銀色の月   作:月光カナブン

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第8話 Joker Trick

 ルトガーはシーマの獲物を確認した。

 楯と刺突剣レイピアに酷似した槍、ヴァルハラ。 丸太の様な大きさが一般的な槍の中ではかなり小振りで、それ故に普通の槍より攻撃パターンが多い。しかも切れ味も鋭い業物。短所はリーチの短さと楯が小さい事。小さいといっても中型のサイズだ。

 ハンターが使う槍に付属する楯は巨大である。体型にもよるがうまくすれば全身を隠せるほどのタワーシールドもあるくらいだ。

 

 対するルトガーはギルドセイバーとボウガン。防御性能で劣るが、攻撃力は互角だ。如何にヴァルハラが起動性に優れていようと俊敏さでは有利だった。

 

 睨み合いの末、先に動いたのはルトガーだった。

 

 シーマは槍を突き出した。が、ルトガーはシーマの間合いの前で急停止。槍の先端をやり過ごし、体を回転させ勢いをつけ剣を叩きつけた。

 唸りをあげる刃は、しかし堅固な楯に弾かれた。シーマが剣を受け流して一歩踏み出す。

 剣を弾かれ体勢を崩したルトガーに横殴りの楯が叩きつけられる。

 ルトガーは横に飛んだ。唸りをあげる楯が飛んだルトガーに追いつく。しかし、ルトガーは踵が楯に着くと、脚を曲げ柔らかに衝撃を吸収、楯に着地した。

 驚愕に目を見張るシーマに向けボウガンを構える。

 シーマが楯を手放して飛び退く。

 浮遊から落下への変化を感じながら引き金を引いた。

 反響する凶悪な砲哮。

 不安定な足場から放たれたにも関わらず弾丸はシーマに殺到した。

 

「流石だな、ギルドの切り札“ジョーカー”」

 

「それはお世辞か? “トリックスター”」

 

 ルトガーの賞賛の言葉にシーマが応じる。

 

 シーマが胸の前で閉じていた拳を開くと、血に塗れた弾が彼の足元で跳ねた。

 シーマは急所以外の弾は無視して弾を掴み取った。正確には手のひらで受け止めた。

 籠手で守られた手は堅い。本来なら手のひらを貫通しかねない銃撃を、血がにじむ程度に押さえ込んだのだ。

 ルトガーは銃口をシーマに向けた。

 

「その曲芸いつまで続くか試してみるか?」

 

「遠慮しよう。曲芸はお前の十八番だろ?」

 

 盾を手放し、防御の要を無くしたシーマは先手を打つ。

 放たれた銃弾は吸い寄せられる様にシーマに向かう。シーマの空いた手が振り回され、弾を弾く。

 ルトガーは引き金を引こうとしてして、舌打ち。弾切れだ。

 大地にめり込む踏み込みの勢いを乗せた刺突は、空を穿つ。

 土を蹴立てて身を捌くルトガーの脇を槍の先端が通り過ぎた。

 槍が突きから払いへと派生。

 ルトガーはとっさに身を沈めてそれをやり過ごした。

 

「っ!」

 

 身体に走った痛みにルトガーが呻く。

 

 槍の先端は背中をかすっていた。

 

(く……少し拙いか)

 

 問題はそれだけではなかった。

 

 ルトガーは身を屈めた体勢から剣を振り、後退した。

 足下に迫る斬撃をシーマは軽いステップでかわした。

 

 再び間合いが離れる。

 ルトガーのボウガンが手の上で翻り、リロードされる。

 シーマが落ちていた楯を拾い上げた。

 

(まずいな)

 

 ルトガーは少し焦っていた。シーマの腕前は大したものだが、それは問題では無い。問題は自分。

 

(腰が……)

 

 腰が痛い。まだ大した痛みでは無いが、痛みはじわじわと増していくのだ。

 長期戦は本格的な腰痛の引き金になる。豊かな老後を送るためには短期決着が必要なのだ。

 

「いい戦いだ。だが惜しいな。それも終わりに近づいてきた」

 

「大した自信だな、トリックスター」

 

 不敵に笑うルトガーにシーマが身構える。

 ルトガーはボウガンをしまい、更にもう一振りのギルドセーバーを構えた。本来ギルドセーバーは双剣、二刀流が正しいスタイルだ。

 

 双剣を構えたルトガーが駆け、剣を振りかぶる。

 シーマの間合いに入るより速く、シーマに向かって双剣が振り下ろされる。否、投げ込まれた。

 回転する刃は光の尾を引き一直線に飛翔する。

 シーマが槍を突き出し迎撃を試みる。だが双剣は意志を持つかのように飛び、シーマの槍が空を突く。

 シーマの動きが一瞬驚愕で止まった。双剣の奇怪な動きも一瞬の出来事。

 

 理屈はあまりに単純。双剣は糸が結びつけてあり、ルトガーはそれを引いただけ。結果、双剣は跳ね返るように引き戻され、シーマに刹那の隙が生じた。

 だが、その一瞬はルトガーがボウガンを抜き、引き金を引くには十分だった。そしてシーマには致命的。

 

 飛来した弾は正確にシーマの右肩、左肘に着弾した。ルトガーの位置から見えたシーマを無力化出来る部位。

 

「くっ」

 

 シーマが体勢を立て直した時には、ルトガーが彼の間合いに入っていた。

 シーマの両手首を掴み、靴裏を猛烈な勢いでたたき込む。靴裏はシーマの胸板を捕らえ、その勢いでルトガーの身体が後退。掴まれたシーマの手首が悲鳴をあげた。

 

 シーマの手から槍が落ちたのを確認し、ルトガーは手を離した。

 シーマの右手首は脱臼していた。あれでは武器を手放してしまうのも仕方ない。

 

「勝負あり、だな」

 

 シーマに剣を突きつける。

 

「やはりお前の方が上か。だがそれでいい、俺の目指す強さに君臨し続けてくれ」

 

 シーマは地面に倒れ込んだ。

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