知り合いのお兄ちゃん   作:トラロック

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09 百鬼序盤戦

 無限鳥居ダンジョンは風光明媚な景色を持ち、閉塞的な通路型ダンジョンとは一線を画す。

 まず地下空間とは思えない。明らかな異空間仕様。

 時間の概念があり、夜は真っ暗になる。――完全な闇に閉ざされるわけではなく空には星が(またた)く。

 自然物が多いが名前の由来となっている鳥居――入り口にも建っている――が山間部にたくさん建てられ、誰が作ったのか、それとも地球が用意したのか。

 

「現在時刻は午後二時。あと三時間以内に安全地帯(セーフティゾーン)に行かなければモンスターの質が変わります」

 

 事務的に音井礼子女史は告げる。

 舗装されていないが道があり、それを進めばいい。途中枝分かれしており、行き止まりがたくさんある。

 山は二つ見えているが、最終目的地は二つ目の山だ。直線距離としては数キロメートルだが緩急が付いているので実際にはもっと長丁場になる。――女子高生組も最初は五日ほどかかった。

 モンスターと戦い、午前中だけ進むとなると意外と時間がかかる。何より何の情報も無い中だ。クリア出来ただけ大したものだ。

 

「まず、貴女は道中何を調べますか? 効率を考えると、言葉は悪いですが、足手まといなのですが……」

「……可能であればモンスターについてと樹木などのサンプルが目的ですね。それと各安全地帯(セーフティゾーン)の様子や妖精店での情報収集も。ラスボスはさすがに呑気に観察は出来ないでしょうけれど……」

「ならば戦闘を避けて一気に向かっても問題ないですね。途中で寄りたいところは安全地帯(セーフティゾーン)だけ……。宝箱がありそうな行き止まりは無視しても構いませんか?」

「……そうですね。行き止まりも気になりますが……。今回は夜間戦闘がありますから、神崎君を優先させます」

「了解しました」

 

 神崎は話しながら黒い棒を取り出し、適度にへし折っていく。

 荷物を地面に置いたところで彼女に目隠しをするべきか少し迷った。

 隠すほどの事でもないのだが叫ばれる可能性がある。効率を考えれば()()強引な方法を取るのが妥当と言える。

 

「では、背中に……。それとも異性に胸を押し付けるのが恥ずかしい、とかありますか?」

「……多少は。ですが、時間もありませんのでお任せします」

 

 神崎は男性だ。妻帯者でもあるのは音井も知っているがいざ自分が背負われるとなると――恥ずかしさで頬が赤くなるのも致し方ない。

 最初の目的地まで目隠ししますか、という問いに対して少し嫌な予感がしたが結構です、と答えた。――秘密の方法を取った方が効率的なのだろうけれどダンジョンの景色が見たかったので即座に断ってしまった。

 

Level up!

 

 リュックを背負った音井を神崎が背負うと黒い鞭の様なものが巻き付き、彼女をしっかりと固定する。

 結構きつく縛られたので多少暴れても落ちそうにない気がした。

 乗り物酔いはしないが吐かないでいられるか、気になってしまったのでビニール袋を出してもらい、それを口元に忍ばせる。

 格好としては彼の背後に背負われ、足でクロスするようにしがみついた形だ。腕は放しても安定しているのでメモも食事も取れそうだが動く中ではかえって気持ち悪くなりそうなので黙っている事になる。

 

「身体をしっかりと固定しているので物を書いたり食事も可能ですが……。きつければ言ってください。あと、トイレの時も遠慮せずに」

「了解しました」

(足だけでしがみ付く姿は少し恥ずかしいな)

 

 細かな気配りに深く感謝し、必要な物をすぐ取り出せるように調節する。足の力を緩めても特に問題は無さそうだが振り落とされることを考えると安易に力が抜けない。

 音井の役割は地図を見て指示すること。寄りたいところがあれば可能な限り応えると彼は言った。

 

「では、行きますか」

「よろしくお願いします」

 

 荷物を置いたまま彼は進んだ。

 二人の身体を固定する黒い帯。それはいかなる素材なのか、興味はあるが事前に調査しないように、と()から厳命させている。

 名前が『幻龍斬戟(げんりゅうざんげき)』というのは承知していた。てっきり刺突系の武器だとばかり思っていた。

 先ほどの目隠しというのは武器の使用を見られないようにするため、ではなく乗り物酔いを防ぐ意味だったことを身をもって知ることになる。

 少しずつ足を速め、音井の様子を窺いながら駆け足へと変わっていく。後方に荷物が置き去りになっているが、彼は未だに気にしていない。

 道なりに進んでいるが途中で枝分かれしており、音井が正しい道を指示する。

 彼は特別足が速いわけでもなく、瞬間移動のスキルを持っているわけでもない。

 空を飛ぶでもなく、ただ年頃の女性を背負いながら山道を駆け抜けていく。

 

(成人女性プラス荷物を背負って駆け続けるのは一流アスリートでも難しい)

 

 ある程度の距離を走っていると最初の敵が現われた。数は二体。たまに三体現れる。

 出てくるモンスターはラスボスを除くとバネ風船の他には魔本と杵を持った兎。宙に浮かぶ日本人形。仲間を支援するスキルを持つ狸。ドロップアイテムを盗んでいくツチノコだ。

 夜間のモンスターは『百鬼夜行(ひゃっきやこう)』の集団以外は未確認だった。

 

「杵ウサギと魔本。兎は武器を弾き飛ばせば攻撃してこない」

 

 背中から解説する声に応えず、神崎は駆け出す。

 道中でも指示を出すが黙っている事が多く、かといって従わないわけではない。無駄口を叩かないだけだ。

 少女達なら元気な返答をしてくれるが大人はだいたい静かだ。ただ、慌てるとうるさくなるが彼は今も静かだ。

 魔本は柄の長い槍で一突き。兎も同様にあっさりと撃破した。

 

(……変幻自在の武器というのは正しくチート……。ただ、適時変形しているものの攻撃自体は特別なものではない。刀剣類を持っている者と戦い方は変わらない)

 

 一言で言えば神崎は一人で複数人の仕事をこなしているだけ。それはある意味、一人の負担が尋常ではなくのしかかっている事を意味する。それを踏まえれば安易にチートと言えるのか(はなは)だ疑問である。

 彼は確かに強いが一人しか居ない。

 神崎は魔石と兎の毛皮のドロップアイテムを拾い、早速スキルの【鑑定】を使ってみた。

 念じると見たままの説明文が出てきて、それをどう使うのかヒントのようなものは無かった。

 

(スキルを使うと魔力量が減る。これを使っていけば最大値の数値が増えていく……筈……)

 

 未知の能力なのでまだ使いこなせていないが、積極的に使って行かないとこれからの戦いにおいて苦戦する気がした。

 拾ったアイテムを仕舞おうと思ったところで背負い袋(バックパック)が無い。せめて小さな袋を持ち歩けばよかったかな、と。

 近くにモンスターが居ない事を確認してから後方に長く伸びる黒い紐の様なものを手繰(たぐ)り寄せる。

 最後まで引っ張らなくても途中から自動巻き上げ機のように短くなる。

 人前ならずっと背負わないと気味悪がるが音井女史ならば見られても大丈夫だと判断して楽な方法を使った。

 自走式のリアカーのごとく大きな背負い袋(バックパック)が横に転ばずにやってきた。

 普通に引っ張るとどこかで横転するものだが、これ(幻龍斬戟)はその心配が()()無い。

 

(ジョブスキルに従い背負った方が良かったのかな。アイテムのドロップ率が良くなるらしいから別にいいか)

 

 試しに【探索】を使用する。これは()()()()()敵やアイテムの位置が分かる。範囲は約一〇メートルほどだろうか。

 使い続けなければ精度が上がらない、というのは鍛錬と一緒だ。

 ついでに樹木を切り倒そうかと思ったが枝にした。まだ持って帰れる保証がないので。

 音井に渡すと丁寧に梱包し、リュックに仕舞う。――未だ彼に背負われたままだ。

 急ぎ足で先に進むとモンスターが都合よく前方に立ち塞がる。それを繰り返すと最初の安全地帯(セーフティゾーン)にたどり着いた。

 見た目は日本家屋の木造一軒家だ。ご丁寧に立て看板が設置してあり、休憩所と日本語で書かれているが出身国によって見方が違うのではないか、と予想されている。

 

「まず、ここで一泊します。……本来ならば。ですが、もうすぐ五時を下回ります。無理をしないでください」

 

 黒い拘束を解かれた音井が地面に着地すると少し身体がぐらついた。ずっと地面に足を付けていなかったので平衡感覚が狂ったようだ。あと、身体を不必要に緊張させていた事もあり、節々が痛い。特に太腿辺りが。

 

Level up!

 

 休憩所は各々ステータスによって最大十二時間滞在できる。

 中には食事を摂れる囲炉裏やトイレが完備されている。住人は居ない。

 音井は十二時間だが神崎は二時間半。これはカルマの数値によって変わることが分かっている。

 

「外でも一定範囲内であれば魔物は寄ってこないそうですから。寝袋かテントで休んでください」

 

 一番労働したものが粗雑な扱いになるのは音井と言えど心が痛む。

 ここから無理をして次の安全地帯(セーフティゾーン)に行ったとしても滞在時間の変更は無い。

 一度ダンジョンから出ればリセットされる。今のところ長期間滞在を試みている人間はいないが一般向けに開放されれば挑戦者が現われる筈だ。

 神崎は早速休憩所の近くにテントを設営し始める。一人分ならそう時間がかからない。

 まずは常備薬を飲み仮眠する。ドロップアイテムは音井に渡しているので今頃建物の中で調べているかもしれない。

 超人の様な神崎も不眠不休で戦い続けられる程強くない。きちんと薬を飲み睡眠を必要とする。三〇分も過ぎれば寝息を立てる。

 そうしてダンジョン内は薄暗くなり、夜が訪れる。

 その頃になると誰が点けているのか、灯篭のようなものが灯り、道が明るく照らされる。

 時刻が九時を過ぎるころに神崎は目が覚めた。警戒していると眠りが浅く短時間しか眠れないが一度でも熟睡すれば結構身体は楽になる。

 

(午後九時……。報告にある百鬼夜行は妖精店の側から発生するから、ここいらはまだ大丈夫か)

 

 テント内で軽く身体をほぐした後、いくつかの薬を飲む。

 彼は大病を患っている都合で常人よりも多く薬を飲まなければならない。それを怠ると意識障害に陥りやすくなる。ただ、数日程度、飲み忘れても問題はないが一週間も開けてはならないと言われている。

 本当なら注射も打たなければならないが今回は持ってきていない。

 新薬の被検体でもあるので彼は働かずとも一定の収入を得られるようになっている。それと政府の依頼は弱みを握られているから、というわけではない。

 様々な伝手が巡り巡って行きついただけだ。元々は別の依頼主が居る。

 薬を飲み終えた後、専用端末『M・サテラ』を起動し、業務日誌の様な物を打ち込んだ。自衛隊に提出する書類作成も一緒に(おこな)う。ついでにステータスの確認も。

 諸々の雑用を済ませた後、身支度を整えてテントから出た。

 満天の星空が出迎える。この風景は人工的に作られたのか、それとも地球とは違う世界の夜空なのか。

 月が無い。国も無い。あるのは未知なるダンジョン。

 幻想の空。かつて見た夜空は月のような星が絶えず六つ以上は見えていた。少なくとも自分の知る空ではない事は理解した。

 

(……モンスターの様子を見に行こうか)

 

 上ばかり見ていると首が痛くなるので。

 難易度変化型ダンジョンは時間経過でモンスターの質が変わるのだが、百鬼夜行を除いて情報を持ち帰った生還者は現れていない。

 油断はしないがステータス的には心許ない。それでも神崎は歩みを止めない。

 防備を整え、夜間の探索に繰り出した。

 

Level up!

 

 昼の内であれば可愛らしいモンスターが出迎えてくれるのだが、夜中は一段と危険度が増す為か殺気が凄まじい。これから向かう山から発せられているようだ。

 大抵の荒事に慣れている彼であっても尋常ならざるモンスターと言うのは少なからず存在する。

 ある程度道なりに歩くと妙齢の女性が二人、姿を見せた。

 

(……女性型のモンスター)

 

 迷い込んだ冒険者と思わなかったのは彼女達を見た瞬間に背筋に悪寒が走ったからだ。

 殺意というより敵意だ。人のよさそうな顔をしているがモンスターだ。見た目が可愛くても迂闊に近づいてはいけない相手だ。だが、神崎は近づいた。

 友好的な相手だと思ったわけではない。一定距離まで近づかないと戦闘にならないかもしれないと思ったからだ。

 相対距離が十メートルを切った頃に女性達の顔は凶悪な面構えとなり、明確な殺意を伴って襲い掛かってきた。

 昼間に相手をしたモンスターとは比べ物にならないくらいの速度と力を伴っていたが充分に警戒していた神崎の相手としては()()()()

 四方から伸びた幻龍斬戟の黒き鞭により身体を絡めとられ、強靭な力で抜け出そうとするが柔軟さで封殺する。

 敵を倒す事において正攻法でなければならない理由は無い。実際にこの手で封じられる敵は基本的にモンスターくらいだ。

 獣皇(じゅうおう)を相手にした時は僅かな間しか拘束できなかった。この時は自分の力の限界を感じたものだ。――結局、倒してしまったけれど。

 じっくり観察する事無く倒そうかと思ったが、一応証拠写真か映像を残した方がいいかと思い、急いで荷物を取りに行き、女怪モンスターを撮影した。

 撮り終わった後はさっさと首を撥ねて倒した。

 ドロップアイテムは大きな魔石と『飛縁魔(ひのえんま)の瞳』という水晶玉の様なものが落ちた。

 もし、女子高生達が居れば倒し方にも気を使うが、一人の場合は効率を重視する。

 続いて現れたのは燃える車輪の中心に人間の首が付いた妖怪だった。それも動きを止めてしまえば倒すのは楽だった。落としたアイテムは『輪入道の車輪』だ。

 先ほどの瞳と同様に何らかの素材アイテムのようだ。何に使えるかは分からない。

 次は着物姿の女性で後頭部にもう一つ口がある妖怪だった。こちらは倒すと『二口女の髪』がドロップした。

 拘束して倒すので攻撃方法が全く分からないが呑気に攻撃させる気が無かったので仕方がない。

 後からくる冒険者にとって攻撃方法が分からないと攻略出来ないかと思い至るが、恐らくモンスターの方が強すぎて戦いにならないのではないかと思うので、今は殲滅を優先する事にした。一応、姿は撮影している。

 今のところ拘束を解くほどの強者は現れていない。

 次は身の丈五メートル以上の熊が出てきた。こちらは拘束を振りほどくかと思われたが無理だったようだ。ドロップアイテムは『鬼熊の手』と肉だった。

 生物系は肉類をよく落とすらしい。それらはラップで包んでおく。後、全てのモンスターは魔石を落とす。

 次は神崎もすぐに分かった。小豆(あずき)洗いという妖怪だ。(ざる)に入っている小豆を投げるのだが、それが散弾銃のように飛んでくる。咄嗟に防御するも後ろに押される程の衝撃だった。まともに食らえば全身穴だらけにされてもおかしくない。

 モンスターには攻略法があり、弱点もあると言われている。この妖怪は笊がなければただの小柄なおじさんだ。殴ったり蹴ったりするかもしれないが近接戦なら問題なく処理できる。

 やはり、というか『小豆洗いの豆』がドロップした。一粒ではなく結構な量がまとまって落ちた。

 次は地面から少しだけ浮いている地蔵で火のついた瓶を持っていた。当然、それを放り投げてくる。正しく火炎瓶だ。

 一定範囲を焼却する危険なモンスターだが投げた後は無防備になるので倒す事自体は難しくない。――神崎だから簡単であって実際は固い身体を砕くのは並みの武器では無理だろう。

 ドロップアイテムは『油すましの瓶』で中身は原油かもしれない。内容量はペットボトル並みなので国一つ賄えるだけの量を得るとなると天文学的数字になると思うので乱獲は現実的ではない。

 ここまで複数体出現していたが二体でも割ときつい。終点付近では五体編成の筈だから更なる苦戦を()いられるだろう、と。

 戦闘を終えて時計を確認すれば日を跨いで二時になっていた。結構、時間が経過していた。

 発見したら即座に拘束して撮影してから倒す、という面白みのない戦いだったけれど。今のところ苦戦する程の強敵は居らず、無敵性を持つモンスターも現れていない。

 条件を満たさなければダメージを受けないようなものが相手であれば神崎と言えど倒せない可能性がある。

 休憩所に戻ろうとしたところで最後の敵として大きな鏡が何枚か現れた。

 攻撃方法は怪光線の乱射。かなりの高温を伴っており防衛し続けるのは難しい。が、それに耐えられる相手であれば攻略出来なくはない。それに鏡が向いている方向にしか光線を照射できないし、味方に当たると少し溶けるところから同士討ちを狙うのも一つの戦略だ。

 神崎は慌てず――当然のように――物理で破壊した。ドロップアイテムは『照魔鏡(しょうまきょう)』というもので、これは対象のステータスを調べるものらしい。カルマログと呼ばれるものまで調べられるのかは分からない。

 もし、ここまでの戦闘を羊谷達が見ていたら開いた口は一時間ほど閉じないだろう。

 まず、戦い方が理不尽。モンスターの方が気の毒に思える。きっとカルマは減り続けているに違いない、と言い切られるかもしれない。

 

Level up!

 

 休憩所に戻り、身体に異常が無いか確認した後、アイテム類の整理を始めた。

 少し寄り道した程度なのでそれほどの数は集められなかったが音井にいい知らせが出来るのではないかと少し嬉しくなった。

 まだ序盤戦だ。肩慣らしにしかならない。

 荷物の整理を終えてから軽く二時間ほど自己鍛錬に励む。主にストレッチ系だ。ジョギングするとモンスターと会敵してしまうので。

 それらを終えて汗を拭き終わる頃には音井が休憩所から出てきた。

 

「おはようございます」

 

 彼女に挨拶したが寝不足なのか、それとも低血糖なのか顔色が悪いまま返事も無かった。

 眠そうな顔のまま携帯食を食べ、栄養ドリンクを飲むと意識がはっきりしてきたようだ。

 そんな彼女に夜間の内に討伐したモンスターの情報とアイテムを見せると目に光が灯った。

 

「……信じられない。良く倒したと言うべきか……。こっちの瓶、中身が原油? 確かに油の匂いがするが……。それとこの鏡は……まさか……。恐らく『雲外鏡(うんがいきょう)』という付喪神の妖怪だろう」

 

 白い薄手の手袋を嵌めてアイテムを品定めする。

 仕事モードとなった音井の頭の回転速度は神崎のチートじみた能力に伍するまでに――

 映像データも見せてみると顔を青くしたり、興奮したり忙しくなった。

 普段は無気力な様子だが興味がある事になると豹変するようだ。とにかく、元気であれば文句はない。

 モンスターについて問題があるとすれば強さが全く分からない所だ。無防備で攻撃を受けろとは言えない。

 

「アイテムの精査は次の妖精店についてからにしましょうか。急げば昼頃に着くと思いますが」

「そ、そうだね。こんなところで足止めを食っているわけには行かない」

 

 梱包を音井に任せて支度を整える。

 次の目的地で一旦、音井を残してドロップアイテムの乱獲を始める。時間の許す限り――

 最終地点は今いる休憩所と同じく無人なので、余裕があれば往復する予定だ。

 準備が出来次第出立し、例の如く音井は神崎に背負われ指示を出す。

 道中は鳥居をいくつも通り抜け、立ち寄るべき行き止まりで旅の安全祈願を祈ると宝箱が出現した。おそらく冒険者一人につき一回程度と思われる。

 この青い宝箱は冒険者が願う武具を生み出すが神崎は受け取らなかった。

 

(持って帰るにしても大きいし)

 

 音井は同僚の馬場翔子に合いそうな武器を思い浮かべて宝箱を開けた。放置するのも勿体ないので。

 中から出てきたのは先端に金属の金具がついた鞭だった。

 

Level up!

 

 羊谷達が試行錯誤して倒し方を見つけたモンスターも神崎相手では全てが意味を為さなくなる。

 変成が四体になろうと浮遊する日本人形――通称『市松人形』もものの数ではなかった。

 淡々とスキルを使いつつ会敵したモンスターを即座に拘束して叩き潰す。もし、現場を見ていなければ決して信じないだろう。そんな理不尽とも思える様な戦い方の連続だった。

 

(命子君たちですら何度も打撃を与えなければ倒せない相手なのだが……。一撃で粉砕とはどういうことだ? 彼のレベルはそれほど高いわけではないだろうに。ジョブもまだサポーターだった筈だ)

 

 バネ風船を拳一発で倒した、という報告書は読んだ。目撃した彼女達ですら凄かった、としか言わない。

 具体的な様子はやはり映像記録にでも残してくれないと理解できない事を今更になって思い知る。

 いや、目隠ししていた方が良かったのではないのか、と後悔を覚え始めた。

 レベルで言えばモンスターの乱獲はまだ(おこな)っていないので、二〇未満だ。しかし、かなり強いモンスターを立て続けに倒したのでレベルは結構増えたのは事実だ。

 戦闘職に就けば戦いももう少し楽になるのだが熟練度の為に未だサポーターのまま。というよりどれくらい続ければいいのか神崎本人は分かっていない。

 駆け足でモンスターを蹴散らし、毛皮やら肉やらを拾い集めて数時間後には目的地の妖精店に到着した。

 初めてのダンジョンであればもう少し探索を中心に進めるものだが政府の依頼の為か、はたまた予定が決まっているからか、余計な周り道を行かない。

 

(……何度も行きなれていればこれくらいの時間で到着するのかもしれないが、圧倒的だな)

 

 幾つかの(のぼり)が立てられた建物を見つつ音井は神崎の能力について俄然興味が湧いた。

 今のところ見せてもらえているが、映像記録には残さないように、と言われてしまった。

 外部流出をおそれるのは理解できるが実に勿体ない、と研究者としては思う。

 だが、理解できないわけではない。彼ほどの強者なら政府が重宝するのも頷ける。

 とりあえず、彼については保留とし妖精店に入る。店員は和装を纏った猫妖精で日本語を話す。――これも聞く人種によって違う言語なのかもしれない。

 ここは他の休憩所と似たようなシステムだが、時間は共有されていない。

 (神崎)の利用時間は五時間だった。それだけあれば食事と風呂を利用する事が出来るし、就寝を外にすれば最終日まで利用する事も難しくない。

 

「まずは『妖精カード』を作りましょう。ここではギニーという通貨を使います」

「分かりました」

 

 妖精カードは五〇〇ギニーで作れる。代金は音井が払った。

 これは携帯端末にお金をチャージするシステムに似ており、買い物する時にカードを提示すれば自動的に決済してくれる。大量のギニー硬貨を持ち歩かなくていいので便利である。ただ、使用するには得体の知れない液体を飲まなくてはならない。

 宿泊についてはパーティ用の部屋を取ることにした。

 まずは換金用のアイテムを猫の店主に引き渡す。相当量あるので終わるまで時間がかかる。

 待っている間暇になるので音井は装備品のカタログを出してもらい、それを外に持って行ってもいいかと尋ねた。もちろん、持ち逃げする気は無く、利用時間の節約のためだ。

 装備品カタログはダンジョン毎に違いがあり、このダンジョンの場合は和装が中心だ。

 神崎は得体の知れない黒い棒以外は私服で、何の強化もしていない。ほぼ紙装甲だ。

 【合成強化】のようなスキルがあれば少しは役に立てたのだが――

 心が痛むので妖精店の良い防具を買ってあげようと思った次第だ。

 

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