銀色の月   作:月光カナブン

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第2話 依頼の裏側

 ロイドはベッドから降りた。ベッドに寝ていると気にならなかったが、やはり腕が軋むように痛み、火傷が疼くように熱い。

 ルトガーが卓に座り、ロイド達も卓を囲むように座った。

 ソフィがお茶を煎れ、配った。

 

「さて、どこから話したものかな……」

 

 ルトガーが口を開く。

 

「今回の依頼はギルドが絡んでいる可能性がある。そう思わせる、おかしな点がいくつかあった」

 

 ルトガーが袋を取り出し卓に乗せた。

 

「まず、身元不明の四つの死体だ。あれらはこの村の人間のものではない。もちろん近隣の集落の人間でもない。おそらくあれはギルドナイトの隠密部隊の者だ」

 

 ルトガーの言葉にソフィは衝撃を受けた様子だ。ルトガーはアーシアの足元のティアを一瞥した。

 

「隠密部隊は一般的に気配を殺し、物や情報を盗んだり暗殺などの裏の仕事をする。またギルドの組織内で極秘とされる任務を請け負うのも隠密部隊だ。そして今回、彼らの狙いはティアだった」

 

「しかし、ティアマトに返り討ちにあった。隠密部隊は、飛竜退治は専門ではない上に、相手がティアマトの様な強力な竜では太刀打ち出来なかった」

 

 ロイドの言葉にルトガーが頷いた。 今までハンターとして戦ってきたロイドだが、

 

「その通り。そこでハンターの力が必要になるわけだ。しかし、ティアマトは巣を守るばかりで討伐の対象ではなかった。そこで彼らはセレムがギルドに依頼をするように仕向ける事を思いついた」

 

「それがあの死体ですか」

 

 ソフィが聞いた。

 

「そうだ。まず死体を焼き、誰だかわからないようにする。次にあの死体が発見された丘にクレーターを作った」

 

 ロイドはふと頭の中で閃いた。

 

「ティアマトと戦った時、彼のブレスが地面を焼いた時、違和感があったんだ。あれは丘でみた人工のクレーターと本物の火球が地面に開けた穴の違いを無意識に比べていたからなんだ」

 

 忘れていた違和感だったが晴れると清々しい。

 

「クレーターは地面に軽く穴を掘り、土を柔らかくして爆弾を埋め、爆発でそれらしい形にすればいい。あのクレーターを調べた時面白い物を見つけたんだ」

 

 そう言ってルトガーは袋から一つの木片を取り出した。全体的に焼けて炭化している。

 

「穴を少し掘ったら出てきたんだ。うっすらと火薬の匂いがする。大タル爆弾の破片と見て間違いない」

 

 ロイドは試しに匂いを嗅いでみたが、火薬の匂いがするかはわからない。

 おそらくいつも火薬に触れているガンナーのルトガーだからこそ、嗅ぎ分ける事が出来る様なかすかな匂いなのだろう。

 

「そういえば、ルトガーがクレーターを調べていた時間は僅かだったよな」

 

 ロイドが呟いた。

 

「すごいですね。あの一瞬で証拠まで見つけちゃうんですから」

 

 ソフィが感心して言った。

 

「一瞬で証拠を確保した技術……。俺の家のクッキーパクった技だろ」

 

 ロイドの言葉を無視してルトガーは話を再開した。

 

「出来上がったクレーターに死体を置けば、火竜が人を襲った現場の完成だ。当然だが不自然な点はあったはずだ。しかし、現場を見た人々は恐慌でパニックに陥る。多少おかしくても気付けないのが普通だ」

 

 確かに、普通は死体やクレーターに目がいく。普段ならおかしいとわかる点も見逃してしまってもおかしくはない。

 

「次に、噂を流す。死体が見つかった時、火竜にやられたんだ、と言った者がいたらしいがそれが誰だったか誰も覚えていない。村が襲われる、と言ったのが誰かもわからない」

 

「噂の出どころがわからなかったのはそのためか……」

 

 アーシアの言葉にルトガーが頷いた。

 

「この手の情報操作は隠密部隊の十八番だ。単純だが効果はある。

 そして村人、ソフィがギルドに依頼をし、派遣されたハンター。その内一人は俺の知り合いだということは言ったな」

 

 ロイドは頷いた。

 

「そいつ、名前はシーマというんだが、彼はハンターだが、やっていることはギルドナイトに近い。というのも、ギルドが組織内にも秘密にしたいような仕事を請け負っていたんだ。隠密部隊のハンターver、さしずめギルドハンターと言ったところか?」

 

「なるほど、一緒に戦ったハンターを逃がす為に最後まで戦ったらしいが、それは仕事をする上で仲間がいるのは不都合だった」

 

 ロイドが言った。今日はロイドも冴えている。

 

「だが、さすがにシーマも一人ではティアマトには勝てなかったらしいな。結果が行方不明だ」

 

「もう一人の行方不明者はどうなったのでしょう」

 

 ソフィが心配そうに言った。やはり気になるようだ。

 

「どうかな。ただシーマは特別仲間思いというわけではないが、助けられる者は助ける男だ。シーマが生きてるならもう一人も生きてるさ。そしてシーマが死ぬとは思えん」

 

 ルトガーが妙に自信たっぷりに言った。

 

「よくわかるな」

 

「一度本気で殺しあったからな」

 

 ルトガーは平然と言った。

 アーシアとロイドは驚愕した。

 

「マスタークラスのギルドナイトとやり合って生きているハンターってどんな奴だよ」

 

「あいつは俺のおやつに唐辛子をいれやがったからな。ブチのめしてやろうと思ったんだ」

 

 なるほど、シーマは怒ったルトガーに狙われて生きている凄腕らしい。

 

「シーマが失敗したので今度は地元で最強クラスのハンターを派遣する事になった。挙げられたのは“狼牙・ロイド”、“エンジェルフォール・アーシア”」

 

「変人と変態だけ?」

 

 アーシアが言った。

 

「ルトガーを足して変人と変態と変質者のパーティだな」

 

 ロイドの言葉にティアがしきりに頷いている。

 

「シーマが帰らず、お前達の名前が挙がった時、何かあると思った。それで少し探ってみたのだが、隠密部隊が出動した形跡は無かった」

 

 隠密部隊は出動してもその形跡は残さない。だからこそ隠密部隊なのだ。

 

「代わりにギルドの幹部に動きがあった。彼は真面目な男なんだが、隠密部隊を動かせる地位にある人物だ。それでマネージャーに頼んで俺もついていくことにしたんだ」

 

「その怪しい人はティアが狙いなのか?」

 

「可能性は高いな。ただどうやってティア、ティアマトの存在を知ったのかはわからない」

 

 そこでアーシアがソワソワしているのに気がついた。

 

「まずい、その人犯罪者だよ。ティアは生まれたばかりの女の子だよ。ロリコンなんて次元じゃない」

 

 ソフィが同意した。ティアは首を傾げている。

 

「お前は知らなくていいことだよ」

 

 ルトガーがティアに言った。その穏やか言い方はルトガーが自分の娘に対する態度と同じだ。やはり親父か。

 

「ティアを欲しているなら力ずくで奪いに来る可能性があった。強奪に来るのは隠密部隊だろう。奴らは対竜戦ではお前達の足下にも及ばないだろうが、対人戦では立場が逆転する可能性がある。そしてティアマトとの戦いの後は奴らにとって良い機会だっただろう。だから奴らが来る前に村に帰るように皆を促した。奴らも村で騒ぎを起こしたくはないだろう」

 

 無論、ルトガーの警戒しすぎという可能性もあるが、ルトガーの推測を聞いた後だとそうも思えなかった。

 

「仮にあんたの考えが合っていたとする。ならば一番襲われる確率が高いのは帰り道。セレム周辺の森の中だな」

 

 ルトガーが頷いた。セレムに来る時通った森はなかなかの規模だった。馬車で二日かけて通過した。

 

「あそこは隠れる場所がたくさんあるからな」

 

 ルトガーが陰気に言った。

 

「せめて俺の怪我が治ってから帰るか? 対人戦ではあんたに劣るかも知れないが、それでも並のギルドナイトよりは強いつもりだ」

 

「確かに。だがお前の回復を待っている間に別の増援部隊が派遣されても面倒だ」

 

 ルトガーの言うことも一理ある。

 

「そこでお前の回復を早めるべく、アーシアに特製活力剤を作ってもらった」

 

 活力剤。代謝を活性化し自然治癒力を向上させる薬。ニガ虫とハチミツとマンドラゴラから作られる。特徴、甘くて苦くて生臭い。

 

「私も手伝いました」

 

 ソフィが胸を張って言った。

 ゾクリ。ロイドは背骨に氷柱を当てられたような寒気を感じた。

 

「ソフィ、俺とアーシアが押さえる。流し込め」

 

 ものすごく楽しそうな表情でルトガーとアーシアがロイドに迫る。後退るが簡単に追い込まれてしまった。

 

「ぐふふふ、良いではないか」

 

 アーシアは悪役に酔っている。ロイドの右腕を抑えるアーシア。ふはっ、何か良い匂い、柔らかいものが当たって至福でございます。

 

「ロイドさん、あ~んして(はぁと)」

 

 少し上目遣いのソフィが瓶を差し出してくる。その瞳が潤んでいる気がしてロイドはドキドキした。

 左腕を片手押さえる口ひげが渋い親父がおっさんさえいなければ本当に幸せだったのに。

 

「あ~ん」

 

 

 口から侵入した液体は何故か辛く、次に甘味と苦味と生臭さが三位一体となって舌を悶絶させた。

 

「これで少しは早く治るさ」

 

 ルトガー達は笑いながら去っていった。

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