銀色の月   作:月光カナブン

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外伝Ⅳ 2

 マドカに呼び止められ、駆け出そうとした体を止めるより速く、

 

「ぐぇっ」

 

 不意に喉がしまってせき込んだ。

 マドカがロイドの襟首をつかんだのだ。

 

「あのイャンガルルガという飛竜は非常に強固な体に、膨大な生命力を宿しているようです」

 

「そのようだな」

 

 解放された首をさする。

 回復薬を取り出して腰を下ろす。栓を開けると回復薬特有の匂いが漂った。薬に蜂蜜を垂らして一息に飲んだ。

 

「そこであの殻を引き剥がす必要があると思います」

 

「まずい、もう一杯」

 

 良薬口に苦しである。

 

「聞いてますか?」

 

 冷たい殺気を感じた。

 

「聞いてたぞ。あの殻は堅いが、さっきの攻撃である程度傷付ける事が出来た。爆弾があれば吹き飛ばせるだろうな」

 

 コクリとマドカが頷いた。

 

「単純な爆弾のダメージも考えれば、なかなか大きなダメージを与えられるかと。ただ……」

 

「何かあるのか?」

 

「飛竜は危機に瀕すると激昂し凶暴性が飛躍的に増す。父さんの話では、黒狼鳥はその傾向が強いうえ、生命力が高いので凶暴化してから倒れるまでが長いのだそうです。黒狼鳥と戦ったハンターの多くは凶暴化した黒狼鳥にやれているんです」

 

「心配してくれてるのか?」

 

「そんなわけないでしょう。何を期待しているんですか?」

 

 やや冷たい声でマドカは言った。

 嘘だ。ロイドにはわかる。マドカがロイドの身を案じてないはずがない。ロイドはマドカと幼なじみであり、兄と慕われている。

 マドカとルトガーに血の繋がりはない。マドカは赤子の頃に親を失った。訳あって身よりの無い彼女をルトガーが引き取った。そんなマドカだから血の繋がりというものは重要ではない。

 そのマドカに兄と慕われているのだから、実の兄と立場に差はないといっても過言ではない。

 

「兄さん考えてる事が声に出てますよ。はしたない」

 

「うそんっ」

 

「嘘です」

 

 ニタリ、と笑うマドカ。人の悪さは一級品だ。

 

「黒狼鳥に爆弾を使うとしても罠が必要だな。一旦キャンプへ戻ろう」

 

「そうですね」

 

 ロイドは腰を上げ歩き始めた。

 

「ところで、ルトガーは何をしてるんだ。来れない用事があるのだろうが……」

 

 ルトガーがいれば相手が黒狼鳥だろうと、引けは取らないだろう。

 

「父さんは仕事で今家にいません。老山龍の進行方向に村があるらしくて」

 

「大変だな。ルトガーも」

 

「今朝父さんから伝令が来て知らせに来たんです」

 

「ではルトガーの期待に応えるとしようか」

 

 キャンプで荷物を整えるとロイド達は早速準備に取りかかった。

 

 地図を確認し飛竜の餌場に落とし穴を設置。落とし穴の内側の土に大タル爆弾を数個埋め、その上に生肉を置いた。肉の匂いで誘い、火薬の匂いを少しでも誤魔化すためだ。

 通常の飛竜なら落とし穴の上に肉を置いても疑わずに罠にかかるが、狡猾そうな黒狼鳥はそれを見破る様な気がしたのだ。

 

 一通り作業を済ますと、ロイド達は二手に分かれ、それぞれの持ち場に潜んだ。

 罠を挟んでロイド達の正面にマドカとテリーが控えている。ガンナーのテリーは爆弾の起爆役だ。

 ロイドの後ろにはベルナルドとマリーが潜んでいる。二人とも基本は出来ていて筋も悪くないのだが、如何せん経験不足なので戦闘になったら逃げるように指示してある。

 しかしその二人は罠の設置に大きく貢献した。ベルナルドは難しい落とし穴の調合を、マリーは爆弾の調合をいとも簡単にやってのけた。これにはロイドも感心して舌を巻いた。しかし、その手際の良さはいつも罠を使っているという事の証明だ。罠を使うのは基本だが、それに頼りすぎないかが心配だ。

 

 しばらく待機していると、羽音が聞こえてきた。場が緊張する。

 誰もが息を潜め、羽ばたく音を聞いた。

 地響きと共に粉塵を舞上げ飛竜は着地した。

 

「……期待外れだ」

 

 そこに降りたったのは怪鳥イャンクックだった。

 

「そういえば今日は怪鳥を狩りに来てたんだった……」

 

 その事を失念していた。

 ベルナルドが話しかけてくる。

 

「先輩。イャンクックが……」

 

 怪鳥はゆっくりと罠へ向かって歩いている。

 このままではせっかくの罠が台無しになる。

 考えた時には既に体は動いていた。

 鬼人化し力を溜める。ロイドは怪鳥に向かって疾駆した。

 ロイドに気付いた怪鳥が躍りかかる。

 頭上から急降下するクチバシ。それ目掛けてハンマーを打ち落とす。

 カウンターの一撃は怪鳥のクチバシを粉砕する。衝撃は下へ抜け、怪鳥の頭が地面にめり込んだ。

 辺りには殻の破片と血潮がばらまかれていた。怪鳥は即死だっただろう。

 

「安らかに。しかし、我が事ながらエグいな」

 

 怪鳥の死骸から素材を剥ごうとした時、目の前に黒い稲妻が降った。風圧を利用して飛び退がる。

 

「……。やぁ、今日はよく会うな」

 

 ロイドが浮かべた、無意味に爽やかな笑み。黒狼鳥には無視された。

 いや、そう思ったのはロイドの早とちりだったのかも知れない。

 黒狼鳥は挨拶代わりと言わんばかりに、ブレスを放った。

 

「いけずぅっ」

 

 至近距離から迫る火球。身を捌いてやり過ごすが、肩をかする。肩口がじりじりと炙られた。

 着弾の衝撃はロイドの体を後方へ押し倒し、投げ出した。

 そこに黒狼鳥のクチバシが振り下ろされる。

 同時に轟音が響いた。

 ロイドの体が地面を転がる。その至近距離にクチバシが激突。深々と大地を抉る。

 テリーだ。とっさに放った弾は、黒狼鳥に着弾し、その動きを妨害したのだ。

 ロイドは大地から躍り上がった。身体をしならせハンマーを叩きつける。

 鎚が大気を裂く音に黒狼鳥が反応し、翼で急所を隠す。

 轟音をたてハンマーが翼を砕く。黒狼鳥のとっさの防御は不完全だったのだ。

 勢いに任せて身体を回転させる。再びハンマーが大きな弧を描く。

 避けようとする黒狼鳥を一撃。たまらず黒狼鳥の身体が後ずさる。

 不意に黒狼鳥の身体が地面に沈んだ。後退した先に落とし穴があったのだ。

 

「今だ」

 

 ロイドが後退し、潜んでいたマドカが飛び出した。

 穴の中で、もがきながらも黒狼鳥はブレスを放つ。

 マドカは宙を舞い、それをかわす。跳躍の頂点で身をひねったマドカは下方、黒狼鳥に向けクナイを投擲した。

 十本のクナイが黒狼鳥の周りに刺さる。

 クナイの殺傷力には期待していない。本命はクナイに結び付けた爆薬だ。

 マドカが黒狼鳥から離れた位置に着地。テリーのボウガンが火を吹いた。

 放たれたのは拡散弾。

 

 轟音とともに炎の柱があがる。爆発の近くにあった木々は粉微塵に飛び散った。荒れ狂う熱い爆風と燃える衝撃を、地に伏せて耐える。

 黒狼鳥を囲う様に配置された爆薬と爆弾、引火させた拡散弾。それぞれの爆発と爆風は、互いを押し合い相乗効果で威力を引き上げた。

 

 爆発で落とし穴ごと地面が抉り取られ、黒狼鳥が解放される。

 吹き上がる爆炎の中から姿を現した黒狼鳥の姿は無惨なものだった。身体のあちこちが剥げ、傷口は焼かれ、流れた血が黒い身体を、更に黒く染めていた。

 

 だが、闘志は失っていない。威圧感は更に重く、眼光は更に鋭く。怒りと、凶気への歓喜が伝わってくる。

 

 怒りの黒狼鳥。

 

 正に噂通りのその姿がそこにあった。

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