど、同意するよ」

 

 広場にはゴールデンさなの残した大盾だけが残った。

 盾が開き、中からレリーフが一枚出てきた。

 本来ならこのタイミングでレリーフを入手して、ゾンビと戦いながら来た道を戻り、落下した吊り橋を傍目に崖を下り、キャンプ地を超え、噴水まで戻ってアンディのドックタグを手に入れるのが正しい手順である。

 

 すなおは、役目を終えたはずなのに消えない大盾を冷めた目で見つめている。

「まさかコレ、キーアイテムじゃないですよね・・・・・・?」

「でっか」ねむの口調がくだけた。

「・・・・・・私が背負います。水龍族ですから。虫を倒してくれたお礼です」

「いや、偽さなを倒したのはすなおお姉さんだ。貸し借りはゼロだよ。ダンジョンを無事出られたら、是非、盾を運んでくれたお礼をさせて欲しい」

「はい、楽しみにしてますね!」

 二人はその後もゾンビ達と戦いながら森を抜けた。

 森を抜けた先には聖リリアンナ学園があった。

 丁度、校舎からはぐれた仲間が出てくるのが見えた。

 静香と、みふゆと、ういである。

 ねむとすなおは仲間の元に駆けだした。

 

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