通してください!
「えへ、えへへへへ。ロリお兄ちゃん、やりました、勝ちましたよ」
血塗れで笑顔を浮かべる少女を見ながら、私は恐怖ではなく「やっちまったなー」という気持ちでいっぱいだった。
もうちょっと気にかけていればこんなことにはならなかっただろうに。
そう思うと少しつらい気持ちになったのだった。
「だけどロリお兄ちゃんはやめて」
小さく呟いたそれは、むなしく響くだけだった。
魔法少女……それは数多くの世界を救ってきた謎の存在。
強く、優しく、格好よくてかわいい。
そしてその魔法少女には、マスコットなる物が存在しているとかなんとか。
『というわけで俺はライアン! よろしくな!』
「あ、はい」
そんなマスコットが、私の元へとやって来た。
魔法少女のマスコット……ということは、私は魔法少女として選ばれたーとかいう感じなのだろうか。
嬉しいのか、悲しいのか。
まあ不可解ではある。
理由はいくつか。
「私、大学生なんですけど」
そう、私は大学生だ。
しかも3年目。
割と暇になってきている3年生という奴だ。
『? 下等生命体には活動年数によって何か差異が生まれるのか?』
こいつ今下等生命体とか言ったか?
いや、今はよそう。
魔法少女とは、恐らくローティーンからハイティーン辺りを選ぶのではないかと聞いてみる。
『君の能力は今の活動年数が最も強力に引き出せるんだ』
「なるほど」
なるほど理解した。
割と納得できる理由ではある。
あるが……怪しい。
マスコットとして可愛らしい容姿をしている必要があるのでは、と思うのだけど、こいつはただの光の塊だ。
ちょっとまぶしい。
それが揺れ動きながら声を発している。
いや、そういえば思考を飛ばしているとか言っていたような気もする。
まあ、それもいい。
まだ、いい。
しかし最大の問題がある。
「私は男なんですが」
『 下等生命体には活動年数以外にも差異があるのかい?』
……。
怪しい。
こいつ本当にマスコットか?
悪の秘密結社のスカウトだったりしないか?
『ありえない。俺達をあれらと一緒にしないでくれ』
「毛嫌いしているんだね」
『嫌悪しているよ』
「わあ」
敵意を隠しもしない。
これはとても怖いな。
本当に悪の組織側の存在なのではないだろうか。
というか悪の秘密結社は存在してるんだ。
『そうさ。秘密結社EOJ。それが俺達の敵さ』
「あ、もう私が魔法少女になるって確定なんですね」
何か身体も動かないし、これは逃げられそうにない。
仕方ないのか。
許してください、お父さんにお母さん。
私、
……ん?
魔法少女(21)誕生!
「ゲハハハハハハ! この会場は我らが乗っ取った!」
そう言いながら人質をとって警察を牽制する謎の男。
その身体はやけにゴツく、明らかに不自然な筋肉をしていた。
顔は目鼻が空いているマスクのようなものをつけていて、表情の把握ができない。
『サツキ! あれがEOJだよ!』
「はあ、まあ。でしょうねとしか」
そんな緊迫した状況を、会場が見える高層ビルから見る私たち。
魔法少女になれるようになった結果、素の視力も高くなったのだった。
怖い。
もしかしたら私は改造人間にされたのではないだろうか。
『? 必要なら素体の方も弄るけど、必要かい?』
「不要です」
危うく本当に改造されるところだった。
それはごめんだ。
『というわけで、行こうかサツキ! 初陣だ!』
「了解」
魔法のブレスレットを右手に装着。
そしてキーワードを唱えて変身だ。
「Trust me.」
閃光が奔る。
俗に言う変身バンクという奴だ。
普段から着ているコートが弾け、赤色を基調にしたフリルいっぱいの服に変わっていく。
ピンクのスカートは短い。
純白のソックスは長い。
そしてきらきらした髪飾り。
それが、180cmあった身長が130cmになった私の身体に巻き付くように形成、展開される。
「やっぱり慣れないなあ」
身長差、そして声の高さもだが。
根本的に身体の構造が違うことが分かるのだ。
それが若干私の精神を揺さぶる。
髪の毛はピンクのロング。
綺麗にキューティクルのかかった髪質で、今まで見たことのないような艶をしている。
元々は黒髪ショートなので違和感が凄い。
瞳は銀。
黒い瞳が大きく、そして丸くなっていてとても違和感。
『そう? じゃあいつも変身していられるようにしようか?』
「遠慮します」
隙あらば改造しようとしてくるなこのマスコット。
それは御免被る。
常時幼女とか心が折れる。
『それじゃあ行ってらっしゃい! 俺はここで見ているよ!』
「あ、来ないんだ」
『戦闘力のない俺が向かっても無意味だからね。適材適所さ』
うーん効率厨。
だったら最初から幼女を捕まえておけばいいのではいだろうか。
そう思ったが口を閉じる。
何かもっとヤバいことを言われそうだ。
ぴょんと跳躍。
そしてそのまま地面に着地。
どしんという音とともにアスファルトに罅が入る。
「な、何者だ!?」
「ええと、はい。魔法少女です」
何とも恥ずかしい。
しかしそれ以外に名乗る名はなかった。
いや名前ではないのだけど。
警官との会話を終えると、そのまま怪人らしき人物と向き合う。
「貴様、魔法少女か!?」
「え、あ。はい」
「ならば容赦しない! 死ねえい!」
見た目幼女に容赦のない暴力。
それは先程警官を盾ごと殴り飛ばしたものだった。
しかし、今の私にとっては遅いものだった。
これだけ遅ければ……。
ゆっくり放たれるそれを、丁寧に避けて男の身体に触れる。
そして魔法を放つ。
バチィ! という大きな音とともに紫電が奔り、男が膝から崩れ落ちる。
放った魔法は電気を放つだけの初歩魔法……らしい。
使える魔法はこれだけなので、正直よく分かっていない。
練習するだけの場所が存在しないため試せないのも理由の一つだが。
「おお……!」
歓声が上がる。
銃を撃つわけにはいかず動けなかった警官からも上がったそれに、少し気恥ずかしくある。
何せ彼らは人質も護らなくてはならない。
不利な立場にいるからこそ動けなかったのだから。
「というわけであとはお願いします」
「あ、君名前は!?」
「え、あー……」
ふと考える。
頭の上に輝く大三角。
それを思い浮かべると、その内のひとつに思い至る。
「で、デネブです!」
そう言って逃げ出す私。
手足は短くなったのに、走る速度は断然早い。
これが魔法少女の力か……。
「あの! 魔法少女さんで……すよ……ね……?」
「えーあ、はい。一応は」
数日後、私は小さな女の子にナンパされていた。
いや、どちらかというと脅迫なのだろうか。
何せ今の私の姿は大学生の姿だ。
つまり正体がバレているのだ。
この状況どうすればいいのか。
『どうするんだい? 消すかい?』
「だめです」
爆速で少女を殺そうとするマスコットを制し、少女を観察する。
制服で現れた少女は、どこからどう見ても中学生がいいところ。
身長も
しかもその制服はとあるお嬢様中学校のそれ。
瞳の色は黒。
半月型の目をしていて、少し目つきが悪いように見える。
髪の色はやや茶色みを帯びた黒。
少しボサボサとしていて、手入れが行き届いていない様子だ。
「で、魔法少女の私に何の用だい?」
出来ればこのまま逃げ出したいのだが、生憎捕まった場所が私の住んでいるマンションの玄関だ。
もう住居もバレている以上、逃げることも難しいだろう。
ここ、かなり家賃安いんだよなぁ。
引っ越しは困るのだ。
「あの、あたしも……魔法少女に……なりたいんです」
「え?」
「だめ……です、か?」
振り返り、マスコットを見る。
青く光る。
オッケーのようだ。
「いいよ」
「え、あ! ありがとう、ございます……!」
喜んでいるのか若干不安な表情を浮かべる少女。
しかし声色は若干高くなっていて、何となく喜んでいるように感じた。
「それじゃあ……立ち話もなんだし、私の部屋に来る?」
「……というわけで。魔法少女は大変だよ? 本当になりたい?」
軽く説明をする。
と言ってもマスコットの言ったことをそのまま言っただけ。
何故かマスコットは私にしか見えないらしい。
いよいよ怪しい。
「はい……あたし、友達もいないし。何かやりたいこともないんです……」
「うん」
「でも、魔法少女は好き……なんです。だから、なれるなら、なりたくて」
この世界、魔法少女は現実には存在しない……と思われていた。
と言ってもいるんだけどね、私とか。
マスコットもいることだし、陰で活躍していてもおかしくはない。
しかし、そういうアニメ、漫画、小説などは豊富だ。
探せばいくらでも存在する。
そんな感じで憧れる少女もいるだろう。
それにだ。
この世界には魔法少女の本物が存在する。
有名なのがレディ・ダイバー。
跳躍という魔法を扱う水色の魔法少女だ。
そんな魔法少女に憧れる内の一人がこの少女というわけだ。
うむ、分かった。
だがそれはそれとして親は納得するのだろうか。
私の親は放任主義なので報告などはしていないが。
「あ、あたし。親……いないので……」
「あー……」
「いいん、です。気楽、ですし」
本当にそうだろうか、と疑ってしまうのは悪い癖だ。
とはいえ、少女がそう言うならそうなのだろう。
「そう言えば、名前を教えてなかったね。星詠 皐月って言います」
「あ、あたしは
「じゃあ、よろしくね、摺木さん」
「はい、よろしくお願いします……ロリお兄ちゃん」
んーその呼び方は予想外。
とまあ、そんな感じで後輩が出来たわけなんだけど。
「えへ、魔法少女、です。これで、やっと……」
血塗れの鈍器を握って笑顔を浮かべる少女が、魔法少女と呼べるだろうか。
いやまあ、青を基調としたふりふりミニスカドレスを着込んだ少女なので、そう言えなくはない。
返り血で真っ赤に染まっているが。
私と同じく、摺木さんの容姿は変化している。
瞳の色は黒から金色に。
髪の毛はボサボサしていたそれから流れるようなセミロングの金髪に。
それが三つ編みになっていて、とても可愛らしい。
まあ、それもこれも真っ赤に染まっているので若干どころかかなり怖いのだけど。
今回の相手は少女誘拐を目論んでいたEOJの一味だった。
大半のメンバーは私が撃破したが、摺木さんが残りの一人をボコボコにしたのであった。
周りに倒れている電撃で動けなくなった奴らは恐怖で震えている。
まあ、それはそう。
私もちょっと怖い。
「え、えへへ。ロリお兄ちゃん。これで認めて、くれますか?」
「うん。だからロリお兄ちゃんはやめて」
「はい、ロリお兄ちゃん」
「聞いてないね???」
それはともかく。
これ以上ここに留まるのはまずい。
警察も呼んだし、このボコボコの男と返り血少女を見られるのもまずい。
というわけで、さっさと逃げだしたいのだけど。
「え……警察の人に、名乗らないん……ですか?」
「うん。もうちょっとちゃんと活躍できるようになってからね」
摺木さんはどうやら私の初陣を見て、名乗るのが礼儀とでも思っていたらしい。
まあ聞かれたら応えるのは礼儀だろうけども、今はまずい。
魔法少女が捕まっちゃうのはまずいからね。
というわけで摺木さんを抱えて逃げ出す。
うん、これくらいなら軽い軽い。
「あ、あたしは魔法少女ヴェガ、です。デネブの後輩、です」
走っている間に自己紹介をしていく摺木さんもといヴェガ。
うーん嫌な予感がするけどスルー、
さっさと逃げだそう。
翌日、『魔法少女、過剰暴力か!?』という見出しを見て頭を抱える私だった。