マギア転生    作:川崎三文

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酒とギルドとエルフと太助①

「へー。冒険者になるためにマチビト村から三人だけで。それだけで十分凄いじゃないか。準備不足なんて気にする必要ないよ。同じミスをしなきゃいいだけさ」

「でしょでしょ、もっとほめてー」

 

 灯花はそう言って、嬉しそうに焼きたてのパンを頬張った。

 灯花達は、聖道院の庭の長椅子に腰掛けて、ももこと一緒に昼食を取っていた。

 冒険者ギルドに向う途中にあるこの施設では、週に二回ほど、貧しい人への施しのためのパンを焼いて配っている。今日が丁度その日だったので、灯花達から事情を聞いたももこは、三人に焼きたてのパンをあげた。ももこは聖堂院のシスターとして働いている。

 

「お金は必ず返すからね」

「いいよ、アタシも干し肉とドライフルーツを分けてもらったからね」

「ももこさんは冒険者じゃないの?」ういが言った。

「冒険者だよ。本業はシスターだけどね。教団の運営は献金だけじゃ厳しいから、人の手が余りそうな日は冒険者としてクエストをこなしてお金を稼いでるってわけさ。まぁ、ランクは星三だけどな」

 

 冒険者は星一から星五までの五段階でランク分けされている。

 星一の冒険者は、見習い冒険者と呼ばれ、ギルドに登録すれば誰でも名乗ることができる。

 ギルドから正式に冒険者として認められている訳ではなく、見習い冒険者とも呼ばれている。

 正式な依頼を単独で請け負うことはできず、先輩冒険者から戦い方を習ったり、地下大迷宮以外の平凡なダンジョンの攻略や、モンスターの討伐を見学させて貰ったり、クエストの簡単な手伝いなどを通して、冒険者としてのイロハを学んでいく。手伝いの対価として報酬を貰えることもあれば、大金を払って一流の冒険者に指導や見学をお願いする者もいる。

 

 実は、星一としてギルドに登録した者の半数以上は、プロの冒険者を目指していない。

 社会貢献を兼ねた交流の場や、貴族の子供の社会勉強の場として機能している面が大きく、指導役となった冒険者達もささやかな授業料を貰いながら、あるいは無償で、過酷なクエストの合間の癒やしを求めたり、趣味のような感覚で交流している場合がほとんどである。

 

「ももこさんは十一歳でも星二の冒険者になれると思いますか?」ういが言った。

「どうだろうなー。ちょっと魔法が使えるくらいの女の子ならまず無理だろうけど、固有魔法に目覚めてるなら話は別だ。ういちゃん達の実力次第。後はギルド長がどう判断を下すかだろうな」

 

 星二から、いわゆる正式な冒険者として活動することができるようになり、依頼をこなして正当な報酬を貰うことができるようになる。駆け出し冒険者と言われる者達だ。

 

 ギルドから信頼されている星三以上の冒険者の推薦や、魔法騎士団に所属していたなどの経歴を持ち、実力を保障され、かつギルド長の審査を通過した者だけが星二へ昇格することができ、地域によっては昇格試験を課しているギルド長もいる。

 以前は十五歳以上にならないと星二としてギルドに登録できなかったのだが、固有魔法に覚醒した少女達が表れてからは、その実力や能力の特殊性次第で、十五歳以下でも星二冒険者として登録できるようになった。

 

 星二以降は活躍の度合いに応じて、星三、星四、星五とランクアップしていく。

 星五にもなると、市民から勇者や英雄などと呼ばれもてはやされるようになる。

 さらに、星五の称号には貴族達とはまた異なる、ある種のふわふわとした社会的地位のようなものが与えられ、特例として冒険者カードを都市の城門や関所を通る際の身分証代わりに使うことを認めてもらえたり、その領地に対する貢献度に応じて、通行料が割安になったりもする。国や地域によっては無料になるところもあるらしい。

 この世界の冒険者は、社会を円滑に回すために必要不可欠な職業としてではなく、半分は国民の娯楽的、興業的側面を担って存在している。

 ゆえに、国から国防の一端を担うような存在として信頼され、重要な任務を依頼されるのは、星四、星五の冒険者の中でもごくごく一部の者達だけである。

 

「ま、何事もやってみなくちゃ分からないからね。冒険者ギルドに行って話だけでも聞いてくるといいよ。頑張って来な!」

「うん! ありがとうももこさん!」

「それじゃあ、わたくし達はそろそろ行くね。美味しいパン、ごちそうさま! すぐに冒険者になってお礼をするから、期待して待っててね」

「ももこお姉さんさえ良ければ、是非、今度僕達の村に遊びに来て欲しい」

 ねむは、ももこの顔をみて喜ぶいろはとやちよの姿を思い浮かべた。

「ああ、必ず行くよ」

 

 笑顔で手を振るももこと別れ、聖道院の門から出て、冒険者ギルドに向って進む。

 灯花はふと、聖道院の方を振り返った。併設された礼拝堂に、教団のレリーフが掲げられている。クロスした二丁のマスケットと、その間を埋めるように、弓、盾、剣、槍があしらわれている。

 

「教団が気になるのかい、灯花」

「うん、前世の記憶がもどるまではちーとも興味が湧かなかったんだけどね」

「探求すべき謎が一つ増えたことを喜ぶべきだよ」

「そうだね、行こう」

 

 巴教団。

 五百前、別の世界より現れし厄災、魔獣王ティロフィナーレを倒すために十種族と共に力を合わせて戦った、五人の英雄を祭る教団である。

 弓の勇者。盾の勇者。剣の勇者。槍の勇者。そして四人を束ねる銃の聖女こと巴ホミさん。

 五人はこの世界に現れた最初の固有魔法持ちではないかとも言い伝えられていた。

 五人の英雄と十種族に敗れた魔獣王ティロフィナーレは、バラバラにされ、八つの宝石に封印された。

 魔獣王は、この世界に出現した当初より一部の人間達から「マミサン」と呼ばれており、その封印された八つの宝石は『マミサンの欠片』と呼ばれるようになった。

 

『止まるマミサンの小指』

『陥るはマミサンの耳』

『悦ぶマミサンの唇』

『従順なマミサンのへそ』

『麗しいマミサンの眼』

『振動するマミサンの踵』

『漂うマミサンの髪』

『健やかなるマミサンの首』

 

 真実かどうか定かではないが、銃の聖女のホミさんは魔獣王が「マミサン、マミサン」と呼ばれるたびに頬を赤らめていたらしい。

 

 巴教団の主な活動内容は、マミサンが封印された八つの宝石の管理と慈善活動であり、五人の英雄を神聖なものとして崇め教義を広めるような類いの団体ではない。聖道院はその活動拠点であり、礼拝堂は教団のカッコいいシンボル、というのが通説であり教団の公式な見解でもあるのだが、一部の噂好きの人達の間では、礼拝堂の地下にはマミサンを封印した宝石が保管されているのだと信じられていた。

 

 灯花たちも記憶を取り戻す以前から巴教団に関する知識は持っていたが、前世の記憶を取り戻してからは、その名前の異様さを意識せずにはいられなかった。

 巴マミ。嫌でも彼女の名前が浮かぶ。

 五百年前、この世界で何が起ったのか。

 疑問を胸にしまい込んで、灯花達はギルドに向った。

 

 

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