銀色の月   作:月光カナブン

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第3話 封竜伝説

 翌朝、ロイドは体が軽いことに気が付いた。火傷も腕の痛みも引いた。

 活力剤の味はヤバかったが効き目は抜群だった。

 部屋を出ると広間のソファにルトガーが腰掛けていた。

 

「体は大丈夫か?」

 

「今なら昨日の復讐が出来そうだ」

 

 その時、茶色い塊が広間にやってきた。おやすみベアを背負ったアーシアだ。紺を基調に可愛い熊のイラストあしらったパジャマがまた、可愛いじゃないか。眼福眼福。

 アーシアはベアを床に置きもたれるように座った。眼帯が外され、紅い右目があわらになっていた。

 

「目は大丈夫か?」

 

 アーシアは手に持った鏡を覗き込んだ。

「大丈夫。あの時は竜脈に反応しただけだから」

 

 アーシアの右目は火竜の紅玉のようなエネルギーの結晶体だ。右目の力を引き出す事で人外の力を発揮する、その様はエンジェルフォール、天使降臨(悪魔降臨ともいう)である。

 何故そんな右目を持っているか以前聞いたら、「女の過去を詮索するのは野暮ってもんだぜ」と教えてくれなかった。

 

「ねぇ、ルトガー。昨日の私達の話聞かれてたかも知れない」

 

 突然とんでもないことを言う。

 

「でも断言は出来ないよ。かすかに視線を感じて窓の外を見たんだけど、広場に和国人の男の子がいて目があった」

 

 和国人。確か宿屋に止まっている客がそうだ。カナンではあまり珍しくはないが、セレムのような辺境の地ではイヤでも目立つ。

 

「広場か。話が聞こえる距離ではないな」

 

 広場には小さな店がいくつかあったはずだ。

 

「うん、それでここからが重要なんだけど……」

 

 アーシアの眼は真剣だ。ロイドとルトガーは息を呑んで次の言葉を待った。

 

「いい男だったんだ、これが。遠めに見ても可愛いし、多分あれは超美少年だね。マドカといい、あの男の子と言い和国の人って美形ぞろいなのかな?」

 

 ……。

 その少年の容姿はロイドとルトガーには関心が無いし、意味も無い。

 

「マドカが美人なのは当然だの事だ。むぅ、俺の眼が離れているうちによからぬ虫が寄ってこないか心配だ。それが理由というわけでもないが、明日には発つ。ロイドお土産買ってこい」

 ルトガーが偉そうに言うのを無視し、ロイドは地元の特産品を買いに行った。

 

 両腕に土産を抱え、ロイドは屋敷に帰還した。屋敷の門ではソフィが馬を用意していた。

 

「どこへ行くんだ?」

 

「皆さんより一足先にカナンへ向かいます。ギルドへ依頼の成功を報告する仕事がありますので」

 

「まるで伝令だな」

 

「まるでは間違いです。私は本当に伝令の仕事してますから」

 

 ロイドは感心したが、少し心配というのが本音だ。

 

「ルトガーさんが言うには、隠密部隊がいても狙われる事はない、奴らも事を荒立てたくはないはずだ。だそうです」

 

 ルトガーのマネをしてソフィが言う。だがルトガーはそんなに可愛くない。

 

「それにこのヒースは凄い駿馬ですから、隠密部隊だろうが鎧竜だろうが追いつけませんよ」

 

 ヒース、それが彼女の馬の名前だ。ソフィがヒースを撫でる。逞しい肉体に美しくも精悍な黒毛。見た目は黒いがその威圧感はキリンにも似ている。確かに尋常の馬では無さそうだ。体格も良く、世紀末覇者が乗っていても違和感は無い、そんな気さえする。

 

「しかしグラビモスは言うほど足は速く無いだろう。この辺りで怖いのはもっと別の……」

 

「あれ、ロイドさん知らないんですか? あの森には鎧竜が住んでるんですよ。みんな森の主って言ってますけど」

 

 知らなかった。しかし、鎧竜が森の主とは、似合うな。

 

「では行ってます」

 

 ソフィは颯爽と馬に跨りバビューンと言う効果音とともに走り去った。

 ソフィを見送り、ロイドは荷物をまとめ部屋を掃除した。

 

 ヘンリーと挨拶代わりに談笑し、夜が明けた。

 

 早朝。ヘンリーと別れの挨拶を交わし、セレムを発つ。御者席にビリーが座った。

 

 人の襲撃を警戒して武器は軽いものを用意することになった。荷台でルトガーが腰に差した双剣の一振りをロイドに渡す。

 

「お前の大剣は人と戦うには不向きだからな。もしもの時は使え」

 

 ロイドはギルドセーバーの片割れを腰に差した。

 更にルトガーはボウガンを取り出した。そのボウガンはライトボウガンより更に小さく片手で扱う対人用ボウガンだ。ハンドボウガンと呼ばれるそれは軽量で扱いやすい。弾は軽いので威力は低いが護身用としては十分だ。ハンドボウガンを三人で一つずつ持った。

 防具は三人とも軽量だったので変わらない。ロイドはティアマトの鱗に紐を通し首から下げていた。

 森に入ってしばらくたった。アーシアはティアと戯れている。特にする事もなくロイドはルトガーと話す。

 

「ティアって不思議だな。俺はあいつの親を殺した。それをあいつもわかってるのになつくいてる」

 

「知能もすこぶる高い。ティアマトも喋れたし、お前はティアマトの使命を継ぐしで、まるで伝説の再現だ」

 

「その伝説、竜と騎士の話か」

 

「そうだ、騎士と竜が戦いの中で友になり、お互いを認め合い、共に行動し災いをくい止める伝説の物語。封竜伝説だ」

 

 

 

 ロイドは語る、かつての英雄を、人と竜が織り成す数奇な物語を。

 

「世界は二つある。人の世と竜の世。永きに渡り二つの世界は共にあった。

 数と知恵で勝る人と、力で勝る竜。互いに争いながらも均衡は保たれ、共存した。

 だが均衡は破られる。災厄の降臨によって。

 竜は災いを喰らおうとし、人は災いに抗った。

 だが人は脆い。竜を超える災厄を相手にかなうわけもない。

 人が世界から消え、竜もまた滅びの道を辿ろうとしていた。

 そんな時、一人の騎士と一頭の竜は出会った。

 騎士は弱きのため剣を取る。竜は世界のため力を振るう。

 騎士の願いに竜は命をかけた。竜の誇りに騎士は誓いを捧げた。

 一人と一頭は災厄に挑む。

 信じるのは互いの希望。信じる先にあるのは明日。

 例え、その明日すら見えなくとも互いの絆を信じた。

 戦いは熾烈を極めた。災厄は大地を砕き、空を裂いた。

 そして騎士の剣は災厄を斬り伏せ、竜の息は災いを焼いた。

 災厄は封じられた。騎士の剣は封竜剣と名付けられ奉られた。

 彼らは英雄となり崇められる。

 時が過ぎ英雄は伝説となり、語り継がれる」

 

 ロイドは息をついた。戯れていたアーシアとティアもいつの間にか聞き耳を立てていた。

 

「これが封竜伝説だ。話に出てくる災厄と言うのは黒龍伝説の黒龍と同一とも言われている」

 

 黒龍。黒龍伝説に謳われる最凶最悪の龍。

 飽くまでも伝説上の龍ではあるが、その脅威は今でも語り継がれている。

 

「諸説の一つだが。騎士に会う前の竜はリオソウルだったが、騎士に会い銀色になったという話がある」

 

「リオソウルは人の運命を変える存在と言われる、だからそういう説が出来たんじゃないかな。もしくはそれが由来で蒼火竜は人の運命を変える存在と言われる様になったのかも知れない。

 赤から青という話もあるし、竜はリオレウスじゃないという説もある。封竜伝説は事実を元にしているが誇張が、多すぎてハッキリした事が言えないのが現状だ。

 事実の根拠、というには少し弱いがこの話は神話ではなく伝説だ。伝説って言うのは実際にあった不可解な出来事や不思議な事や英雄の活躍を事実として伝えるものだからな。

 だが俺とティアマトの関係はこの伝説に似ている。そう言いたかったんだろ?」

 

 ロイドの言葉にルトガーが頷いた。アーシアがうなる。

 

「ぬぅ、赤から青でリオレウスじゃない。ねぇロイド、その竜ってイャンクック?」

 

 それは違うと思う……。

 

「詳しい事は専門家に聞いてもいいな」

 

「ちなみに誰?」

 

「アシュレイ・ブルーティッシュ」

 

「親父かよっ」

 

 ロイド・ブルーティッシュは素っ頓狂な声を上げた。

 ロイドの父アシュレイはハンターであり旅人だった。旅先で依頼を受け、趣味で神話や伝説の研究もしていたジャーナリストまがいの超人である。

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