銀色の月   作:月光カナブン

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第13話 父達の過去

「ロイドさん、どもです。クッキー焼けたで」

 

 アイルー、テムジンがクッキーを持って現れた。テムジンはロイドが雇った他のアイルーと同じくアイルー弁は使わず、カンサイ弁と呼ばれる喋り方をする。そして三毛猫。名前がホー○ズじゃなくて良かった。

 テムジンがクッキーを机にのせると、アーシアとマドカが早速手を伸ばす。

 

「ふがふが」

 

「まだまだあるから、たくさん食べてね」

 

 シャーリスもクッキーを盛った皿を持ってきた。

 居間は広いが、大人数でいる少し狭い。シャーリスとテムジンはキッチンへ帰っていった。ビリーも部屋が狭くなるといけないと馬車で留守番している。もっともアイルーの彼は場所をとらないのであまり意味のある行動ではない。気持ちだけもらっておこう。

 アシュレイがアーシアを見る。正確にはその腕に抱かれているティアをだ。

 

「ルトガー。あれが銀色の月か?」

 

「そうだ。ティアと名付けた。ロイドがその守護者だ」

 

「そうか。俺達の努力も実り始めたわけだ」

 

 声を潜めているわけではないので、ルトガーとアシュレイの会話が聞こえてくる。

 

「父さん達、何を知っているのでしょうか」

 

 銀色の月について知らないマドカが呟く。ルトガーがアシュレイとの会話を打ち切り、マドカにこれまでのいきさつを話した。

 

「やはり、ティアはただの竜では無かったのですね。でも災厄だなんて……」

 

 聞き終わった後、マドカがつぶやく。

 

「災厄、最悪だな」

 

 アシュレイが親父ギャグを放つ。

 

「場が白けるから、今まで誰も言わなかったギャグを言うとは……」

 

 ロイドはアシュレイに呆れの言葉を浴びせた。二人の親子漫才は無視された。

 ルトガーがマドカに聞く。

 

「俺達はこれから封竜剣をとりに行く。ついてくるか?」

 

「もちろんです。普通の仕事ならともかく、災厄と聞いては私も黙ってみていられません」

 

 そう言うと思った。

 

「でも、父さんはどうして私に話してくれたのですか? 話せば私がついてくる事くらいわかっていたでしょう」

 

 ロイドはルトガーの目に悲哀の情を見た。それがマドカに向けられたものなのか、マドカの実父に向けられたものなのか。それともロイドの気のせいだったのか。

 

「災厄の封印を強める銀色の月。ギルドはずっと以前からこの関係を知っていた。銀色の月は一定の周期でこの世に生まれる。ギルドは銀色の月を手に入れ封印を強化してきた」

 

 銀色の月を手に入れるのは簡単な事ではない。災厄の気配を敏感にさっちする老山竜の動きを観察し、各地の竜脈を見張る。見つけたとして、ティアマトのような強力な守護者を倒さなくてはならない。

 

「15年前。俺達はある依頼がきっかけで銀色の月の守護者と戦った」

 

 マドカは初めて聞かされる話を固唾を呑んで聴く。アシュレイがその時の事をかいつまんで話す。

 

「俺とルトガー、時人はある荷物の運搬を護衛していた。中身は知らされていなかったが。

 そこを飛竜達が襲いかかった。彼らは荷物を取り返しそうとしていた。その荷物こそが銀色の月だった」

 

「目的地は霊峰グラネク。そこを目前としたところでの戦いだ。壮絶な、戦いだった」

 

 ルトガーが遠い目をして語る。

 

「その死闘の果てに俺達は辛うじて生を得、そして時人は……」

 

「時人は死んだ。まだ幼い我が子を、俺達に託して」

 

「俺とアシュレイにとって時人は親友だった。その友を奪った竜は友ともに死んだ。友はまだ赤子の娘を天涯孤独にしてしまった。母は出産時に亡くなった。俺はマドカを引き取りった。

 やるせなかった。怒りのやり場は無い。

 だから探し、調べた。銀色の月とは何なのかを。そして、知った。災厄の封印と銀色の月の結び付きを。

 俺達は災厄の打倒を決意した。銀色の月で封竜剣と滅竜剣を手に入れ、災厄を倒すと。封竜剣を手に入れ扱う事が出来るのは、銀色の月の守護者に認められた者のみ。その資格がある種族は、人間が竜人。剣は人の道具だからな。

 次に銀色の月が生まれるのは少なくとも10年以上先の話だった。一定の周期で生まれるとは言え、それには誤差が生じる。その誤差人間には大きい」

 

「時間がたてば俺達は年をとる。俺達は10年後から先に生まれる銀色の月の守護者を育てようと思った。それがロイド、お前だ」

 

 少しすまなさそうアシュレイは告白した。思い当たる節は多々ある。

 父はロイドが子供の頃から各地への旅に連れて行った。その成果か、幼少の頃から足腰は強かった。各地を見て回ったためか見聞は広い。父の影響で本も読むようになった。武術も仕込まれた。

 父の仕事を間近で見ていたためかロイドもハンターを志すようになっていた。飛竜を倒すことに憧れたわけではない。人の助けになることに憧れた。父はハンターの少ない地域や報酬を払えないような村を巡っていたのだ。

 ハンターになってからは父の友人、ルトガーが師であった。

 ロイドがスランプ状態にあった時期、マドカの留学に同行させたのもルトガーの計らいだ。

 もしかしたらアシュレイとルトガーがロイドにしていた事は、遠回しな英才教育だったのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

「幼少の頃より暗殺の技能を叩き込まれた少年。その心には獰猛な獣の本能が巣くっていた。やがて少年は成長し竜すら超える力手にし、凶悪な殺戮マシンとして恐怖をまき散らす。彼の名は、ロイド・ブルーティッシュ」

 

「人の人生を勝手にねつ造するじゃない」

 

「ふがふが」

 

 アーシアはクッキーに夢中だ。無視されたらしい。

 

 ルトガーが話を続けた。

 

「ロイドが守護者になったのは幸いだった。ロイドの実力なら守護者としては問題無いだろうが、都合良く選ばれるかどうか。ロイドと守護竜が会う前に別の誰かが守護者に選ばれる事もあり得たしな。その時はロイドに守護者のサポートさせればいいと考えてもいたが」

 

 アシュレイが話題を変えた。

 

「さて、封竜剣は砂漠の遺跡にある。二年前に老山竜が騒ぎだしてから各地を巡りようやく見つけたんだ。ただ、この封竜剣を目で確かめた訳ではない。遺跡の奥から地底へ続いているみたいなんだが、地底に降りる為の穴が扉で塞がれていてな。扉に古代文字が書かれていた。解読した文を要約すると、銀色の月と守護者がいたら開くゴマ」

 

 開くゴマ……。アシュレイを除いた一同が異口同音に呟いた。

 

「遺跡のある砂漠に一番近いのは、東の街ネルダだ。出発の準備はノアが進めている」

 

 ノアとアシュレイは親しい。ノアがアシュレイを手伝うのは不自然な事ではない。

 ルトガーが依頼状を取り出した。

 

「ロイド、アーシア。仕事だ。依頼主はガルシア。仕事内容は封竜剣、滅竜剣の入手。もちろん参加は自由意志に委ねる。が、二人とも当然参加だな」

 

 ロイドとアーシアは頷く。

 

「アシュレイには封竜剣まで案内してもらう。滅竜剣は飛燕が案内してくれ。物資調達はノア。馬車などの移動手段はビリーに任せる」

 

 ソフィが聞く。

 

「私も御者としてついていって良いですか?」

 

「構わないが、出過ぎた事はしないように。君は一般人だし、万一の事があった時ヘンリーに見せる顔がない」

 

 ルトガーはマドカを振り向く。

 

「マドカもだ。ついてくるのは構わないが絶対に無茶はするな」

 

「はい、心得ています」

 

 ルトガーがマドカに向けてよく言う言葉、無理はしろ無茶はするな。この言葉における無理とは、自分の実力より少し上のモノや事に取り組む事。出来なくても、取り組む過程で得られるモノはある。無茶とは、無謀を指すらしい。

 

「怪我なんかしたら父さんは泣いちゃうぞ。お前が死んだら俺も死ぬからな」

 

「やっぱりシャーリスさんのクッキーは絶品です」

 

 マドカはルトガーの言葉をスルーした。

 娘思いのルトガーに負けじとアシュレイもロイドに言う。

 

「ロイド、怪我をするなら俺かばって負傷しろ。死ぬ前に生命保険に加入するんだぞ」

 

 ロイドは父に保険をかける決意を固めた。

 気を取り直してアシュレイが言う。

 

「出発は五日後だ。依存はあるか」

 

 ロイド達は武具を調整中だ。ロイドの外套はあまり時間はかからないだろう。アーシアの剣も間に合うだろう。

 

「ルトガー、あんたのボウガンは間に合うか?」

 

「大丈夫だ。以前から考えていたので、設計図は出来ていた。ただ材料が無かったんだ。部品の切り出しさえ出来ていれば自分で組み立てる」

 

 ならば問題無さそうだ。

 

「飛燕、腕はどうだ?」

 

「毎日ドーピングの成果なのか、骨はひっつきました。まだ完治はしてないですが。ただ骨が完治しても多少筋肉が落ちてしまうのでしばらくは本来の実力は出せないかと」

 

 アシュレイが飛燕に聞いた。

 

「滅竜剣の在処を知ってるみたいだが、ドコにあるんだ?封竜剣は何とか見つけたが滅竜剣はさっぱりだった」

 

「北の地、カダスにあるそうです」

 

 カダスと言う単語にアーシアが反応した。

 

「カダスに……?」

 

 その眼に一瞬何らかの感情がよぎったのをロイドは見逃さなかった。

 気づいたのはロイドだけ。飛燕は話を続けていた。

 

「あの剣は僕の祖先が鍛えたらしく、僕の実家から見つかった書物で確認しました」

 

 カダス。北方にある雪山の多い地域だ。ノアの故郷とも比較的近い。

 アーシアはティアをマドカに預けると居間の扉に手をかけた。

 

「ちょっくらパチンコしてくらぁ」

 

 そう言い残してアーシアは居間から出て行った。

 

「っていうか、パチンコなんて無いよ」

 

 Y字型の石を飛ばす玩具で遊ぶ気なのだろうか?

 アーシアは北方の出身だった。故郷の名前は知らないが、カダスと聞いた時の反応を見る限り、彼女の故郷はカダスで間違いない。

 

 あまり思い詰めないと良いのだが。

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