ぐだアースSS 作:ウヤムヤ
ええ、知っています。日本の伝統芸能で、桜の木の下で宴をするのですよね。
……違いましたか? アルクェイドからはそう聞いたのですが……。
……大体合っている? でも最近はレクリエーションとしての面も大きい?
なかなか難しいのですね……。
……でも、ほとんどの人は桜を見ながら食事をすれば大体お花見だと思っている?
……やはり大雑把なのでしょうか……。偶に人類について分からなくなります。
ともかく、私の所に来たのはそれに参加するよう促す為でしょうか?
……ええ、最近カルデアのサーヴァント、特に日本出身の方々が忙しそうでしたので。
貴方も日本出身でしたね。となれば、必然手伝っていたはず。
……やはり。それで、今はそれに参加してくれそうなサーヴァントや職員に声を掛けている、と。
……その申し出は大変嬉しく思います。
しかし、私は立場上、そのような場所に行かない方がいいでしょう。
……何故、ですか?
貴方は魔術と無縁の生活をしていたみたいなので実感は薄いのでしょうが、私はアーキタイプ:アース。魔術世界では『原初の一』とされるものです。
仲間扱いされるのは遺憾ですが、あのORTと同種だと言えば分かるでしょう?
……いえ、そこで不思議そうに首を傾げないでください。アースはアースだろうと言われても……話の腰を折らないでください。
まったく……ORTが魔術師からどういう見方をされていたのかはもう知ってますね?
いくらサーヴァントとして召喚されたとはいえ、魔術世界に関わるものからすれば私もORTも同じようなもの。
故に、私が行った所で皆を怖がらせてしまうだけでしょう。
……そんなことはない? 仲間なんだからちゃんと受け入れてくれる?
……それは……。
………………では、私ではなくアルクェイドにその役目を任せましょう。
何故って、それは……彼女は私や原型の私と違って明るく友好的ですので……恐らく他のサーヴァントや職員の方々もそちらの方が安心かと。
え? どうして行きたくないのか……?
…………もし、『アーキタイプ:アース』を受け入れてくれているとしても、『私』自身は、その……あまり人と関わるのが……話すのが苦手ですので……。
――呆れないでください! 彼女と違い、私は会話の作法を知らないのです!
貴方とは普通に会話出来ているから大丈夫?
……それは、貴方のコミュニケーション能力がおかしいだけです。
……ともかく、私は行きませんので、あとは貴方に任せます。アルクェイド。
――と、あらら、引っ込んじゃった。
ごめんなさい、マスター。自分で言うのもなんだけどわたしたちって結構融通利かない所あったりするから。
特に過去のわたしはなぁ……まだ色々と足りてないのよね、主に経験が。
あ、でも、あれでも少しずつ変わってきてるのよ、誰かさんのおかげで☆
と、そういえばお花見だったわね。はいはーい! もちろん参加しまーす!
場所は……シミュレーターなんだ?
あ、そっか。外、あんなだもんね……。風情も何もないか。
…………ん?
………………!(瞬間、アルクに電流奔る)
そうだ! ねぇ、マスター! あとで時間ある? ちょっと貰えないかしら、その時間――
「はーい、過去のわたし。いきなり面倒事押し付けるのやめてくれない?」
「……そう言いつつも、しっかりと楽しんできたようですが?」
「もっちろん! 参加する以上楽しまないとね!」
「なら、良かったのでは?」
「良くないわよ。あなたが勝手にいなくなったから、カルデアくん捨てられた子犬のようだったんだから」
「それは……」
「罪悪感抱くくらいならやらないで欲しいんですけど。……さっさと謝ったら?」
「謝る? ……別に、ケンカをしたわけでは……」
「ケンカじゃなくても、あれはどう見ても悪いのはあなたよ」
「……………………自分に説教されるのは、なんだか変な気分です」
「わたしも、自分に説教する日が来るなんて思ってなかったわ」
「…………わかりました、確かに今回は私に非があります。彼のことですから、恐らくは一人でいることの多い私を案じて声を掛けたのでしょう」
「うんうん、わかっているならよし!」
「……ですが、こういう時、どう声を掛ければよいものか……」
「あ、そこは心配しなくていいわよ」
「え……?」
「こんなこともあろうかと、カルデアくんの時間を貰ってきたのです! その時間になれば来るはずだからちゃちゃっと仲直りしてきなさい!」
「な――!? こんな気配りが出来るとは! 本当に私ですか!? この私!!」
「ちょ! そこ、喜ぶとこでしょう! なんで驚くのよ!!」
――月が綺麗だと感じたのは久しぶりだ。
それというのも、夜は普段寝るし、わざわざそこに意識を割くようなこともしなかったからだろう。
しかし、漂白された世界においても、絶えず変わらず月と太陽は暮れては昇る。
当たり前にあった世界が漂白されて尚、空より見渡す星達は依然そのままである。
まるで地球の現状なぞ知らぬ存ぜぬを貫いているかのようなその姿にはいっそ安心感すら覚える。
だからだろう、つい「ああ、綺麗だ」などと呟く程度には見惚れてしまったのだ。
――とはいえ、流石にいつまでも眺めている訳にはいかない。
昼間にアルクェイドから時間を取るように言われていたからだ。
時間は深夜。場所はカルデアの外。
もはや何もなくなった場所を指定されたのには首を傾げる他ないが、来るように言われた以上行くしかないだろう。
もちろん許可を貰っての外出だが、それでも少し心許ないと感じるのは最近傍らにいてくれた箱入り娘がいない為だろうか?
思えば彼女には大変世話になっている。
力もそうだが、筋金入りの世間知らずっぷりにも救われている所はある。
マシュにも言えることだが、自分が『当たり前』だと感じていたものを別の角度で捉えるのはそれはそれで新鮮なのだ。
疲弊した心に彼女達の発する
その一時一時が大事に思える。特に現在のような状況なら尚更だ。
故に昼間の件、自分に落ち度があるのなら素直に謝ろう。そう思い目的の場所に足を進める。
アルクェイドからは「だいじょぶだいじょぶ、わたしがなんとかするから!」と言われていたが、やはり不安に思う所はある。
よく彼女は自分を『箱入り娘』というが、魔術の知識に関してはこちらも人のことは言えない。それこそ、トラオムでは知らなかったとはいえ、カドックに酷いをことを言ったりもした。
「世間知らずはどっちだよ」
自己嫌悪で頭を抱えたくなった。
しかし、そんなことはいつでも出来る。
よし――そう、再度意気込むと彼は外へと出た。
外に出ると、そこはやはり見渡す限りの白の世界。
『漂白』という言葉は正確であり、綺麗に洗い流されたかのようにまっさらだ。
はて? 時間通りに来たはずだが、件の待ち人の姿は何処にもない。
一体何処にいるのか?
そう思い、周囲を見渡していると一陣の強い風が吹き抜けた。
予想以上に強かったからついに目を閉じてしまう。
すると、瞬間鼻腔を燻る『懐かしい匂い』を感じた。
それに驚くと同時に目蓋を開くと――そこには見渡す限りの桜の木が並んでいた。
幾千もの桜吹雪が舞い、春を告げるあの匂いについ目頭が熱くなりそうで……。
でも、涙が流れる直前に、『彼女』の姿を確認したからか、それが流れることはついぞなかった。
視界を覆うかの如く舞う桜吹雪の中、天に鎮座する満月の真下に『待ち人』は静かに佇んでいる。
その姿があまりにも絵になり、ただただ純粋にそう感じたから、口は自然と動いていた。
――「ああ、綺麗だ」
――来たのですね、マスター。
ようこそ、私の世界へ。
……この景色は、私の空想具現化を使って再現させたものです。貴方の故郷と全く同じではないでしょうが、出来る限り努力はしたつもりです。
……どうでしょうか?
……え? ここまで多くはない? これでは桜並木ではなく桜渋滞?
…………数が多ければいい、という訳でもないのですね……次は気を付けます。
何故このような事をしたのか?
それは、アルクェイドが言ったから……。
……いえ、違いますね。どうあれ、最後に決めたのは私です。ですので、これは私の意思によるもの。
……昼間の件、なのですが……。
すみません、マスター。貴方はきっと、私のことを思っての行動だったのでしょう。……それを、私は無碍にしてしまいました。
……どうか、ご容赦を。…………本当に、すみません。
この景色は、その非礼に対するものでもあります。
……え? 気にしていない? むしろ自分も考えなしだった?
いえ、いいえ! そのようなことは……悪いのは私の方で……!
………………。
………………。
……ふふ、これでは堂々巡りですね。……はい、では喧嘩両成敗。どちらも悪かった、ということにしましょう。
そうしないと、貴方は納得しないようですし。
……では、私はここで失礼します。
この
え? ……このままでは堪能できない? 何故ですか? どこか問題でも……。
…………私と一緒に見たいから?
そう、なのですね……本当に、貴方は私に参加して欲しかったのですね。
……ええ、そうですね。正直に言えば、私も貴方と一緒に見たいと思ってました。
はい。では、はじめましょうか、二人だけのお花見を――。