銀色の月   作:月光カナブン

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第6話 鍋戦士VS鍋魔神! ぶっちぎりバトル鍋ファイターズ

 イノシシ鍋の準備が整ったらしいので、ロイド達は宿へと移動する。食堂の伝票は凄いことになっていた。しかし、ハンターであるロイド達は金銭感覚が一般人とは異なるので、気にしない。

 宿の広間を貸し切り、馬鹿でかい鍋とイノシシの肉が用意された。

 味付けはソフィとアーシア。

 血の様に赤い鍋。粘着質なその汁は、さながら溶岩。

 

「おいしそうだね、ジュルリ」

 

「ええ、とっても」

 

 はしゃぐアーシアとソフィ。

 ルトガーは部屋に足を踏み入れた途端、倒れた。それを好機とみアーシアが、ルトガーの口に鍋の中身を押し込む。

 途端、ルトガーが跳ね起る。超人的脚力で部屋を駆け回った。

 

「コラッ。大人が天井を走るな」

 

 ロイドの注意もむなしく、ルトガーは床と壁と天井とを二十周し、再び倒れた。

 

「おぉ、さすがはトリックスター。格好いいリアクションだね」

 

 アーシアが指を鳴らす。

 

「ティア、あんな大人になるなよ」

 

 ロイドは腕に抱いたティアにしつける。

 

(だが親がティアマトだからな……)

 

 少しティアの将来が心配になった。

 七色の輝きが視界に入った。部屋のドアに目をやると一人の男が倒れている。不意にドアが開き、テリサが入ってくる。その足が男の体を踏みつけた。

 

「ああっ、シーマ!」

 

 慌ててテリサが足をのける。

 

「ふふ……、今夜の、鍋……は、シーマ鍋に、してや……る。ぐはっ! ぐぅ、赤いあ熊め……」

 

 最後の力を振り絞り、ルトガーは言った。

 

「ルトガー、諦めろ。俺達はカニバリズムはしないから」

 

 ロイドは悲しい復讐者に告げた。

 

「でも、唐辛子風呂は怪我によく効きますよ」

 

「漬けろ。今すぐに奴を鍋に漬けるんだ」

 

 ソフィの発言にルトガーが復活。

 だがルトガーの思惑は、シーマが呻いた事により、悲しく瓦解した。

 

「ソフィ嬢ちゃん。悪いオジサンの言うことは、聞いちゃいけねぇ」

 

 初めて聞くシーマの声。

 

「シーマ、大丈夫?」 

 

 テリサとソフィがシーマを助け起こす。

 傷が痛むのかシーマの顔は険しい。ルトガーの落書きのせいで険しさは異様な迫力を持っていた。

 

「肋骨にヒビか……。喋るのもおっくうだな」

 

 胸をさすりシーマはイスに腰を下ろし、改めて部屋にいる面々を確認した。

 

「狼牙とエンジェル・フォールか。こうやって話すのは初めてだな」

 

 シーマの視線にロイドとアーシアは、ひたすら笑いを耐える。その様子を見てルトガーが大爆笑した。テリサがシーマに鏡を差しだす。

 

「おのれ、トリックスター」

 

「フッ、次は全てのあばらをへし折ってやろうか」

 

 両者は視線の火花を散らし合う。

 

「止めなさい。大の大人がみっともない」

 

 二人をいさめたのはオカマだ。少年の肩を支えながら部屋に入ってくる。

 

「飛燕も目が覚めたわよ」

 

「飛燕、大丈夫?」

 

 アーシアが飛燕の体を支える。飛燕の右腕は折れているので左からだ。

 

「アーシア、ありがとうございます」

 

 飛燕の顔が少し赤い。だがそれも反射する蛍光塗料でよく見えない。

 

「とりあえず、顔を拭かないとね」

 

 飛燕をイスに座らせ、アーシアがハンカチを取り出し、うなだれた。

 

「しまった、水性の塗料だった。乾く前に水で洗わないと大変な事になる」

 

 水性の塗料より油性の方が汚れは落ちにくい。しかし、塗料が乾いたら油性は体が分泌する脂にはじかれじきにとれるが、水性はそうはいかない。乾いたら最強、それが水性塗料である。

 侮ってはいけないのだ。

 

「汚れを落とすには唐辛子が一番ですよ」

 

「ではまずシーマで試してみよう」

 

 精神力だけで赤いあ熊に耐えているルトガーが、鍋に近づき撃沈した。

 

「唐辛子にここまで耐えたんだ。ルトガー頑張ったな」

 

 ロイドはルトガーを部屋の隅で休ませた。

 

「やっぱりルトガーさんが倒れたニャ」

 

 最後に部屋に入ってきたのはビリーだった。

 

「これでみんな揃ったか。ビリー、マタタビも用意したぞ」

 

「ロイドさん、ありがとうですニャ」

 

 ルトガーを除いた全員が席に付く。

 

「飛燕、起きたばかりだけど大丈夫? 何か胃に優しいものを用意しようか?」

 

「ありがとう、アーシア。でも大丈夫です。おなかは空いてますし、この鍋からは良いにおいがする」

 

 ならば大丈夫だろう。

 

「それでは、いただきます」

 

 その言葉は鍋争いの始まり。唸りを上げる箸が、ファンゴの肉を掴み、刺す。

 不意にロイドの箸が肉の上で、別の箸と激突、制止した。押し合う箸が悲鳴を上げる。

 

「シーマか、その肉は俺が目を付けていたんだ」

 

「狼牙か。その言葉そっくり返そう」

 

 肋骨に負傷しているとは思えない力。たしか手首も痛めていたはずだ。流石はギルドの 切り札といったところだ。油断したら一瞬でやられる。

 

「では僕が……」

 

 横からビリーが箸を伸ばす。それにロイドとシーマが反応。拮抗し合う力をそのままに、箸を横に移動。ビリーの箸を喰い止める。

 

「何ぃっ!?」

 

 驚愕の声を上げるビリー。戦いは三つ巴に。

 

「もらった」

 

 そこに迫るのはアーシアの箸。

 無駄だ。いがみ合うが目的を同じとするロイド達は、今や三位一体。絡み合う箸は鉄壁となり肉を守護する。

 だが、誤算だった。アーシアの箸はロイド達の箸を粉砕し、肉をえぐった。

 

「残念だったね、ロイド。私の箸はドラグライト鉱石で出来ている。木製の箸では私に勝てないよ」

 

 そりゃ無いよ。ロイドはうなだれた。

 

 

 

 鍋の闘争は長きに渡る。残った汁で麺を煮たり、米を入れて雑炊にする事も出来るからだ。

 そして食事をともにする事で、人はより親密になれる。飛燕とシーマと最初に食を共にすることで、緊張が緩んだ。

 飛燕は右腕が折れているので箸が上手く使えない。飛燕の腕を折ったのはアーシアで、その事を気にしているのか、飛燕の分の鍋も確保していた。

 そして丁寧にその口に運んであげたりもしていた。その度に飛燕の顔は赤くなった。唐辛子の辛さが原因でないのは明白だ。なかなかうらやましい光景ではあったが、ロイドは彼の悲劇を予測していた。

 食べさせるのがアーシアなら、その量も彼女が基準になる。飛燕は限界を超える量の鍋を食わされていた。流石に腹が苦しそうだ。

 

「アーシア、僕はもう結構です」

 

「遠慮しなくていいよ」

 

 アーシアが椀に盛った雑炊を飛燕に差し出す。

 

「僕はもうダメです」

 

「そんな、諦めちゃダメだ。飛燕」

 

 飛燕の言葉には語弊があるが、アーシアは気にしなかった。

 

「シーマ、それは俺のうどんだ」

 

「狼牙か、お前が掴んでいるラーメンは俺の物だ」

 

 常識人のテリサとビリーはとっくに食事を終えている。常識人とは違うソフィも食事を終えていた。

 テリサは生肉をついばむティアを見つめて幸せそうだ。

 ビリーはデザートのケーキを取り出す。辛い唐辛子の匂いが充満した部屋の中で、柔らかいクリームとバニラの香りが引き立つ。

 その匂いでルトガーが復活した。

 

「ルトガーさん、辛いのダメだからケーキを買ってきておいたニャ」

 

 差し出すされたケーキにルトガーが感激した。

 

「ビリー、恩に着る」

 

 ロイドはビリーのケーキに見覚えがあった。馬鹿でかい塔のような形、ウェディングケーキだ。きっとどこかのコスプレ料理人が作ったに違いない。

 ルトガーがケーキを頬張り、辛さへの耐性を高める。

 

「さて、食いながらでいいから聞いてくれ」

 

 ケーキの皿を手にルトガーが言う。

 

「先日、シーマ達が俺達を襲ったのはティアが狙いだった。それは何故か……、受け入れがたい話だが話しておく必要がある」

 

「ルトガー、それについての背景なら俺も説明出来る」

 

 ロイドは首にかけたウロコを示す。

 

「このウロコにはティアの父、ティアマトの魂の片鱗が宿っている。俺に語りかけてくる、彼の魂が教えてくれたよ。銀色の月は災厄の封印を強化する事が出来る、と」

 

 ロイドは順を追って話した。

 銀色の月が封を司り、災厄の封印を強化する事。そのために必要な犠牲、封竜剣の鍵である事。

 対になる黒い太陽が、滅を司り、銀色の月の助力により滅竜剣の封印を解く事。

 

「ルトガーが知っている事を話せなかった気持ちがわかるよ。俺も災厄の封印なんて聞いた時には驚いた」

 

「だけど、災厄だなんて、信じがたい話だね。私達がティアを守ると、災厄の封印を強化出来ないか。ある意味でギルドに対する裏切りになるね」

 

 ふとアーシアが思い出したように言う。

 

「ギルドと言えば、ノアからの伝言はガル爺からだったよね。ガル爺はどうして銀色の月を守ろうとしてるのかな。確かに災厄はいつかは倒さないといけないのかも知れない。けど、ガル爺はどうして今を選んだんだろ?」

 

 そういえばティアマトは災厄の封印が弱まっていると言っていた。

 

「ティアマトが言うには、封印はそろそろ限界らしく、強化しても効果が薄い。つまりどうあがいても災厄は近いうちに復活するということだ。だからガル爺は今を選んだ。わからないのは何故、ガル爺がそれを知っているか。そしてガル爺を始めとするギルドの幹部達は銀色の月が生まれた事、そして生まれた場所まで特定しているという事だ」

 

 ロイドはアーシアの疑問に答えつつ、自らも疑問を口にした。答えるのは、やはりルトガー。

 

「二年前、ラオシャンロンによる被害が各地で増えたのを覚えているか?」

 

「ああ。俺とアンタ、アーシア。皆駆り出されたな」

 

「ロイドは何回か踏まれそうになってたね」

 

 ロイドとアーシアとルトガーがチームを組むことは良くある。三人が三人ともこのチームの連携、バランスが最も良く取れていると思っている。

 そしてこのチームがギルドや他のハンター達の間で有名になったのもラオシャンロン戦があったからだ。

 黙っていたシーマが口を開く。

 

「俺はその場に居合わせなかったが、君らが老山竜と戦う姿は街を守る番犬の様だった。ルトガーは赤い制服、狼牙は赤い外套、アーシアは赤いロングスカート。三人がそれぞれ赤を纏っていたため、“紅のケルベロス”と呼ばれていたぞ」

 

 言い終わりシーマは胸を押さえる。黙っていたのはやはり胸が痛むからだろう。だがシーマにはあとで話してもらうことがある。

 

「しかし赤いケルベロス、番犬か。ロイドはともかく、俺やアーシアまでケダモノ扱いか」

 

「いいじゃん、かっこいいし」

 

 アーシアは気にしていない、というか気に入っていた。

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