知り合いのお兄ちゃん   作:トラロック

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サブタイトル未定
12 弟の出陣


 地上に戻った白髪の神崎(かんざき)龍緋(りゅうひ)は二週間ほどの予定で定期健診に入った。

 身内にしか知られていないが世界的に見ても二例しか確認されていないと言われている病気だ。一例目はマリン=ヴァニラ=鬻隰(いくさわ)の父。二例目が神崎だ。

 内臓を(いちじる)しく痛め、日常生活に支障が出る。

 重要なのは特効薬が存在しない事だ。まず、原因を未だ特定できていない。

 放っておけば内臓がボロボロに朽ちて命を落とす。

 延命措置にも限界がある。ゆえに彼は己の余命を考慮し、家族の為に力を振るう。

 

「兄ちゃんが居ない間、俺達がダンジョンに挑む」

 

 と、息まいて見せるも弟の赤龍(せきりゅう)には高校生活があり、ボランティア集団をまとめると言っても危険地帯に行くわけではない。

 姉の(りん)は血気盛んな年頃の弟達を見て頭を痛めていた。

 人知を超えた能力を持つのは兄だけ、という常識が暗黙の了解となっている。しかし、家族の中では鈴も結構な力持ちである事は割りと知られていた。

 五〇〇キログラムの背負い袋(バックパック)は背負えないが一〇〇キログラムなら持てる。

 

「一人では行かせませんよ」

「G級なら大丈夫じゃないの?」

「攻撃を受けても平然としていられますか? 兄様が()()()()、と言うほどなのですよ」

 

 長男より二歳ほど年下の妹は歳若い弟に現実の厳しさを教える。

 兄は幻龍斬戟(げんりゅうざんげき)のお陰で滅多に大きな怪我をしなくなった。大抵の打撃も黒い棒が肩代わりする。防具としての性能も発揮できる。

 攻防一体の幻龍斬戟(げんりゅうざんげき)はダメージの限界値が――一応――あり、それを超えれば普通に砕け散る。元々、へし折ったりしていたので砕け散る程度など何度もある。

 完全防御は出来ない。武器としても同様だが、こちらは物理法則を捻じ曲げる。であれば防御もそうなのではないかと思われがちだが、使い手次第らしく万能性こそあれ、無敵性には優れていない。

 戦闘に集中すると痛みの感覚が鈍る。その上で痛いと思わせるとなると結構なダメージと言える。

 

「攻撃を受けないようにすればいい、って言いそうだな」

「実際、そうしないと攻略なんか出来ないでしょうね」

 

 と、会話参加するのは次女の龍美(たつみ)。三女の鈴怜(れいれん)は台所で長男の嫁であるベアトリーチェと共に晩御飯の支度をしていた。

 本来ならばベアトリーチェの背中に子供の姿があるのだが鈴怜が()ぶっていた。

 理由は単純にベアトリーチェが背負うと背骨に多大なダメージを受ける恐れがあるからだ。鈴怜ならば肉体的にも強いので平気でいられる。

 既に二歳なので暴れる事も少なくなったが三歳までは姉弟(きょうだい)達が面倒を見る事にしていた。

 

「パーティを組むのであれば許可します。三人ないし四人がいいでしょう」

「四人というとリーチェのお姉ちゃんも?」

「ステータスを伸ばす為です。政府は日本人全員をダンジョンに挑ませたいようです。将来的にレベルアップした方が都合がよくなるとか。地上にモンスターが溢れた時の対策とか」

 

 自衛隊が率先してモンスターを倒せばいい、と言われるかもしれないが事は日本全土ではなく世界、地球全てに関わる問題と化している。

 一組織に対応できる規模ではない。

 

Level up!

 

 長姉(ちょうし)たる鈴が政府と掛け合い、弟達にダンジョンを経験させられないかと打診する。これは神崎の要望とは違う。

 神崎家は一般人の集まりだ。政府に掛け合う事自体おかしなものだが、それが出来てしまうのも不思議な風景と言える。

 さすがに総理大臣と懇意にしているわけではないが少なくとも防衛相とは付き合いがある。

 日本は世界に先駆けて一般人にダンジョンを解放した。その第一弾が済み、第二第三と続く予定になっている。ただし、誰でも気軽に、というわけには行かず、試験を突破した者だけだが。

 G級ダンジョンに挑む上で自衛隊の協力は欠かせない。よって、まずは羊谷達も信頼を置く音井礼子女史の下で勉強会を(おこな)う事になった。

 高校に休学届を出し、仲間を募った赤龍達は風見町に向かう。

 

「……俺が参加してもいいんですかね」

「赤龍さん、龍美さん。お誘いしてくれてありがとうございます」

 

 ベアトリーチェは留守番する事にした。理由は夫が一緒じゃないと不安だから。

 代わりに同行するのは赤紫色の派手な髪色の若者だ。ちなみに地毛である。

 もう一人は中学生くらいの女の子で、この娘は神崎が連れてきてから付き合いが深くなった。

 

「お前らのステータスはどうだ? カルマとか」

「それほど高くはないですが、プラスです」

「私も」

 

 マイナスカルマの場合はモンスターを倒してもレベルアップせず、殆ど恩恵が得られないと言われている。

 とにもかくにもカルマはプラスにしてからでなければ話しが始まらない。

 新参者の二人はダンジョン未経験者だ。地上でもスキルを行使し続ければ魔力の最大値を増やす事は可能だ。当然、レベルこそ(ぜろ)だが二人の魔力は二〇を超えている。

 ちょっとした小旅行の後に目的地である風見町にたどり着く。街ゆく人々の一部だが個人で鍛錬をする光景を見かけるようになる。

 ダンジョンの出現と羊谷という少女の活躍により世界からも注目されている。その中を赤龍達は眺めつつ自衛隊が臨時で併設した施設に向かう。

 姉と共に自衛隊との付き合いもある赤龍は代表者として挨拶し、必要書類を提出する。

 まっすぐダンジョンに向かわず、音井女史のところに案内される事となった。

 現場では羊谷が身体測定を受けており、レベルアップにおける肉体の成長度やスキル使用に関する諸々の変化を調査していた。そうすることで彼女は気軽にダンジョンに向かえるよう全面協力している。

 

「こんにちは」

「ああ、よく来たね」

 

 挨拶もそこそこに赤龍達は用意された椅子に座る。

 研究者である音井は連日の調査の為か目の下に(くま)があり、不健康そうな顔だった。

 まず、兄がお世話になったことを伝え、自己紹介を始める。

 

Level up!

 

 住んでいる地域が違うので赤龍達がここでダンジョンについて学んだとしてもすんなりとダンジョンに挑めるわけではない。

 それと試験会場は別にあり、きちんと必要書類を提出し、試験に合格しなければならない。それをちょっと政府に顔が利くからといって冒険者枠を用意できるかと言えば否である。

 

「地域ボランティア活動をする上でダンジョンに挑むこともある。俺達は全国展開できる人材を持っているがダンジョンのノウハウを持っていない。今回は伝手を使って学ばせていただきたいと思った次第です」

 

 高校生になったばかりの赤龍を見て、側にいる羊谷に顔を向ける。

 同い年の筈なのに印象がまるで違う。

 事前情報として赤龍達の事も調べてあるが兄の龍緋と違い、超常の力を持っているわけではなく普通の一般人となっている。

 

(この歳で全国規模の組織を束ねるとか……(にわ)かには信じられないな。……彼らの背後の居る存在が後押ししているのだろう)

 

 裏方仕事なので目立つ事は無いが必要な人材である事には変わらない。彼らは災害時に本領を発揮する。

 今回のダンジョン騒動に関して流石に手が出せなかったようだが規制線を張ったり、自衛隊に全面協力する姿勢は賞賛に値する。

 

「伝手と言ったが……。裏口を使うほど切迫しているとは思えないのだが」

「……これもまあ、俺達の都合というか予行演習というか……。使えるものはなんで使え、という精神でして」

「こき使われる代償としてこちらにも色々と融通してくれてもいいでしょう。合格通知を寄こせ、とは言ってないんだし」

 

 不満を口にするのは次女の龍美だ。

 兄は文句ひとつ言わず政府や自衛隊の要望に応えてきた。ボランティア精神として褒められたものだが家族としては大事な兄が命をすり減らしているのに恩恵が無いのは納得できなかった。

 今回は多大な貢献をしたのに賞状一つ寄こさなかった。――龍緋が黙って帰ってしまったのも原因の一つではある。

 

「民間人を私の裁量だけで優遇する事は出来ないよ」

(国に何らかのアプローチをしたいようだったが……。彼らが言いたいことはそんなことではあるまい)

 

 愚痴を聞き流し、まずは場所を変える事にする。元々、言い争いをする為に来たわけではないので話題を切られても龍美は反論しなかった。

 民間人にダンジョンに挑んでもらうにあたって選考基準を設けているのは無謀な者を生み出さないためだ。

 単なる憧れだけでは命を落とす危険性がある。であれば事前に(ふるい)にかけるのは必然だ。

 (きた)る地上での戦いを想定すると人員は圧倒的に足りないし、かといって安易に増やす事も出来ない。そこが頭の痛いところではある。

 赤龍達はその辺りを理解した上で来ている筈だ。問題はダンジョンの試験を突破できるかどうか――

 

Level up!

 

 まず別室に移動し、簡単な試験を受けてもらった。事前に調べていれば半分以上解答できるのだが、案の定全員不合格だった。

 ここまで見事に落ちるのはある意味清々しいくらいだ。

 一緒に受けた羊谷はほぼ満点の成績だ。彼女はダンジョンに対する並々ならぬ熱意は学力にも影響しているようで、本試験でも問題なく合格できると音井は思っている。

 

「解答の具合から君達は予備知識が無いようだ。風見ダンジョンの情報はネットでも調べられたはずだが?」

「……他所の地域だし」

「ネットに載っているって今知りました」

(……世間で話題になっているなら風見町の事も最低限……。ああ、興味が無いと私でも調べないな)

「俺、夜間のアルバイトが多いんで、昼間は……」

 

 今のご時世で情報弱者が居るとは音井も想定外だった。

 国民の誰もがスマートフォンを持つ時代だ。少し前の携帯電話普及率とは格段に違う筈なのに、と。

 短文投稿も出来るし、写真も気軽に載せられる。そんな便利な世の中にあって彼らは一世代前の人種のように感じられた。

 

(ウェブ小説より書籍を読むタイプかもしれないな。それはそれで健全だが)

 

 今は重量が嵩む本より手軽に閲覧できるウェブ情報が主流だ。もちろん真偽のほどは確証が持てないが、音井の下には確度の高い情報が集まっている。

 小難しい研究者の言葉より生の冒険者である羊谷の言葉の方が伝わりやすいかもしれない。そう思って彼女にダンジョンについて講義してもらう事にした。

 

「内容は試験に出ている程度でいい」

「分かりました」

 

 ニッコリ笑顔で応じる女子高生。

 少しでも恩を売ってダンジョン探索の糧にするのが彼女の目的だ。

 突如、筆記が始まったが赤龍達は文句ひとつ言わなかった。元々ダンジョンの知識化乏しかったので教えてもらえることに不満は無い。関連書籍についてはまだ充実しておらず、経験者の意見や専門のホームページからでしか情報が得らない。

 

「座学より実践が良いと思いますが、少しでも生存率を上げるには講習は良い教材となります」

 

 まずは自己紹介。そして、今回出された試験内容の解説を始める。

 ダンジョンとは何か。光りの渦の色。出てくるモンスターの情報。心構えなどを比較的わかりやすく――

 聞くのと見るのとでは違う、という事はしっかりと伝えた。

 

「地球に現れた光りの渦は色によって難易度が変わります。その基準は入る人の強さと言われています。現時点で分かっているのは紫色が一番危険だということ」

(近くの土手にあるのはDないしC級。それと同じモンスターが出てくるわけでもない、と)

 

 地域によって現れるモンスターが変わり、未だ全貌が掴めていない。

 一定階層ごとにボスが待ち構えている事も分かってきた。

 モンスターを倒すと現れるドロップアイテムの種類も豊富で中には中々出てこないレアドロップが存在する。

 どんなモンスターにも攻略方法があり、落ち着いて相手の動きを見ることが大切だと羊谷は熱く解説した。

 

Level up!

 

 武具は自分で作るかモンスターのドロップを利用するか妖精店で購入する。

 宝箱は今のところ罠は無く、発見者に権利がある。

 ダンジョンは今のところ消し去る方法は無く、今後も増えていく。

 

「それと未だにダンジョンは未知の部分が多く、意外なところでシークレットイベントが起きる可能性があります」

 

 四人は真面目にメモを取り、彼女の言葉に耳を傾ける。

 質問があれば適時答え、分からないところは分からないと答える。

 羊谷は高校生にしては度胸があり、テレビカメラも割合平気な少女だった。

 小一時間の講義の後、再度答案用紙を配ると結構な高得点となった。

 

「……うん。四人共順応性が高い」

 

 羊谷が教師役をしている間に冒険者登録用の必要書類を用意し、それぞれに渡した。

 もし、興味があるなら受けてみるように、と。

 

「ありがとうございます」

(……四人共素直だ)

 

 明るい調子でやってきた時はもう少し破天荒さが出てくると思っていたが真面目に勉強し、羊谷を馬鹿にしない。

 うぬぼれも見せない。少しは生意気さが出ると思っていたが意外な結果に驚いている。

 四人の目的は書類を受け取る為に自衛隊までやってきたわけではなく、ダンジョンに潜る為だ。その為に姉に無理を言ってお願いした。

 

(……特例を作るわけには……。って、この子はどうなんだ?)

 

 四人は羊谷に顔を向けた。

 そういえば、と疑問を抱く。

 自分達とは違い、彼女はどうしてここに居るのか。

 聞けばレベルアップにおける身体的変化の調査に協力している、と教えてもらった。

 

(したた)か)

(いいな~)

(いつも政府の人に優遇してもらってたもんな。……それじゃあダメだろ)

 

 休学届を出したものの無茶な要望だと察した四人は一旦帰る事にした。

 名残り惜しいが自衛隊を困らせるわけには行かないし、後々言いがかりをつけられるのも困る。

 元々は情報弱者である自分達が悪いのだが。

 

「……私個人としてはあの神崎龍緋という男性に興味がある。いくらの情報と引き換えならばダンジョンに潜ってもらってもいいと思っている」

 

 政府秘蔵の人物だ。異世界についての情報も得られるかもしれない。そうでなくとも彼の身体能力は明らかに常人を上回っている。その家族も何らかの力を持っていないとも限らない。

 どうだろうか、と持ちかけると言えることは少ないと赤龍は答えた。

 

「兄ちゃんは昔から強かった。病気じゃなかったら……、あの人に勝てる人類はきっと存在しない」

(わ~お)

(……人類ときたか。……あながち誇大評価と言えないのが恐ろしいな)

 

 龍美達三人もそろって頷いた。

 ただ、赤紫の髪の男性に対して龍美はいきなり頭をひっぱたいた。

 その人類最強にてめえは勝ったんだろうが、と叱られた。

 

「……その(てい)でいくと俺、姐さんに負けているんですけどね」

 

 気弱な態度を見せる男性の脚を中学生の少女が蹴る。

 見るからに不機嫌な顔を見せるが何も言わなかった。

 

「ちなみにうちの父親はロクデナシだから。カルマも確かマイナスだったかな」

 

 あはは、と笑いながら龍美は言った。

 家族で一応ステータスのチェックを行ったところ赤龍達の父のカルマがマイナスとなっており、ほぼ全員で馬鹿にした。――ただ、そんなことをしたので皆のカルマが少しだけ下がってしまったけれど。

 実のところもう一人カルマがマイナスになっていた人物が居た。さすがにそれを知った時は家の中が御通夜のようになってしまった。

 その人はステータスを見るまでもなく悔いており、今回の事で命を落としても構わないと諦めていた。

 赤龍達の父は扱いが違い過ぎると文句を言っていたが無視した。

 

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