銀色の月   作:月光カナブン

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第11話 狂走円舞

「うおおおぉぉぉぉ!」

 

 のどかな晴れ渡った青空の下、ロイドは吠え、疾走する。速すぎず、遅すぎず、速度を変えながら山道を駆け上がる。背後からは盛大に土を蹴立てながら鎧竜が追ってくる。

 左手の剣は軽いが、右腕に抱え込んだティアが意外にも重い。

 

 さかのぼること数分前。

 イーオス戦で飛びながらブレスを放ったティアは既にお疲れの様子だった。幼竜だから仕方ない。出会った時はふらふら飛んでいたが、獲物を前にした竜の本性からか、ロイドの援護のためか、きちんと飛びながら戦ったのだから十分賞賛に値する。

 山道の側面の少し先に切り立った崖。

 そこへ鎧竜を誘導しようとロイドが動いた時、ティアは動けなかった。

 予定変更。ロイドはとっさにティアを抱き上げ、山道を駆け上がった。それを追うように鎧竜が突進する。

 鎧竜は動きが鈍いと言われるが、それは機動性の問題であり、突進はそこそこに速い。

 元々鎧竜が簡単に崖に誘導されるとは思って無かった。この地の主と呼ばれてるのだから地形は熟知しているだろうから、ロイドが崖の方へ走ってもそこへ突進するとは考えにくい。

 だから崖に誘導出来なかったのはあまり痛手ではない。

 鎧竜との距離が一定以上離れないように注意する。鎧竜は離れた相手に熱線を放つからだ。それはまるで光線、通称グラビーム。必殺グラビームに触れたものは焦土と化す。ちなみにビームを喰らったモノは爆発するのが特撮物のセオリーだが、グラビームはビームを吐く鎧竜が爆発する。 実際には爆発ではなく火炎ガスなのだが。

 ロイドの脚力ならば熱線を撃たれないよう一定の距離を保ったまま走ることは十分に可能だった。

 

 問題はティアだ。狩人は依頼で飛竜の卵を運搬する事があるが、卵は重い。卵を上回る重さの武具も存在するが、そういう物は扱いやすいように重心が計算されている。しかし、卵は抱きかかえる上に丸く、持ちにくい。それ故に卵は重いのだ。

 そしてティアはその卵より重い。生まれてから大した時間はたってないらしいが、赤子の成長はどの生物でも著しいのだ。ティアは両腕に収まり、卵と違って抱きやすいのだが、片手で抱くのは難しい。とは言え左手は剣でふさがっている。

 重い重いと思っても口には出さない。ティアだって女の子なのだから。

 そういえば、アーシアはティアを頭にのせていたような……。あの小悪魔系天使な不思議ちゃんの首の筋肉はどうなってるんだ。

 意外な事だがティアの背中の棘は痛くない。リオレイアの棘には毒があり、ツンと尖っている。だが、まだそこまで育ってないのか、気を使ってくれているのかティアの棘は羽毛のように柔らかい。

 やはりビリーにティアを任せるべきだったか? しかし目の届かない所にティアを行かせるのは不安だ。

 などと雑念が脳裏をよぎる。

 

(ここが砂浜で追ってくるのがアーシアとマドカとかソフィだったらな……)

 

 雑念の次には煩悩がわいてきた。

 だが、何故か頭に浮かぶのは筋肉質な猫頭のメイド。ちなみにマドカとはルトガーの娘だ。とても可愛くロイドにとっては妹だが、手を出したらルトガーにぬっころされるだろう。

 そして現在に至る。

 

 

 

 視線の先に開けた空間。ビリーが言っていた広場だ。

 気配で後方の鎧竜との距離を測りつつ、減速。

 鎧竜がのしかかるように跳躍した。

 ロイドに影が覆い被さる。

 そこで加速。周囲の風景が怒濤の勢いで後ろへ流れ、影から逃れる。

 重心を傾け右へ方向修正し、横滑りするように疾走。

 ロイドの脇を盛大に土煙を舞い上げながら鎧竜が滑っていく。

 ロイドも地面を掻き、煙をまといながら制止した。

 

「二足歩行ドリフト成功」

 

 否、誘導成功だ。

 広場というより平野だった。さっきの山道よりは戦いやすいが、むしろ広大な空間は鎧竜の力を活かしやすい。狭い空間であれば巨体故小回りが効きにくい鎧竜の動きを封じやすい。

 もっとも機動性に優れた武具を扱うものならば多少戦場が広かろうと大した問題ではないのだが。

 

「お姉さん、待つのは苦手だな」

 

 先に広場にたどり着いていたテリサが話しかけてくる。

 

「そんなに待たしてない」

 

 言いながらテリサの腕にティアを預ける。

 

「テリサ、ティアを頼む。俺の目の届く範囲で回避に集中しろ。

 ティア、さっきも言ったがさらわれちゃダメだぞ。いざとなったらそのお姉さんに噛みついて良いからな」

 

 テリサを信用するのはまだ早いが、ティアを抱いたままでは戦えない。テリサにティアを預かってもらうのは妥協する。

 とはいえ、テリサにティアを預けて広場へ行かせるのはよろしくない。そのまま逃亡されてしまうかもしれないからだ。テリサだけを先に行かせたのはそれが理由だ。

 ロイドは剣を右手に持ち換え左手にボウガンを構える。

 翼を広げ鎧竜が吠える。突進の体勢だ。

 ロイドは横に走りながら立て続けに引き金を引く。

 放たれた銃弾は鎧竜の顔に着弾した。堅固な鎧竜にはキズ一つ付けられない。だが意識をロイドに向ける事には成功した。

 

 ボウガンをしまい、剣を逆手に構える。

 一直線に鎧竜が突っ込んでくる。ロイドも駆ける。

 ロイドが狙うのはカウンター。

 鎧竜の堅い体は刃を弾くので、斬撃は効果が薄い。しかし、突進する勢いをそのまま相手に返すとなれば話は違ってくる。

 衝突の寸前、ロイドは足を滑らせた。

 事故ではなく故意に。

 仰向けに倒れながらも剣を振りかぶる。疾走の勢いでロイドは地を滑る。

 眼前を鎧竜の顎が通り過ぎる。

 ロイドは渾身の力で剣を振り下ろした。切っ先が甲殻に突き立ち、腹を斬り裂き一文字を描く。

 だが、鎧竜の硬さも半端では無い。剣は甲殻を切り裂くが、浅い。

 

「っ!」

 

 ロイドの両腕に痛みが走り、力が抜ける。

 手が剣からもぎ取られた。

 

「しまった!」

 

 ティアマト戦で痛めた腕はまだ治りきっていないのだ。

 ロイドと鎧竜がすれ違う。

 滑る体をひねって転がり起きあがる。

 剣はよりによって鎧竜の脇に落ちていた。しばらくは回避に専念し、スキを見て拾わなくてはならない。

 しかし剣を拾ったところで、この腕では撃退は難しい。フルフルの外套は傷を癒すが、その効果は体の表面、外側の傷にあらわれる。ロイドの腕は言うならば筋肉痛で体の内側の傷。そこまではフルフルの癒しは届かない。

 更に言うならばギルドセーバーでは軽すぎて鎧竜に致命傷を与えにくい。手元にないが愛刀鬼斬破ならば重量も申し分ないが、その重さは今のロイドには酷である。

 

「ピッケルで叩いた方が効果ありそうだな」

 

 振り返った鎧竜が大きく体を反らした。

 

「テリサっ!」

 

 走りながら叫ぶ。それに応じてテリサも走る。

 次の瞬間、ロイドの立っていた位置を熱線が走る。

 灼熱の吐息が周囲を焦がす。そして、走るロイドを追い、熱線が払われる。

 辺りに満ちた熱気が涼しいと思える程の圧倒的熱量が背後に迫った。

 熱線の根元、鎧竜が払う速度は大したことはないが、長大な間合いの先端はそうはいかない。

 ロイドは宙へ逃れる。

 足下を熱線が通り過ぎる。

 着地の瞬間。再び側面から迫る灼熱。単純な事だ。鎧竜は払う熱線の方向を切り替えただけだ。

 

「さすがに、まずいか」

 

 既に視界の隅に熱線が迫っているのに、他人事のように呟く自分に驚いた。だが、

 

(諦めるな)

 

 誰かの声が頭に響く。

 

(無論だ)

 

 避けられない。避けられなければ当たれば良い。ロイドは顔を腕でかばい、灼熱に飛び込んだ。

 ロイドと熱線が交錯した。身を焼かれたのは一瞬。だが身につけた外套はロイドを熱線から守りきる。負った火傷は痛みの割には大した事はない。

 身に纏う外套から白い煙が上がる。

 熱線との衝突は猛烈な熱風にぶつかるのと似ていた。払う速さとロイドの跳躍の交差は一瞬。その瞬間、高密度の熱気にさらされるが耐えられない程ではないと計算した上での行動だった。

 

(見事だ)

 

 再び響く声。

 ロイドは首から下げた鱗を握る。

 

(アンタ、やっぱり憑いてやがったか……)

 

(安心しろ。我は怨霊ではない)

 

 聞き覚えのある声が答える。

 

(我が魂は汝と共にあると言っただろう)

 

(まさか本当だとは思わなかったよ、ティアマト)

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