マギア転生    作:川崎三文

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時女と傭兵と攻略アリナ・モニュメント VSダンジョンマスター

「さて、この七人ならいくらでもやりようがありそうですが、どう攻めますか?」

「的が大きいし、一斉に攻撃を叩き込めばそれで終るんじゃないかしら」静香が言った。

「ウイとネムリンは『スーパーエクスプロージョン』を吸収させると言っていた。エネルギーを吸収する能力を持っているかもしれないね」

「そのスーパーエクスプロージョンとやらをういの回収とわたくしの変換でコネクトに乗せれば、ダンジョンマスターを一撃で倒せるんじゃないかにゃー」

「さすがにわたしじゃ持ちきれないかも・・・・・・」

「だよねー」

「搭乗者を倒せばいいのではないでしょうか」すなおが言った。

「最悪、制御を失うだけでダンジョンマスターが暴走するかも知れません」

「ちょっとみんな、フェリシアさんをやっつけちゃだめだよ」ういが焦りの声をあげる。

「あ、降りてきますよ」

 すなおが言った。一同はすなおの視線の先を見た。

 

 四枚の翼を広げ、漆黒の空からいろタウロスが下降してくる。

 広げた翼で勢いを殺しながら、北養の森にいろタウロスが降り立った。

 巨体に潰され、折れる木々の音が響く。

 場所は、フェントホープの正門よりも少し先。

 燃えさかる森を背景に、翼を畳んだいろタウロスは、庭の冒険者達に向って威嚇するように雄叫びを上げた。

 

「空から攻撃すればいいのに・・・・・・」

 脅しをものともせず、冷めた表情でねむが言った。

「フェリシアさんらしいですね」みふゆはクスリと笑った。

 地響きのような足音が庭に近づいてくる。

「話し合いはここまでのようですね。王道ですが、動きを止める方向で立ち回りましょうか」

「足や羽根を攻撃すればいいんだね」ちゃるが言った。

「ええ、できれば翼を重点的に。ねむが言った通り、空を飛ばれると面倒ですから」

「背中に張り付いて、根元から翼を引き剥がしてやるわ」

 静香は胸の前に鋭い爪を掲げた。

「では、私もご一緒します」すなおが言った。

「灯花とねむはフェリシアさんを挑発しつつ、ダメージが通りそうな場所に攻撃を仕掛けてみて下さい。ワタシ達よりも、灯花達に煽られた方が、フェリシアさんはムキになると思いますので」

「りょーかーい」

「承知したよ」

「なんだか変な感じ、わたしがイブと戦うなんて・・・・・・牛だけど」ういが言った。

「ワタシとちはるさんとういさんは様子を見ながら陽動、サポート、攻撃を臨機応変にこなしていきましょう」

「みふゆ」

「何でしょうか、灯花」

「今、ちょっとだけ冒険者っぽいよ」

「ありがとうございます」

 みふゆは白羽根としてマギウスの翼を束ねていた頃の笑顔を見せた。

 

 いろタウロスは、正々堂々、フェントホープの正門から庭に入ってきた。

「さーて、どうすっかな」

 いろタウロスの胸元の水晶の中で、フィリシアはぐるりと肩を回す。

「とりあえず、殴るか」

 フェリシアは水晶越しに、フェントホープの前に立つ冒険者達を値踏みする。その瞳に、獣人族と水龍族の姿が映った。

「決めたぜ!」

 いろタウロスの右手のハンマーがみるみる小さくなっていく。いろタウロスは小さくなったフェリシアのハンマーを小石のように宙に投げると、パシッと掴んで握り込み、岩のような拳を作った。

 ニシシっと笑って、嬉しそうに巨大な拳を水晶の越しに眺めるフェリシア。

 ふと敵を見ると、静香とすなおもフェリシアの敵意を気取り、狙われていると気付いたのか、臆することなく一歩一歩いろタウロスに向って距離を詰めている。

「面白れぇ、後のホテルごとぶっ飛ばしてやる!」

 いろタウロスは庭の敷居を蹄で蹴り抜き、文字通り牛のように静香達に向って猛進する。

 静香とすなおは、迫る巨体を前に歩みを止めた。二人の佇まいは沈着そのものだった。

 すーっと息を吸い込むと、静香とすなおは目の前の空気を優しく押すように手の平を広げて両腕を伸ばし、腕、腹、足腰に極限まで魔力を込めた。

 いろタウロスは突進しながら腕を振りかぶり、巨躯の体重をすべて乗せ、二人に向って隕石のような拳を繰り出した。殴るというよりも、拳を面にした体当たりに近い。

 やや打ち下ろすような軌道を描いて、二人の眼前に迫る化け物の拳。

 虎と龍の獰猛な腕と、いろタウロスの巨腕の拳が突き当たる。

 高速で打ち出された金属の塊同士が衝突したかのような音が、魔法少女達の鼓膜を(つんざ)いた。

 衝撃で足元がひび割れる。数瞬後には深く地面が抉れ、土と敷石の欠片を巻き上げた。

 同時に、いろタウロスの拳が止った。

 体長三十メートルの化け物の拳を、静香とすなおは受けとめた。

「マジかよ! プリ○ュアかよコイツら・・・・・・」

 フェリシアはあからさまに動揺したが、すぐに突き出していた拳を引かせ、拳の中に握っていたハンマーを巨大化させると、

「ウルトラグレートビッグハンマー!!!!」と叫びながら振り下ろす。

 静香とすなおは受けとめずに飛び退った。鋼のハンマーが地面を穿つ。

 ハンマーを叩き降ろされた地面は、爆音と共にクレーター状に抉れ、今度は庭園全体に放射状の亀裂が走った。

 舞い上がった土埃と土砂に紛れて、静香とすなおはいろタウロスの背後に回り、その背中に取り付いた。

 ハンマーの威力と、それから逃げた二人の様子に満足したのか、フェリシアは笑い声を響かせ喜んだ。

 愉悦感に気を取られて、背中に取り付いた静香とすなおには気付いていない。

 フェントホープの影から思惑取りに動くフェリシアを見ていた灯花とねむは、口元に小さく笑みを浮かべた。

 

「くふふっ、大きくなっても戦い方は傭兵さんのままだね」

「ああ、驚くほど単純だ。この分だと、決着は早く付きそうだね」

「次はわたくし達の番だね。フェリシアが背中の時女さん達に気付かないように、おもいっきり挑発しないと」

「煽りに煽って、僕達に気を引きつけよう」

 

 灯花は傘を飛ばし、ねむは本のページを開く。

 幾本もの傘がいろタウロスに向けて空を貫く。

 少し遅れて、ねむの本から、破れたページがムクドリの群れのように飛び出して、灯花の傘と共にいろタウロスの周囲をバサバサと旋回した。

「なんだよ、紙と傘なんかで何するつもりだよ!?」

 フェリシアは焦り、キョロキョロと視線を泳がせた。

 傘とページは虫のように纏わり付くだけで、いろタウロスに攻撃してくる様子はない。

 やがて、ランダムに宙を舞っていたねむのページが、大きく宙に「バーカ」の文字を描いた。

 文字が完成した瞬間、それをデコレーションするように巧みに配置された灯花の傘がバッと開いて花を咲かせる。 

 文字を見つめ、拳を握り、奥歯を噛み締めてぷるぷると震えるフェリシア。

 双眸に殺気が宿る。

「・・・・・・ぶっ潰す!」

 いろタウロスは暴風の如きハンマーの横薙ぎで「バカ」の文字を掻き消した。

 呼吸を荒げて灯花とねむを探すフェリシア。そこへ追い打ちを掛けるように、灯花とねむは堂々と姿を現した。灯花はニヤついた笑みを浮かべながら、両手に持った傘を振って自身の存在をアピールする。

「やっほー、わたくしが見えてるかにゃー」

「さぁ、僕達と一緒に紙飛行機で遊ぼう。お馬鹿な傭兵さん」

 ねむは本のページで作った紙飛行機を、ひょいひょいと、フェリシアに向けて飛ばし始めた。紙飛行機の先がコツン、コツンと、フェリシアの乗った水晶を叩く。

「オマエら・・・・・・いいぜ、傭兵のお姉さんが遊んでやるよ」

 いろタウロスは二人に近づき、ハンマーを両手持ちに替え振り上げた。

 掲げられたフェリシアのハンマーはみるみる巨大化して、いろタウロスの体躯を上回った。

 灯花とねむはクスクスと笑いながら頭上の武器を見上げ、その場から動こうとしない。

 必殺の一撃を浴びせようと、いろタウロスがハンマーを振り下ろした瞬間、灯花とねむの姿が増えた。

 フェリシアの口から「ふぇ・・・・・・?」と情けない声が漏れ、同時にハンマーの下にいた灯花とねむは叩き潰された。ハンマーはそのまま大地を砕き、轟音が響き渡るが、フェリシアはもう手元のハンマーを見ていない。

「ちょっ、オマエら・・・・・・」

 合わせて四十人ほどだろうか。あちこちに出現した、灯花とねむの分身は、いろタウロスに向って手を振ったり、わざとらしく雑談に興じていたり、石を拾って投げつける者もいた。

 フェリシアの瞳が動揺に震える。

「何だよ、何分裂してんだよ・・・・・・オマエらスライムだったのか?」

「はぁ・・・・・・傭兵さんはほーんとお馬鹿なままだねー」

「んだと? さっきから人のことバカバカ言いやがって、オマエが本物だな」

 フェリシアは暴言を吐いた灯花に狙いを定める。

 いろタウロスがハンマーを振り降ろす。真下にいる灯花は先ほど同様、迫るハンマーを見上げたまま笑みを崩さない。

 灯花はあっけなくハンマーに潰された。

「うぉい! どいつもこいつも、ちゃんと逃げろよな!」

「少し遊び過ぎたようですね」

 ハンマーの下から声がした。白い煙が地面とハンマーの隙間から立ち上り、むくむくとみふゆの姿に成長していく。

「白いねーちゃん!?」

 フェリシアが驚きの声を上げると同時に、いろタウロスの足元に散らばって騒いでいた数十人の灯花とねむが、武器である傘と本をポンと宙に放り投げた。それらは空中で不自然なほど回転すると、みふゆの武器である円月輪に変化して、灯花とねむの手元に戻ってきた。

「今度はこちらが攻撃する番です。幻覚ではないので、覚悟してくださいね。みんなでアサルト・パラノイア」

 おかあさんと○っしょの体操お姉さんを彷彿とさせるトーンでみふゆが言う。

 灯花とねむの群れは一斉に円月輪を構え、四方八方から、いろタウロスに襲いかかった。姿こそマギウスの二人だが、バレエダンサーのような優雅な身のこなしはみふゆの動きそのもので、しなやかに体を曲げ円月輪を投げつける灯花もいれば、懐に入って円形の刃で切りつけた上に、足首の鉄球を鋭い蹴りと一緒にお見舞いするねむもいた。

 数十体の灯花とねむの正体は、『幻覚』と『具現化』の魔力を持つみふゆとねむがコネクトすることによって生まれた、実体を持つ分身だった。

 円月輪だけを増やしてぶつけるよりも、人型の実体を伴う方がフェリシアは混乱する。灯花とねむがそう予想した通り、フェリシアはパニックに陥った。

 そこへ本物のみふゆが現れ、魔力で増やした円月輪をいろタウロスに向けて放つ。

 

 いろタウロスの背中に張り付いていた静香とすなおは、翼の根元を攻撃する手を止め顔を見合わせた。

「みふゆさん・・・・・・私達が背中にいること、忘れてないわよね?」

「後もう少しなのですが・・・・・・まさかこれほど頑丈とは・・・・・・」

 すなおは肉を削られ、剥き出しになった翼の付け根の骨格を見つめた。それは白い骨ではなく、磨かれた鉱石のように魔力を内包して輝いていた。

 

 全方位から迫る円月輪は曲線的な軌道を描いて静香とすなおを避けながら、いろタウロスの巨躯を斬り付ける。しかし、損傷は驚くほど浅かった。部位によってはかすり傷で済んでいる。

「んだよ、驚かせやがって。見た目は派手だけど大した技じゃねーな。いや、兄貴がすげーだけか」

 冷静さを取り戻してゆくフェリシアに対して、みふゆは少し焦りの色を浮かべた。

「想定よりも硬いですね・・・・・・。フェリシアさんの目的は時間稼ぎのようですし、Tゾンビから集めた魔力を防御力の強化に当てているのでしょうか」

 

 いろタウロスは飛び交う刃に刻まれる中、それを振り払う動きをやめた。

、ゆっくりとハンマーを両手で持ち、胸の前に突き出して水平に構える。

「おや、何かするつもりでしょうか?」

「弱いけど、ウザってぇ・・・・・・、ぜんぶ吹き飛ばしてやんよ」

 胸の水晶から「うおりゃぁああああっ」というフェリシアのくぐもった叫び声が響き、いろタウロスは全身を独楽(こま)のように回転させた。

「キャァアアアッ」と声を上げながら静香とすなおが飛ばされる。

 みふゆの円月輪も弾かれていく。

 キンキンと、情けなく吠える犬のような金属音。

 回転は続き、みふゆとねむのコネクトの効果が切れて分身が消滅する。

 しかし、みふゆは笑みを浮かべた。

「フェリシアさんらしい選択ですね。・・・・・・ですが、その場しのぎの悪手です」

 

「ねむ、わたくし達も」

「ああ、これはチャンスだ。いつまでも回転しているわけにはいかないだろうからね」

 本物と灯花とねむは、再びフェントホープの影から傘と本のページを飛ばした。

 

 生け垣の裏に隠れて、ずっと戦いの様子を見守っていたういとちゃるが手を繋ぐ。

「ういちゃん、わたし達もコネクトで」

「牛さんの動きを止めるんだね」

 

 いろタウロスの回転スピードが徐々に弱まっていく。

 回転が止まり、目を回した中のフェリシアが「オェエエエ」と嘔吐(えず)いた瞬間、ちゃるとういのコネクトが発動した。

 尻尾から縄を伸ばした大きなツバメ型の紋様が四匹、フラつくいろタウロスの周囲をぐるぐる巡って、その巨体を縄で雁字搦(がんじがら)めに拘束する。

 いろタウロスを囲んでいた灯花の傘とねむのページが総攻撃の準備に入る。

 灯花の傘がいろタウロスに照準を定め、中棒の根元にエネルギーを溜めていく。

 バラバラと宙を舞っていた本のページが、ねむの合図で白く輝き、鋭い光の刃と化す。

「今です!」と叫び円月輪を放つみふゆ。

 魔法少女達の一斉攻撃が始まった。

 みふゆの飛ばした満月のような刃が弧を描きながらいろタウロスの胸を、腕を、背を切りつける。

 刃と化した本のページが光の尾を引いて流星のように降り注ぐ。

 灯花の傘から放たれた幾筋もの熱線は、動けなくなったいろタウロスの全身を無慈悲に焼いて黒く焦す。

「このまま一気に決めましょう」

 熱線に焼かれボロボロになった皮膚をみふゆの円月輪が切り裂き、ねむの本のページが貫く。

 途切れることなく続く、三人の波状攻撃。

 拘束された状態で、全身を料理されるように削られてゆくいろタウロス。

 焦され、傷つけられた毛皮は白と紫の美しい縞模様を失い、全身のほとんどが、アンデッドモンスターのようなグロテスクで痛々しい体表へと変貌してゆく。

 これで終わりだろうかと、みふゆ達が思った刹那、総身が怖気(おぞけ)だつような呻きが大気を震わせた。

 いろタウロスを飾る宝石に魔力が巡り煌めきを放つ。

 皮膚を焼かれ、切り裂かれても、全身を覆う宝石だけは輝きを失っておらず、傷一つ付いていなかった。

 紫の水晶の中では、フェリシアが勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

「十分時間稼ぎになったろ・・・・・・じゃーなオマエら、生きてたらまた会おうぜ」

 熱を放射し太陽のように輝く宝石達。

 

『ストラーダ・フトゥーロ』

 

 世界そのものに復讐するかのように、いろタウロスはみふゆ達だけに的を絞らず、無差別に、宝石から圧縮された魔力の矢を放つ。

 ほとばしるようなピンクの残光が空に走って、辺り一面にエネルギーの矢が被弾する。

 みふゆ達は瞬時に攻撃を止め、回避と防御に専念した。

 北養区を蹂躙した魔弾を、灯花とねむは化け物じみた反射神経で避けてゆく。

 ういはちゃるを守護するように、四匹のツバメを展開した。

 混乱の最中にいる魔法少女達に、矢によって叩き崩されたフェントホープの瓦礫までもが降り注ぐ。

 皆が焦りの表情を浮かべる中、静香はいろタウロスの背を視界に捕らえ、目を細めて小さく笑う。

 翼の付け根の傷口から覗いていた骨が、宝石のような輝きを失っていた。

「好機のようですね」

 すなおも気付き、静香に向けて微笑んだ。

「防御主体から攻撃主体へ切り替えたのかしら」

 光の矢と瓦礫をかわしながら、静香とすなおは目配せでタイミングを見計らう。

 

 一方みふゆは光の矢を躱しつつ、いろタウロスのさらなる異変に気付き、目に焦りの色を浮かべた。

 ルビー、エメラルド、サファイア、真珠、色とりどりだった体を覆う宝石が、黒とピンクの二色のみに変わっている。

「皆さん、気を付けて! 次の攻撃が来ます」

 

『ドロネバ・コリーダ』

 

 いろタウロスの全身の宝石から、黒とピンクの、魔力によって形成された二種類の核が放出される。炎のようなエネルギーを纏ったそれは、魔法少女達の方へは向わず、地上に落ちて暴れ牛の形に変化した。

 廃墟と化したフェントホープの庭を、光輝くピンクの牛と、漆のように艶めく黒い牛が暴走する。

 

 灯花が「くふっ」っと口元を歪め、突進してくるピンクの牛を傘で突き返すと、猛烈な閃光と熱を放って炸裂した。反応を予想していたのか、灯花は傘を広げてガードするも、「わたくしの計算よりもきょーれつだよー」と叫びながら吹き飛んだ。

 おふざけをかました灯花を尻目に、やれやれと肩をすぼめながら、ねむは黒い牛の突進を躱す。背後の瓦礫と衝突した牛はタールのように飛び散った。が、またすぐに牛の形に戻り、少女達に向けて暴走する。

 ピンクの牛の正体は疾走するエネルギー弾、黒い牛の正体はいろタウロスが咀嚼し、体内で増殖した羊のスライムの一部だった。

 

「ねむ、ひらりマント出して」

「また無茶を。僕は灯花のドラミちゃんじゃないんだよ」

「お二人とも、こんな時に・・・・・・」

 

 軽口を叩きながらも、灯花は傘、ねむはページ、みふゆは円月輪で牛を攻撃した。

 厄介なことにピンクの牛は、少女達の手から離れた武器の攻撃には反応せず、爆発しなかった。

 

 いろタウロスは、冒険者達が二色の牛の対処で手一杯になっている隙に、熱線や円月輪の攻撃で脆くなった拘束を引き千切ると、フラつきながら立ち上がった。

「んじゃ、反撃開始だな」

 しかし、いろタウロスの足取りはおぼつかない。

「気持わりぃ時は吐いていいんだぞ、兄貴ぃ」

 フェリシアは慰撫(いぶ) するような口調で語りかけた。

 それを合図に、いろタウロスは口から大量の黒いスライムを嘔吐した。

 蛇口を捻ったかのように、巨躯の体積を無視して溢れる黒い奔流が場にさらなる混乱をもたらす。

 高波のように迫る黒いスライムから逃げ惑いながら、「うにゃーーっ」「キャーー」と叫び声を上げる灯花とうい。

 みふゆとねむも、声こそあげないものの、うっと喉を詰まらせたような、汚物をみる表情になっている。  

 スライムの波は壁となって退路を塞ぎ、逃げ道を失った魔法少女達に黒い牛と、ピンクの牛が殺到する。

 少女達の悲鳴と、炸裂する牛の衝撃音。

 

 その惨状を見下ろしながら、たばこの煙を吐くように、フェリシアはふーっと吐息を漏した。

(やっぱ、お子様に効果抜群だよな、この攻撃。ゲロ吐き終ったら、こいつらが混乱してるうちに空からストラーダ・フトゥーロを叩き込んでやる。兄貴の魔力が尽きるまでな・・・・・・)

 どちゃびちゃと吐きながら、両翼を広げるいろタウロス。

 フェリシアが勝利を確信した瞬間、いろタウロスの上半身がぐらりと揺れた。

 背中からブチブチィッと筋繊維が千切れるような音がする。

 続いて、ズロロォと何かが抜けるような嫌な感触。

 後に目があるわけではないが、フェリシアは思わず水晶の中でバッと振り返った。

 

 牛たちの突進を躱しながらも、立ち上がって翼を広げた瞬間を見逃さず、背中に飛びついた静香とすなおが、強靱な下半身をバネにして全力で翼を引き抜いた音だった。

「嘔吐中に攻撃すんなよ!!」

 フェリシアの叫びも虚しく、四枚の翼が地面に落ちて、ドチャリという音が響く。

「今だよ二人とも、槍を使って!」ちゃるが叫ぶ。

 静香とすなおは、盾とハンマーから変化した二本の槍を抜くと、獣と龍の凄まじい膂力を乗せて、傷口めがけて突き刺した。

 背中の傷からいろタウロスの体内に入った槍は、胸部に収納されていた二つのダンジョンコアを貫通し、胸を突き破って地面に刺さった。

 胸に二つの穴が空き、雄叫びを上げながら体勢を崩すいろタウロス。

「ちゃる!」

「いただき、天誅!」

 静香の声に、ちゃるが答える。

 跳躍したちゃるがボチョコンの爪でいろタウロスの背に蹴りを叩き込む。キックバック効果が発動して、つんのめり、自ら吐いたスライムの海に倒れるいろタウロス。

 フェリシアが水晶の中で舌打ちする。

「クソッ、コアを二つも破壊された。もうストラーダ・フトゥーロは撃てねぇし、空も飛べねぇ。・・・・・・戦えねーなら、後は大人しく亀になるしかねーか」

 黒い暴れ牛がいろタウロスの元に集まり、スライムの海と同化していく。強靱な殻を形成するため、フェリシアがスライムの海をいろタウロスに纏わせようとしたその時、

「阻止」

 静香がうねるスライムの動きを魔力で止めた。

「今のうちに全員でトドメを!」

「敵の防御力はすでに落ちています!」すなお叫んだ。

 黒い沼から上半身を起しながら、スライムのこびり付いた水晶越しに、フェリシアは初めて弱々しげな声を出した。

「マジかよ・・・・・・万策尽きたぜ」

 

 ういは背負っていた偽やちよの槍を抜いた。

 最後のあがきと言わんばかりに、槍を持つういめがけて、ピンクの牛が殺到する。

 が、みふゆとねむが二度目のコネクトを発動させて、実体を持つ分身を暴れ牛の群れに特攻させる。

「うい、灯花!」

「わかってるよー」

 炸裂するピンクの閃光を背景に、灯花とういが高く飛ぶ。

 ういは槍の穂先をいろタウロスの背に向ける。

 灯花が手を添え、魔力を流す。

 螺旋を描いて二人の魔力が槍に流れ、偽やちよの魔力と一つになる。

 強化されたその形状は、もはや槍ではなくロケットに近い。

 煌びやかな幾何学模様とゴシックな装飾。ういのツバメが変形したような主翼に、傘のような四つの魔力ブースター。

「偽やちよお姉さまの一本攻め」

「輝け」

「貫け」

「「ビッグバンやちよドライバー!!!!」」 

 二人の手元から勢いよくそれが飛び出す。狙うは、先ほど空いた二つの穴の中間だ。

 極太の魔導兵器と化したそれは、ドリルのように回転しながら、いろタウロスの背中を穿ち、最後のダンジョンコアを砕くと、水晶に乗ったフェリシアの頭上から突き抜けて、ダンジョンの彼方に消えて行った。

 いろタウロスの胸から紫の水晶がポロリと外れる。

 水晶はフェリシアを乗せたまま地面に落下し、パリンと割れた。

「あーあ・・・・・・負けちまったか。でも、楽しかったぜ、兄貴」

 塵となって空に消えてゆくいろタウロスの巨躯を見上げながら、フェリシアは寂しそうに呟いた。

 ピンクの牛や黒いスライムも灰となって消滅する。

 しかし、全てが消えたわけではなく、穴の空いた二つのダンジョンコアと、素材となる部位だけはしっかりと残っていた。

「終ったみたいね」

 静香とすなおは変身を解いて、ほっと溜息を付いた。

「あなたも、よく頑張りましたね」

 すなおがフェリシアをねぎらうように微笑みかける。

「うるせー・・・・・・」

 フェリシアは照れくさそうに口にした。

 パァーンと空で何かが弾けた。コアを貫いて北養の彼方に飛んだやちよが、青い花火にとなって散った音だ。

 魔法少女達が祝福の花火に見とれていると、宝箱を胸に抱えたTゾンビがちょこちょこと駆けてきた。

「灯花チャンは敵ジャナイヨー。槍でコアを貫いたゴホウビ。三つアルカラ、喧嘩シナイデ、ワカチアエ」

 ゴスンと宝箱を降ろすTゾンビ。みふゆが中身を確認する。Tゾンビが言った通り、中には三つのアイテムと使い方に関するメモが入っていた。

 

『トーカのベレー帽』

 被せた相手を三分間、状態異常『Tゾンビ』にすることができる。Tゾンビ状態となった者も『トーカのベレー帽』を被っており、最大三十体まで増殖可能。一度Tゾンビ状態から回復した者は抗体ができ、二度とTゾンビにはならない。『トーカのベレー帽』は最初にこれを被った者を使用者として認識し(Tゾンビ化はしない)、それ以外の者が使おうとすると灰になって消えてしまう。

 

『いろタウロスフィギュア』

 背中のスイッチを押すと、一日に三分間だけ六分の一スケールのいろタウロスを操れる。稼働には使用者の魔力が必要。

 

『使い捨てAキューブ』

 エンブリオイブから食料まで、なんでも収納できる緑色のサイコロ型の結界。サイコロに記された数字の数だけ何かを出し入れできる。使用回数がゼロになると結界は消滅する。このAキューブに刻まれている数字は六。

 

 『使い捨てAキューブ』は地下大迷宮でも入手できる不思議アイテムだが、大抵は使用回数が一回から二回なので、六の数字が刻まれたものは売ればかなりの高額になる。

 残り二つのアイテムは恐らく一点ものだろうとみふゆは推察した。

 

 アイテムの分配はスムーズに行われた。

 まず、灯花がベレー帽を掴み、「これはわたくしが厳重にほかんします!」と言って譲らなかった。

 時女一族は『いろタウロスフィギ』を、残りの『使い捨てAキューブ』をみふゆが貰うことになった。

 最後に、いろタウロスを構成していた三体の地下大迷宮のモンスターの素材を回収。

 冒険者達が話し合う様子を、Tゾンビはずっと眺めていた。

 

「あの、まだ何か用があるのですか・・・・・・?」みふゆが言った。

「オタカラ、カクニン、オワッタカ?」

「ええ終りました」

「いい加減、わたくしの前から消えてほしいにゃー」

「灯花チャンに会いたくなったら、鏡の前で、そのベレー帽をカブればいいカラナ」

 Tゾンビは灯花の肩をポンと叩いた。

 そしてスッと右手を差し出す。

「いや・・・・・・握手なんてするわけないでしょ・・・・・・」

「ザンネン。ソレジャーこれでお別れダネ。バイバイ!」

 Tゾンビはベレー帽の中から、分かりやすいデザインのリモコンを取りだし、丸いスイッチを押した。

 空からアナウンスが響く。

 

『ダンジョンマスターの撃退および、ダンジョンコアの破壊を確認。これより、スーパーエクスプロージョンを発動します。ダンジョン崩壊までのカウントダウンを開始。生残った冒険者の方は速やかに退避して下さい。繰り返します。ダンジョンマスターの撃退を確認――」

 

 空を見上げていた冒険者達の頬に汗が伝う。

 地面に転がっていた二つのダンジョンコアに数字が表示された。

 制限時間は三十分。

 

「あーあ、発動しちまったな。スーパーエクスプロージョン」

 フェリシアが人事のように言った。いつの間にか、Tゾンビと共に冒険者達から少し離れた場所に移動している。

「まさか、スーパーエクスプロージョンって」ういが言った。

「自爆システムに決まってんだろ」

「出口は?」灯花が言った。

「教えるかバーカ。んじゃな!」

 フェリシアの隣にいたTゾンビが吸い込まれるように床に消え、その場に転移魔方陣が出現した。

 ウッシッシと笑うフェリシアをちゃるが十手のワイヤーで素早く捕縛、魔方陣から引きずり離す。

 数秒後、魔方陣だけがシュンと消えた。

「逃がすわけないよう」

「バカ! 離せ、このままじゃオレまで」

「出口は?」ねむが訊ねた。

「聖リリアンナ学園の校庭の魔方陣だよ」

「遠いよう!」

「大丈夫よ」静香が言った。

 突然、カウントダウンが止った。

「・・・・・・おい、どうした?」

 フェリシアが唖然とした表情になる。

 静香がふらりと倒れかけ、それをすなおが支えた。

「私の魔力よ・・・・・・。自爆を一時的に『阻止』したわ。残った魔力をほとんど込めたから、みんな、走って」

「静香は私が背負います」すなおが言った。

「マジかよ」

 フェリシアは低い声で吐き捨てた。

 

 七人は崩壊したリリアンナ学園まで向かい、ダンジョンを脱出した。

 

 

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