銀色の月   作:月光カナブン

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第9話 天使降臨

 飛燕は空中を駆け、アーシアに迫る。

 上空からはファフニールのブレス。

 

 大した女性だと思う。自分の太刀を防いだのだから。

 

 飛燕の居合いは速い。居合いを知っている者でも防ぐことは難しい。更に居合いは大陸ではほとんど使われていない剣技。納刀状態からの斬撃はそれだけで、なれない相手には十分な奇襲になる。そして居合いの極意は抜かずに相手を圧倒すること。

 

 全力ではなかったとは言え、飛燕の太刀は最良のタイミングで繰り出された神速の奇襲だった。しかしアーシアはそれを三度も防いだ。二度目と三度目は電流を浴びながら。

 

 自分とファフニールを同時に相手にして怯まない剛胆さと天賦の才、類い希な美貌。戦姫とはこの娘の事だ。

 だが如何にアーシアであろうと逃げ場の無い空中で上下から攻撃には為すすべも無いはずだ。

 刀の柄を握る飛燕の手に力がこもる。

 全力で討つ。だが急所は避けよう。この女性を殺したくない。

 

 しかし、何故だ。何故、不利な、絶望的な状況にあるはずのアーシアは、そんなにも不敵な表情をしているのだろう。

 いつの間に眼帯が外れたのか、アーシアの右目があらわになっていた。

 その瞳には赤く紅い朱が燃えていた。千差万別する赤と紅と朱。

 そうか、この目が竜。この竜の如き目が彼女から感じた力の正体か。

 アーシアの瞳の炎が一際強く輝いた気がした。

 アーシアは既に飛燕の間合いの中。飛燕は刀を抜く機会を計りながらも、赤い目に見惚れ、畏怖していた。

 

 

 

 

 

 

 跳ね上がるように空中へ放り出されたアーシアを爆風が抱き、翻弄した。

 一瞬、上下の区別がわからなくなる。

 下からは飛燕、上からは火竜の攻撃が迫っている。

 感覚を取り戻したアーシアは、素早く右目の眼帯を剥ぎ取った。

 解放された右目から、抑えようもない熱く獰猛な力が爆発する。

 アーシアは歌う。荒れ狂う力を制御し己を保つために歌う。

 

「我は炎、我は翼。我が意志は大地の怒り、我が故郷は希望の空」

 

 歌は言霊と化し、荒ぶる力の暴走を抑え込む。

 

「舞い降りよ天の意志。その力を我が身に宿せ」

 

 歌が終わりと共に、右目が落ち着く。歌といっても歌詞は圧縮されているため吐息にしか聞こえない。

 

 飛燕が間合いに入る。頭上に三叉の火球。

 閃きとともに飛来する刃。アーシアはそれに手を伸ばした。

 掴んだのは飛燕の手。そこを支点にアーシアの身体は振り子のように旋回、渦巻く風をまとい飛燕の下に移動した。

 見上げた先に、驚愕に目を見開いた飛燕の顔をがあった。

 身体をねじり飛燕に蹴りを放つ。

 刀を振り切る前の奇襲に為すすべもない飛燕の臍に靴裏が突き刺さった。反動でアーシアの体は落下、着地する。

 三叉のブレスが空を裂き大地を穿ち、一拍遅れて飛燕が着地した。

 アーシアは左手の盾を外し、腰のポーチからもう一つの愛剣インドラを引き抜いた。

 飛燕の脇にファフニールが降り立つ。

 

「アーシア……あなたは」

 

 愕然として飛燕は呟いた。

 可憐とさえ見えるアーシアの変貌が衝撃的だったのだろう。

 

 豊かな黒髪は炎のようにざわめき、吐く息は燃えるように熱い。身に纏う溢れ返る闘気は、さながら聖なる炎の噴出。

 その姿は神々しくさえあった。故に人は羨望と畏怖を込めてアーシアをこう呼んだ

 “天使降臨(エンジェル・フォール)”と。

 

「君もうすうす感づいていたんだろうけど、私の右目は特別製でね、竜の紅玉とほぼ同じエネル

ギーの結晶体。そして、その力を解放するのが私の奥義“降竜儀(こうりゅうぎ)”」

 

 アーシアは右目に垂れる髪をかきあげた。

 

「肉体のリミッターを外す鬼人化と、その身に竜を宿す降竜儀。効果は似てるけど得られる力は降竜儀の方が上でね。更に言うなら肉体の耐久力まで向上させる」

 

 アーシアは両手の剣を構えた。

 

「君とファフニール。私と降竜儀。これで、互角だ」

 

 

 

 いや、互角以上かも知れない。

 飛燕とファフニールのコンビネーションはなかなかのものだ。さっきの空中の攻めは冷や汗をかいた程だ。

 一体となった彼らと、自身の身体に竜を宿らせ正に人竜一体となったアーシア。果たしてどちらが個体として優れているだろうか。

 

 飛燕は居合いしか技を見せていない。ファフニールはブレスでしか攻撃していない。まだ相手の手の内は掴めていない。しかし、アーシアも大した攻撃はしていない。せいぜい飛燕の居合いを防いだくらいだ。手の内が読めていないのはお互い様だ。

 だが、一つだけ、アーシアは一つだけ相手の弱点を見つけていた。

 

「飛燕、油断するな。あの技、ペテンでなければアーシアの力は我すら超える。我の力にお前の力を単純に足せれば我らの方が勝るが、それは口で言うほど簡単ではない」

 

「降竜儀、初めて聞く技ですね。気が抜けないな。加えてその剣。水と雷の力を同時に振るう気ですか?」

 

 飛燕の問いにアーシアは答えた。

 

「そう。オデッセイとインドラで私に足りない属性を補う。私は降竜儀を発動させることで炎と龍の属性を扱えるようになる。私の体に宿る力は火の龍だから。つまり、今の私は四つの属性の力を振るう事が出来るのさ」

 

「なるほど、鬼人化より凶悪ですね。あなたにふさわしいですよ」

 

 どういう意味だ。

 ちょっとムッときた。

 

「では僕も本気でいきます」

 

 飛燕が居合いの構えをとる。見た目は何も変わらない構え。

 だがアーシアは感じた。飛燕の右腕にみなぎる闘気を、刀に満ちる力を。

 

「気づきましたか。この刀は龍刀・火具土。龍刀に火を宿らせた業物」

 

 飛燕の刀は二つ属性を持つらしい。ファフニールは火と雷と龍の三つ。

 複数の属性を扱うのはたやすい事ではない。二つ以上の属性の力を引き出すには狩人の闘気が必要になる。武器自体に属性がついている武器は振るうだけで効果があるが、別の属性が働くと互いを打ち消し合ってしまう。そうならないようにバランスを取りながら戦うのは並みならない集中力を要求される。

 実際、本来アーシアも二つ扱うのが限界だ。降竜儀があるから四つ同時という反則が可能になるのだ。ファフニールは竜だから別に驚くには値しない。そもそも生物としての性能、格が違うのだから。

 

 だがそれでも。

 

「負ける気は無いからね」

 

 負ける気はしなかった。




アーシア:暗黒竜ファーブニル、お前の陰謀は叩き潰したぜ。今度の目的地はここだ、風雲飛燕城。何があっても乗り越えてみせる。よぉし、銀月するぜ!

ロイド:何やってんの?

アーシア:ん。次回予告だよ。

ロイド:次回は城攻めですか!?

もちろん違います。
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