銀色の月   作:月光カナブン

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外伝Ⅲ 生きるために
外伝Ⅲ 1


 生物は生きる。

 生きるために食べる。食べるために殺す。殺す事は命を奪う事。

 食う側は生き、食われる側は死ぬ。

 弱肉強食はこの世の真理。

 狩るか、狩られるか。

 

 人は生物の死骸を加工し食べる。ある意味で異常、自然ではない。

 食べる事は人にとって娯楽になることは少なくない。調理、料理も同じだ。食べる事を楽しむのは、殺す事を楽しむ事にもなるのだろうか?

 ロイドはその答えを知らない。

 ただ、命を奪いそれを糧に生きるなら、食べ物を楽しく美味しく食べるのは、食われる側への最大の感謝になるのではないか。そう思う。

 故に彼は食事を楽しみ、決して残さない。食べる事に感謝の気持ちを忘れない。

 それが彼なりの答えだ。

 

 

 

 

 

 

 山の麓で寝ていたロイドは追いついてきたルトガー達に起こされクローブへ向かった。

 クローブで宿をとり、極度の疲労に、その日は皆大人しく眠りについた。

 そして朝が来る。

 

 グルルルルル……。

 

 ロイドは何かの唸り声を聞いて目を覚ました。

 

「何だ?」

 

 油断無くベッドから降り、身構える。

 何もない。唸っているのはロイド自身。正確には彼の腹だった。

 

「腹減ったな」

 

 朝食をとろう。クローブもまた美味しい店が多いことで有名だ。

 服を着替えて部屋を出ると、ロビーには起きていた者達が集まっていた。飛燕とシーマの姿は無い。まだ起き上がれないのだろう。

 

「起きたか。朝食を食べに行くぞ」

 

 皆、武装を解いた普段着なのに、相変わらずギルドの制服を着ているルトガーが言った。

 

「ルトガー、その服」

 

「ちゃんと着替えたぞ。制服は赤2着、黒2着、戦闘用とあわせて5着持っている」

 

 聞きたいのはそういう事ではない。

 ロイドの気持ちを察したルトガーが言った。

 

「ティアは大人しい幼竜だが、やはり竜。一般人は恐れてしまう。だがギルドの制服を着た俺がいれば話は違うだろ」

 

 なるほど、ロイドが幼竜を連れていれば怪しくも見えるが、ギルドナイトならばそうはならない。一般人の警戒心も薄れる。

 

「では行くか」

 

 皆でゾロゾロと宿を出た。

 ルトガーは人々の警戒心を薄れさせるためギルドの制服を着ているが、目立つ。片目に眼帯しているアーシアも目立つ。その腕に抱かれたティアもだ。そしてオカマ。

 ロイドとソフィ、テリサはまだましだ。

 

「道行く先ですれ違う人々は皆私の美貌にメロメロね」

 

 ノアがうっとりして言った。何て説明的な台詞なんだ。だが解釈を間違えている。

 すれ違う人々は不審な目で振り返っていた。

 だが、ロイド達以上に怪しい者達がいた。

 それは目的の店の前に陣取っていた。

 

「何あれ」

 

 それはビストロ軍団だった。

 正確にはビストロベストとエプロンを身に着けたイーオス、ゲネポス、ランポススーツの三人組。

 それが食堂の前で腕組みして仁王立ちしているのだ。怪しくて当たり前だ。

 

「油断するな、ロイド。奴ら、できる」

 

 緊張をにじませてルトガーが言った。こちらに気付いた怪しさ大爆発な三人組と目が合う。

 

「我々はさすらいの料理人。このクローブには伝説の料理人がいると聞いてやって来た。だが我々は伝説の料理人に会う前に、あ○将軍コスプレの娘に敗れてしまったのだ……」

 

 伝説の料理人。いったい何者なんだ。そして○じ将軍とは……。

 

「ところで貴公達」

 

 話しかけてくる三人組。

 

「給食番長アーシア・セイクリッド殿とお見受けした」

 

 何だこの展開。

 

「だとしたらどうする?」

 

 不適に笑うアーシア。いや給食番長。

 

「しばし我々の修業に付き合って頂こう。ここを通りたくば我々を倒していけ」

 

 各々の武器を構える三人組。

 イーオスが持つのはシエロツール。ゲネポスはニールイタメール、ランポスは千年包丁。

 

「獲物を突き刺し動きを封じる棘と、肉を断つ刃か」

 

 と解説するルトガー。

 

「いや、デカいナイフとフォークだって」

 

「竜すら料理する双剣、ニールイタメールと、竜の肉すら斬り裂く包丁か」

 

 盛り上がる三人組とルトガー、アーシア。

 テリサとビリーはサッサと食堂に入っていった。

 ロイドもあとに続こうとし、襟を掴まれた。

 振り返ると悲痛な表情のソフィがいた。

 

「ロイドさん、お願いします。みんなを勝利に導いて下さい」

 

 何で俺が。ソフィはロイドに赤いあ熊、唐辛子を渡して食堂に入っていった。残ったのは変態と変人、変質者と不審人物だ。

 

「3対4か。数の上での差などどうにでもなる」

 

 イカした台詞を吐くイーオス。こんな状況でなければかっこいいのだが。

 どうやらロイドとノアも巻き込まれたようだ。ティアは頭数に入らないらしい。

 

「これを見ても、同じことが言えるかな?」

 

 アーシアがゆっくりと武器を構える。

 

「それは、豪槍ホワイトエンジェル!」

 

 うろたえる三人組。

 っていうかデカイ注射機にしか見えないよ。

 

「それじゃあ、俺も伝説の武器を使おうか」

 

 ルトガーもまた武器を取り出す。

 

「っ!伝説の打撃武器、サウザンド・ニードル」

 

 どう見てもハリセンだ。

 

「じゃ私も」

 

 ノアまで何もっているのか。彼は懐に手を突っ込んだ。

 

 ノアが取り出したのは何か文字が書かれた馬鹿でかい、しゃもじ。

 

「それは、よその家でメシたかるときに使われる、伝説の神器“突撃!よそん家のご飯☆”」

 

 三人組だけでなく、アーシアとルトガーも戦慄の表情を浮かべていた。

 

「それは選ばれし者が神の祝福によってのみ手にする事ができるしゃもじだ。まさかお前が、食神の加護を受けし御子だと言うのか……」

 

 リーダー格と思しきイーオス男が戦慄に声を震わせる。

 それに対しノアは艶然と微笑むだけだった。

 

「この武器を持つ私が審判してあげるわ」

 

 もう何が何だか。

 

「ロイド、ルトガー。準備は良い?」

 

「武器は持ってないぞ」

 

 ロイドとルトガーの名に三人組が反応した。

 

「“狼牙”と“トリックスター”。相手にとって不足はない」

 

 どうしよう。向こうはやる気満々だよ。

 助けを求めて視線巡らすと、食堂のテラスにソフィ達が陣取っていた。

 頑張って下さい。と言いたげなソフィが笑顔で手を振っている。

 ロイドはアーシアの足元のティアを抱き上げた。

 

「俺、ティア見てるから」

 

 しかし、ティアはアーシアに奪われノアに手渡された。

 

「武器ならさっきソフィが渡してた」

 

 言われて、手にした唐辛子を見る。

 

「これで撃退出きるのはルトガーだけだぞ」

 

 だがアーシアはロイドの言葉を無視。三人組とにらみ合う。

 ぶつかり合う視線は火花を散らす。

 

 ゴゴゴゴゴ……

 

 ロイドの腹の音が辺りに響く。そこに、

 

 くぅ

 

 と可愛らしいアーシアの腹の音。

 それを合図に三人と二人が飛び出した。

 

 ガキィンッ☆

 

 ズバッ♪

 

 チュドーン?

 

 三人と二人は激しく激突を繰り返し、轟音が大気を揺らす。吹き乱れる衝撃が烈風を生み、ロイドの銀髪を掻き乱した。

 一際大きく衝突し、互いに間合いを取り合うアーシア達と、コスプレシェフ。

 地響きと轟音の余韻が残る中、アーシアが言った。

 

「飽きたね」

 

「そうだな、料理人らしく料理で勝負だ」

 

 と無傷のコスプレ三人組。

 アーシアとルトガーを相手にして無傷って……、どんな強さだ。あいつら化け物級の強さだ。

 ロイドは主人公としてちょっぴり危機感を抱いた。

 

「そうだね。そうしよう」

 

 三人組とアーシア達の間にノアが割り込む。

 

「審判の出番ね」

 

 ノアは、コホンッと咳払いをし、高々と宣言した。

 

「テーマは“華麗さ”。より美しく、より美味しい物を作った側の勝ちよ。具材、調理法、料理の種類は問わない」

 

 華麗さがテーマとはいかにもノアらしい。

 

「具材は市場から手に入れる。制限時間は2時間ってとこかしら?」

 

 2時間。長い気もするが材料調達を思えば妥当なところかも知れない。

 

「準備はいい?」

 

 ノアが手を挙げる。

 身構える料理人達。

 

「時は来たり、食神の名に於き、闘争の幕を下ろさんっ!」

 

 唱の終わりと共にノアの腕が降り下ろされた。

 一瞬で姿を消す料理人達。

 その速さはロイドも感心する程だ。

 一人取り残されたロイド。食堂のテラスには笑顔のソフィ。あれはロイドの活躍を期待してる顔だ。

 

「罪だな。あの笑顔は」

 

 ソフィの期待を裏切る訳にも行かず、ロイドは市場へ向かう。

 

「ありえない。純正統派超大作MH小説としてありえない」

 

 それは純正統派超大作MH小説として何か間違った光景だった。

 

 市場は戦場だった。三種のモンスターと、眼帯の美少女、そしてギルドナイトによる壮絶な食材の奪い合い。激しく奪い合うが食べ物を粗末にするようなことはない。肉を地面に落とすこともなければ、野菜を潰す事もない。

 それぞれに無駄な動きはなく、高い技量を持ち合わせている。その光景は美しい舞の様でもあった。

 加えて、

 

「馬鹿な……」

 

 彼らが手にする食材。

 

「あれは、味、彩り、鮮度、栄養価、どれをとっても名産品。おそらくその全てが、G級」

 

 何という未熟!

 見た目に気を取られ、敵の本質を見落とすとは。

 

「貴様っ! この棍棒ネギは渡さんっ」

 

「たわけっ! こっちは既にブリカブトで出汁をとり始めているのだ!」

 

 響く怒号。怒鳴り合うルトガーとランポス。

 仲間が戦っている。己の不明を恥じる暇は、無い。

 高鳴る鼓動、それは一定のリズムを打つ。血がたぎる。

 ロイドは市場を駆ける。目指すは一点。欲する食材へ。

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