「100億……?」
『それが、数年前に拷問した結果引き出された情報だよ』
拷問という言葉は横に追いやり、引き出された情報について考える。
100億のEOJ。
今の世界の人口よりも多い。
「その内戦闘可能な奴らはどれくらいいるの?」
「その大多数が人類を超越した戦闘力を保有しているよ」
確かのそのような状況であれば、人類にとっては恐ろしいことだ。
人類を超越した戦闘力を持った存在が、人類よりも多く存在している。
しかしだ。
それはマスコット達と何の関係があるのだろうか。
確かに数多くのEOJは人類には脅威だ。
だが、マスコット達にはそれらと敵対する道理がない。
今得ている情報だけでは、だが。
『俺達が人類の味方をしている理由はひとつ。食料さ』
「食料」
『人類の感情が、俺達の食料なのさ』
人類の喜怒哀楽が食料ならば、当然人類が存在していなくてはいけない。
なるほど、合点がいった。
EOJが人類を淘汰してしまえば、彼らは食料を失ってしまうのだ。
それならば、人類に味方をする必要が出てくるのだろう。
しかしそれだけだろうか。
仕方ないと言えば仕方ないのだが、私は彼らマスコット当事者でないため判断がつかない。
せめてもっと情報が欲しい所だが……。
『……こんなときにEOJだ。申し訳ないけど……』
「そうだね。戦わないわけにもいかない」
進化した存在との生存競争だ。
戦わなければ、生き残れないのだ。
……しかし。
進化した存在である彼らがいる以上、その原型となる存在がいるわけだ。
それは、果たして人間なのだろうか。
疑問は尽きなかった。
「来たか魔法少女! お前たちを倒して人間たちを恐怖に叩き落してやる!」
今日のEOJは剣を握った獅子頭の剣士だ。
これまでとは違い無手での戦いをしない様子だ。
……まさか、これまでの戦闘の記録が漏れているのだろうか。
可能性はある。
だが、そのことを証明するのは難しい。
今は考えないようにするしかない。
「ふふ、今日は名乗りを邪魔されませんでしたね」
「……そうだね」
拳を構えるヴェガを見つつ、ついつい思考を続けてしまう私。
これも前回のヴェガの激昂から学んだのか、と考えてしまう。
「まずはそちらからだ……!」
「ッ!? デネブさん!!」
考え込んでいると、どうやら隙だらけだと思ったのか私を狙ってくる相手。
そうだね、普通そうする。
というか前回までは私、全然戦ってなかったからね。
情報がないのも頷ける。
「まあ、それも織り込み済みなのだけど」
「なにぃ!?」
飛び掛かってくるEOJの動きが急に止まり、真横へと吹き飛ぶ。
そしてレンガでできた壁に突っ込み、爆散する。
誰もその原理に気付かない。
理解できないそれ。
「……あれ」
当然私にも理解できない。
いや待って、こんなに凄いことになるとは思ってなかったというか。
「ロリお……じゃなかった。デネブがやったんですか!?」
「え、あ、うん。そうだよ」
後でちゃんと勉強しないと。
そう決意して私は住民の歓声をその身に受けるのだった。
「……自転の時速は1500キロメートル……」
かなり速かった。
新幹線のおおよそ5倍だ。
そりゃあ、あれだけ吹っ飛ぶだろう。
今度からちゃんと調整しよう……。
『星辰の要素だけであれだけの強力な魔法を使えるなんて、驚きだよ』
「そうかな? 星の力って強いじゃないか」
例えば引力。
これは大体の物体に存在しているものだけど、星の持つそれはとても強い。
ブラックホールなんてものになったら光すらも捻じ曲げる。
つまるところ、星の力を考えるとオーバーキルになるのだ。
どうやって調整しようか悩みが尽きない。
……まあ先程はちょっと加減を間違えてしまったが。
とりあえず、今日のところは出番はおしまいだろう。
何せ、夜にEOJが出たことは一回しかない。
それも非戦闘員だ。
……逆に考えると、あの誘拐集団だけは異質だった。
他のEOJは戦闘を行うことを前提としていたが、あの集団だけは違った
。
何か他の目的があってあのようなことを行っていたようにしか思えない。
だがやはり情報不足だ。
深く考えるには手掛かりが足りない。
「ライアン」
『なんだい?』
「隠していることがあるなら早めに教えてね」
『善処するよ』
信用ならない。
だがしかし、全てを私の手で行うこともできない。
難しい問題だ。
「……ん?」
スマホに着信があった。
番号は摺木さんのものだ。
何かあったのだろうか。
「えへへ……」
「……」
摺木さんの家に駆け付けると、何故か横にフードを被った少女がいる。
瞳の色は緑で、髪の毛はショートの緑。
ちなみに性別は豊かな胸元から判断した。
「んー……この子は?」
一応聞く。
何となく察しはついているが。
「ええと、ですね……新しい、魔法少女の、仲間です!」
にっこりと、しかし何かを隠しているような摺木さん。
嫌な予感は……しない。
恐らく安全だろう。
私にとってはだが。
摺木さん当人にとってどうなのかがわからない。
……問い詰めるべきか?
いや、やめておこう。
今は必死に頑張っている摺木さんを応援することにしよう。
「それで、その子の名前は?」
「ええと、あの、あ! アルタイルです!」
少女――アルタイル本人は喋ることなく、摺木さんが思いついたかのように言う。
怪しい。
本当に大丈夫だろうか。
まあ、信じると決めた以上信じることにするけれど。
「とりあえず、無事でよかった」
「えへへ。心配させて、ごめんなさい」
笑顔の摺木さん。
どうやら緊張も抜けたらしい。
いつも通りの顔だ。
「ライアン」
『なんだい?』
小さくマスコットに声をかける。
内緒話だ。
悪いことをするわけではないが、摺木さんに聞かれるのも困る奴だ。
「あの緑の子……
『よく気付いたね』
つまりそういうこと。
摺木さんは何の因果かEOJの少女を拾って匿おうとしているのだ。
なぜそうなったのか理由は分からないが、彼女自身がそれでいいのならば問題はない。
不安だけど。
『どうする? 消すかい?』
「様子見しよう。摺木さんがどうにかするかもしれないしね」
不安だけど……きっと大丈夫。
そう思えるだけの強さと純粋さを、摺木さんは持っている。
だから大丈夫。
「いつかちゃんと話してもらおうかな」
「え? なんですか?」
「なんでもないよ」
頭をわしゃわしゃと撫でる。
気にする必要はない。
何か大変なことが起こったら、私が何とかすればいい。
そう、それだけの力を手に入れて、この子たちを守ればいいのだから。
「……」
故に。
敵意を向けてきている、別の部屋にいる何者かをどうにかするのも、私の役割なのだろう。