銀色の月   作:月光カナブン

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第12話 故郷と父

「ロイド、これから暇か? 俺はアシュレイに会いに、ヴィネへ行く予定だ」

 

 ヴィネとはロイドの故郷の名前だ。

 ルトガーの言葉は少し唐突だった。だが父のアシュレイは封竜剣を見つけたという。近い内に会いに行くつもりではあった。

 

「と言うことは、親父は今家にいるんだな?」

 

 その質問にルトガーは頷いて返した。

 

 ロイドは一人暮らし。実家はカナンから歩くには遠いが、馬を使えば半日とかからない。

 ちらりとソフィを見る。彼女やビリーが操る馬車ならほんの数時間で実家に着いてしまうだろう。

 一日はまだ始まったばかり、悪い話ではない。

 

「俺は構わないが、皆はどうかな」

 

 飛燕は例のごとくアーシアとソフィに薬を盛られていた。飛燕はマドカに助けを求めているようだが、マドカはティアと戯れる事に夢中だった。

 かなり怪しい香りを放つ薬。だが効き目は抜群で、飛燕の腕は日に日に良くなっていた。

 

「もとからお前は誘うつもりだったからな。ビリーに馬車を用意させてある」

 

「用意周到だな」

 

「あいつもお前に会いたがっている」

 

「親父が……」

 

 ロイドは父と随分と会っていない。互いに避けていたわけではない。アシュレイは旅に出ていた。父が故郷に帰って来る時、ロイドはことごとく行き違いになっていたのだ。

 

 街に出たのはマドカの服を買うこと、外套の修復が目的だ。もう用事はすんだ。この後の予定は決まっていない。

 

「みんな、これから俺の実家に行かないか?」

 

 真っ先にアーシアが答えた。

 

「行く。シャーリスさんのクッキー食べたい」

 

 シャーリスとはロイドの母だ。母はよく客に手作りの菓子を振る舞う。

 アーシアを出会った頃の事だ。彼女を初めて実家に連れていった時、彼女は振る舞われたクッキーに感動した。

 家出したばかりのアーシアはシャーリスに母の面影を見たのだろう。それもあってアーシアはシャーリスによく懐いていた。

 ちなみに、アシュレイには散々からかわれた。この娘は彼女だろ?と。

 

「私もクッキー食べたいですね」

 

甘党のマドカもアーシアと同意見らしい。

 

「お邪魔でなければ私も」

 

「僕もお供しましょう」

 

 皆依存は無いらしい。きっとクッキーが目当てなのだ。

 だがそれだけが目的ではないはずだ。

 

 アーシアはロイドの家で過ごしていた時期がある。

 アーシアにとってシャーリスはカナンでの母、アシュレイは父と言っていい。

 

 

「決まりだ。善は急げと言うしな。ところで……」

 

 ルトガーが口ごもる。

 

「どうした?」

 

「いや、アーシア達は何故コスプレしてるんだ」

 

 ロイドの目に映るのは、ゴスロリ、カウガール、深窓の令嬢(見た目のみ)。

 

「……アーシアの趣味と、巻き込まれた者の末路だ」

 

 

 

 街の門にはビリーと馬車が控えていた。

 ロイド達が乗り込むと馬車が走り出した。馬車を引くのはクローブでソフィが選んだ馬だ。

 

「そこそこの人数が乗っても軽快に走る、いい馬ですね」

 

 飛燕が感心して言う。アーシアも同意見らしい。

 

「そうだね。なかなかウマパワーのある馬達だね」

 

 ウマパワー。どう考えても馬力だ。

 御者はビリー。その隣でソフィが地図を見てナビゲートしている。馬も速いが、あの二人が更に速さを引き上げている。

 

「ティア、おいで」

 

 アーシアがティアに手招きする。アーシアの腕へと向かうティア。その後ろを、何故かマドカがついていく。

 

「何やってるんだ?」

 

「可愛いので愛玩しているのです」

 ロイドが問いかけにマドカが答える。

 アーシアの腕に収まったティアをマドカが見つめる。視線を感じたティアもマドカを見つめる。

 

「やや。ティア、マドカにもなついちゃったんだね。罪な女だよ、君は」

 

 アーシアもマドカも可愛い物は大好きなのである。微笑ましい光景を眺め飛燕が言う。

 

「でもティアは可愛いですね。ファフニールとは大違いですよ」

 

 可愛い黒いリオレウス(プレイボーイ疑惑)、想像しづらい。ファフニールと言えば、少し気になる事がある。

 

「ファフニールとは、いつも一緒にいるわけではないようだが、連絡はどうやってるんだ?」

 

「心に呼びかけるんですよ。僕たちは心で会話できます。心話は距離に左右されますが、多少の距離ならば問題ありません。」

 

 つまり、ロイドとティアマトで交わされるような会話をしているのだろう。

 

「彼は人に騒がれるのを好ましく思ってないので、普段は姿を隠しています。今街道から少し外れた森に待機しているようです」

 

 待機じゃなくてナンパしているのではないだろうか?

 

「可愛いと言えば、飛燕も可愛い」

 

 そう言ったのはソフィだ。

 

「ぼ、僕がですか?」

 

 顔を赤らめてうろたえる飛燕。

 

「うん、可愛いね」

 

 アーシアが頷くと、その真似をしてティアも頷いた。

 

「今、ティアと代わりたいと思っただろ」

 

 ロイドも少し意地悪してみる。アーシアも便乗する。

 

「それなら言ってくれたらいいのに」

 

 少し可哀相だったかな。飛燕は慌てている。

 

「マドカはやらんぞ」

 

 ルトガーが言った。

 

「父さん、私は大丈夫ですから」

 

 暴走しかねないルトガーをマドカがなだめていた。

 

 

 

 数刻たって馬車が止まる。実家に到着したのだ。

 皆が馬車から降りる中、飛燕はふらついていた。ウブな彼はリアクションがわかりやすいので馬車の中で散々からかわれてしまうのだった。

 

 我が家だ。2ヶ月に一度は帰るようにしているが、ずいぶん久しぶりに感じる。最近は少し忙しかったか?

 カナンから各地の都市へといたる街道に沿って存在する小さな宿場町、ヴィネにある珍しくもない家。改めて見ると造りは立派で少しだけ大き目。テラスと庭が自慢だ。

 

 父はよく旅に出るし、ロイドも一人暮らしなので家には母が一人きりというのも珍しくはない。

 今は、コックのアイルー、テムジンもいる。ロイドが数年前に雇ったアイルーだが、母と気があうので実家で働いてもらっている。定期的に実家に帰るのはテムジンに給料を払うためでもあった。

 ロイドとルトガーが並んで玄関に立ち、扉をノックする。

 出迎えたの四十歳前後の銀髪の女性だ。

 

「あら、おかえりロイド」

 

「ただいま、母さん」

 

 母のシャーリス。銀髪だが、肌は白い。ロイドは銀髪を母から、褐色の肌を父から受け継いだ。

 シャーリスの見た目は若く三十代後半にも見えるが、実際は違う。ロイドは母の実年齢を他人には教えない。命がおしいからだ。

 

「ルトガーも。今日はお客が多い日ね」

 

「大勢で押し掛けてすまない、シャーリス。アシュレイはいるかな?」

 

「ええ。どうぞ上がって。クッキーを用意するわ」

 

 シャーリスの口から出たクッキーという単語にアーシアとマドカがはしゃぐ。

 ロイド達は廊下を歩き、居間へと向かう。

 居間の扉に手をかけロイドは思う。

 父が家にいる。会うのは約一年ぶり。父は二年前から頻繁に各地に出かけるようにな り、ロイドとはすれ違いになっていたのだった。

 ロイドが居間の扉を開ける。出迎えたのは、威勢のいい男の声。

 

「たまには顔を見せろ、このドラ息子っ」

 

 二年ぶりの再会の開口一番がこれか。

 褐色の肌に、黒髪。口髭を生やした精悍な顔つき。

 

「あんたこそ、ドコほっつき歩いてたんだ。この不良中年っ!」

 

 負けじとロイドも言い返した。

 

「久しぶりの父との再会になんて事言いやがる。やれやれ反抗期か。シャーリス、大変だ。俺とお前が愛情込めて育てた息子がぐれたぞ」

 

 駄目だ。何を言ってもきかない。

 ルトガーとマドカ、アーシアは勝手知ったる他人の家と言わんばかりにくつろいでいた。

 アシュレイがソフィと飛燕を見る。

 

「どうも、ソフィと言います。ロイドさんには私の村がお世話になりまして」

 

「僕は飛燕と言います。ソフィと同じく、ロイドさんにお世話になりました」

 

 礼儀正しく自己紹介する二人。

 

「うむ。ロイドはアホだが宜しく頼む」

 

 アシュレイがロイドに耳打ちした。

 

「で、ロイドよ。お前はアーシアやマドカがいながら、更にあの二人に手を出したわけだ」

 

 ……。ぶっ飛ばそう。

 

「だがな、そんなんじゃ気持ちは伝わらないぞ。本命は一人にするべきだ。二兎追う……」

 

「この色ボケ」

 

 至近距離から拳骨を浴びせた。

 

「父が息子を案じてやってるのに何て態度だ」

 

「あんたがアホな事言うからだ」

 

 

 

 

 

 

 拳で語り合いそうな雰囲気の親子をアーシアは微笑ましく思った。

 

「アシュレイ、嬉しそうだね」

 

「そうだな」

 

 シャーリスのクッキーを齧りながらルトガーが応えた。

 

「久々にロイドと会えたんだしね。いっつもすれ違っててさ。お互いもう大人だから親離れ、子離れししていても寂しかったはずだよ」

 

「そうだろうな」

 

 アーシアはアシュレイとは定期的に会うことが出来た。だが、彼が一番会いたかったのはロイドであって自分ではない。

 

「あいつがロイドに会いたがっていたのは間違いないだろうが、寂しくはなかっただろうさ」

 

「え?」

 

「お前がいたからな。それにマドカも、ついでにノアの奴もな」

 

 ルトガーとアシュレイは家族ぐるみで付き合いをしていた。ロイドとマドカが兄妹のように仲がいいように、アシュレイにとってもマドカは大切な存在だ。

 またノアは村を救ったアシュレイを慕い、尊敬している。

 

「そっか。だったらいいな」

 

 恩のある人の支えに成れていたなら、嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 いつまでもこうやって騒いではいられない。二年前からアシュレイがp各地を巡っていたのは、封竜剣を探していたためだろう。

 何故、父は封竜剣を求めたのか。ルトガーが銀色の月に関して詳しいのか。

 ルトガーとアシュレイはロイドの思いに気づいたようだ。だがその話をする前に、ルトガーに聞かなければならない事がある。

 ルトガーに耳打ちした。

 

「マドカに話して言い事だろうか? あの娘を巻き込んでしまうかも知れない」

 

 普段の、娘を溺愛しているルトガーなら話すわけがないともロイドは思った。

 

「構わん。銀色の月は、マドカの父、紫堂時人(しどうときと)の死に関係している」

 

「シドウトキトさんが?」

 

 何度か耳にしたその名前。

 耳にするたびにロイドは言いようの無い感覚に襲われる。

 頭の中がざわつく感じ。

 

 しかし、銀色の月が時人の死と関係しているとはどういう事だ。

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