白髪の
それを踏まえて音井礼子はカタログをめくっていく。
和装という事で刀が似合う着物類が多いが忍者の様な身体全体を動かすような職業のように柔軟性のある防具が望ましいだろうと見当をつける。
武具はガントレットか丈夫な手袋。
全身甲冑では動きにくいし重量も嵩む。
(人様の装備を考えるのは難しい)
研究者は白衣くらいしか着ないがダンジョンに挑むならそれなりの防具を用意しなければならない。ずっと椅子に座り続ける事もいずれ出来なくなると予想している。
自分用の装備を後回しにし、神崎に好きなように選ばせてみた。
購入した後に【合成強化】で強化してもらえば防御力は更に上がる。単なる肉体的な攻撃力だけではいずれどうにもならない
(額当てと手甲と足甲と……胸当てかな。外套は要らないな)
神崎としては攻撃を受けるほど身体が強いとは思っていない。防御は必要最低限で充分だ。何をしても致命傷になるなら防具は
それより身体能力を向上させるアクセサリーでもあれば充分ではないかと音井に意見を述べる。
見た目のカッコよさは二の次。対外的にアピールするつもりは無い。
ただ、彼の本気モードの武装は別に存在するのだが、それが人前で披露される機会が果たしてあるのかどうか――
唯一其れを目撃出来たのは
彼からの要望を聞いていくつか選んだ後、店内を物色する。必要な物品も販売されており、回復アイテムもここで購入できる。
手早い計算により買取価格は五〇万ギニーを超えた。それで諸々の物品を購入する。一部は自衛隊の備品用だ。
「頻繁に利用するとは思えないので稼ぎはそちらに譲りますよ」
「何かあった時の為に一〇万ギニー分は入れておいた方がいいです。残りは我々で大事に管理します」
「了解しました」
昼に出るモンスターの魔石の価値とは段違いだった事に音井と猫妖精の店主も驚いていた。――買取については限界値は無く、いくらでも買い取れると事前に聞いていた。
あぶれた物品はダンジョンに放置して吸収してもらうか、地上に放出する。質量保存の観点で言えば還元が望ましいのでは、と音井は考えていた。
購入した装備品はそのまま荷物に入れてまずは食事と風呂を戴く事にする。それから神崎には早めに休んでもらい、その間に猫店主に色々とダンジョンについて尋ねる事になった。
充分に休んだ後、昼から午後五時まで妖精店の近くでモンスターの乱獲を始める。
【合成強化】用と自衛隊へ引き渡すものとして。
地上では多くの自衛隊員がG級、F級に挑み数々のドロップアイテムを持ち帰っている。それでも効率で言えば心許ない。そもそも弱いモンスターしか相手にしていない。
防具は段ボールを強化した、見た目にも粗末なものばかり。それでも限界まで強化すれば結構な防御力を発揮する。
後は魔本のドロップアイテムである魔導書だが、数が圧倒的に足りない。レアドロップ扱いの為に滅多に手に入らない。
魔本の通常ドロップはページの切れ端のようなものだ。
無限鳥居に出る市松人形は通常が刀の欠片と帯でレアドロップが小刀となっている。
「一定数以上は全て売却します。とにかく、手に入るだけお願いします」
「分かりました」
音井は妖精店の近くに設営されたテントで待機することにした。昼までなら戦闘に参加しても問題がないような気がするが効率を考えると彼に任せた方が早い。それとラスボスにも挑んでもらわなければならないので足を引っ張る真似は出来ない。
現れるモンスターの数は常に一定なので問題があるとすればエンカウントまでの時間だ。
だが、五分休憩を挟めば意外と気にならないものだ。
複数体が現われても危なげなく討伐し、ほぼ逃走を許さない。
羊谷達と違い頻繁にステータスを確認しない。それとスキルを使う事も忘れる。
適度に魔力を消費しているので魔力量は結構増えていた。
(……一人で単純作業するのは意外と大変だな。パーティか……)
神崎とて寂しさを感じないわけではない。彼に並び立てる人材が殆どいないというのは割りと気にしている。
そもそも
弟も日奈森もまだ高校生だ。
無理に探すとなれば『難読四姉妹』くらいか。とはいえ、年下の女の子を仲間にするのは気が引ける。
家族に恵まれた彼は――
意外とぼっちだった。
しかも一騎当千の
研鑽を積む相手がそもそも居ないし、必要が無かった。
ダンジョンが現われ、各地で得意武器を持ち名を上げようとモンスターに挑む者とはスタート地点がそもそも違う。
もし、もう少し弱い立場であれば彼も青春を謳歌する若者になれたのかもしれない。そして、自分がなれなかった憧れは彼の弟が邁進している。
昼と夜で
ここまで稼いだ金額は五〇〇万ギニーを超える。最初はどの程度の強さか確認する為だったが二日目からは乱獲に走った。
夜間は妖怪系で統一され、手ごわいのは鬼系だった。
「持ち帰る荷物が多いですが、明日は移動だけで手一杯になりそうですね」
「命子君に一日がかりで強化してもらう都合……、仕方がないけれど……。随分と集まったね」
総重量は一トンを軽く超えているのではないかと。肉類だけで休憩所の大半を占拠してしまう量になった。――当然、全て食べられないので放置するしかない。
それと妖精店で買えるだけの備品を購入しておいた。
回復薬は飲むと魔力をかなり消費するがある程度のダメージを回復する事が出来る。四肢欠損まで癒せるかは分からないけれど。
四日目は最後の休憩所まで移動に費やす事にした。相当量の荷物は二回、ないし三回に分けて運ぶことになった。
こういう時に大勢の自衛隊の手が欲しいところだ。
最後の難関は山から長く続く階段を下りるところだが、そこも何回かに分けて移動しなければならないだろう。
昼頃に荷物を運び終えた後はテントの設営だ。ここで女子高生組と合流する予定になっている。
彼女達は既に攻略済みなので昼の間なら再度クリアするのは問題が無い、と思われる。
更に鍛錬を積んでいるので昼間に出るラスボスならば問題なく倒せる筈だ。
四日目の夜間は無理せず休むことに決め、五日の朝を迎える。
今回は百鬼夜行の全てを倒す事が目的ではない。迂闊に敗北すれば手に入れた荷物が無駄になるかもしれないし、何より犠牲者を出してはいけない。
最後の戦いに向けてまず最後の舞台まで荷物を運び込む。一度、ラスボスの現れる現場に入れば帰りの通路は消失し、戻れなくなる。
最悪、運び込めずに失う可能性もあるが、それは実際に検証するしかない。
(二四時間の消失に遭わないよう調節しないといけない)
ラスボスとの戦闘はそれほど長くはかからないだろう。ただし、勝つことが前提だ。
負ければ神崎は命を失う危険性があるわけだが、どの道誰かが検証するしかない。これは遅いか早いかの問題だ。
そして、かなり危険な行為でもあるので公表も出来ない。
今回の責任として神崎に同行するが羊谷達は荷物運びが済めば休憩所に戻ってもらい、自分達が勝とうが負けようが明るい内に現れる弱い方のラスボスに挑んでもらう。
そんな計画を頭の中で組み立てていると予定通り羊谷達が完全武装の姿で現れた。大急ぎで来た為か、顔には疲労の色が見える。
「きょ、教授……。生きてた……」
「……ああ。私は無事だ。予定通りだよ、君達」
神崎と違い、彼女達は道中のモンスターを正攻法で討伐する為、意外と時間がかかる。それは本来は普通なのだが。
まずは休憩所に向かい少し休んでもらう。
それから来て早々で申し訳ないが、と言いつつ神崎の装備品に【合成強化】のスキルを使ってもらう。
山のような素材に女子高生たちは驚いていたが、説明もそこそこに早速仕事が開始された。
これが終わらない限り、一日くらい予定が伸びても構わないと判断しており、彼も了承している。
大急ぎで駆け付けたのに待っていたのは大量の素材と【合成強化】のスキル行使。ある意味、ブラック企業のようだ、と羊谷命子は思った。
ただ、見た事も無い素材が山ように――文字通り山になっていたので早く鑑定したくてうずうずした。
そんな彼女の為か、教授と呼ばれた音井は神崎に事前に【鑑定】してもらった書類を羊谷に渡した。ちなみに説明文は原文ママである。
「うおぉぉ!」
羊谷は吼えた。
素材の一部は彼女達にも進呈される。
「そうそう。君達用の防具があったんだった」
神崎が万が一の為に、と用意させたのはジュラルミンの盾だ。それが人数分ある。
ボス戦の時、全員参加するのでは、と想定して。理由は夜間のラスボスを撮影する為と神崎の補佐をする時まで安全な場所に控えてもらおうと思って。
実際は撮影は音井だけで女子高生達は持てるだけ素材を持ち帰る係だ。そうであるならばたくさんの自衛隊員を連れてきた方が良かったのかもしれない、と今更ながら気づいた。
ただ、万が一ラスボスの形態が変わってしまうと彼らの安全を保障する事が出来ない。
「六人パーティで挑む想定だったが……。無駄に終わるかもしれないな」
夜間のラスボスは羊谷の勘でも相当危険なモンスターになっている筈だ、と。今はまだ戦えない。何となくだが、そう思った。
そんな相手に白髪の男性が一人で挑むというのは自殺行為に等しい。
普段は明るい
相当強いのかもしれないけれどステータスをろくに弄れない大人が挑むには分が悪すぎる。
「私から見ても彼の戦い方は我々には何の参考にもならない。別次元と言ってもいい。おそらく他の人間にも見せない方が良いだろう」
「つまりチート野郎か?」
「……そうだな。なにしろ政府が直々に依頼する相手だ。ただ者ではない。だが、彼は一人だ。手助けしてくれる相手がいない。おそらく我々が一緒にボスに挑めば間違いなく足を引っ張る」
ダンジョンを世界で初めてクリアした羊谷命子は誰よりも最先端を行っているという自負があった。そんな自分すら以前見た彼の戦い方に上には上が居ると思い知らされた。
もし、ラスボスに挑んで負けでもすれば――寝覚めが悪い。
一人より六人。援護があるのとないのとでは、と思わないでもない。
(盾を用意してくれたという事はお前らは足手まといだ、とは言っていない。来るならしっかりと身を守れ的な?)
「ところで、妖怪の名前だと思いますが、たくさんありますのね」
「百鬼夜行の一部は既に倒されている。
このダンジョンに夜間に現れる妖怪は羊谷達も見ただけで勝てないと思わせた強者たちだ。それを既に何体も倒しているだと、と大きな声で言いそうになった。
つまり彼はC級並みか、それ以上の強さがあるという事になる。
ただ、レベルはそれほど高くなかった筈だ。虚偽報告か、と音井に尋ねた。
「レベルの詐称は無いだろう。元々強かった、としか言えないな」
「……わ、我、その人の話し聞きたい」
「あまり詮索しないでほしい。君たちの今後の活動に支障が出るかもしれない」
隔絶した力の持ち主は一般人にとって何の参考にもならないどころか毒になる可能性が高い。
見る分には構わないのかもしれないが己の力の限界を早めに感じてしまうのは困る、音井は判断していた。
煮え切らない気持ちのままスキルを行使していると噂の下の神崎が姿を見せた。荷物の移動が終わったようだ。
興味津々の女子高生達が早速質問攻めに来たが、まずは一人ずつ、と穏やかな口調で宥める。
音井は数日一緒だったが彼は常に物静かだった。激高する事も文句を言ったところを見た事も聞いた事も無い。だが、戦闘は苛烈だった。
裏の顔を危惧していたが、そういう黒い気配は特に感じなかった。
代表として羊谷がステータスを教えろと迫ってきた。それはさすがに、と音井が止めに入ると彼は快く応じた。
| 29歳 | |
| ジョブ | サポーター |
| カルマ | +357 |
| レベル | 17 |
| 魔力量 | 214/239 |
| スキル | |
【お兄ちゃん】 | |
| ジョブスキル | |
【鑑定】 【探索】 【アイテムドロップ確率上昇 極小】 【積載量 力上昇 極小】 【積載量補正 極小】 【サポーターの心得】 | |
| 称号 | |
【地球さんを祝福した者】 【修羅級・真なる無限鳥居のダンジョンへの挑戦権】 【 【 | |
上から順番に問題無さそうな文言を言っていく。
詳細は言う必要はないだろうけれど、自分でもよく分からない項目がある。
(もうレベルが17……)
(カルマは少ないのですね)
(ルー、忍ぶ方の忍者? それともサムライ?)
(こういう人がパーティに居ると楽しそう)
スキルの【お兄ちゃん】は家族を想って力を振るう時、全能力に補正がかかる。簡素な説明文なので、これがどれだけ凄いのか全く分からない。
サポーターのスキルに変化はないが【称号】が増えていた。
レベルは高いが他は平凡。伏字を除けば、という注釈が付くが。
「これからボスと戦うわけだが君達も同行するのかい?」
「深夜に入るとなると私達ではちょっと……。まだまだそんなに強くないと思うので」
ラスボスに同行する理由はどんな姿でどんな攻撃をし、どれほどの強さなのか第三者の目で知る為だ。当人だけでは胡散臭いし、証拠映像をしっかり撮れる者が同行した方が信憑性が高くなる。
だが、羊谷達は高校生だ。危ない橋を渡らせる事は大人には出来ない。――あわよくば共闘して討伐してもらい打算があった。
「ニャウ! 一緒に行ってもいいデス?」
「命の保証は出来ない。それでも構わないのであれば……。それと彼が負けた場合は君達がラスボスを倒さなければならなくなるが……」
(無理)
(えっ? ど、どうしましょうか)
「……絶対に勝てるとは言えないが……、負ける気は無い。もし、私が負けたら、階段に残してきた荷物を頼むよ」
既に荷物を移動していたが彼女達が見たらどう反応するのだろうか。音井は少し楽しみになってきた。――神崎に敗北されても困るけれど。
稼いだ金額も桁違い。もし、彼がスタート地点に居れば世間の注目を総なめにしていた。今ははっきりと断言できる。
今でこそ羊谷達、女子高生達に世間の注目が集まっているが、彼を加えたら――彼女達は
彼女達が決断が出来ぬまま装備品の強化作業が続いた。
折角持ってきたジュラルミンの盾も羊谷は強化した。
戦闘が始まれば壁際に退避して撮影会に臨めば何とかなるか、など仲間内で相談を始める。時刻は既に午後に差し掛かっている。強化作業に時間がかかり過ぎたためだ。
羊谷に限界値まで強化された防具を神崎は感謝しつつ装備した。
「ありがとう」
「いえいえ」
「武器の強化しないんですの?」
彼の持ち武器は幻龍斬戟だが得体の知れない強化を
音井は彼に――念のために――現場に向かったら荷物を全て少しだけ動かすようにお願いした。それからカメラ撮影のやり方を改めて教え込む。
そして、最終確認として羊谷達に同行するか、それとも拒否して彼が勝っても負けても朝になったら現場に向かうか、と。
敵は最高難易度になったラスボスだ。人知を超えた強さを披露するかもしれない。百鬼夜行に恐れを抱く彼女達には荷が重い相手となると予想している。
「まだ死にたくないので、ごめんなさい」
羊谷が代表となって頭を下げながら言った。他の三人もそれぞれ頭を下げる。
元々同行は無茶だった。大人の事情に子供を巻き込むことは神崎と言えど胸が痛む。
結論は出た。
時刻はあと一時間ほどで深夜〇時だ。彼女達にとっては眠っている時間帯でもある。
(命子君達でも夜の戦闘は怖いか)
戦わなくても防衛くらいは、と期待していた。それはそれで無茶なことに変わりはないけれど。
神崎は彼女達に手を振り、平然と深夜のダンジョンの中を駆ける。
おそらく道中、会敵が一回くらいはあるかもしれないが彼ならばものともせずに蹴散らすだろう。自分達は建物の中で怯えて朝を待つだけ。
音井と羊谷達はラスボスが待つ方向に手を組んで無事を祈った。
心配する彼女をよそに道中は
ある程度降りると雰囲気が変わり、見晴らしの良い雲海に浮かぶような島らしきものが見えてくる。
そこは戦闘に相応しい広場になっており、神社の境内に酷似していた。
逃げ道を塞ぐように注連縄が巻き付いた巨石が八つあり、昼間だと一つを残して他の巨石は消えてしまう。
このダンジョンのラスボスは『
まずは最高難易度の幻影体と戦う。それに勝ってから改めて挑戦するのか、また政府が決めればいい。
戦闘の舞台の入り口には一際大きな鳥居が建っていた。神崎はその場所まで向かい、呼吸を整えつつ階段に置いて来た
一度入れば今来た道が消えてしまう。であれば持って行くしかない。
恐怖は無いとかと聞かれればあると答える。彼とて好き好んで死にたいわけではないし、残してきた家族が心配だ。
スキルの【お兄ちゃん】が反応する。そして、封印されている二つの【称号】が人知れず解放された。しかし、神崎はステータスを開かない。
彼にとってゲーム的な行動はまだ不慣れだからだ。もし、ステータスを念じれば【称号】に何が書かれているのか分かった事だろう。――分かったところで、ふ~ん、くらいの反応しか示さないと思うけれど。
そんなことはさておき、広場に躊躇いも無く侵入した後、奥の方に駆け寄り必要になる荷物を取り出して、次々と設置していく。
都合十台のカメラ。それらの電源を入れる。次はたくさんの荷物を吹き飛ばされないように用意していたワイヤーで固定していく。安全を確保したいので幻龍斬戟は今回