カナンを出発してから二日目の夜、ロイド一行は野宿をした。
セレム村まで一週間の行程全てで、宿場に立ち寄るわけではない。セレムまでの道にある町は少ない。セレムの辺境たる由縁の一つでもある。
三人交代で見張りをし、特に問題無く夜が明けた。
だが三日目の朝、ロイドは不機嫌だった。朝食のお汁こをカラスとメラルーに盗まれたからだ。
仕方なく、朝食を焼き鳥とマタタビですませた。
「ルトガー、ベリスに急ごう。腹いせに腹を満たしてやる」
ベリスはセレムまでの行程にある町で、美味しい店がたくさんある。
「ロイド、その気持ちはよくわかるぞ。この前お前から貰った(パクった)クッキーをマドカにとられた時の気持ちと同じだろう」
「あのクッキー、マドカにとられたのか……」
マドカとはルトガーの娘だが、二人の間に血の繋がりはない。東方の国、和国の出身であるマドカトルトガーは表情や雰囲気こそ似ているところもあるが、顔立ちそのものは似ていない。
「まぁマドカの出番は当分先だから説明はいらんだろう」
「そうだな。外見に関しては、漫画やゲーム、小説の登場人物は美形と相場が決まっているから、美少女だと想像がつくだろうし……」
ロイドとルトガーは荷物を整理し、出発の準備を整えた。
その間、アーシアとビリーはPSPに夢中だった。
「え?何でPSPがあるかって?外伝だから。仕様だから。仕様って便利な言葉だよね」
と、アーシアは独り言を言った。
ベリスに着いたのは昼過ぎだった。予定では夕方につくはずだった。食い意地を張ったロイド達は怒った角竜にも匹敵する。狂走する馬車は風より速かった。
「ビリーのドラテクはすごいな。さっきのドリフトは痺れたよ」
「ロイドさんの多角形コーナリングもすごかったニャ」
宿を手配し、店で遅めの昼食をとった。
ロイド達のテーブルの上には十人前はあろうかというランチの皿が所狭しと並び、空になった皿が一つの塔を作っていた。それを周りの客が何か怯えた目で見ていた。
「ふぅ、結構食べたな」
ロイドが一息ついた。
「ふがふが」
両手にケーキを刺したフォークを握りアーシアが頷いた。
ロイド達の中で唯一常識人であるビリーは、とっくに食事を終えていた。常識人じゃないルトガーも食事を終え、ティータイムを満喫していた。
ロイドも珈琲を注文する。常識人のウェイターが伝票を確認して怯えていた。
「よその町で食べるメシって、旅してるって感じがするよな」
「ふがふが」
アーシアが同意した。
「そういえばロイドさんって旅に慣れてる感じがするニャ」
ビリーの言葉にルトガーが答えた。
「こいつの親父が旅好きな男でな。ロイドを連れて各地を巡っていたんだ」
「親父もハンターだったが、旅を楽しむためにハンターをやってたな。旅先で依頼を受けて旅の資金にしていたんだ。でも料理はあまり得意じゃなくてな。町から町に移動するときは携帯食と簡単な料理ですますんだ。で、町に着いたら思う存分食べるんだ。今みたいにな」
「ふがふが」
アーシアが頷いていた。
「アーシア、さっきから、ふがふがしか言ってないぞ。それでいいのかヒロインとして」
ロイドの突っ込みにアーシアが答えた。
「ふがふがふぐふふふ」
「ええっと、つまり。一番最初に登場した少女キャラならヒロインなのか? この作品のヒロインはむしろティアじゃない? そう言いたいわけだな」
ふがふがを翻訳すると、その通りだとアーシアは頷く。
「というか、ティアって誰だ。メタ発言は控えるんだ」
ルトガーが言った。
「そもそも食べている擬音がふがふがしかないのがおかしい。他にバリエーションは無いのか。モグモグとかクチャクチャとか」
「クチャクチャは行儀が悪いからやだ」
「ふがふが言ってる時点で行儀が悪いと思うぞ」
ルトガーとアーシアは行儀にうるさい。
「話題がそれてるニャ」
ロイドに珈琲が運ばれてくる。珈琲を口に含む。
「やはり珈琲はブラックに限る。珈琲をブラックで飲む者は色素で腹が黒く染まり意地汚くなる、つまり腹黒いと相場が決まっているんだ。だから世間は冷たいのさ。全ては珈琲のせいさ」
ロイドが偏見を述べた。
「じゃあ黒鎧竜や黒角竜は、ブラック珈琲の愛飲家?」
アーシアが聞いた。
「もちろんだ。だからある意味で彼らは同志。戦う時は敬意を持って相手するんだ」
ビリーは嘆いた。
「皆さんが馬鹿になっていくニャ。これも仕様なのかニャ?」
仕様じゃないです。