(21)お兄ちゃん   作:偽馬鹿

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さくっと展開していきます。


(21)お兄ちゃんと魔法少女

―――――夜道を一人歩く。

背後には殺気。

しかし襲い掛かってくる様子はない。

何かを待っているようにも感じる。

 

深夜の公園へと歩いていく。

周囲には人影はない。

私と、誰にも見えない光の塊であるマスコットと、私を付けている誰かだけ。

 

「……あなたが、あの子の言っていた先輩ね」

 

急に、背後から声がする。

高く、美しく、それでいて通る声。

 

艶やかなブロンドのロングヘア。

青を基調として白と黒をアクセントにした服。

がっしりとした白いブーツ。

そして、手には魔法少女然とした杖。

 

―――――レディダイバー。

それが私を付けていた犯人だった。

 

「……あの子って誰の事?」

「とぼけないで。あなたがあんな風にしたヴェガって子の事よ!」

 

レディダイバーは怒っている。

どうしてだろうか。

魔法少女はそんなに危ない……いや危ないことだった。

それはそうか。

幼気な少女……まあ幼気ではある。

そんな少女を捕まえて魔法少女にしただなんて、悪そのものかもしれない。

 

ちなみにではあるが、私の姿は魔法少女。

摺木さんの切迫した声に、緊急事態だと思って念のために変身していた。

 

「よりにもよって、E(・)O(・)J(・)に(・)進(・)化(・)を(・)促(・)す(・)だ(・)な(・)ん(・)て(・)!」

 

―――――それは。

私が考えてもみない台詞だった。

 

少女が変身して、悪と戦う。

そんな存在が魔法少女だと私は考えていた。

いやまあ、最初期の魔法少女はそんなことなかったのだが、それは置いておこう。

 

とにかく、魔法少女は正義だった。

悪とは正反対のそれ。

 

それがどうだ。

ヴェガは魔法少女と敵対するEOJにされているということは。

もしかすると。

いやもしかしなくても私もEOJであるし、何よりもこ(・)の(・)マ(・)ス(・)コ(・)ッ(・)ト(・)も(・)E(・)O(・)J(・)な(・)の(・)で(・)は(・)な(・)い(・)だ(・)ろ(・)う(・)か(・)。

 

『思ったよりも早く気づかれたね』

「……怪しいマスコットだとは思っていたけれど」

 

どうやらそれは当たっていたらしい。

マスコットどころかEOJだったとは。

 

『勘違いしてほしくないのは、俺はEOJの連中を毛嫌いしている。それは本当の事さ』

「……?」

『俺はEOJを滅ぼすために、少女を進化させているのさ』

 

それはどういうことなのか。

そう問い質そうとする前に、マスコットは消えてしまう。

そして、残ったのは私と、レディダイバーと、そのマスコットだ。

 

「あなたが誰と話していたのか知りませんが、お話は終わりましたか?」

『気を付けてレディダイバー! もしかしたらあいつは』

 

あちらのマスコットは見える。

トンボのような羽の生えた少女のような姿だ。

 

……誰かと話しているか、あちらは見えていなかったようだ。

どうやら、私の傍にいたマスコットはとても怪しい存在らしい。

元々怪しかったが。

 

『もしかしたら、あいつもEOJなのかもしれない!』

「そう、ね。警戒するにこしたことはないわ」

 

そう言って手に持った杖に力を籠めるレディダイバー。

うんまあ、多分その通りなのだろうけれど。

しかし話の内容を考えるに、彼(・)ら(・)は(・)E(・)O(・)J(・)を(・)識(・)別(・)で(・)き(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。

それなのに、ヴェガをEOJだと断言している。

何かある。

私の知らないうちに何かが起こっているようだ。

 

「まあ関係ないけれど……」

「何がですか?」

「独り言」

 

キッ、と視線が強くなる。

怒ったか、

まあいい、その方が好都合である。

 

「魔法少女の詰め所に同行願います」

 

なんだかんだ言って相手は正義の味方。

ただの容疑者を犯人だと断言することはないのだろう。

ほぼ犯人なのだけど。

 

とはいえ、そんなところに連れていかれてしまえば逃げることもままならない。

断らせてもらおう。

 

「断ると言ったら?」

「ここで潰します」

 

……訂正、どうやら私は知らない間に彼女を怒らせていたらしい。

これは困った。

仕方がない、潰されるのもごめんだ。

 

「っ!? 逃げるつもり!?」

 

というわけで逃げる。

それはそうだろう。

戦闘面においても私は数回しか出ていない素人同然の魔法少女もどき。

そんなもどきが、歴戦の魔法少女に勝てるだろうか。

多分無理。

 

なので逃げる。

幸いなことに、相手は正義の味方。

民間人が近くにいれば迂闊に魔法も使えないだろう。

そう判断して、私は住宅街へと走っていく。

 

「―――――逃がさないわ」

 

しかし、それは相手も読んでいたようだ。

今の今まで後ろにいたはずのレディダイバーが目前にいた。

 

……跳躍魔法だ。

彼女は跳躍という魔法を使う。

それは基本的に空間を跳ぶ際に使われるのだが、これがまた厄介だ。

何せ、魔法少女の基本装備、魔法の弾丸……通称、魔弾も跳躍魔法の影響を受けて跳んでくるのだ。

見えない魔球よりも見えない。

 

まあヴェガはそんな魔法使えないし、私も難しい。

……そう考えると、魔法少女ではなくEOJに進化したというのはとても説得力があるなと思う。

面倒なことだ。

 

「捕縛、そして強制連行です!」

『気を付けるんだよレディダイバー!』

 

捕縛魔法。

魔法少女の魔弾を応用した拘束を行う機能を付与したそれは、やはり魔法少女の汎用魔法だ。

着弾した相手の身体を縛り上げ、動けなくする。

操られた人間や、倒す必要のないと判断した相手の動きを止める際に使われる。

まあ、私の場合は尋問を行うためだろうが。

 

まあそれはともかく。

喰らうわけにはいかない私は、右手をかざして魔法を発動する。

多分、この力は魔法少女の使うものではないのだろう。

それでも、他に適する呼称を私は知らない。

なのでこれからも魔法と呼ぶだろう。

 

「……魔弾が吸収された!?」

 

かざした右手に、魔弾が吸い込まれて行く。

成功だ。

一発勝負を何度も繰り返すのは辛いので、さっさと終わらせたい。

私は右手に作り出した魔法を握りしめたまま、レディダイバーに背を向けて再度走る。

 

レディダイバーは強い。

跳躍からの肉弾戦は、彼女の十八番だ。

それならば、今の魔法で魔弾を無効にできると思わせて、相手を誘い込んだ方がいい。

 

あと場所も悪い。

誰かを巻き込まないようにと公園を選んだのが間違いだった。

EOJなら正解だっただろうが、相手は魔法少女なのだ。

さっさと人間の多い場所へと逃げよう。

 

「逃がさない……!」

「逃げるよ」

 

思った通り、魔弾は飛んでこない。

しかし、跳躍の魔法も使ってこない。

これは、レディダイバーの魔法にはクールタイムあるのかもしれない。

決めつけるのは早計だが、これは利用できそうだ。

 

「時間は!」

『20秒経ったよ』

「……っ!」

 

小さな声。

それを聞いた私は内心でガッツポーズをする。

やはりクールタイムが存在する。

それはそうか。

人体が強引に跳躍を強いる跳躍魔法に慣れ切ることなんて不可能なのだ。

一度使うと、暫く身体を休ませる必要があるのだろう。

 

跳躍魔法を使って私を拘束するならば、肉弾戦からの関節技といったところか。

その為には私と密着する必要が出てくる。

となると、私の背後すぐ近くに跳躍するよりも、目前に跳んで掴みかかった方が楽だ。

 

もし読み違えたら私は捕まるだろう。

何せこの身体だ。

身体機能で言えば元の身体の方が何倍も上。

身体強化の魔法を使って底上げしているとはいえ、あまり差はない。

遠距離系の魔法少女という感じだ。

 

先程握り締めた右手を目の前で開放する。

確かに魔弾を吸収した右手のこれ。

別になんてことはない。

た(・)だ(・)の(・)魔(・)法(・)式(・)の(・)ブ(・)ラ(・)ッ(・)ク(・)ホ(・)ー(・)ル(・)だ(・)。

 

「これは……私の魔法!?」

『レディダイバー!』

 

ブラックホールを解除したら、勢いよく真正面へと魔弾が飛ぶ。

そして、その魔弾は目前に跳んできたレディダイバーに着弾した。

 

ブラックホールは超圧縮された惑星だ。

その引力は凄まじく、光すら湾曲する。

先程の魔法式ブラックホールは、その原理を使っている。

魔法相手にだけ反応する引力を持った小さな力場を生み出し、相手の魔法を吸い寄せる。

そして、その力場を開放すれば相手の魔法を利用することもできるのだ。

 

「こんなもの……!」

「じゃあこれも追加ね」

「ぐっ!?」

 

拘束を解除しようとしているレディダイバー。

それは困るので、こちらも拘束するための魔法を使う。

引力強化だ。

地球の引力を一時的に強化する。

対象を絞ることで、その威力は高まるらしい。

よく分からないが、恐らくレディダイバーは全身が重くてうまく動くことが出来ないだろう。

 

「というわけで、また会いましょうね」

「このっ!」

 

そして逃走。

別にレディダイバーを倒すことが目的ではない。

さっさと逃げるに限る。

 

 

 

「ふう……」

 

住宅街へと逃げ込んだ私は、さっさと変身を解除する。

少女の姿から青年のそれに。

これだけ姿かたちが違えば、レディダイバーも判別がつかないだろう。

 

「しかし、困ったな……」

 

レディダイバーがあの場にいたということは、摺木さんはレディダイバーに捕捉されている。

先程の言動から、摺木さんのことを被害者だと思っている様子。

ならば手荒なことはしないだろう。

もしかしたら仲間として迎え入れる可能性もある。

 

……我ながら楽観視している。

もしかしたら尋問を受けてしまうかもしれない。

そうなれば私のせいだ。

私のせいで彼女を危険な目に合わせているのだ。

それを間違えてはいけない。

 

しかし、それはそれとして私と彼女の関係は今まで通りとはいかない。

何せ加害者と被害者だ。

私と彼女の仲がよかったと気付かれてしまえば、彼女の身も危ない。

なので、メッセージを一つだけ残してスマホを処分しよう。

 

……しかし、何を遺すか。

そう思って暫く考えて、色々と文面を考えて、結局一言だけ送ることにした。

結局彼女が直すことのなかった呼び名。

それに対する訂正を。

 

『ロリお兄ちゃんはやめてね』

 

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