銀色の月   作:月光カナブン

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第3話 龍脈

 まだ日が昇って間もないのに街の門は商人達とその荷物でごった返していた。ロイドは顔見知りの者と挨拶を交わしながら、ルトガーの馬車を探した。

 

 ルトガーと馬車は喧噪を避け門から少し離れた所に立っていた。

 

「お前、それは何だ?」

 

 ルトガーがロイドが腕に抱えている食料を見て言った。

 

「知り合いの商人達に挨拶代わりだとか言って押し付けられた」

 

「食料費が浮くから構わないが」

 

 ロイドはとりあえず、馬車の荷台に食料を積んだ。荷台には先客がいた。

 

 先客は可憐な少女。艶やかで瑞々しい黒髪、澄んだ瞳も同じく黒。典雅な顔立ちは可憐で、凛々しい。

 

 しかし、右目の眼帯とそれを隠すように垂らした前髪が、彼女にどこか冷たい印象を与えていた。

 

「おはよう、アーシア」

 

「うん」

 

 アーシアの返事は短い。

 

「ねぇ、それ食べていい?」

 

 アーシアがロイドがもらった食料を指していった。

 

「ああ、モリモリ食べて大きくなるんだぞ」

 

「やだ」

 

 アーシアはパンに野菜とハムを挟んでかじりついた。

 

「そろそろ、出発する」

 

 ルトガーが御者台に座って言った。隣には御者のアイルーが座っている。

 

「わかった」

 

「ふがふが」

 

 ふがふが言ってるのはアーシアだ。

 

 馬車が動き始めた。アイルーがロイド達を振り向いて自己紹介した。

 

「御者のビリーって言いますニャ。よろしくニャ」

 

「うん、よろしくビリー。私はアーシア」

 

「俺はロイド、よろしくな」

 

 ロイドはひさびさにまともな喋り方をするアイルーに会って感動していた。

 

 

 

 カナンから馬車で約一週間、幾つかの宿場町と山を越え森に入った。

 夜明けのひんやりした空気に包まれた森を抜けた先が目的地だ。

 セレムは辺境の村のイメージに反して、大きな村だ。山に囲まれているせいで人の行き来が少ないが、貧しいわけではないらしい。村の中心部に広場があり、そこを囲むように建物が建てられていた。

 

 ビリーは立派な門構えの屋敷の前で馬車を停めた。

 

「つ……疲れたニャ」

 

 御者台のビリーが肩を回しながら言った。

 

「これがここの村長の屋敷ですニャ」

 

 屋敷の中から一人の少女が出迎えにやってきた。

 

「ルトガーさん、お待ちしてました」

 

 少女が朗らかに笑いながらルトガーに話しかけた。

 十代半ば位の活発な印象の娘だった。肩に触れる程度に切られたダークブラウンの髪といきいきとした茶色の瞳が活動的な印象を強めている。花畑で花を摘んでいるより、草原を駆け回っている方が似合う、そんな可愛いらしい娘だ。

 

「ソフィ、お前も大変だったな」

 

「いえ、私は遠出は好きですから」

 

 どうやら2人は顔見知りらしい。

 

「この娘は村長の娘で、一人でギルドに依頼に行ったらしいんですニャ」

 

 ギルドのある町でこの村から一番近い町でも山一つ越えなければ行けないので、馬で1日以上かかるはずだ。

 

「見かけ以上にたくましい娘なんだな」

 

「それだけじゃなくて、前任の4人が撃退された事をギルドに報告したのもこの娘らしい二ャ。ルトガーさんとはその時知り合ったみたいニャ」

 

「すごい女の子がいたものだね」

 

 アーシアは感心している様子だ。ロイドは、君が言っても説得力が無いよ、と思ったが口には出さなかった。

 

 セレムには小さな宿屋が一つあるらしいが、負傷したハンターと他の客で満員になっているらしい。そこで村長の好意で屋敷に泊めさせてもらうことになった。

 

 ソフィの案内で屋敷に入り各々部屋に入ると、仕事の準備をした。

 

 ロイドの防具は赤い外套。フルフルの亜種から作られたそれは、動きやすさと高い防御力を持ち、更に傷の治りを早くする効果まである優れものだ。外套にアルビノエキスを塗る。フルフルの体液であるアルビノエキスを塗ることで癒しの効果が促進されるのだ。

 

 愛刀、鬼斬破を背負い、ピアスを付ける。ポーチに薬と携帯食料、その他の道具を入れて腰に吊し準備は完了した。

 

 準備を終えてからロイド達は村長の部屋に挨拶に行った。さすがに武器を持って挨拶するのは無礼なので武器は部屋の外で外しビリーに預ける。

 

 セレムの村長、ヘンリーは初老の紳士だった。

 

 ロイド達は村長と向かい合う形でソファに座った。ロイド達と村長の間の机の上には温いお茶と菓子が乗っていた。どうやらこの屋敷には粗相をするアイルーはいないらしい。

 

 手短に自己紹介を済まし、仕事に出かける予定だったが、ロイドには気になる事があった。

 

「村長、リオソウル見かけた時、何故危害は無いと考えたのですか?」

 

「それに関しては村の伝承とこの地域の特異性が関わってきます」

 

 ロイドは眉を寄せた。

 

「かいつまんで話しましょう。この地域の大地には竜脈と言うものがあるのです。竜脈は大地に流れるエネルギーが特別強い地点です」

 

 生物には霊的な力がある。無論、人間にも。同じく大地も霊的な力が流れている。ハンター達が用いる鬼人化や力のタメはその力も関係している。

 

「この竜脈は飛竜の気と相性が良く、療養などの目的で竜がやってくるのです。しかし、竜脈の気は強すぎて並の竜では近づくすら出来ません。したがってやってくる竜は力の強い竜なのです。

 彼らは高い知性を持っています。竜脈に敬意を示しているのか、この地の生物を補食以外の目的で襲うことはありません。もちろん例外はいますが、村の近くで人が襲われたのは初めての事でした。伝説によると、この地に来た飛竜と騎士が互いに認め合い、力を合わせ災いを振り払ったそうです」

 

 ヘンリーは一息ついた。

 

「私達は竜が危険な生き物だと知りながら、心では竜を神聖な物だと思っていた。しかし今はそうは思っていられない。村の安全のためにも竜を倒して下さい」

 

 ヘンリーが顔を強張らせて言った。

 

「ええ、俺達に倒せない竜はいません」

 

 ロイドの言葉をヘンリーが信用したかはわからない。ただヘンリーの顔が少し和らいだ様にロイドは思った。

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