銀色の月   作:月光カナブン

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第2話 弱さを内に秘めて

 虚ろな意識に映るのは、懐かしい風景。

 

 少し田舎の寒村にある、ちょっした館。それがアーシアの生まれた家だ。

 そこには母がいて、父がいて、そして姉がいる。

 会いたいと思う。帰りたいと思う。

 だがアーシアの心にある、後ろめたい気持ちと罪悪感が、それを拒絶する。

 

 有り得ない事だが、姉に恨まれている気がする。

 そう、有り得ない事だ。優しい姉がアーシアを憎む等、あってはならない事だ。

 それを今から確かめればいい。

 

 アーシアは館の前に立ち、ドアノブに手をかけた。

 少しずつ扉が開き、少しずつ意識が覚醒していく。

 

 ドアを開け放つ寸前で、アーシアは夢から覚めた。

 

 

 

 

 

 

 目が覚めるとベッドと体が汗で濡れていた。枕元ではまだティアが寝息をたてている。

 陽はすでに登っていた。

 

「夢の中でしか帰れないなんて……。夢の中でも会う勇気がないなんて……」

 

 そっと右目に触れる。そこも濡れていた。汗ではない。

 

「クラウディア……姉様。私は……、アーシアは、弱い娘です」

 

 有り得ない事に、起こり得ない事に不安を抱くなんて。

 そんな自分が情けない。悲しい。

 一筋の涙がこぼれ落ちた。

 

 

 

「駄目だね。湿っぽいのは、らしくない……」

 

 幸い部屋にはアーシアとティアしかいなかった。

 洗顔をすませ、髪に櫛を通す。寝汗を吸った寝間着を脱ぎ捨て、黒いスカートとブラウスを羽織った。

 鏡で自分の姿をチェック。女の子らしくはあるが、少しストイックな印象。自分にはそれくらいがちょうど良い。

 

「……ん、良い感じかも」

 

 ブーツを履き、眼帯を付ける。

 赤い右目、オッドアイは目立つ。隠す必要は無いのかもしれないが、眼帯を付けていると何となく安心する事もある。

 右目の特異性か、眼帯越しでも目が見えるので困る事は特にない。

 抱き枕一号のおやすみベアを陰干しして、二号のティアを頭に乗せて部屋を出た。

 宿には食堂がないので、食事は外食になる。

 大衆食堂のテラスにはルトガーとテリサ、ノアが陣取っている。アーシアも余った席に腰を下ろした。ウェイトレスに軽めの朝食を注文する。

 

「マスターベーグル三個と挟む具を適当に。あとミルクティー」

 

 ルトガー達は朝食を食べ終わった後のようだ。

 

「アーシア、どうかしたか?」

 

 さりげなく自分の目を指さしルトガーが言った。ガンナーのルトガーは目が良い。

 アーシアの左目は少しだけ充血している。寝ている間に、右目同様に涙を流していた。

 

 アーシアにはルトガーが眩しい。正確にはルトガーとその娘のマドカが。

 血は繋がっていないが二人は本当の親子のようだった。その絆は実の親子より固い。

 そんな二人を、アーシアは羨望の眼差しで見ていた。

 

 アーシアは家を飛び出し、ハンターとなった。ほとんど家出同然だった。原因は自分にある。アーシアの心の弱さがそうさせたのだ。

 

「何でもない」

 

 何でもないのだ。そう繕ったつもりだが、それをルトガーは見抜いている。

 だがルトガーはそれについて何も言わない。そんな優しさが今はうれしい。

 

「アーシア。少し、元気無いね。チューしてあげるから元気出して」

 

 滲みよるノアに、懐から取り出した耳掻きを投げつける。

 すこーん。

 本来入ってはいけない深さまで耳掻きが埋没し、ノアが倒れた。

 

「っていうか何故、耳掻き?」

 

 常識人のテリサも、アーシア達の変人っぷりに耐性が出来たらしいがツッコミは忘れない。ツッコミは貴重な人材だ。

 ノアはアホで変態だが、おかげで少しずついつもの自分に戻っていける。

 皆がいるから自分がある。ロイドやルトガーに出会ってなければ自分は駄目になっていたのかも知れない。

 注文した品が運ばれて来る。

 

「ふがふっふ。はぐはぐぐけけ」

 

「何を言ってるかわからないわよ」

 

 テリサがノアの耳から耳掻きを引き抜きつつ言う。常に身だしなみに気を付けているノアの耳に耳垢はなく、耳掻きはきれいなままだった。

「そういえば、ロイドは?」

 

「朝起きたらいなかったな。ソフィもいないが、そのうち帰ってくるだろ」

 

 気になる。

 ロイドはアーシアより年上だが、何となく放っておけない生命体だ。いつも無茶ばかりする。アーシアも人のことは言えないが。

 

「ロイドとソフィちゃんがいないのが気になるんじゃない? 一緒にいるかもね」

 

「え?」

 

 テリサが悪戯っぽく微笑んでいる。

 思ってもみない事だが、言われて見れば気にならないこともない。

 

「お姉さん、わかるな。アーシア、あなたは恋をしている」

 

「濃い?」

 

 確かに、ミルクティーは濃いめだ。

 

「あなたはソフィちゃんに恋をしてるのよ」

 

 ああ、なるほど。そうかも知れない。

 夢見る乙女じゃいられねぇ。

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