ライダーの肉体を奪った慎二が「石化の磨眼」を暴発させ、石化する話   作:TS石化大好きおじさん

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前編 『蟲』になった慎二

閑散とした、誰もいなくなった放課後の図書室。

時刻は午後の5時を下回り、西からは地平線へと沈む太陽が朱色の光を発し図書室を仄暗く照らしている。

そこに、お互いを睨みつけながら対峙する二人の男の姿があった。

 

「慎二……!!」

 

「なんだよ衛宮、そんな憎いのか?僕のことが。」

 

二人は魔術師で、聖杯戦争で戦っているマスター同士だった。

傍らには二人がそれぞれ使役しているサーヴァント、セイバーとライダーの二人が立っている。

 

 

「慎二、こんなことはもう止めろ。これ以上戦っても話にならない。」

 

 

セイバーとライダーの戦いは、マスターである慎二のマスター適正が皆無だったこともあり、ライダーは一方的にセイバーに蹂躙されていた。

慎二の横には、死屍累々で今にも消滅してしまいそうなライダーが地に足をつけ跪いている。

 

「無駄よ慎二、この聖杯戦争から今すぐ辞退しなさい。冬木教会に行けば、あの神父がなんらかの保護をしてくれるわ」

 

同行していた凜も、慎二に勧告をした。しかしその勧告に、慎二は全く聞き耳を持とうとしなかった。

 

「クソっ、どいつもこいつも僕に憐みの目を向けやがって……!!」

 

慎二の自己肯定感の低さは、この聖杯戦争に関わるにつれ以前よりも更に悪化の一途を辿っていた。

聖杯戦争にさえ参加すれば、自分にも今度こそ魔術の才能が目覚めるはず。

魔術以外の才能は一流の彼にとって、魔術師の家系に生まれたのに魔術の才能が全くないことは屈辱以外の何物でもなかった。

養子である桜にさえ魔術の腕で負けてしまう。

その事実は彼にとって、何にも勝る屈辱だったのだ。

 

 

「ふん、まあいい。僕にはまだ『奥の手』があるんだ!」

 

何か恐ろしいことが起ころうとしている。そのことについて、凛はそれを肌で感じていた。

しかしあの慎二が、今のような状況を打破できる奥の手を持っているのだろうか。

『もしかしたら、慎二の妄言なのではないか』という疑念が、凜の頭に浮かんだ。

しかしその楽観視が、凜の判断を鈍らせてしまう。

 

「くらえ!これこそが、僕がお爺さまから教えてもらった最強の秘術!」

 

 

慎二の手の先端が、黒い『何か』へと変質し、ウヨウヨと蠢き始める。

その変化とほぼ同時だった。ライダーが頭を押さえ、苦しみ始めたのだ。

 

「…!あんた、ライダーに何をしたの!?」

 

黒く蠢く『何か』は床に落ち、地面を這っていた。

それを士郎は、よく目を凝らして見た。

 

「…なんだ、これは。」

 

それは士郎が掃除をするときなどに普段から見慣れている、自然界でもよく見るものだった。

その黒い『何か』の正体は、『蟲』だった。

慎二の肉体は、無数の蟲に変化していたのだ。

 

「はははっ、僕はお爺さまに頼み込んで全身の細胞を蟲に変えていたのさ!お爺さまみたいにな!」

 

 

「全身を…蟲に、ですって?」

 

間桐の秘術について、冬木の管理者を任されている凛は父から聞かされたある話を思い出した。

間桐の一族は『蟲』を用いた魔術を使い、その当主である間桐臓硯は己が肉体を蟲へと変え久遠の時を生きていると。

それと同じことを自身の体に慎二は施したのだと、凛は瞬時に理解した。

 

「あなた、それがどういうことが分かってるの?あなたはもう人間には戻れない。これからは肉体だけじゃなく、魂までも朽ちていくわ。」

 

そこまでして、強くなりたかったのか。と、憐れむ凜。

しかし慎二は、この勝負に勝てる核心があるのだろうか。凜の挑発とも憐みとも取れる発言に聞く耳を持つことはなかった。

 

「もういいライダー!お前じゃない、僕に戦わせろ!」

 

慎二は、ライダーに向かい「自分に戦わせろ」と命令する。

しかし、蟲になったからといって何になるというのか。

こちらには万全のサーヴァント一騎、遠くにはもしもの時のためにアーチャーを控えさせている。

 

「はっ、蟲になったからって何になるっていうのよ、こんなの私やセイバーが出るまでもないわ。衛宮くん、やってしまいなさい。」

 

「ああ、元よりそのつもりだ。これは、俺と慎二の問題だからな。」

 

凛は蟲になった慎二が襲ってくるのではないかと危惧した。

しかし、その心配は杞憂だった。

慎二は予想の遥か上を行く、恐ろしい手段を行おうとしていたのだ。

 

 

「『蟲になったから何になる』…だって?…おいおい、何か勘違いしてるんじゃあないか?」

 

「戦うのは『僕』じゃあない。僕が今から『ライダー』の体を乗っ取って戦うのさ!」

 

「乗っ取る…ですって?」

 

ライダーの肉体を乗っ取る。

あまりにもの荒唐無稽な慎二の発言に、凛はあっけにとられていた。

サーヴァントの肉体を乗っ取る。

ただ荒唐無稽というだけではない。人間という器にとって、サーヴァントは『存在』としての規格があまりにも大きすぎる。

仮に出来たとして、サーヴァントという器に人間は耐えることが出来ず、廃人となってしまうだろう。

 

「本当は桜の体を奪いたかったんだけどさあ、桜の体には先客がいてね。お爺さまが既に寄生してたから、やむを得ず僕はライダーの体を奪うことにしたのさ。」

 

 

慎二がポロっとこぼした言葉を聞き、顔を引きつらせる三人。

なによりライダーにとって、大切なマスターである桜がそのようなことになっていた事実を知り、ライダーは憤慨した。

 

「く、うああああああああ!!!」

 

怒りに身を任せ、せめてもの最後の抵抗で、ライダーは慎二に攻撃をしてみせた。

しかし寸前のところで、ライダーの攻撃はぴたりと止まった。

 

「令呪を以て命ずる。ライダー、僕に攻撃をするな。」

 

慎二の口から、決して出るはずのない驚くべき言葉が飛び出した。

 

令呪。それはこの聖杯戦争に参加せし者に付与される特別な魔力の結晶。

自分が従えたサーヴァントに対し命令が出来る絶対的な支配命令権。

 

「遠坂も御三家なら知ってるはずだろ?間桐家は聖杯戦争において令呪を考案した家系だ。そしてその考案者は他でもないお爺さま本人だ。お爺さまが過去に参加した聖杯戦争で余った分の令呪や他の参加者から奪った分の令呪を三画、僕にくれたのさ。」

 

なんと慎二は、臓硯から事前に令呪を三画もらっていたのだ。

 

しかしそれを抜きにしても、慎二が令呪を持つことは本来ならあり得ないことだった。

慎二は本来なら魔術回路を持たない存在だ。すなわち、彼が聖杯戦争に参加することは不可能に近い。

彼が今までマスターとして参加出来ていたのは、桜の持っていた令呪のうち一画を使い『偽臣の書』を作っていたからだ。

 

「だったら、尚更分からないわよ!なんで魔術回路を持たないアンタが令呪を扱えているの?」

 

「なあに、簡単な話さ。僕はいま、ライダーの肉体の魔術回路を間借りして令呪を扱えている。」

 

「なあお前ら、この言葉がどういう意味か分かるか?」

 

「僕は『今からライダーの体を奪う』んじゃない。僕はもう『既に、ライダーの脳髄に蟲になった頭脳体の僕を寄生』させている。」

 

勘違い。そう、ここにいる人間はある重大な思い違いをしていたのだ。

「慎二はこれから、ライダーの体を乗っ取る」のではない。既に慎二は、ライダーの肉体を乗っ取る準備を完了させていたのだ。

 

「そんな…ああああ…。」

 

八方塞がりの状況にライダーは絶望していた。

せめてこの男に体を奪われるわけにはいかない。

せめて英霊として尊厳のある死を。

ライダーは自害しようと手に持っている武器を自身の首に刺そうとした。

 

しかしその刃は、いくら刺そうとしてもライダーの首を貫かない。

首を刺そうとしても、ライダーの攻撃は首を刺そうとする寸前で止まってしまう。まるで「大きな強制力による何か」が働いているようだった。

 

「そうか、ライダーはまだ知らなかったのか。桜が僕にマスター権を委譲する際、桜の持っている令呪の一画を使いこう命令してもらったのさ。『自害するな』ってな。」

 

何故何度も自害しようとしても出来ないのか。

それは慎二が、桜に命じてライダーにある令呪をかけていたからだ。

『何が起こっても、自害をしようとするな』

それが桜から、ライダーにかけられた令呪のうちの一つだった。

 

 

「さあライダー、大人しく僕にその体を寄こすんだ。」

 

「続けて令呪を以て命ずる。ライダー、その肉体の支配権を僕に寄こせ。」

 

慎二のその言葉とともにライダーの体は針金のようにピンと張り、全身が硬直する。そして全身の硬直と共に、彼女の体は仰向けに倒れ込んだ。

それから数秒も経たぬうちに、ライダーの肉体は痙攣をし始める。

 

「あばばばばばばばばふぉきゅ」

 

普段のクールな彼女からは想像もつかないような素っ頓狂な声を、ライダーは口から発している。

ライダーの脳に寄生した蟲になった慎二の頭脳が、ライダーの脳の支配権を奪おうとしているのか。それとも、蟲となった慎二がライダーの脳を食い破って新たな頭脳として置き変わろうとしているのか。

ライダーは口元から涎を垂らし、痙攣による筋肉の弛緩で下腹部から失禁するという無残な姿を晒していた。

その姿はまるで、陸に打ち上げられた魚のようだった。

 

「いやっ、もう見てられない…」

 

ライダーの無残な姿に、凜は思わず目を逸らす。

いくら先程までライダーが満身創痍だったといえど、このような憐れな姿を見たいわけではなかった。仮にライダーを戦いの果てに倒すことが出来たとして、それはきっと本来なら英霊として誉れある最期だったはずだ。

こんな英霊としても女性としても、辱めを受けるような最期ではない。

 

しばらくして、ライダーの全身の痙攣が止んだ。

 

「…終わったのか?」

 

士郎が痙攣の止んだライダーに近づこうとした。

 

「…待って衛宮くん!迂闊に近づいちゃダメ!!」

 

すると、痙攣の止んだライダーの肉体はむくりと起き上がり、士郎や凜、セイバーの方を向いた。

 

 

「…あはっ。」

 

ライダーの口角が歪み、不敵な笑みを浮かべる。

しかしその表情は普段彼女が桜に向かい微笑みかけるような優しいものではなく、ライダーがするはずがないような、下品で、下劣で、そして歪な笑い方だった。

 

「あははははははははははっっ!!!」

 

「はははっ!!成功だ!ライダーの肉体を奪うのに成功したぞ!!」

 

その口から発された言葉で、3人は確信した。

その言葉は我々がよく知っているライダーなどではない。

いま目の前にいるライダーの中身は、間桐慎二なのだと。

 

「さあ衛宮、遠坂、そしてセイバー。ここからは僕のターンだ。」

 

 

 

 

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