マギア転生    作:川崎三文

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旅立ちと蛾とファイヤーボール③

 目を覚ますと深夜になっていた。

 

 いろは達は、異世界での十数年間の生活を忘れ、まるで今始めて再会したかのような表情でお互いの姿を確認した。

 五人は完全に前世の記憶を思い出した。

 

 ついさっきの出来事のようだった。神浜で鏡の魔女と戦って、仲間が一人、また一人と魔女に変っていく凄惨な光景が、五人の脳裏に蘇る。大切な仲間が硝子の破片でズタズタに引き裂かれていくような、強い痛みが胸に走った。

 

『いろは、ごめんなさい。私たちは死ぬ』

 

 あの時、やちよはそう言い残し、鶴乃、フェリシア、さなと共に、いろはに魔法少女の未来を託して、魔女化するまで戦った。それでも明日に届かなかった。

 策が尽き、魔女化していくみかづき荘の家族を瞳に映しながらいろはは思った。

 

『みんな魔女になっていく』

『あぁ、悔しいなぁ。命を託してくれたのに、もう祈ることしかできない』

『お願い、誰がお願いです。この絶望から希望を。どうか未来を幸せに』

 

 それが前世の最期の記憶だった。そこから先、自分たちがどうなって、なぜ異世界に転生したのか、誰も何も思い出せなかった。そもそも、転生に関する記憶が自分達の中に存在していたのかどうかも疑わしい。

 

 うっ、といろはが嗚咽を漏す。

 それを歯切に、やちよも、ういも、灯花も、ねむも、涙を流した。

 悲しみからではない。

 それよりも、また生きて再会できたという喜びの方が遙かに大きかった。

 

「やちよさん、ごめんなさい。私、勝てませんでした」

「もういいのよ、こうしてまた皆で再開できたじゃないの。魔女化の心配のない世界で」

 

 五人は涙を流して抱き合った。

 

 それらか少し遅めの夕食を取った。話題は尽きなかった。他愛のないことで笑った。

 魔法少女だった頃の日常は、戦いの中にある日常だった。今は違う。時々爆発しそうになる、胸の中の不安や、恐怖や、悲しみを押し殺しながら笑顔を作る必要もない。

 魔法少女としてではなく、平穏な生活を営む一人の人間として、食事と会話を楽しんだ。

 やがて五人の話題はこれからのことに移っていった。

 

「転生したのは僕達だけなのかな?」

「旭さんとちかさんも転生してるよ」ういが言った。

「探せばほかの魔法少女にも会えるかもしれないねー」

「やちよさん、お姉ちゃん、どこかで見た覚えはない?」

「どうかしら。記憶を辿っているけど、それっぽい子には出会わなかったわね」

「お姉ちゃん達、なるべく人の多い場所や騒がしい場所には近づかないようにしてたらね」

「静かに暮らしたかったのよ。町やギルドでも最低限の用事だけ済ませて、周りなんて見てなかったわ」

「鶴乃ちゃんや、フェリシアさんやさなちゃんも、転生してるんでしょうか」

「大きな町に行けばすぐに見つかるかも」ういが言った。

「そうね、記憶が戻った以上、あの子達のことを気にせずに生きていくなんてできないわ。のんびり捜してみましょうか」

「ちょっといいかな」ねむが手をあげた。

「なに、ねむちゃん?」

「かつての仲間を探すのはかまわないけど、前世の記憶を思い出させるような言動や行動は慎むべきだと思う」

「そうね。この世界で幸せに暮らせているなら、それでいいのかもしれないわね」

「思い出すのは楽しい記憶だけじゃありませんから」

 

 フェリシア、さな、鶴乃、みんなそれぞれ辛い過去を抱えている。

 プロミストブラットや、時女や、ネオマギウスや、フォークロアのメンバーも。

 

「まー、わたくしはお姉さま達さえいれば、あとは冒険者になって、自由に行きたいところへ行ければそれでいいけどね」

「灯花ちゃん、やっぱり冒険者になるつもりなんだね」いろはが言った。

「魔法少女に変身できるようになったんだもん。ギルドだってわたくしを冒険者だって認めてくれるよ」

「灯花、ファイヤーボールはもう撃てないんだよ」ねむは言った。

「ファイヤーボールなんてどうでもいいよ!!!!」

「あはは・・・・・・ひっぱるなぁ」ういは頬を引きつらせた。

「イジワルなねむはほっといて、この世界の情報について改めてきょーゆーしておきたいんだけど、いいかにゃー」

「いいけど、一言で言うならベッタベタの異世界転生モノの世界よ。ギルドに、魔法に、ダンジョンに、冒険者に、東の大魔王に・・・・・・・・・・・・あっ」

「やちよさん、もしかして東の大魔王って」

「十七夜ね。間違いないわ」

「さっそく会いに行ってみるかい?」ねむが首を傾けた。

「いえ、やめておきましょう。迂闊に魔族領に近づくのは危険よ。悪意を持って接してくる魔族がいるかもしれないわ。安全に接触できるチャンスを待ちましょう」

 

 この世界には主流となる五種族とその亜種となる五種族、合わせて十の種族が存在する。

 

『人族』とその亜種の『獣人族』

『エルフ族』とその亜種の『ダークエルフ』

『火竜族』とその亜種の『水龍族』

『精霊族』とその亜種の『妖精族』

『魔族』とその亜種の『吸血鬼族』

 

 魔族はその中でもとりわけ他種族に対して攻撃的な種族であるとされている。しかし、やちよはそれを否定した。実際に接触した者の話を聞くに、どうもそうではないらしい。

 

 全ての種族が力を合わせて戦った五百年前の『魔獣王ティロ・フィナーレ』討伐作戦以降、魔族とその他の種族は不可侵条約を結び、現在でもそれを維持し続けている。

 とはいえ、各地で魔族と他種族の小さな小競り合いは起きているので、溝が完全に埋まったわけではない。

 用心しておくに超したことはないわ、とやちよは話を締めくくった。

 

「十七夜さん、元気だといいなぁ」

「ういは優しいね。場合によっては戦う事になるかもしれないんだよ?」灯花が言った。

「十七夜さんが治めてるならきっと大丈夫だよ! わたしは魔族ともお友達になれると思うな」

「なれるといいね、うい」

「うん!」

「まだ暫定よ。十七夜が魔族の長だと決まった訳ではないわ」

「そうでしたね・・・・・・」

 

 いろはは困り笑顔になった。

(さっき『間違いないわ』って言ったのはやちよさんだった気が・・・・・・)

 

「そこで提案なんだけど、わたくしたちは明日『リマセラ』まで行ってみるね。冒険者ギルドに登録するついでに、転生した魔法少女が居ないか、町中を探索してみるから。二晩くらい外泊することになるかも」

 

 リマセラは灯花達が暮らしているワビストン王国の首都である。

 

「明日? 私といろはは明日からお隣さんと一緒に森の魔物退治の依頼をこなさなくちゃいけないのよ」

「魔法少女に変身できるようになったんだもん。わたくしとういとねむ、三人で大丈夫だよ」

「僕達の固有魔法はエネルギーの『回収』『変換』『具現化』だ。どんな異世界にも対応できる、まさに異世界に転生して活用するためにあるような能力だよ」

「本当に三人だけで大丈夫?」

「うーん、わたしはやちよさんやお姉ちゃんと一緒の方が安心できるけど・・・・・・三人で冒険してみるのも面白いかも!」

「まぁ、この辺りは治安もいいし、モンスターの数も少ないから、マギウスだった頃の経験と記憶を取り戻したこの子達なら大丈夫でしょうけど・・・・・・」

「とーぜん」灯花は胸を張って言った。

「はぁ・・・・・・その調子じゃ説得しても言うことを聞きそうにないわね」

「くふっ」

「むふっ」

「一つだけ約束して頂戴」

「何かにゃー」

「現代知識無双だけはしないこと。したいときは必ず私達にも相談すること。あなた達のはこう、エグそうだから」

「したいのは山々だけどー、この世界を構成している素粒子が前の世界と同じかどうか、同じ物理法則に従って振る舞っているかどうか、そもそも素粒子なんてものが存在しているのか、今のわたくしじゃ確かめようがないんだよねー」

「学会に論文を発表する的な意味で言ったんじゃないわよ」

「くふふっ、分かってるよー」

「固有魔法に目覚めても、前世みたいにテレパシーは使えないから注意すること」

「それくらいわかってるよ」

「知らない人についていっちゃダメだよ。モンスターに遭遇したら無理せず逃げてね。それから、それから」

「もう、お姉ちゃん心配しすぎだよ」

「それから、加害者になるのも言語道断よ。人を利用したり、怪我させたりしないこと」

「もうっ、わたくし達を何だと思ってるのー!」

「町に着いたら、転生した仲間が居そうな場所をチェックしてみるよ」

「ねむちゃん、分かるの?」いろはが言った。

「大体見当が付くよ」

「私も、何となくだけど予想できるわ。そうね・・・・・・まず冒険者ギルドにはももこが居ると思うわ」

「あぁ・・・・・・確かに居そうですね」

「確実に居るね」

「魔法少女に変身すると冒険者みたいな格好になるもんねー」

「ももこさんかぁー・・・・・・今度は冒険者としてわたしに色々教えてくれるのかな」

 ういはしみじみと言った。

 

 魔女の強い神浜の魔法少女として活躍できるかどうか見極めるため、ういは前世でやちよから試験を課せられた。パートナーは一人だけ。ういはそこでももこを選んで、見事、試験を乗り越えた。

 

「えー、こんな原始的な世界の冒険者に教えてもらうことなんてないよ。お姉さま達からだけじゃなくて、お隣さんからも色々おしえてもらったから大丈夫」

「気を抜き過ぎだよ、灯花」

「困ったら隙を見て現代知識無双すれば――」

「ダメって言ったでしょ!!!! 少しは前世での過ちを反省しなさい」

「過ちじゃないもん! きっと成功のために必要な失敗だったんだよ。前世の過ちを今世で成功に変えるんだよ!」

「おめでとう灯花、君はその身をもって馬鹿は死んでも治らないこと証明したよ」

「馬鹿と天才は紙一重っていうでしょー。わたくしは死んでも治らないタイプの天才なの」

「とにかく、二人が一緒ならどんなクエストでもへっちゃらだね」

「まぁいいわ。まずはあなた達の年齢で本当に冒険者になれるかどうか、その目で現実を確かめて来なさい」

「「「・・・・・・」」」

「そんな風に断言されると、成し遂げてみたくなるものだね。今、僕の闘志に火が付いたよ」

「うん、やってみなくちゃ分からないよね。わたしも灯花ちゃんとねむちゃんと一緒に冒険者になりたい! 大丈夫、十一歳ならきっとセーフだよ!」

「アウトだよ、うい」いろはが言った。

「そんなことないもん! 見ててね、お姉さま。わたくし絶対に冒険者になってみせるから」

「あなた達の熱意だけは伝わったわ」

 

 やちよは視線だけ動かして窓の外を見た。ずいぶんと長いこと話していたような気もするが、空はまだ暗い。

 

「取りあえず、今日はもう寝ましょうか」

「「「はーい」」」

 

 こうして、記憶を取り戻した病院組みのなんちゃって異世界ライフが幕を開けた。

 

 

 

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