ようやく冒険者ギルドに着いた。
「ももこさんの言ってた通りだね」
「うん、三色の屋根が目印になってるからすぐに分かったよー」
冒険者ギルドの建物は三つの大きな家を繋げて一つの屋敷にしたような外観をしていた。それぞれの家を飾る薄桃色、紫色、茶色の屋根が印象的だ。木造で、家ごとに違う木材を使用しているため、壁の色も三色に分かれており、ひな祭りの菱餅のような子供向けのお菓子を連想させた。
「問題は入り口も三つあることだね」
「どこから入ればいいんだろう?」
「考えても仕方ないよ。堂々と真ん中から入ろう」
灯花は中央の紫の屋根の家に近づき、ドアノブに手を掛けた。
その時、内側から扉が開いて、一人の女性が現れた。
紫がかった長い黒髪に、エキゾチックな褐色の肌、銀のアンダーフレームの眼鏡をかけた理知的な雰囲気の女性だった。
「なんや、こっちは子供の来るところやないで」
「お姉さんはもしかして」灯花が言った。
「せや、私がリマセラのギルド長のリヴィアや」
「そうじゃなくて」
灯花達がリヴィアとの再会にぽかーんとする中、リヴィアは三人が背負っている槍に目を向けた。
「もしかして、見習い冒険者として登録に来たんか?」
「あ、はい。そうなんです。わたし達冒険者になりたくて」
「さよかさよか。こんなに可愛い冒険者なら私らも大歓迎や。・・・・・・なんや見ない顔やな、この町の子供やないんか?」
「わたくし達、マチビト村から三人できましたー!」
「お嬢ちゃん達三人だけで? ほんまか? 冒険者になりたいんやったら、ギルド長に対する嘘は御法度やで」
「うそじゃないもん。ふーんだ、ももこはほめてくれたのに」
「お、自分らももこの知り合いか。はよ言えや。せやったらこのまま私が対応したいところなんやけど、今からちょいと出かけなあかんねん。ヨヅルー! この子達の面倒みたってや!」
リヴィアがギルドの中に向って叫ぶと、一人の冒険者が扉からにょきっと顔を出した。
「おやぁ~、随分と可愛い冒険者さんですね~、ひっく!」
「えっ、ちょっ、みふゆ?」灯花が言った。
「おや、ワタシの名前をご存じとは。ひっく。さてはワタシのファンですね、ふふふ」
飲んだくれ冒険者のアズサが現れた。
「ちゃうちゃう! アンタやない! 酔っ払いはお呼びやないで。ヨヅル、はよ来てや!」
「まぁまぁ、ここはワタシに任せてください。ひっく」
「すみませんギルド長、遅れてしまいました」
みふゆの後から、執事のような格好をしたボーイッシュな少女が現れた。
「すまんなヨヅル、後は頼むわ。ほな、お嬢ちゃんたちも頑張りや。冒険者は大変やで?」
そう言うと、リヴィアは灯花の肩をぽんぽんと二回叩いて、通りの向こうに消えて行った。
「では、登録に行きましょうか、ひっく」
みふゆは灯花の手を握ってそのままギルドに引きずり込もうとした。
「アズサ様。見習い冒険者の受付はあちらの方で行うことになっております」
ヨヅルは薄桃色の屋根の建物を指差して言った。
「硬いこと言わないで下さい。登録なんてどちらでもできるじゃありませんか」
「いえ、こちらは酒場も兼ねていますので」
「星二以上の冒険者になれば、わたし達もこの中で依頼を受けたり、成果を報告したりするんですか?」ういが訊ねた。
「そうです。ただ、あなた方くらいの年齢の子が星二に昇格することは、よほどの実力か特殊な能力を持っていない限り無いでしょう」
「なら、見学させてください」
「僕達は、なるべく早く星三以上の冒険者になりたいんだ」
「・・・・・・私の話を聞いていましたか?」
「わたくし達、村でたっくさんしゅぎょーしたもん」
「ふふふ、素晴らしい心意気ですね。いいでしょう。ワタシがギルドの中を案内して差し上げます。ひっく・・・・・・大丈夫ですよ、ワタシが付いてますから」
みふゆは灯花の手を握ったままあ、反対の手に持っていたグラスの酒を一気に飲み干した。
「くうぅぅぅッ! プハーーッ」
「うわっ、お酒くさーい」
「では、いざギルドへ」
「はぁ・・・・・・今回だけ、特別ですからね」
ヨヅルは額を抑えて嘆息した。
灯花達は冒険者ギルドに足を踏み入れた。
木製のテーブルが並ぶ喧騒と熱気に包まれた空間で、屈強な男達が酒と食事を楽しんでいる。
まるで、映画で見た洞窟の中に広がる、海賊の隠れ家のような雰囲気だ。
剥製にされた熊のようなモンスターの首が、依頼書の張られた横長の掲示板の上に飾られている。
入口の正面には、酒が並ぶカウンター席があり、その隣には、ギルドの野蛮な空気とは不釣り合いなほど清潔に保たれたホテルのフロントのような受付があった。
その場のすべてが、灯花達に未知の刺激となって襲いかかった。
酒の匂い、冒険者達の怒声、そして何より……。
「うにゃーーー、おとこくさーーい!!!!」
ギルドの空気を吸うなり灯花は叫んだ。男達の血走った視線が集まる。
「ああん! 何だって? 聞こえてんぞガキ!」
「灯花、星二に昇格するためには星三以上の冒険者の推薦が必要だ。僕達は先輩冒険者に気に入られなくてはいけない。相手を不快にさせるような言動は慎んで欲しい」
ねむは鼻をつまみながら言った。
息を止めたういが、ねむの肩を掴んで自分の方を向かせた。フルフルと首を振って、口の前に指で×を作る。「そんなこと言っちゃダメだよ」という意味らしい。
「お前らの態度も十分不愉快なんだよ!」
予想外の洗礼だった。村でも前世でも、女性ばかりの空間に身を置くことが多かった灯花達にとって、冒険者ギルドの空気はあまりにキツ過ぎた。
「皆さん、子供相手に大人げないですよ!」
みふゆが声を張り上げた。目が据わっている。
「なんだ、みふゆさんの知り合いかよ・・・・・・」
勢いのあった男達が一斉にしゅんとなった。
「すごい、あんなに強そうな男の人達がみふゆさんの一言で静かになっちゃった」
「みふゆって、もしかして凄い冒険者なの?」
「ふふ、こう見えてワタシは星四の冒険者なんですよ! ひっく・・・・・・」
「「「星四!?」」」
「すごいすごい! みふゆさん、ベテラン冒険者なんですね!」ういが言った。
(つまり、みふゆに気に入られれば星二にしょーかくできる)
灯花はねむにアイコンタクトを送った。
(その通りだ。僕達もういに続こう)
ねむも灯花に視線を送り返す。
星二に昇格する際の推薦は、星三以上の冒険者であっても親兄弟や、育ての親からのものは受理されない。灯花達の場合は、星四のいろはと星五のやちよから推薦をもらうことはできないので、他の冒険者に認められる必要があった。
上手いこと取り入ってやろうと、灯花とねむは、会ったばかりのみふゆに向けて、交互に賞賛の言葉を浴びせはじめた。
「流石はみふゆだね。よっ、戦うパーフェクトボディ」
「カリスマアル中冒険者」
「リマセラの勝利の女神」
「理想の上司」
「便利な中間管理職」
「わたくしもみふゆみたいな素敵な大人の女性になりたいなー」
「同感だね。この世界では君が僕達を導いて欲しい」
「ど、どうしたんですかお二人とも。なんだか、お二人に褒められると酔いが覚めるというか、寒気がするというか・・・・・・」
「盛り上がっているところ申し訳ありません。はやく登録を済ませたいのですが」ヨヅルが言った。
灯花達はヨヅルに連れられ、受付で見習い冒険者としての登録を済ませた。用紙に名前、出身地、特技などを記入するだけの簡単な手続きだったが、空欄を一つ埋める度にみふゆがあれこれ絡んで来たので、思った以上に時間が掛かった。特技の欄には三人とも狩猟と書いた。
しばらく待つと冒険者カードを発行された。魔力を込めると名前や星の数、オーブの属性、魔法の熟練度、特技などが表示される手の平サイズの青いカードだ。定期的な更新が必要で、岩場、草原、迷宮などで落とした時に目立つようにと青い色が採用されている。水に落とすと赤く発光するらしい。
登録が終ると、みふゆが知り合いの冒険者パーティーを紹介してやると言い出した。ヨヅルは受付の業務に戻っていった。