ぐだアースSS 作:ウヤムヤ
ええ、どうやら私にはそれが足りないのだとか。
誰が言ったのか?
それは、あの絵本作家……アンデルセンといいましたか? 彼に言われたんです。
……言われた経緯ですか?
……以前、あなたに冷たい態度を取ってしまったでしょう?
はい……あのお花見の件です。
……気にしていない? ええ、確かに貴方ならそう言うでしょう。そして、それはきっと真実であるとも。わかっています。
ですが、だからといって貴方に甘えていい道理はありません。
私は箱入り娘ではありますが、淑女です。ただエスコートされて歩くだけでいいはずはありません。
故に、自分の至らなさを解消すべく行動に移しました。
なんでも、彼の作家は人間を観る才に優れているのだとか。……正確には、私は人間ではないのですが、それでも何かを得られればと思い頼んだ次第です。
……ええ、その結果が『想像力が足りない』ということらしく……。
彼が言うには――
なに、自分の欠点を知りたいだと? 酔狂極まったか真祖の姫。自らの恥部を俺に見られたいと? 吸血鬼というのはドMなのか。まあいいだろう。滅多にない希少なサンプルケースだ、特別に鑑定してやる。
――――
――
……はぁ。つまらん。おまえは典型的……いや古典的なお嬢様か? いや、事実その通りだったな。
知識はあり、知恵もある。しかし使い方が下手だ。おまけに秘めた力も強大ときた。
あれだ、スコップを渡されて穴を掘れと言われたのに勝手に重機を持ち出すようなタイプだ。穴を掘るならこっちの方が効率がいいだのいってな。コメディの世界の住人なら今すぐ元いた
元々の領域規格(スケール)が違うとはいえもう少し思考回路を人間に寄せろ。なに? これでもやっている? なら想像力が足らんのだろう。
これでも考えているだと? バカを言え、おまえがしているのは想定であり想像ではない。おまえはこれから起こりうるであろう結果を予測・計算し弾き出しているに過ぎん。
それの何が悪いかだと? いいや、悪くない。少なくとも生きていく為だけなら寧ろそちらの方が重要だ。余分なノイズを生む想像力は却っていらん。
ならどうして? 決まっている。今のおまえはサーヴァント。人間をマスターとし共に戦う使い魔だろう。しかも一般的な使い魔ではなく高位の存在。マスターと意思の疎通は不可欠だ。その上、おまえにも曲がりなりに感情はあるようだからな。想定だけでは必ず両者に齟齬が生じる。
ああ、失礼。もっとわかりやすく簡潔に言ってやろう。つまり――相手の気持ちを汲み取れん自己中だ。
ほう、その顔は覚えがあるようだな。心当たりがあるのならまだ改善の見込みはあるだろう。
ならば試しに、適当な創作本でも読んでみるといい。多少足しにはなるだろう。
……そんなもので、と思ったか?
ああ! まったくその通りだ! ありもしない『IF』の話を有り難がるなど理解に苦しむだろう!
しかし、人間が有り難がるものには総じて感情というものが根底にある。
本――物語や創作というのもそうだ。しょせんは作家というエゴイストの欲望を形にしただけのもの。その根底には必ず感情があり、それを使った『IF』の話を作るシミュレートでしかない。
だが、感情を基にしているからこそ同じ感情を持つものは惹かれる。
彫刻や絵画などを見てみろ。おまえから言わせればただの『何かの形を模しただけのもの』や『色を足して書いた何か』程度にしか思わんだろう代物を、馬鹿共は有り難り莫大な金を注ぎ込むからな。
物として見るのならおまえは正しい。しかし人間というのはそこに含まれた『付加価値』というのを読み取ろうとする。それに起因するのが想像力であり、それを掻き立てるのが感情だ。
おまえは下地はあるようだから後はそれを使って育めばいい。
本を薦めたのは芸術よりかは幾分ハードルが低いからだと思っておけ。現代でも大衆が好むのはどちからというとこちららしいからな。
マスターとも話が合うだろう。以前とある特異点で本を作っていたしな。
……本というのは作者の想像力の賜物であり、読者はそれを読み解く。すると、おかしなことに、会ったことも話したこともない奴らの間に『共通の連想』が生じる。
まったく遺憾だが、作者と読者はなによりも想像力で繋がっているらしい。
……だからまあ、面白味の欠片もなさそうなその頭に少しくらいは
無駄の塊である人間と共に在るのなら、そのくらいが丁度いい。
……ということらしいのです。
本は読んだことがあるのですが……ええ、創作本……絵本や漫画、小説といった類はあまり……。
それで、マスター。何か貴方のオススメはありますか?
はい。貴方が薦めてくれたのならば私も手に取りやすいかと。
……読み切り? ……短編集? 短い話しを纏めたものもあるのですね。
……なるほど(ペラペラ)
……………?(ペラペラ)
え……逆? あ、後ろから読んで……道理で始まり方がおかしいと……。
………………。
……大体わかりました。ありがとうございます、マスター。
まだ不慣れですが、まずはこの辺りから読んでみようと思います。
私に理解できるかは些か不安ですが、この間と同じことがまたあったら難儀するのは目に見えています。
ですから、努力してみようと思います。
……そんなに肩ひじ張らなくてもいい? 本は楽しんで読むもの?
……ええ、そうですね。その境地に到れるようになりたいです。
そして、貴方と語り合えるようになれたのなら、ええ……たぶん、それはきっと、『楽しい』のでしょうね。