馬車が去ったのを気配で確認した。
敵の大半は引きつけた。だが、数は少ないが伏兵はまだ残っているだろう。
ロイド達は技術で劣るが1対多数でなければなんとでもなるだろう。
今は目の前の者達を片付けよう。
ルトガーは着弾した部位を確かめる。弾は戦闘用のギルドスーツを貫通する事は無かったが、それでも鈍器で殴られたに等しい衝撃と痛みがあった。もっとも竜の一撃と比べればかゆいものだ。
ルトガーは倒れた者に言った。
「おいおい、わざわざ急所は外してやったんだ。そんな所で寝てると風邪引くぞ」
ルトガーの言葉に反応して倒れていた人影が起きあがる。
「オッサンあとで泣いても知らないぜ」
「俺を呼ぶときはダンディ、もしくはハンサムなオジサンって言いな」
ルトガーは不敵に笑いながら再び銃を構える。
相対する一団が身構える。
「おっと、弾切れだ」
ルトガーの緊張感の無い声。それに反応し、一団の攻撃を再開した。
ある者は飛びかかり、ある者はボウガンで援護する。
ルトガーは飛来する弾を横飛びにかわし、手に持ったボウガンを今度こそ撃ち尽くす。
ルトガーの放った弾は、相手のボウガンの銃身に着弾し、ねじ曲げた。
この銃身で引き金を引けば暴発して自滅するだけだ。
振り下ろされる剣を身を捌いてかわし、勢いあまった男の首に銃床を叩きつけた。力は加減したがたまらず男は崩れ落ちた。
ルトガーが駆ける。踊りかかる男達をかいくぐり、ボウガンを持った男達へ接近する。
ボウガンを破壊された男達は腰から短刀を引き抜いたが、それを構えるより先に、ルトガーの拳が放たれる。
一人目を正拳で沈め、二人目の胸板を横蹴りで叩き割る。弧を描いた爪先が三人目の脇腹を捉えた。
背後に殺気。
ルトガーは後ろも見ずにかかとを跳ね上げる。剣を振りかぶった男は顎を強打され目をむいて倒れた。
ここまでに十秒とかかっていない。
「悪いな。ちょっと本気だし過ぎたかな?」
ルトガーは倒れた五人を見ながら言った。
一瞬で仲間を半分に減らされた男達に焦りが見えた。
剣を構えてルトガーを包囲する様にじりじりと間合いを詰める。
「そう緊張するなよ。気を張りすぎると、あるはずの勝機も見逃すぞ」
悠然と佇むルトガーは肩をすくめた。無防備なルトガー目掛け、男達は飛び掛った。
五本の剣はそれぞれの軌道を描き、空を切る。
ルトガーは後ろに飛びながら身を捻り剣戟を避けると。身体を回転させ木の幹に着地。同時に幹を蹴り再び宙を舞う。
眼下にはたたらを振む男達。ルトガーの両手のボウガンが火を噴き、残った男達を地に沈めた。
「だらしない奴らだ。十人でかかって来てもオジサンに勝てないのか?」
倒れた男達の中で意識のある者が呻きを上げた。
「くっ、最初の弾切れはペテンだったが、最後の銃撃はいつリロードしたんだ?」
ルトガーは肩をすくめた。
「自分のボウガンのリロードくらいまばたきしてる間に出来るさ。五人倒してお前達が怯んだ瞬間に既に弾はリロードされていたのさ」
「化け物め……」
そう言って男は意識を失った。
ルトガーはまだ意識のある者を見つけ回復薬を渡した。
「この辺りはランポスやイーオスが出るからな。仲間が回復するまで見張っておけ」
「俺達が何者か聞かないのか?」
「お前達が隠密なのは想像はつく。誰の命でうごいているのかもな。それだけわかっていれば聞くことなど無い」
ルトガーは馬車に追いつくべく走る。
なだらかな傾斜とはいえ登り坂を駆け上がるのは骨が折れる。
「いや、骨より腰が折れそうだな」
ふとルトガーは足を止めた。周りは生い茂った木に囲まれている。
揺れる小枝のざわめき。不自然な程の静寂。
ルトガーの頭上を黒い影が翔た。
「あの飛影は火竜。しかし、あの色は……。そうか、銀色の月と対をなす者か」
不快な感覚が身にしみる。かすかな不安。これは殺気か。
聞こえてくる風を切る音。
「っ!」
ルトガーは顔を庇う様に腕を上げる。
その手は飛来したナイフを摘みとっていた。
「シーマか、出てきたらどうだ?」
ルトガーがナイフが飛んできた方に向かって言うと、藪の中から一人の男が現れた。
「やはりバレているか」
三十歳前後で整った顔つきだが、鋭い目つきと険しさに荒々しい印象を受ける。
「さすがだな。あのリオソウルを倒したらしいな」
「お前が誰の命を受けて動いているのかは大体想像はついている。何故あの幼竜を狙うかもな」
「わかっているなら何故幼竜を守る? 邪竜の封印を強化するにはあの竜が必要だ」
ルトガーは首を振る。
「それは知っている。だが俺も、ギルドマネージャーを始めとする竜人達も保身を続けるのに疲れたんだよ。だからティアは、銀色の月は邪竜を倒すために使う」
「バカな、危険すぎる。成功すれば災厄の影に怯える事はなくなるが、それが出来ないから今も封印を施しているんだぞ」
「ここで議論しても仕方ない。通らせてもらう」
ルトガーがギルドセーバーを抜く。
「俺の役目はお前の足止めだ、簡単には通さない」
シーマも槍を抜き、構えた。