銀色の月   作:月光カナブン

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外伝Ⅳ 3

 黒狼鳥が憤怒の形相で吠え、猛り狂う。

 凄まじい砲吼にマドカだけでなくテリー達後輩も耳を押さえうずくまる。

 

「マドカ、退がれ」

 

 聴覚保護の効果を以てしても耳は痛む。だがロイドは痛みを無視した。

 凶悪な、強大な飛竜と対峙している。立ち向かうロイドに恐れはなく、あるのは歓喜。

 ロイドは奪った命への安らぎを祈るようなお人好し。だが、彼の血は更なる闘争を求めて、疼く、滾る。

 彼の中には獰猛な獣の魂が巣くっていた。

 

 先にロイドが仕掛けた。

 鬼人化により、爆発的な跳躍力を得、全身をバネにし鉄槌を叩きつける。

 黒狼鳥はロイドの一撃を見極め、叩き落とさんと、火球を吐く体勢をとる。

 

「間抜け」

 

 言い放ち、ロイドの一撃が黒狼鳥の顔面に命中する。ぶしゅっ、と音を立て黒狼鳥の片目を奪った。

 衝撃で渦巻く火球が、黒狼鳥の口内で爆裂。クチバシから黒煙が立ち上った。

 

 凄まじい衝撃は、側面から襲ってきた。

 顔面に致命傷を負いながら、黒狼鳥は翼でロイドを打ち付けたのだ。

 ロイドは為す術もなく地面に叩きつけられる。が、ロイドは倒れることなく踏ん張った。そこに黒狼鳥の突進が猛然と叩きつけられる。

 

「がっ!?」

 

 頭突きをもろに腹に受け、衝撃が体内を蹂躙し、喉を伝って吐血となる。

 ロイドは密着した状態から膝を叩き込む。鋼の様な身体がそれを弾き返した。だが、膝の一撃は黒狼鳥の下顎を突き上げ、その勢いでロイドは密着状態から解放される。

 したたか打ち据えられた黒狼鳥は追撃の機会を失う。それを逃さず、ロイドが素早く懐に潜る。

 

「おおぉぉぉっ!」

 

 鎚が唸り、烈風を纏う無数の砲弾となる。

 苛烈な打撃が黒狼鳥を打ち付ける。烈風は血風となり、その軌跡はさながら、赤い雨。

 爆弾で甲殻の大半を無くした黒狼鳥は、直接肉を打たれ、しかしその覇気は衰えは見せない。

 黒狼鳥の身体が翻り、ロイドが吹き飛ぶ。

 サマーソルトにすくい上げられ、受け身も取れず全身で地面を打つ。

 

「兄さん!」

 

「先輩!」

 

 叫び飛び出したのは後輩のベルナルドだった。

 

「ベルナルドっ! クソ!」

 

 焦燥に駆られたテリーの声。続く銃声。テリーは舌打ちしつつも援護射撃を繰り出した。

 羽ばたく黒狼鳥の尾に少年の大剣が振り下ろされる。渾身の一撃はしかし、堅い甲殻に弾かれた。だが、その衝撃はイャンガルルガの体勢を乱した。危ういバランスで大地に着地した足元に銃弾とクナイが降り注ぐ。今度こそ体勢を崩した黒狼鳥。

 

「隙だらけだ!」

 

 倒れ伏したその身目掛けベルナルドが剣を振りかぶる。繰り出された一撃は黒狼鳥の背に吸い込まれるように駆け、しかしその一撃は翼を掠めただけに終わる。直前にマリーが体当たりするようにしてベルナルドの身体を伏せたのだ。同時に少年の上を黒い翼が駆けた。

 

「あああああ!」

 

「マリー!」

 

 マリーの悲鳴とマドカの絶叫。 

 翼に打ち据えられたマリーが、ベルナルドごと地に叩きつけられた。

 二人を睨みながら黒狼鳥が身を起こす。

 

「させるか、雪華!」

 

 マドカが放った牽制のクナイをものともせず、黒狼鳥はマリーとベルナルド目掛け嘴を振り下ろした。そこへ吹き付ける蒼い烈風。

 

「よお。後輩が世話になったな」

 

 間一髪で、ロイドは後輩と黒狼鳥の間に割り込んだ。

 後輩達の介入はロイドが起き上がるには十分すぎる時間を稼いでくれた。盾代わりに掲げた左腕の篭手が凶悪な嘴を受け止め、衝撃で筋肉が悲鳴をあげ骨に亀裂が走る。それをものともせず右腕のハンマーを跳ね上げる。押し込んでくるくちばしにカウンター気味に決まった一撃だったが、黒狼鳥は僅かに怯んだだけ。

 

「頑丈な……」

 

 不敵な笑みを浮かべるロイドに応えるように、イャンガルルガは嘶いた。

 

 満身創痍はお互い様だ。

 黒狼鳥の翼が大きく広げられ、滑空した。黒い風が吹きすさぶ。

 黒狼鳥の突進に、ロイドはハンマーを盾にし身構えた。

 風に吹かれたロイドの身体が、凄まじいショックで弾き飛ばされる。

 さらに黒狼鳥は身体を鞭のようにしならせ、尻尾でロイドを追撃する。

 ほとんど反射的に、ロイドの身体は動いていた。

 辛うじて身を捻り、尻尾の直撃を避ける。腹をかすり、出来た傷から血が吹き出した。

 浅い傷ではない。

 黒狼鳥もまた悲痛な叫びを上げて倒れた。

 衝突の際、ロイドがとっさに引き抜いた狩猟用ナイフがその胸を貫いていたのだ。だが刃は短く、刺さり方が甘い。

 ロイドは己の身体が上げる悲鳴を、気迫で押さえつけた。

 黒狼鳥が立ち上るより早く、ハンマーを打ち落とす。

 ハンマーはナイフを打ち付け、刃がめり込み、穿つ。

 びくん、と黒狼鳥の身体が跳ね、そのまま動かなくなった。

 黒狼鳥の死を確認し、緊張の糸が切れたロイドの視界が暗くなっていく。流石に限界か。いや限界はとっくに超えていた。

 身体は地に沈み、意識は闇に沈む。

 

 

 

「……何て、何て凄まじい。これでは喰らい合う獣じゃないですか」

 

 誰かがそう言ったのを聞いた。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

 そこまで話してロイドは一息ついた。長く喋っていると喉が乾く。カップの中身を一息に飲み干した。

 

「黒狼鳥を倒した後すぐ俺は意識を失った。普通ならとっくに動かなくなっているような傷を幾つも受けていたのだから当たり前だな。気を失った俺は後輩達にキャンプに運ばれ、駆けつけた医務班に治療された。聞いた話では、常人ならとっくに死んでるような傷だったらしいが」

 

 ロイドは自嘲して肩を竦める。

 

「全く、無茶ばかりするんだから」

 

「アーシア、何か言ったか?」

 

 アーシアはPSPを片手にガッツポーズを取っていた。

 

「やった。黒狼鳥討伐」

 

「アーシアさん、イベントクエストの黒狼鳥を狩らないかニャ?G級素材が手に入るニャ」

 

「うん、それやろう」

 

 アーシアとビリーは、やはりPSPに夢中だ。

 ルトガーが口を開く。

 

「俺が仕事を終えて帰るとロイドは包帯人間になっていた。あの時もアーシアに薬を盛られていたな。俺は安心したよ、マドカが怪我をしてなかったからな。マリーも軽傷だったからマドカも喜んでいた」

 

「あの時が初対面だったみたいだが、同い年で同じイニシャルと言う事で意気投合したみたいだな」

 

 和気あいあいと話していた少女二人を思い出す。微笑ましくもその手元では爆弾が調合されていたのが印象的だった。

 

「マドカが言うには、戦う黒狼鳥とロイドの姿は喰らい合う獣のようだった。だがこれはいつものことだ。ロイドは気は優しいが、戦闘になると闘争心を剥き出しにする。ブルーティッシュの名の通り、獣のような荒々しさがある」

 

 ヘンリーには、意外だったらしい。

 

「しかし、闘争心剥き出しのロイドさんはなかなか想像し難いですね」

 

「普段、俺は紳士ですからね」

 

 ロイドは自信満々で答えた。

 

「一目見れば分かりますよ。戦闘中のコイツはケダモノですから」

 

「男は狼。ロイドはケダモノで獣な狼」

 

 ルトガーとアーシアがロイドの言葉を否定した。

 

「黒狼鳥を討伐したハンターは少ないのでロイドの事はハンターの間で噂になり、いつしか黒狼鳥を屠った獣、“狼牙”と呼ばれるようになった。俺はあの噂を操作しなかった事を未だに悔いている」

 

 ルトガーの嘆きにアーシアもうなだれる。

 

「あと少しで狼牙じゃなくて“ケダモノ”になってたのに……」

 

「ケダモノのロイド。斬新でスタイリッシュじゃないですか」

 

 何故か二人の意見に賛同するヘンリー。

 この場にロイドの味方はいないのか?

 

「だが、狼の名はお前に相応しいよ」

 

「狼は非常に仲間意識の強い生き物ですからね。警戒心も強いですが、一度仲間と認めたものとは深い信頼関係を築き、親愛を見せてくれます。そういった面もロイドさんらしいじゃないですか」

 

「ありがとう、ルトガー、ヘンリーさん」

 

 面と向かって言われると照れくさいが。

 

「黒狼鳥は希少な飛竜な上に、人前に姿を現す事はまれだ。気性が荒いので保護の対象にはならないし、かと言って撃退も困難だ。それ故にその素材は貴重なんだ」

 

 ロイドが倒した黒狼鳥はギルドに回収されたが、素材の幾つかは報酬としてロイドの元に届けられた。

 

「俺が使っていたリオソウルの鎧は損傷が激しかったので、黒狼鳥の素材と組み合わせて修復しようと思った。特に左の篭手はへしゃげていたし。だが後輩達は俺が怪我でベッドの上から動けないのを好機と見て、貴重な素材で新しい武器を作ってたんだ。残った素材で鎧は修復出来たが、ひどい話だ」

 

 マドカは新しく黒狼鳥の面を作っていた。

 

「雇ったアイルー達は見舞いの品を食いあさるし……、オカマが優しく看護してくれるし……、散々だったな」

 

 今でもたまに夢でうなされる。美しいオカマが嫌がるロイドの口にスプーンを運び、それを尻目に見舞いの品を食いあさる猫達、仲良く遊ぶマドカとマリー。

 

「食事の用意なら私もした」

 

「闇に蠢く汁を、ご馳走様でした」

 

「違う。天使スープ」

 

 アーシアとマドカが作った怪しい液体。魔女達のサバトの鍋の中身を上回るカオス。そのカオスをオカマに食べさせられる。黒狼鳥もビックリだ。

 

「やったニャ、G級黒狼鳥討伐だニャ」

 

「これで私達も狼牙だね」

 

 はしゃぐビリーとアーシア。

 

「狼牙が三人。あと二人で狼牙戦隊の完成だね」

 

「じゃあ俺がレッドだ。じゃなくて却下だ、そんなもの」

 

「つれないね、狼牙レッド」

 

「冷たいですニャ、狼牙レッド」

 

「レッドって呼ぶな」

 

 狼牙レッドは腹いせに、唐辛子クッキーの封を開け、中身を頬張った。

 

「ぐぁぁ、おのれぇ狼牙レッドめ。覚えて……いろ」

 

 捨て台詞を吐いてルトガーが倒れた。

 カップに珈琲を注いで飲み、クッキーを胃に流し込む。

 

「そういえば、黒狼鳥も黒いからきっとブラックコーヒーを愛飲していたに違いない。もしかしたら、俺は奴と分かり合えたのかもしれない」

 

 ロイドは偏見を述べた。

 

 

 

 

 

 

 ロイドは狼牙の名は気に入っている。戦闘になると血がたぎり、闘争心を剥き出しにする。その闘争心は、血の疼きはロイドの中にある獣の牙そのもの。

 そしてその牙は親愛なる者達を守るためにある。




アーシア:新番組オオカミ戦隊狼牙レンジャー!
暗黒戦団ブラックトゥルーの魔の手が地球に迫る。幾つもの星を死の世界に変えた邪悪な組織に五人の若者が立ち向かう。
オオカミの力と五つのメカが合わさる時、狼牙レッドはメカロイドとして覚醒する。
ゆけ狼牙レンジャー、悪の野望を打ち砕け!
次回『復活! 暗黒のアーシア』お楽しみに。
ちなみに、ブラック・トゥルーだからね。ブラッ・クトゥルーなんて区切りかたしたら大変な事になっちゃうよ。
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