銀色の月   作:月光カナブン

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第4話 襲撃

 馬車は順調に森を進みやがて山を登り始めた。

 進むほど、うっそうとした森は深くなっていく。

 

「今日はここで野宿だ。明日一気に山を降りよう」

 

 三人とビリーで交代で見張り、夜を明かす。

 早朝からロイド達をのせた馬車は山を登る。

 

「待ち伏せがあるならそろそろかな」

 

 ルトガーが登りの斜面を見ていった。

 

「下から上に標的を狙うのは難しいが、上から下に狙いをつけるのは容易だ」

 

 ルトガーはガンナーとして意見を述べた。

 その時、ビリーがいった。

 

「前に誰かいますにゃ」

 

 ロイドが前方を確認すると、一人の男が途方に暮れていた。

 ルトガーが馬車から降り男に近づく。ロイドとアーシアはボウガンの引き金に指をかけ辺りを警戒した。

 

「何をしている」

 

「あぁ困ったんだもい。馬車のエンジンが壊れて動けなくなってしまったんだもい」

 

「ふむ、そう言うことなら仕方ないな」

 

 周りの木々の陰から武装した男達が現れる。その数、十人。ルトガーを囲うように半円を描いて立つ男達は隠密部隊の者なのだろうか。

 

「オジサン助けてくれないか? エンジンを冷やすのに銀色のリオレイアがいるんだ」

 

「エンジンを冷やすなら、俺のおやつのソフトリームを使うといい」

 

 ルトガーは優しいな。言いながら甘党のおっさんが懐から取り出したのは、カップに入った黒蜜が美味しそうなかき氷だった。どう見てもソフトクリームではない。

 ルトガーがロイドに指でサインする。

 

「俺が奴らの注意を引く、頂上で待っていろ。だそうだ」

 

 ビリーにルトガーの意思を伝えた。

 武装した集団を前にして、ルトガーが肩を竦めて言った。

 

「しかし、何だその人数は? 俺も舐められたもんだな。おい、お前ら十秒くれてやるから俺に一発でも当ててみな」

 

 瞬間、ルトガーは銃弾の嵐にさらされた。

 

「ビリー伏せろ!」

 

 ロイドは咄嗟にアーシアとティアを押し倒しながら叫んだ。アーシアの罵声とも悲鳴ともつかない叫びは無視する。

 ルトガーは緩慢とも見える動きで左右に動く。最小限の動きで弾をさけているのだ。全てを避けているわけではなく数発着弾しているが、急所はさけている。ロイドが危惧した流れ弾は飛んでこなかった。ルトガーが身に受けた弾、それはすべてこちらに飛んでくる軌道を描いたものだったのだ。この窮地にあって、彼は身を挺してロイド達を、車を引く馬達を護ったのだ。

 十秒と経たず銃弾が止み始める。弾切れだ。

 ルトガーが腰のハンドボウガンを抜き、凄まじい勢いでぶっ放した。

 悲鳴すら上げる事なく、数人が地に倒れる。

 一団の銃声は完全に止んでいた。

 

「今だ、行けっ」

 

 ルトガーの声にビリーが馬車を走らせた。全速力で走る馬車は一気に山を駆け上がっていく。

 

「ルトガーも人が悪いな。十秒待ってないし、一発当てても何にも無いし」

 

 だが結果として相手はルトガーに注意を引かれ、ロイド達は逃げる事が出来た。

 

「あんな体裁き見せ付けられちゃ、当てた気にもならないけどね」

 

「全くだ。敢えて喰らっていたからな。だが、ルトガーなら心配ないだろう。致命傷を負うへまはしていない」

 

「あいつらティアを奪いに来たみたいだね。もしかしたら、ルトガーは罠にかかったかも」

 

 アーシアが不吉な事を言った。

 

「さっきは簡単に切り抜けられたけど、あれは彼らにとって一番厄介なルトガーと私達を切り離す罠じゃないかって思う」

 

「言われてみればその通りだな。ということは、ピンチなのはルトガーがじゃなくて俺達か」

 

 アーシアが頷いた。

 

「ティア、俺達から離れるなよ」

 

 気を引き締めロイドがティアに目を向けようとした時、それは舞い降りた。

 

 ロイドの目が捉えたのは空から降るシルエット、間違いなく飛竜だ。

 

「ビリー、伏せろ!」

 

 ロイドがボウガンを引き抜き、同時に竜が馬車に恐いかかる。爪と弾が交差した。

 対人用に考案されたハンドボウガンの弾は軽い。人を遙かに上回る体重と硬い鱗を持つ竜に効果は期待できない。

 だが、ロイドの弾は振り下ろされる爪の軌道を僅かにそらせた。

 鋭い爪の一撃が馬車を掠め、竜が舞い上がる。

 

 ビリーは体を屈めてそれを避け、ロイドはティアを抱き寄せ荷台に伏せる。

 

 荷台はそれほど広くない。横飛びに躱したアーシアの身体が荷台から飛び出した。

 

「アーシア!」

 

 彼女は空中で体を反転させ、舞い上がる竜めがけて、ボウガンを発射した。

 アーシアが手にしたボウガンはシルバースパルタカス、ルトガーが置いていった愛銃だった。

 

 再び馬車を狙う竜の翼に火花が散った。竜の注意がアーシアに逸れる。

 

 馬車の進行方向のすぐ先にカーブが迫る。カーブの向こう側に切り立った崖があった。

 ビリーが巧みに馬車を操りカーブを曲がり事なきを得たが、馬車からはアーシアの姿を確認する事が出来なくなった。ロイドの眼で確認できるのは馬車を襲った飛竜だった。

 

「黒いリオレウスだと……」

 

 ロイドは驚愕の声をもらす。そして竜の背に立つ人影に気付き、ロイドは一瞬我が目を疑った。

 

「ビリー、馬車を止めろ。戻るぞ」

 

 叫びながらロイドは刀と剣を掴み馬車が転がり出る。

 

「その前に私と遊んでかない?」

 

 不意に聞こえてきた女の声にロイドは調子を狂わされる。

 馬車から降りたロイドに一人の女性が立ちふさがる。ロイドと同じ位の年齢で、美人と言える顔立ち。だが、鋭い目付きと表情は修羅場を潜って来た者のそれだった。ここにいることを合わせ、ただの美人であるはずが無い。

 彼女の出で立ち、レザースーツとナイフ。こんな場所にこんな格好でいる以上、十中八九ティアを狙う者だ。

 

「誰かは知らないがそこをどいてもらおうか」

 

 ロイドは女を睨む。

 

「あらあら怖いこと。でも私を無視してあの娘の加勢に行ったら誰があの竜姫を守るの?」

 

 竜姫とはティアの事だろう。

 女はロイドを通すつもりは無く、ロイドを打倒しティアを奪うつもりだ。

 ロイドは刀を背負うと、ギルドナイトセーバーを構えた。女はナイフを逆手に持つ。

 武器の破壊力を考えればロイドが圧倒的だ。対竜用の鬼斬破は対人戦ではスキが大きすぎるが、剣ならその隙も小さなものだ。

 そして女のナイフは攻撃力こそ低いが、剣以上にスキが無い。しかも相手は対人戦に長けてる。その服装、構えがそう語っている。

 一撃当たればロイドの勝ちだが、それが当たる前にナイフに斬り裂かれるのが関の山ではないか?

 

「お互い武器なんか捨てて、素手でやらない?」

 

 ロイドの危惧を読み取ったらしい女が言った。

 

「悪くない」

 

 背後でビリーの馬車がスピンターンし、ロイドの側へ戻ってくる。

 ロイドは剣を鞘に納め腰に差すと、刀をビリーに預ける。

 

「ビリー、しばらくティアを頼む」

 

「任せてくださいニャ」

 

 ビリーは自信満々で答え、メラルーガジェットを取り出した。

 何故、そんな凶器を持っているのか。実は手練なのか?

 ロイドは改めて女と向き合った。

 女はナイフを腰の鞘に収め、腕を垂れ、足を半歩引いて半身に構える。

 ロイドは拳を打ち鳴らし、足を大きく開いて横向きに立ち構える。

 相手は格闘戦のエキスパートだ。武器のナイフを逆手に持つ構え、それは拳法の動きを最も応用しやすい、構えの一つだろう。

 おそらく力と速さはロイドより下だろう。だが技術面ではロイドは圧倒的不利。しかしスキの大きい大剣でナイフと戦うより、同じ条件で戦う方が勝率はあがる故、ロイドは素手で戦う。

 

「さて始めましょうか、ロイドさん?」

 

「美人をあんた呼ばわりって言うのは趣味じゃないんでな。名前を教えてもらおうか」

 

「私はテリサって言うの」

 

「いくぞ、テリサ」

 

 ロイドは地を蹴り右拳で腹部を狙う。それに交差して突き上げられたのは重い爪先だ。ロイドは瞬時に右拳を引き戻し、反動を駆使しテリサの側面に回り込み様に左肘を繰り出した。それが空振り終わると同時にロイドの体が旋回しつつしゃがみ込み、回し蹴りを放つ。しかし、それは突き出された肘に止められる。肘はロイドのスネに突き刺さっていた。

 ロイドが苦悶の息をもらす。蹴りを引き戻すより早く、視界の端にこめかみめがけて跳ね上がる脚が映った。

 ロイドはとっさに腕を上げ蹴りを防ぐ。片足では踏ん張れず体が傾く。そこへ更に反対から一撃。ロイドの体が舞い上がり、横手にあった木に叩きつけられる。

 テリサはさっきの位置からほとんど動いていない。

 

「油断した」

 

 口に溜まった血を吐き捨てた。

 

「強がっちゃって」

 

「女性の蹴りとは思えない威力だが……、アーシアの拳骨やビンタのほうがよほど重いぜ」

 

 マジな話です。

 ロイドは静かに息を吐き、呼吸を整える。想像通り、相手の技術は自分より上。技術で劣る以上他の面で補う。

 ロイドの中で闘気が荒れ狂い爆発する。

 

「へぇ、鬼人化を使うの。でも力押しばかりじゃ芸がないんじゃない?」

 

「そういう事は俺を退けてから言うんだな」

 

 まずは目の前の敵を倒す。

 仲間の加勢に急ぎたい。尤も、アーシアもルトガーも強さは化け物級だから心配する必要は無いのかも知れないが。

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