(21)お兄ちゃん   作:偽馬鹿

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勢いをつけて殴りかかる。
それが最強なのです。


(21)お兄ちゃんと名乗り

「ええと、魔法のお勉強、ですか?」

「その通り」

 

過剰暴力の件から数日後、私たちは摺木さんの家の庭に集まっていた。

なんと、摺木さんの家は庭付き一戸建てだった。

しかもかなり広い。

魔法の練習にもってこいだろう。

 

「魔法……使う、んですか?」

「魔法少女だからね」

「あっ……そうですね」

 

摺木さんは魔法少女になれたことよりも、仲間ができたことを喜んでいるように感じる。

ぼっちか。

私と一緒だ。

 

「というわけで、魔法の練習だよ。私も、一種類だけじゃ不安だからね」

「はい!」

 

元気がいい。

しかし悲しい話もある。

 

『そうだね。あの子の適正魔法は身体強化だ』

「ええと、あたしはどんな、魔法が……?」

「身体強化だね」

「わあ……!」

 

何だか喜んでいる摺木さん。

うん、笑顔は良い物だ。

ちょっと黒いように見えるのは気のせいだろう。

 

「そういえば」

『なんだい?』

「……いや、なんでもない」

 

マスコットには話していないことがいくつかある。

こちらにもプライベートが必要だからだ。

ずっと一緒にいるので、若干困っているが。

 

 

 

―――――私こと、星詠 皐月は転生者である。

何故そうなったのかは覚えていない。

そうなった理由を知りたいとも思わない。

ただ、この人生を謳歌したいと思っているだけだ。

 

それが、何の因果か魔法少女になってしまった。

後悔は、そこそこある。

あるが、仕方のないことだろう。

流されるだけが人生ではないが、流されることも多い世の中。

そんな世界で、一応は自身で選んだ道だ。

 

魔法少女そのものは嫌いではない。

むしろ好きな部類だ。

少女向けのそれだけではなく、男性に向けたものもあった。

そちらの方に興味をひかれたことも原因だ。

まさか私当人が魔法少女になるとは思いもよらなかったが。

 

 

 

さて。

適正魔法の話に戻る。

摺木さんは身体能力強化を伸ばしてもらうとして、私の方が重要だ。

 

私の適正魔法は星辰だ。

星の力を扱う……らしい。

前回の戦闘で使った紫電を放つ電撃魔法は初歩のそれなため、適正範囲外でも使える物だった。

しかし、上位のものになると適正に応じて使える魔法が変わってくるのだとか。

 

ちなみにだが、摺木さんは身体強化以外の適性が皆無なため、私の使った初歩魔法すら使えないらしい。

尖り過ぎである。

 

それはともかく。

星辰とはなんなのだろうか。

星の力……隕石とか?

街がなくなりそうだ。

後で色々と考えてみよう。

 

「ロリお兄ちゃん。見て、音速で素振りができました……!」

「凄いね。ロリお兄ちゃんはやめてね」

「ロリお兄ちゃん!」

「聞いてほしいなあ」

 

何故か、彼女の中で私はロリお兄ちゃんで固定されてしまっている。

由々しき事態だ。

ロリでお兄ちゃんとはどういった代物なのだろうか。

いやまあ、こういった代物なのだけど。

 

『俺としては戦闘力があれば問題ないけどね』

「穏便に戦う必要はないと?」

『うん』

 

マスコット、かなりの過激派らしい。

EOJを相手取るならこれだけの人格が必要となるのだろうか。

中々に恐ろしい世界だ。

 

『むむ、EOJの反応があるね。急行しよう』

「分かったよ。摺木さん、行くよ」

「あ、はい……!」

 

というわけで、今日も魔法少女のお仕事だ。

暇な学生で良かったよ本当に。

 

 

 

「きゃああああ!?」

「わあああああ!?」

 

悲鳴を上げながら逃げる人たち。

その中心には恐竜のような頭をした人間のような何かが立っていた。

 

「ぐるるるるる……!」

 

この間のEOJのように、秘密裏に動こうとする奴らは少ないらしい、

何故ならマスコットが彼らのことを察知し、魔法少女が動くからだ。

この間の出来事は何かの技術革新があったから起こったことだとがわかる。

マスコットに察知できないようにする何かが発明された、ということだ。

 

『秘密裏に動く部隊があるとでも……?』

「分からないけどね」

 

それこそ、相手の組織の規模が分からない現状では対処ができない。

EOJは未だに組織の全容を明かしていないのである。

少なくともこの世界のどこにでも現れる存在であることは分かっている。

逆に言えばそれしかわかっていないのだ。

それはとても恐ろしいことではないだろうか。

 

「あたしの名前はヴェガ! 魔法少女ヴェガです! 星に代わって倒します!」

「ぐるるるるるる……!」

 

きりっとした表情で決めポーズ&口上を決める摺木さんもといヴェガ。

うーん魔法少女してる。

というか私もああいう名乗りをするべきなのだろうか。

いやまあ、名乗ることは知名度を上げて他の住民からの理解を得るためにも必要なのかもしれないけれど。

 

「行きます、ね!」

「あ」

 

考えている間に、摺木さん……ヴェガが駆け出す。

身体強化によって凄まじい勢いで突進するその姿は青い閃光。

そしてそのまま、手に持った鈍器で殴りかかった。

所謂バールのようなものだ。

 

振った瞬間、風が舞う。

そしてその後に轟音が響く。

あれは……もしかして振る速度が音速を越えているのだろうか?

怖い。

そしてその暴力が一個人にもたらされているということが怖ろしい。

 

「ぐぎゃああああ!?」

 

放たれた一撃は怪人の身体に直撃し、ぶっ飛ばした。

そしてぶっ飛んだ先は噴水。

見事に噴水を壊して大量の水をばら撒いた。

 

「あ、や……やりました!」

「……うん、よくできたね」

「えへ、えへへ」

 

にへら、と笑うヴェガ。

それはいいのだけど、噴水を破壊した私たちは器物破損で訴えられたりしないだろうか。

魔法少女だから免除とか……あるかな?

ないかな?

 

「それじゃあ名乗り、ですね!」

「帰宅です」

「えー……?」

 

何度目かの説得であるが、私たちは法律に守られた存在ではないのだ。

物を壊したら怒られるし、捕まってしまうのだ。

あと人を傷つけても駄目です。

 

「わかりましたか?」

「はい……」

 

渋々、と言った様子のヴェガを宥めつつ、そそくさと逃げ出す私たち。

うーん、摺木さんが憧れていた魔法少女と違うかもしれないけれど、大丈夫だろうか。

 

 

 

「―――――あたし、ちゃんと名乗りたいです」

 

駄目だった。

 

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